入隊希望者とその親族関係の明記を。
あなたを守ること 沖田
入隊希望者名簿
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慶応四年三月
鶴姫たちは一路、甲府城を目指した。
沖田が動けるのは日が沈み、月が夜空に輝く頃。
新選組の皆と合流できるよう、鶴姫たちは山道を急いでいたのだが
「一足遅かったか」
辺りには硝煙が立ち込め、時折砲声が空を揺るがせる。
「どうやら敵方に先に城を押えられてしまった様子です」
「近藤さんと土方さんはどこにいるの?」
「近藤局長は本陣に。場所は山の中腹辺りです。土方副長は援軍要請のため江戸に戻られたと聞いています」
「江戸に戻っただって!?」
驚愕に見開いた沖田の瞳が次の瞬間には怒りを宿す。
「近藤さんを不利な戦場に残して、自分だけ逃げ帰ったってこと?」
「援軍を要請したのは近藤局長です」
「そう唆したのは、土方さんでしょ?あの人のやり方はいつもそうじゃない」
『総司、落ち着いて。今ここで土方さんを責めてもどうにもならないよ』
その言葉で少なからず冷静さを取り戻したのか沖田は軽く息を吸い込んだあと呟く。
「……すぐに近藤さんと合流しよう。近藤さんは刀を持てないんだ。敵に狙われたらひとたまりもない」
「分かりました」
沖田と山崎は目線を合わせ、頷きあった。
しかしその時
「合流するって、誰にです?もう大勢は決してるんです。さっさと尻尾巻いて逃げ出した方が賢明だと思いませんか?」
『楽、どうしてここにいるの』
「どうして?決まってるだろ。新選組の奴らが惨めったらしく負ける姿を見物する、またとない機会だからだよ。お前たちの姿が見当たらなかったから、もしかしたらここには来ないのかと思ってたけど、ギリギリ間に合ったみたいだな。新選組の馬鹿局長が処刑されるところは見物できると思うよ」
沖田は瞳に殺意を宿しながら鶴姫を庇うように進みでる。
「……山崎くん、先に行ってて。近藤さんを絶対に死なせないで」
「御意」
短く答えたあと、山崎は身を翻して森の中へと姿を消した。
しかし、山崎には興味が無いのか、楽は嘲笑するような表情のまま。
「傷はすっかり癒えたのですか。銀の銃弾でつけられた傷は、たとえ羅刹でも癒せないはずなのですが。まがい物のくせにしぶといようで」
「羅刹の弱点が銀の銃弾だってどうやって知ったの?」
「その問いに答え無ければならない義理がどこにあります?」
「そう、ならいいや」
沖田は不敵に笑ってさやから刀を抜き放った。
「話す気がないなら、死ぬ間際に喋ってもらえばいいだけのことだし」
「出来ると思っているのですか?死にかけのまがい物風情が。戦場には血の匂いが溢れてる。羅刹と化したあなたがこの場で正気を保っていられるか」
「……面白いことを言ってくれるね。僕が刀を手にしてから……人の血なんて飽きるほど浴びてきたよ!」
言うが早いか沖田は神速で楽との間合いを詰める。
そして一呼吸の間に、三度の刺突が見舞われる。
「くっ──!」
しかし楽もその突きを全て瞬時に見切って受け流す。
「達者なのは口だけじゃないってことか。でも、これならどうかな──」
沖田の髪が白髪へと変じた。
そして沖田が構えた剣が先程とは段違いの鋭さで楽へと迫る。
「ぐ、うっ……!」
楽は何とか沖田の動きについていこうとしている様子だが
「──がっ!」
赤黒い華が爆ぜ、楽の身体に深々と傷が刻まれた。
「君は近藤さんの仇だからね。今更命乞いしても容赦しないよ」
「ふん。こんなもの、ただのかすり傷だ」
楽の身体に刻まれた傷が再び塞がり始める。
「馬鹿だなあ。傷が癒える暇なんて与えてあげるとでも思ってるの?」
「うがぁあああっ……!」
叫び声とともに鮮血が飛び散った。
その返り血を全身に浴びながら沖田は続けざまに刀を振るう。
思わず目を覆ってしまいそうなほどの凄絶な光景だった。
「ぐ、あ……は、ああ……」
もはや虫の息の楽は苦しげな息の間から底知れぬ笑い声を漏らす。
「くくっ……、くくくく……!意外とやるな。想像以上だ、沖田……」
「それ、負け惜しみ?もう殺されるっていうのに、随分お喋りだね」
「俺を殺す?本気で言っているのか?」
楽は意味深に言った後、視線の端でちらりと鶴姫を見やった。
