あなたを守ること 沖田

入隊希望者名簿

新入隊士の名前と親族名簿
入隊希望者とその親族関係の明記を。
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「……鶴姫ちゃん、こっち。物陰に隠れよう」

『ええ……』



二人が路地裏に身を隠すと、筒袖を着た新政府軍の兵たちが二人の方へと近づいてくる。

二人は息を潜め彼らが通り過ぎるのを待った。

そして彼らの姿が見えなくなった時、沖田は忌々しそうに息をつく。



「……全く、江戸は一応将軍公のお膝元じゃなかったっけ?どうしてアイツらが我が物顔で歩いてるのさ。あんな奴ら斬っちゃってもいいんだけど、そうするとますます面倒なことになりそうだしなあ」



二人がたどり着いた時には江戸の様子は一変してしまっていた。

あちこちに見張りの兵の姿があり、一瞬たりとも気を抜けない。



「あともう少しだから急がなきゃね。またアイツらが来たら困るし」

『そうだね』



二人は慎重にあたりの様子を伺いながら隠れ家へと急いだのだった。

隠れ家にようやく戻ってきた瞬間、二人の全身から力が抜ける。



「ふう、ようやく辿り着いた……ここ数日で、寿命が五年は縮んだかもしれないね」

『……』

「そんな顔しなくてもいいじゃない。ただの冗談なんだから。お疲れ様鶴姫ちゃん。よく頑張ったね」

『総司が休憩を取りながら進んでくれたから』

「そう?にしても、山崎くんはいないみたいだね。江戸の状況は明日にでも松本先生に聞いた方が良さそうかな」

『……そうかも。今頼りにできるのは松本先生しかいない』



今、江戸が一体どうなっているのか、新選組の皆はどうしているのか。

今の二人にはさっぱり見当がつかなかった。



「さて、それじゃそろそろ寝ようか。ずっと気を張ってたから、くたくただし」

『久しぶりに布団で寝られる…』



江戸に戻ってくる道中は宿をとるわけにもいかず、ずっと野宿ばかりだった。



「一緒に寝てあげようか?ここに戻ってくる途中、してたみたいに」

『っ……!』

「あれ、顔が真っ赤だよ?もしかして、なにか期待してる?」

『からかわないで……』

「別にからかってるつもりはないんだけど、君って、暖を取るにはちょうどいいし」

『私の事綿入れの着物とか温石みたいなものと思ってる?』

「そんなことないよ」

『……私は部屋に戻る。総司もゆっくり休んでね』

「はいはい、おやすみなさい」



鶴姫が立ち上がり、部屋を出ようとしたその時。



「ぐっ……!」



背後から苦悶の声が聞こえて慌てて振り返る。



『総司!』

「ぐ、うっ……あ……!」



激痛をこらえるみたいに沖田は自らの腕に爪を立てた。

血を与えれば発作は止まるはずと鶴姫は腰の脇差に手をかけた。

が、その脇差を引き抜くことが出来なかった。

楽は変若水を飲めば労咳が治ると言っていたが、あの言葉は結局嘘だった。

鶴姫の血を飲めば変若水の毒を消すことが出来るというのも、きっと嘘。

じゃあどうすればいい?

沖田自身は血を飲むことを拒んでいた。

再び血を飲ませることは果たして正しい事なのだろうか。

そう考えているうちに、沖田は苦しげな息の間からこう問いかけてきた。



「……今日はくれないの?もしかしてお預け?」

『総司……』



こんなに苦しそうな表情を見続けるのは鶴姫だって辛い。



『私の血を飲んだところで……』

「っ……そっか、いいよ………はぁ…………君がそう言うなら、無理は言わない……っ……はぁ……はぁ。外に……出ててくれるかな?君にみっともない姿なんて……見られたくないから……」

