入隊希望者とその親族関係の明記を。
あなたを守ること 沖田
入隊希望者名簿
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慶応三年十二月上旬
油小路の変からあと少しで一ヶ月になろうとしている。
あの後、斎藤も藤堂も新選組に戻ってきたが、新選組は元に戻らなかった。
隊内は暗く、張り詰めた雰囲気に支配されている気がした。
鬼たちが屯所を襲撃した時、亡くなった隊士も多い。
負傷した人はもっと沢山いて、藤堂もその一人。
あの夜、藤堂が重傷を負っていた姿は一般の隊士も目にしている。
だから、藤堂は表向きは死んだことにされ【羅刹隊】の一員となった。
斎藤は無傷だったが、今は一般の隊士から陰口を叩かれている。
一度は離隊して伊藤一派につきながら、不利と見るやそれを裏切って新選組に舞い戻ったと思われているのだ。
事情をあかせば、口さがないことをいう隊士も減るとは思うだろうが、それは同時に羅刹隊のことを暴露することでもあった。
局長や副長に批判の矛先が向かないよう、斎藤は頑なに口を閉ざしている。
彼は土方の計らいでほとぼりが冷めるまでしばらく屯所を離れることになった。
今は紀州藩の公用人である三浦を警護するため天満屋に滞在しているという。
夜、鶴姫は夜風に当たろうと外に出ると玄関を出たところに沖田の姿があった。
ぼんやりと佇んだまま一人空を見上げている。
何を見つめているのか、何を想っているのか。
その背中に声をかけることを、つい躊躇ってしまう。
「……鶴姫ちゃん、いるんでしょ?そんなところに居ないで、こっちに来れば?」
『……』
勧められるまま、沖田の隣に進んで肩を並べる。
星あかりに照らされた横顔はいつもより青白く見えた。
顔色が悪いのか、それとも暗がりの中にいるせいなのかはわからない。
『……身体の具合はどう?』
「それは、胸の病のこと?それとも、羅刹になった身体の具合?」
『どっちも』
「ああ、ごめん。困らせるつもりはなかったんだ。そうだなあ……昼間起きてるのは無理だけど、体調自体は日毎に回復してるみたい。養生してればまたこれまで通り剣も振るえるようになるって」
その言葉はまるで自分に言い聞かせているみたいな響きが込められていた。
『そろそろ中に戻ろう。もう冬だし、夜に空を見ていたら身体に障るから』
「別に。これくらいの寒さ、どうってことないよ。ずっと寝床にいると気が滅入るし、そっちの方が、よっぽど身体に障る気がするしね」
『そうかもしれないけど、京の冬の冷え込みは特に厳しいんだからね』
「ああ、それは確かに。上洛してきたばかりの頃、みんなが文句言ってたのを思い出すよ。……僕は、この寒さ、嫌いじゃないんだけどね」
『確かに身は引き締まるような気がしますけどさ』
「……うん」
『これだけ寒いと雪が降りそう』
「そうだね」
『…………』
冬の寒さに唇が凍ったように、言葉が出てこなかった。
沖田もまた表情を消して、凍てついた星空を見上げている。
「……ねえ」
『ん?』
「僕が自分で選んだことなんだし、君が気にする必要なんてないんだよ」
『……』
「気にしてるんでしょ?僕があれを飲んだこと。顔に書いてあるよ。鶴姫ちゃん、嘘つくの下手だから。本当に、気に病むことは無いよ。僕が決めた事だし、僕自身は悔やんでないんだから」
何を言いたいのか、言えばいいのか、自分でもよく分からない状態だった。
「……それからさ、君はもう僕に関わらない方がいいと思う」
『お断りします』
「……僕の聞き間違いかな?【嫌だ】って聞こえたんだけど」
『聞き間違いじゃないよ。【嫌だ】と言ったよ』
「まったく……病人の頼みを真っ向から断るなんて君って酷いなあ」
『都合がいい時だけ病人ぶっても私には効果ありません』
「でも、病人っていうのは本当だよ。いや、そうじゃない……僕は死人なんだ。もう、生きてすらいないんだよ」
沖田が振るう剣のように、沖田の言葉は素早く鋭く鶴姫の胸を刺し貫く。
『それを言ったら私は生まれた時から鬼。総司が死人と言うのなら既に人間ではない状態は同じ。でも、今こうして生きている。会話もしている』