「俺の妹はお前みたいな人斬りとは違うんだよ、沖田。兄を目の前でお前に殺されて、平気でいられるほど図太いとでも思っているのか?強がりなところはあるが、それでも人を斬るのも斬られるのを見るのもできない小心者なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、沖田に僅かな隙がうまれる。
瞬きするほどのほんの一瞬ではあった。
『駄目、総司!』
鶴姫が叫んだその時だった。
「──隙あり!」
楽はその間隙を見逃さず、鶴姫へと迫ってくる。
『!』
「その子に触るな!」
沖田の絶叫が聞こえたその刹那、鶴姫の口に何かが宛てがわれた。
『うっ!』
どろりとした水薬が喉へと流れ込んでいく。
びいどろの瓶に入った、赤黒い水薬。
『っ、げほっ……!』
思わずむせ返ってしまうが、吐き出しきれなかった分が、喉の奥へと滑り落ちてしまう。
「はははははははは!!ははははははっーー!」
狂ったような哄笑が間近に聞こえた。
水薬の感触に応えるように、どくんと胸の奥が脈動する。
「このっ……!」
突きの形に構えられた刀の切っ先が楽へと迫った。
しかし楽は鶴姫を突き飛ばして大きく跳び退る。
「おまえ、今のは……!」
「お前一人で堕ちていくなんて寂しいだろうから、道連れを作ってやったよ。それにしても滑稽だよなあ。鶴姫、お前がここにいなければ沖田は僕を殺すことが出来てただろう。恋い慕う相手を不幸にすることしかできないなんて、哀しい間柄だよ。ははははっ!」
『楽……!』
口元を拭いながら鶴姫は楽を──血を分けた実の兄を睨みつけた。
しかし、楽は意に介する様子もなく二人を悠然と見下ろしている。
「これで二人とも仲良く羅刹だ。一緒に地獄を旅するといいさ」
「この……!」
「そうそう。もう一つ教えてやるよ。沖田、おおまえは確か労咳を治して元通り剣を振るいたいと思って変若水を飲んだんだったな?」
嘲弄するような口振りで言った後、口元を歪めながら笑う。
「残念だが、変若水に病を治す力なんてない。むしろ、病と戦うための体力をますますすり減らしていくだけ。お前には血を吐いて惨めったらしく死ぬ道しか残ってないんだよ!はははは!」
「待てっ──!」
沖田は楽へと刀を見舞うが彼は身体はそのまま霧のように掻き消えてしまった。
『く、う……!』
鶴姫の総身が熱くなり、激しい眩暈と激痛、吐き気に襲われる。
まるで別の生き物が身体の中に息づいているかのよう。
『熱い……身体がっ……』
地に膝をついて懸命に耐える。
『息が……っ、は……ぐ』
燃える。身体が燃える。
髪はみるみるうちに白くなり、毛先は黒くなる。
額からは何かが生えてきている感覚さえある。
過去に経験したことのある痛み。
「鶴姫ちゃん、しっかりして!」
沖田の手が鶴姫の肩へとかかる。
目の前には心配そうに息を詰める沖田の顔がある。
『こ、これくらい………だ、…いじょうぶ……』
何とか微笑みを作ろうとするけれど目の焦点が合わず眼前の沖田の姿を上手く捉えれられない。
沖田は目をきつくつぶり、自分が傷つけられた時以上に辛そうに唇を噛んだ。
「…………ごめん。僕があの時迷ったせいで、あいつを殺せなかった。しかも鶴姫ちゃんをこんな目に……!」
『そんなこと……』
悔しげに声を絞る沖田に申し訳なさが募る。
『………総司のせいじゃない。私が油断していたせいで……』
けれども沖田は唇を噛んで首を横に振る。
「……僕のせいだよ。たとえどんな敵が現れたとしても、君を守り切れるって……自分の力を過信してた」
そう言った後、沖田は顔を伏せたまま独り言めいた言葉を漏らす。
「……僕は一体なんのために剣術を学んできたんだろう。肝心な時に守るべき人を守ってあげられなかったなんて」
沖田の顔には悔悟の色が滲んでいる。
「……身体、大丈夫?」
『大丈夫……少し眩暈がするだけで…』
「……そっか。以前見た時より、より鬼の姿に近づいているのかな」
『え……?』
「なんでもないよ」
『そう?……それよりも、急ごう。近藤さんと合流しないと……』
すると沖田は何かを言いたそうな表情で空を仰いだ。
「その必要はなさそうだよ」
『どういうこと?』
「もう戦いは終わったみたいだ。銃声が聞こえないでしょ?」
『ということは、近藤さんは……』
「……とりあえず、江戸に戻ろう。大丈夫、近藤さんは死んだりしない。何があっても死なせるもんか」
自分に言い聞かせるように呟いたあと、沖田はぽつりと漏らす。
「結局……今回も役に立てなかったよね」
その声は山風にまぎれ、やがては消えてしまった。
その後、鶴姫は沖田と共に江戸をめざして歩き続けていた。