『っ……!』



こんな苦しそうな沖田を見捨てることなど鶴姫には出来なかった。

そう思った瞬間、鶴姫は腰の脇差を引き抜いていた。

そしてその刃を首に滑らせようとした時だった。



『っ………!』



今までに感じたことの無い感覚に襲われる。



「鶴姫ちゃん?」



ガシャンと音を立てて手から脇差が滑りおちる。

凄まじい感情が胸の中を支配していく。



「まさか……」



沖田がそうつぶやく声も鶴姫の耳には届いていない。

身体が熱くなる。

頭がおかしくなりそうになる。

短くなった髪はゆっくりゆっくりと元の長さ、いや、それ以上に長く伸びてゆく。

額には小中の角が四本完全に生え、五本目六本目となる角も生えかけていた。



「鶴姫ちゃん……」

『そ……うじ』



気持ち悪かった。

自分がいよいよ人間でなくなった感覚が。



『………っ………大丈夫』



落ちた脇差を拾い上げる。



『今……血を用意するから』



そういって震える手で首へと刃を滑らせようとする鶴姫の腕を沖田は止めた。



『……?』



沖田は自分と同じ真紅の瞳を覗き込んだ。



「くれるなら……ここから飲みたいな」

『っ……』



そういって刀を握る鶴姫の手を、鶴姫の唇へとあてがった。

傷口からは赤黒い血が溢れ出す。

鶴姫は血にまみれた唇を沖田へと差し出す。



『首でなくていいの?』

「うん……唇から…飲みたいんだ」

『分かった……飲んで』

「鶴姫ちゃん……」



沖田の赤い瞳が僅かに潤んだ。

そして鶴姫の顔に手を添え、差し出された唇に沖田は顔を近づける。



『ん……』



沖田の舌が触れた瞬間、鋭い痛みが傷口に走った。

苦しげに息を継ぎながら沖田は遠慮がちに血を啜る。



「……約束するよ。この先どんなに血が欲しくなっても、発作で苦しんだとしても……」



まるで誓うように、紡いでいく。



「僕はもう、鶴姫ちゃんの血しか飲まない」



その言葉に胸を締め付けられる。

切なくて泣いてしまいそうだった。



『総司……』



きっとこの先、いくら血を飲ませても彼の苦しみを完全に取り去ることなんてできない。

今まで目にしてきた多くの羅刹隊の隊士たちのように。

羅刹が少しづつ沖田の正気と体力を削り取っていくに違いない。

血を飲み終えたあと、沖田は小さく言った。



「……ごめんね」

『どうして総司が謝るの?』

「だって僕は先がない病人なんだよ?そんな僕のために身を傷つけて痛い思いをしてまで血をくれるなんて」

『私は……私のことはいいの。傷なんてすぐに塞がる。たぶん千鶴よりも早く。全国屈指の治癒能力の女鬼だから』

「……ありがとう。君のおかげで正気のままでいられる。……もしまた血に狂いそうになったら、今みたいに助けてくれる?」

『もちろん。……私は総司の傍にいる。この先何があっても……絶対に離れない』



さっきの言葉に応えるように約束を結んだ。



「ありがとう……」

『だから……』



想いが溢れてしまいそうで、咄嗟に声を出せなかった。



『……私が、総司がどんな姿になっても傍に居させて──』



薄暗い部屋の中、完全体の姿を取り戻しつつある鶴姫。

いつかは千姫の言った容姿を取り戻すことを考えて言葉を紡いだ。

そんな鶴姫を見て沖田は何も言わずに抱きしめた。



「初めてだった?」

『?』

「男の人と……接吻するのは」

『今のは接吻と言えるのかな』

「違うかもしれないね。それでも…柔らかい鶴姫ちゃんの唇に触れられて……なんだか嬉しかった」

『総司……』

「初めてを……奪っちゃったね」

『なっ……』

「ごめんね。いい雰囲気でもないところで、こんな僕が君の初めてで」