「……全く、こんな時に限って嫌になるくらい晴れてるのはどうしてなんだろうね?せめて、雨でも降ってるか曇ってれば少しはマシなのに」
『う、うん……』
本来なら心地いいはずの陽光なのに、日の下にいると息が詰まるような苦しみに襲われる。
ただ歩いているだけがこんなに辛いものだとは前には思わなかった。
「……鶴姫ちゃん、大丈夫?やっぱり夜まで休んだ方がいいかな」
『平気。先を急がないと……』
「嘘つき」
『私嘘なんて…』
「僕、変若水を飲んでるんだよ?君が今どれだけ苦しい思いをしてるか、分からないはず無いでしょ」
『…………』
「何より、君は鬼なんだから……僕たち以上の苦しみを味わってるかもしれないんだ」
厳しい声音で叱られ、鶴姫は何も言えなくなる。
「本当はすごく辛いのに意地を張ってるのは、僕に遠慮してるから?」
『それは……』
「……少し休憩しようか。木陰に入れば陽の光の下にいるよりはマシだと思うから」
『でも、こんな時に休むなんて』
「平気だよ。江戸まではまだ結構あるし、今のうちに休んでおいた方が先々のためにもなると思う。……それに、僕だって、日中は辛く無いわけじゃないしね」
『……ごめんなさい、気づかなくて』
「水臭いくさな。いちいち謝らなくていいよ」
『でも総司は一刻も早く近藤さんの所に行きたいでしょ?』
その言葉に沖田は目を伏せた。
流れた沈黙が鶴姫の言葉を暗に肯定している。
「もちろん近藤さんのことは気になるけど……あの土方さんがついてるんだし、最悪の事態にはならないはずだよ」
沖田の声音には、僅かな棘が込められていた。
なんだかんだ言って土方のことを信頼しているのだろう。
しかしその信頼は随分と複雑な形をしているようだ。
『……土方さんは頭がいい方だものね』
「そう。嫌味なぐらい先の先まで考えて動く上、手段を選ばない……そういい所が、気に入らないんだけど」
『…………』
「そんな顔しなくてもいいじゃない。新選組幹部だって人間だし、好き嫌いはあるよ。まあとにかく、少し休むだけの余裕はあるってことを言いたかったんだ」
『…ごめんなさい』
胸の痛みを抑えられなくて、鶴姫はその一言を口にする。
『総司や土方さんを信じていないわけじゃない。でも……』
近藤が無事でいてくれるか、その事がひたすら気になっていた。
あの時楽が来なければ沖田はすぐに近藤の元へ向かうことが出来た。
そう思うと一人でに熱いものが双眩から溢れ出した。
「……鶴姫ちゃん、どうして泣いてるの?」
『楽は元々私を狙って……総司が変若水を飲むことになったのも元はと言えば私のせい。労咳が治ると思って飲んだ薬がむしろ病を進行させてしまうものだったなんて……』
「馬鹿だなあ、そんなこと気にしてたの?君が苦しむ必要なんてないのに」
『でも……』
「いいから、もう泣き止んで」
沖田の指が鶴姫の頬へと伸びてきて、いつの間にか零れていた涙を優しく拭った。
『っ……』
まるで沖田の仕草では無いみたいで、鶴姫は思わず身をすくめた。
こんなふうに気を遣わせてしまうことを申し訳ないと思うのに、涙は溢れるばかり。
差し出されたその手をますます濡らしてしまった。
「鶴姫ちゃん、君はとても優しい子だけど今だけでも自分のことを考えてくれないと困るよ」
まるで子供に言い聞かせるような、優しい言葉だった。
「覚えてるでしょ?今回君を甲府に連れてくるって決めたのは僕だったよね?君を置き去りにしないでこうして一緒に帰るって決めたのも僕だ。だから君は何も気にしないで、ただそばに居てくれればいい」
『総司……』
沖田がくれる言葉は鶴姫には分不相応なほど優しい。
柔らかな声音で紡がれる言葉で、少しづつ、胸の内の申し訳なさが溶けていって胸が苦しくてますます涙が止まらなくなる。
「……分かった?」
『…………』
鶴姫は顔をあげられないまま、ただ頷く。
「頷くだけじゃなくて、ちゃんと返事をしてくれなきゃ」
『…………はい……』
「……よろしい。いい子だね、鶴姫ちゃん」
沖田は鶴姫が泣き止むまで落ちる涙を何度も何度も指先で拭った。
その温もりで、鶴姫はようやく実感する。
(私は……総司のことが大好きなんだ。誰より愛しくて愛しくて、たまらないんだ……)
「……僕のために泣いてくれる人が近藤さん以外にいるなんて思わなかったな。僕なんてたとえ死んじゃっても誰も気にしないと思ってたのに」
静かな声で呟かれるその言葉は深い悲しみを含んでいた。
『え……?』
鶴姫は顔を上げ、言葉の意味を訪ねようとするが
「……なんでもないよ、こっちの話」
沖田はそれ以上何も語ってはくれなかった。
「こっちにおいで鶴姫ちゃん」
『……はい』
鶴姫は沖田に手を引かれ、獣道をそれて木陰へと向かった。
木々の合間に入るだけで、少し身体が軽くなった。
「どう?だいぶ楽になったでしょ。僕の方が先に羅刹になったんだから、先輩の言うことは聞くものだよ」
『ありがとう。ここで少し休めばちゃんと動けるようになると思う……』
そう言いながら鶴姫は既に限界ギリギリ。
次の瞬間にはぺたりと座り込んでしまいそうになる。
沖田はそれを受け止めると
「休憩だけじゃ足りないよ。ちょっと眠った方がいい」
『そ、そんな、大丈夫。眠る程じゃない……から』
「こんな状態でそんなこと言うの?君って見た目に似合わず意地っ張りだよね。」
『それは……』
沖田の呆れ顔を見てしまうとこれ以上何も言い返せなくなる鶴姫。
木にもたれかかって空を眺める。
「ほら、もっと近くにおいでよ。離れてたら風邪ひいちゃう」
『っ……!?』
鶴姫はそのまま沖田の胸の中へと抱き寄せられてしまう。
『総司……?』
突然の行動に鶴姫は声を出すことさえできなくなってしまった。
頭を手を添えて優しく撫でてくれる。
空いた腕は鶴姫が逃げ出さないようにしっかりと鶴姫の体を抱きしめる。
「こうやって、僕も一緒に寝るから。遠慮なんてしなくてもいいからね」
『あ、あの、総司……』
身じろぎできず、鶴姫はただ身体を固くするばかり。
頬が熱い、身体が熱い。
変若水を飲んだ時とは違う熱さ。
「そんなに固くならなくてもいいのに。別に、取って食べたりはしないよ」
『それは…分かるけれど……』
大好きと認識した人にこんなに近くに抱き寄せられて平静で居られるはずはなかった。
もちろん沖田に他意なんてないのかもしれない。
「ほら、少し寝なくちゃ。夜になったらもう少し楽に動けるはずだから」
『は、い……』
促され鶴姫はそっと目を閉じる。
優しい温もりに包まれていると、身体のこわばりが少しづつ解けていく。
間近から伝わってくる鼓動と頬に触れる温もりが、一時の安らぎを与えてくれる。
鶴姫が眠りに落ちる寸前、沖田が独り言めいた呟きを漏らすのが聞こえた。
「……人を殺す時、躊躇ったことなんてほとんどないんだけどね、誰に嫌われても恨まれても構わないってずっと思ってたのに、あの時だけは身体が動かなかった。鶴姫ちゃんにだけは……どうしても嫌われたくなかったってことなのかな」
半ば眠りに落ちた頭では、紡がれた言葉の意味も朧気にしか分からなかった。
それでも沖田の声からは普段決して見せてくれない本音が感じとれた。
その優しい感触に包まれ、鶴姫の心は急速に溶けていった。
人を殺す時、躊躇ったことなんてほとんどない。
誰に嫌われても恨まれても構わないってずっと思ってた。
それが普通で今まで生きてきたから。
それなのに、あの時だけは身体が動かなかった。
楽を目の前で殺せば、いや目の前でなくとも殺せば鶴姫ちゃんは僕のことを嫌いになってしまうかもしれない。
そんなの嫌だ。僕はそう思った。
鶴姫ちゃんにだけは……どうしても嫌われたくなかったってことなのかな。
僕が守るのは近藤さんや、近藤さんが積み上げてきた新選組のはずだった。
それなのに、いつの間にか鶴姫ちゃんに手が及ぶことが怖くなった。
あの子に何かあったらどうしよう。
もしそうなったら明日の僕がそれを許さない。
そう思った。
胸元で眠る鶴姫ちゃんは酷く小さかった。
初めて会った時、物怖じしない様子からは考えられないほど小さい。
時折小さく聞こえてくる「お母さん」「お父さん」、そして「兄さん」の言葉。
嗚呼、本当に優しい子なんだ。
目の前で数知らぬ暴言を図れてもなおお兄さんを追いかけてる。
「また泣いてる」
泣き止んだはずの目からまた涙がこぼれ落ちる。
「ほんと、手のかかる子だよね」
ほんと。お節介でうるさくて。
いつも僕のそばにいて身の回りの事をしたりついてきたり。
言うことも聞かないことが多かったし。
【もしかして寂しい?】
いつしか僕をそんな気持ちにさせてくれたのは鶴姫ちゃんだよ。
君がいないと寂しいと思ってしまうほどに、気づいたらなっていた。
「どうしてくれるのかな」
君は僕のことをどう思ってるのかな。
自分のせいで何度も傷つけ鬼にさせてしまったからって罪悪感でついてきてるだけなのかな。
ねぇ、鶴姫ちゃんは僕のことをどう思ってるの?