『……そんなことない』

「ありがとう。今日はもう休もう。今ので疲れちゃったでしょ」

『私は大丈夫』



何があっても疲れたと言わない鶴姫に、沖田は困ったような表情を見せる。

少しづつ人間の姿に戻っていく鶴姫を見ながら沖田は何かを考える。



「……添い寝してくれる?」

『…………』

「やっぱりダメ?恋仲でもない男女が同じ布団で寝るなんて」

『……うううん。また寂しくなったのかなと』

「そうだね……傍に…いてほしいんだ」

『分かった。着替えてくるから、同じように着替えて待ってて』

「どこにも行かないでね」

『部屋に戻るだけ。大丈夫。ちゃんと戻ってくるから』

「良かった……早く戻ってきてね」



そう見送ってくれた沖田を背に、鶴姫はいそいそと部屋に戻り着替えを済ませる。

ちらと刀掛けにある白誂の太刀に目を向ける。

真っ暗な部屋の中でも輝いて見えるそれは、どこか酷く美しく見えた。



『戻りました』

「どうぞ」



そう言って沖田の部屋に戻る鶴姫。

戸を開けると沖田が自分の隣をとんとんと手で叩く。



「おいで」

『お邪魔します』

「そんなに固くならないで」

『…ごめんなさい』

「男と同じ布団に入るのも……初めて?」

『うん』

「そっか。あ、新八さんとかと違って寝相はいいから安心してね」

『それ、永倉さんに失礼なのでは…』

「事実だからね」



そっと沖田の隣に横になる鶴姫に沖田は掛け布団をかける。

天を仰ぐ鶴姫と鶴姫の方を向いて横になる沖田。



『どうかしたの?』

「こっち……向いてくれないのかなって」

『向いてほしい?』

「どっちでもいいよ」

『素直じゃないのね』

「……なんだか今日の鶴姫ちゃんは強気だね」

『ふふ。冗談』



鶴姫は笑うと沖田の方に体を向ける。



「最近ね、鶴姫ちゃんの傍にいるのが心地いいんだ」

『それはよかった』

「なんでだろう。こんなこと思ったことないや」

『……』

「どうしたの?」

『おいで』



そう言って腕を広げて沖田に言う。

沖田は最初戸惑っていたが、やがて鶴姫の腕の中におさまった。

子供をあやす様に、鶴姫は沖田の頭を優しく撫でる。

鶴姫に抱きしめられる沖田は少し驚いた表情をする。



「……母さんがいたら、こんな感じだったのかな」

『そうかもしれない。母さんは、こうして不安で怖がる私のことを抱きしめてくれてたの』

「優しい人だったんだね」

『でも怒ったら怖かった』

「鶴姫ちゃんみたいに?」

『私以上だったかも』

「そっか」



沖田は鶴姫を優しく抱きしめ返す。

抱きしめ返すというよりは、しがみつく感じだろうか。

鶴姫はいきなりのことに胸を高鳴らせる。



「助けてくれてありがとう」

『役に立てて嬉しかった』

「もう……鶴姫ちゃんなしでは生きていけないかもね」

『ふふ。そんなことないと思う』

「そう……かな」

『うん。でも……総司をそんな状態にさせられたのは嬉しいかな。』



この言葉に、沖田は顔を上げる。



「僕が他の誰かを拠り所として生きていたら悲しい?」

『うん。悲しくて妬いちゃうかも』

「…そっか。僕もね、鶴姫ちゃんが他の男の看病に付きっきりだったら悲しいよ」

『ふふ……もう寝ようか。疲れたでしょ?ずっとこうしてるから安心してね』

「うん。ありがとう。おやすみ」

『おやすみなさい』



鶴姫の腕の中で眠る沖田は、久し振りになんの気の張りもなく安らかに寝息を立てた。

そんな沖田を鶴姫はずっと優しく抱きしめていた。

少しばかりの安息の中で。



To be continued

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