鶴姫ちゃんは……僕のこと…好いてくれている?
To be continued
鶴姫たちは一路、甲府城を目指した。
沖田が動けるのは日が沈み、月が夜空に輝く頃。
新選組の皆と合流できるよう、鶴姫たちは山道を急いでいたのだが
「一足遅かったか」
辺りには硝煙が立ち込め、時折砲声が空を揺るがせる。
「どうやら敵方に先に城を押えられてしまった様子です」
「近藤さんと土方さんはどこにいるの?」
「近藤局長は本陣に。場所は山の中腹辺りです。土方副長は援軍要請のため江戸に戻られたと聞いています」
「江戸に戻っただって!?」
驚愕に見開いた沖田の瞳が次の瞬間には怒りを宿す。
「近藤さんを不利な戦場に残して、自分だけ逃げ帰ったってこと?」
「援軍を要請したのは近藤局長です」
「そう唆したのは、土方さんでしょ?あの人のやり方はいつもそうじゃない」
『総司、落ち着いて。今ここで土方さんを責めてもどうにもならないよ』
その言葉で少なからず冷静さを取り戻したのか沖田は軽く息を吸い込んだあと呟く。
「……すぐに近藤さんと合流しよう。近藤さんは刀を持てないんだ。敵に狙われたらひとたまりもない」
「分かりました」
沖田と山崎は目線を合わせ、頷きあった。
しかしその時
「合流するって、誰にです?もう大勢は決してるんです。さっさと尻尾巻いて逃げ出した方が賢明だと思いませんか?」
『楽、どうしてここにいるの』
「どうして?決まってるだろ。新選組の奴らが惨めったらしく負ける姿を見物する、またとない機会だからだよ。お前たちの姿が見当たらなかったから、もしかしたらここには来ないのかと思ってたけど、ギリギリ間に合ったみたいだな。新選組の馬鹿局長が処刑されるところは見物できると思うよ」
沖田は瞳に殺意を宿しながら鶴姫を庇うように進みでる。
「……山崎くん、先に行ってて。近藤さんを絶対に死なせないで」
「御意」
短く答えたあと、山崎は身を翻して森の中へと姿を消した。
しかし、山崎には興味が無いのか、楽は嘲笑するような表情のまま。
「傷はすっかり癒えたのですか。銀の銃弾でつけられた傷は、たとえ羅刹でも癒せないはずなのですが。まがい物のくせにしぶといようで」
「羅刹の弱点が銀の銃弾だってどうやって知ったの?」
「その問いに答え無ければならない義理がどこにあります?」
「そう、ならいいや」
沖田は不敵に笑ってさやから刀を抜き放った。
「話す気がないなら、死ぬ間際に喋ってもらえばいいだけのことだし」
「出来ると思っているのですか?死にかけのまがい物風情が。戦場には血の匂いが溢れてる。羅刹と化したあなたがこの場で正気を保っていられるか」
「……面白いことを言ってくれるね。僕が刀を手にしてから……人の血なんて飽きるほど浴びてきたよ!」
言うが早いか沖田は神速で楽との間合いを詰める。
そして一呼吸の間に、三度の刺突が見舞われる。
「くっ──!」
しかし楽もその突きを全て瞬時に見切って受け流す。
「達者なのは口だけじゃないってことか。でも、これならどうかな──」
沖田の髪が白髪へと変じた。
そして沖田が構えた剣が先程とは段違いの鋭さで楽へと迫る。
「ぐ、うっ……!」
楽は何とか沖田の動きについていこうとしている様子だが
「──がっ!」
赤黒い華が爆ぜ、楽の身体に深々と傷が刻まれた。
「君は近藤さんの仇だからね。今更命乞いしても容赦しないよ」
「ふん。こんなもの、ただのかすり傷だ」
楽の身体に刻まれた傷が再び塞がり始める。
「馬鹿だなあ。傷が癒える暇なんて与えてあげるとでも思ってるの?」
「うがぁあああっ……!」
叫び声とともに鮮血が飛び散った。
その返り血を全身に浴びながら沖田は続けざまに刀を振るう。
思わず目を覆ってしまいそうなほどの凄絶な光景だった。
「ぐ、あ……は、ああ……」
もはや虫の息の楽は苦しげな息の間から底知れぬ笑い声を漏らす。
「くくっ……、くくくく……!意外とやるな。想像以上だ、沖田……」
「それ、負け惜しみ?もう殺されるっていうのに、随分お喋りだね」
「俺を殺す?本気で言っているのか?」
楽は意味深に言った後、視線の端でちらりと鶴姫を見やった。
「俺の妹はお前みたいな人斬りとは違うんだよ、沖田。兄を目の前でお前に殺されて、平気でいられるほど図太いとでも思っているのか?強がりなところはあるが、それでも人を斬るのも斬られるのを見るのもできない小心者なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、沖田に僅かな隙がうまれる。
瞬きするほどのほんの一瞬ではあった。
『駄目、総司!』
鶴姫が叫んだその時だった。
「──隙あり!」
楽はその間隙を見逃さず、鶴姫へと迫ってくる。
『!』
「その子に触るな!」
沖田の絶叫が聞こえたその刹那、鶴姫の口に何かが宛てがわれた。
『うっ!』
どろりとした水薬が喉へと流れ込んでいく。
びいどろの瓶に入った、赤黒い水薬。
『っ、げほっ……!』
思わずむせ返ってしまうが、吐き出しきれなかった分が、喉の奥へと滑り落ちてしまう。
「はははははははは!!ははははははっーー!」
狂ったような哄笑が間近に聞こえた。
水薬の感触に応えるように、どくんと胸の奥が脈動する。
「このっ……!」
突きの形に構えられた刀の切っ先が楽へと迫った。
しかし楽は鶴姫を突き飛ばして大きく跳び退る。
「おまえ、今のは……!」
「お前一人で堕ちていくなんて寂しいだろうから、道連れを作ってやったよ。それにしても滑稽だよなあ。鶴姫、お前がここにいなければ沖田は僕を殺すことが出来てただろう。恋い慕う相手を不幸にすることしかできないなんて、哀しい間柄だよ。ははははっ!」
『楽……!』
口元を拭いながら鶴姫は楽を──血を分けた実の兄を睨みつけた。
しかし、楽は意に介する様子もなく二人を悠然と見下ろしている。
「これで二人とも仲良く羅刹だ。一緒に地獄を旅するといいさ」
「この……!」
「そうそう。もう一つ教えてやるよ。沖田、おおまえは確か労咳を治して元通り剣を振るいたいと思って変若水を飲んだんだったな?」
嘲弄するような口振りで言った後、口元を歪めながら笑う。
「残念だが、変若水に病を治す力なんてない。むしろ、病と戦うための体力をますますすり減らしていくだけ。お前には血を吐いて惨めったらしく死ぬ道しか残ってないんだよ!はははは!」
「待てっ──!」
沖田は楽へと刀を見舞うが彼は身体はそのまま霧のように掻き消えてしまった。
『く、う……!』
鶴姫の総身が熱くなり、激しい眩暈と激痛、吐き気に襲われる。
まるで別の生き物が身体の中に息づいているかのよう。
『熱い……身体がっ……』
地に膝をついて懸命に耐える。
『息が……っ、は……ぐ』
燃える。身体が燃える。
髪はみるみるうちに白くなり、毛先は黒くなる。
額からは何かが生えてきている感覚さえある。
過去に経験したことのある痛み。
「鶴姫ちゃん、しっかりして!」
沖田の手が鶴姫の肩へとかかる。
目の前には心配そうに息を詰める沖田の顔がある。
『こ、これくらい………だ、…いじょうぶ……』
何とか微笑みを作ろうとするけれど目の焦点が合わず眼前の沖田の姿を上手く捉えれられない。
沖田は目をきつくつぶり、自分が傷つけられた時以上に辛そうに唇を噛んだ。
「…………ごめん。僕があの時迷ったせいで、あいつを殺せなかった。しかも鶴姫ちゃんをこんな目に……!」
『そんなこと……』
悔しげに声を絞る沖田に申し訳なさが募る。
『………総司のせいじゃない。私が油断していたせいで……』
けれども沖田は唇を噛んで首を横に振る。
「……僕のせいだよ。たとえどんな敵が現れたとしても、君を守り切れるって……自分の力を過信してた」
そう言った後、沖田は顔を伏せたまま独り言めいた言葉を漏らす。
「……僕は一体なんのために剣術を学んできたんだろう。肝心な時に守るべき人を守ってあげられなかったなんて」
沖田の顔には悔悟の色が滲んでいる。
「……身体、大丈夫?」
『大丈夫……少し眩暈がするだけで…』
「……そっか。以前見た時より、より鬼の姿に近づいているのかな」
『え……?』
「なんでもないよ」
『そう?……それよりも、急ごう。近藤さんと合流しないと……』
すると沖田は何かを言いたそうな表情で空を仰いだ。
「その必要はなさそうだよ」
『どういうこと?』
「もう戦いは終わったみたいだ。銃声が聞こえないでしょ?」
『ということは、近藤さんは……』
「……とりあえず、江戸に戻ろう。大丈夫、近藤さんは死んだりしない。何があっても死なせるもんか」
自分に言い聞かせるように呟いたあと、沖田はぽつりと漏らす。
「結局……今回も役に立てなかったよね」
その声は山風にまぎれ、やがては消えてしまった。
その後、鶴姫は沖田と共に江戸をめざして歩き続けていた。
「……全く、こんな時に限って嫌になるくらい晴れてるのはどうしてなんだろうね?せめて、雨でも降ってるか曇ってれば少しはマシなのに」
『う、うん……』
本来なら心地いいはずの陽光なのに、日の下にいると息が詰まるような苦しみに襲われる。
ただ歩いているだけがこんなに辛いものだとは前には思わなかった。
「……鶴姫ちゃん、大丈夫?やっぱり夜まで休んだ方がいいかな」
『平気。先を急がないと……』
「嘘つき」
『私嘘なんて…』
「僕、変若水を飲んでるんだよ?君が今どれだけ苦しい思いをしてるか、分からないはず無いでしょ」
『…………』
「何より、君は鬼なんだから……僕たち以上の苦しみを味わってるかもしれないんだ」
厳しい声音で叱られ、鶴姫は何も言えなくなる。
「本当はすごく辛いのに意地を張ってるのは、僕に遠慮してるから?」
『それは……』
「……少し休憩しようか。木陰に入れば陽の光の下にいるよりはマシだと思うから」
『でも、こんな時に休むなんて』
「平気だよ。江戸まではまだ結構あるし、今のうちに休んでおいた方が先々のためにもなると思う。……それに、僕だって、日中は辛く無いわけじゃないしね」
『……ごめんなさい、気づかなくて』
「水臭いくさな。いちいち謝らなくていいよ」
『でも総司は一刻も早く近藤さんの所に行きたいでしょ?』
その言葉に沖田は目を伏せた。
流れた沈黙が鶴姫の言葉を暗に肯定している。
「もちろん近藤さんのことは気になるけど……あの土方さんがついてるんだし、最悪の事態にはならないはずだよ」
沖田の声音には、僅かな棘が込められていた。
なんだかんだ言って土方のことを信頼しているのだろう。
しかしその信頼は随分と複雑な形をしているようだ。
『……土方さんは頭がいい方だものね』
「そう。嫌味なぐらい先の先まで考えて動く上、手段を選ばない……そういい所が、気に入らないんだけど」
『…………』
「そんな顔しなくてもいいじゃない。新選組幹部だって人間だし、好き嫌いはあるよ。まあとにかく、少し休むだけの余裕はあるってことを言いたかったんだ」
『…ごめんなさい』
胸の痛みを抑えられなくて、鶴姫はその一言を口にする。
『総司や土方さんを信じていないわけじゃない。でも……』
近藤が無事でいてくれるか、その事がひたすら気になっていた。
あの時楽が来なければ沖田はすぐに近藤の元へ向かうことが出来た。
そう思うと一人でに熱いものが双眩から溢れ出した。
「……鶴姫ちゃん、どうして泣いてるの?」
『楽は元々私を狙って……総司が変若水を飲むことになったのも元はと言えば私のせい。労咳が治ると思って飲んだ薬がむしろ病を進行させてしまうものだったなんて……』
「馬鹿だなあ、そんなこと気にしてたの?君が苦しむ必要なんてないのに」
『でも……』
「いいから、もう泣き止んで」
沖田の指が鶴姫の頬へと伸びてきて、いつの間にか零れていた涙を優しく拭った。
『っ……』
まるで沖田の仕草では無いみたいで、鶴姫は思わず身をすくめた。
こんなふうに気を遣わせてしまうことを申し訳ないと思うのに、涙は溢れるばかり。
差し出されたその手をますます濡らしてしまった。
「鶴姫ちゃん、君はとても優しい子だけど今だけでも自分のことを考えてくれないと困るよ」
まるで子供に言い聞かせるような、優しい言葉だった。
「覚えてるでしょ?今回君を甲府に連れてくるって決めたのは僕だったよね?君を置き去りにしないでこうして一緒に帰るって決めたのも僕だ。だから君は何も気にしないで、ただそばに居てくれればいい」
『総司……』
沖田がくれる言葉は鶴姫には分不相応なほど優しい。
柔らかな声音で紡がれる言葉で、少しづつ、胸の内の申し訳なさが溶けていって胸が苦しくてますます涙が止まらなくなる。
「……分かった?」
『…………』
鶴姫は顔をあげられないまま、ただ頷く。
「頷くだけじゃなくて、ちゃんと返事をしてくれなきゃ」
『…………はい……』
「……よろしい。いい子だね、鶴姫ちゃん」
沖田は鶴姫が泣き止むまで落ちる涙を何度も何度も指先で拭った。
その温もりで、鶴姫はようやく実感する。
(私は……総司のことが大好きなんだ。誰より愛しくて愛しくて、たまらないんだ……)
「……僕のために泣いてくれる人が近藤さん以外にいるなんて思わなかったな。僕なんてたとえ死んじゃっても誰も気にしないと思ってたのに」
静かな声で呟かれるその言葉は深い悲しみを含んでいた。
『え……?』
鶴姫は顔を上げ、言葉の意味を訪ねようとするが
「……なんでもないよ、こっちの話」
沖田はそれ以上何も語ってはくれなかった。
「こっちにおいで鶴姫ちゃん」
『……はい』
鶴姫は沖田に手を引かれ、獣道をそれて木陰へと向かった。
木々の合間に入るだけで、少し身体が軽くなった。
「どう?だいぶ楽になったでしょ。僕の方が先に羅刹になったんだから、先輩の言うことは聞くものだよ」
『ありがとう。ここで少し休めばちゃんと動けるようになると思う……』
そう言いながら鶴姫は既に限界ギリギリ。
次の瞬間にはぺたりと座り込んでしまいそうになる。
沖田はそれを受け止めると
「休憩だけじゃ足りないよ。ちょっと眠った方がいい」
『そ、そんな、大丈夫。眠る程じゃない……から』
「こんな状態でそんなこと言うの?君って見た目に似合わず意地っ張りだよね。」
『それは……』
沖田の呆れ顔を見てしまうとこれ以上何も言い返せなくなる鶴姫。
木にもたれかかって空を眺める。
「ほら、もっと近くにおいでよ。離れてたら風邪ひいちゃう」
『っ……!?』
鶴姫はそのまま沖田の胸の中へと抱き寄せられてしまう。
『総司……?』
突然の行動に鶴姫は声を出すことさえできなくなってしまった。
頭を手を添えて優しく撫でてくれる。
空いた腕は鶴姫が逃げ出さないようにしっかりと鶴姫の体を抱きしめる。
「こうやって、僕も一緒に寝るから。遠慮なんてしなくてもいいからね」
『あ、あの、総司……』
身じろぎできず、鶴姫はただ身体を固くするばかり。
頬が熱い、身体が熱い。
変若水を飲んだ時とは違う熱さ。
「そんなに固くならなくてもいいのに。別に、取って食べたりはしないよ」
『それは…分かるけれど……』
大好きと認識した人にこんなに近くに抱き寄せられて平静で居られるはずはなかった。
もちろん沖田に他意なんてないのかもしれない。
「ほら、少し寝なくちゃ。夜になったらもう少し楽に動けるはずだから」
『は、い……』
促され鶴姫はそっと目を閉じる。
優しい温もりに包まれていると、身体のこわばりが少しづつ解けていく。
間近から伝わってくる鼓動と頬に触れる温もりが、一時の安らぎを与えてくれる。
鶴姫が眠りに落ちる寸前、沖田が独り言めいた呟きを漏らすのが聞こえた。
「……人を殺す時、躊躇ったことなんてほとんどないんだけどね、誰に嫌われても恨まれても構わないってずっと思ってたのに、あの時だけは身体が動かなかった。鶴姫ちゃんにだけは……どうしても嫌われたくなかったってことなのかな」
半ば眠りに落ちた頭では、紡がれた言葉の意味も朧気にしか分からなかった。
それでも沖田の声からは普段決して見せてくれない本音が感じとれた。
その優しい感触に包まれ、鶴姫の心は急速に溶けていった。
人を殺す時、躊躇ったことなんてほとんどない。
誰に嫌われても恨まれても構わないってずっと思ってた。
それが普通で今まで生きてきたから。
それなのに、あの時だけは身体が動かなかった。
楽を目の前で殺せば、いや目の前でなくとも殺せば鶴姫ちゃんは僕のことを嫌いになってしまうかもしれない。
そんなの嫌だ。僕はそう思った。
鶴姫ちゃんにだけは……どうしても嫌われたくなかったってことなのかな。
僕が守るのは近藤さんや、近藤さんが積み上げてきた新選組のはずだった。
それなのに、いつの間にか鶴姫ちゃんに手が及ぶことが怖くなった。
あの子に何かあったらどうしよう。
もしそうなったら明日の僕がそれを許さない。
そう思った。
胸元で眠る鶴姫ちゃんは酷く小さかった。
初めて会った時、物怖じしない様子からは考えられないほど小さい。
時折小さく聞こえてくる「お母さん」「お父さん」、そして「兄さん」の言葉。
嗚呼、本当に優しい子なんだ。
目の前で数知らぬ暴言を図れてもなおお兄さんを追いかけてる。
「また泣いてる」
泣き止んだはずの目からまた涙がこぼれ落ちる。
「ほんと、手のかかる子だよね」
ほんと。お節介でうるさくて。
いつも僕のそばにいて身の回りの事をしたりついてきたり。
言うことも聞かないことが多かったし。
【もしかして寂しい?】
いつしか僕をそんな気持ちにさせてくれたのは鶴姫ちゃんだよ。
君がいないと寂しいと思ってしまうほどに、気づいたらなっていた。
「どうしてくれるのかな」
君は僕のことをどう思ってるのかな。
自分のせいで何度も傷つけ鬼にさせてしまったからって罪悪感でついてきてるだけなのかな。
ねぇ、鶴姫ちゃんは僕のことをどう思ってるの?
鶴姫ちゃんは……僕のこと…好いてくれている?
To be continued