「そうだね……あれからね、咳も出なくなったんだ。傷や病が治るっていいのは本当らしいね。その代償かな。昼間動こうとすると凄く辛いんだ……。これで病気が治る、また近藤さんの役に立つことができると思ってあの薬を飲んだのに、昼間動けないんじゃ、巡察にも出られない。近藤さんの敵を斬ることだってできやしない。僕はもう……、何一つできない。役たたずなんだよ」
沖田がこんなに弱々しい心情を吐露するところを目にしたのは初めてだった。
近藤の役に立つことは沖田にとってこれほどまでに大切なことなのだろうか。
『近藤さんは総司が役に立つから傍に置いてるわけじゃないと思う』
すると沖田はまるで敵に向けるような剣呑な眼差しで鶴姫を睨んだ。
「……近藤さんの気持ちを、君なんかが勝手に代弁しないでくれる?たかが四年やそこら、僕たちと一緒にいただけの君がさ」
『言葉を返すようだけど、その私よりも長く一緒にいても近藤さんの本当の気持ちなんて、本人以外知る由もないよ』
「じゃあ、君にはわかるっていうの?」
『【わかる】とはっきり言い切れる訳じゃない。ただ、少なくとも私が知っている近藤さんは生きていたって死んでいたってたとえ人間でなくとも総司は総司だと考えるはず。生きていてくれてよかったって思ってくださってる方。私がこの四年足らずで見てきた近藤さんはそういうお方』
その言葉を沖田はどこか呆然とした表情で聞いていた。
「……本当にそう思ってくれてると思う?剣を取れなくなっても、近藤さんは僕のことを必要としてくれるかな?」
『もちろん。たった四年しか一緒にいない私のことも気にかけて必要としてくださっている。それ故に、もっと長い間一緒にいる総司のことはずっと強くそう思ってくださっているに決まってる。総司の目に映る近藤さんはどう?』
すると沖田は少しだけ空を仰ぎ昔の出来事を振り返るような表情で言った。
「……そうだね。あの人、本当、お人好しだから。多分、僕が本当に役立たずになっても、絶対見放したりしないだろうな」
『だろうではなく、しないよ』
その表情には少しだけ生気が戻っていた。
沖田がようやくほんの少し前を向いてくれたことに安堵する。
『……近藤さんのこと大切にしなくちゃ。やむを得ない決断だったことは近藤さんも理解してくださってると思うけれど、それでも総司が変若水を飲んでしまったこと近藤さんはとても悲しんでるはずだから』
「……うん、わかってる」
その沖田の言葉を聞いて鶴姫はふと考える。
鶴姫はそもそも人間では無いことは先述した通りだが、沖田のような決断をした時、以前と変わらず想ってくれる人はいるのだろうか。
「……鶴姫ちゃん、どうしたの?」
『あ、いや……なんでも』
「なんでもないって顔じゃないでしょ。言ってみたら?慰めたり励ましたりするのは苦手だけど、聞いてあげるだけならできるし」
口ぶりはいつもの素っ気ない沖田のままだが、こんな風に気遣ってくれるのは初めての事じゃないだろうか。
そんなことを思いながら、抱えている思いを少しだけ打ち上げる。
『……近藤さんみたいな方がそばに居る総司のことが羨ましいと思ったの』
憎悪と怨恨が込められた楽の瞳が脳裏をよぎる。
『私は普通の人間じゃないし、実の兄にもあんな風に思われてた…』
苦い思いが湧き出して、知らず知らずのうちに唇を噛み締めてしまう。
「ああ、そうだったっけ。すっかり忘れてた……君が人間だとか鬼だとか、そんなこと考えたこと無かったし」
その言葉で張り詰めていた心が少しだけ和らいだ気がした。
沖田は鶴姫が人では無いことを気にせずにいてくれる。
やがて沖田は星明かりに目を細めながら付け加える。
「それに、実の兄がどうとかって言ってたけど……家族なんて所詮、血の繋がりがあるだけの他人だよ。君が自分で選んだ相手じゃない。生まれた時、たまたまそばに居ただけなんだから、君は何一つ気にする必要なんてないと思うけど」
『そうかな』
そう空を見上げる。
冬の冷える風が頬を撫でる。
そんな中でかけられた言葉に胸が温かくなる。
『ありがとう。総司もそうやって私が何者かなんて気にせずに接してくれてるの、私は嬉しい。また、こうして話してもいい?』
「……やれやれ。君って本当、物好きだよね。いいよ、好きにすれば?僕も鶴姫ちゃんと話すのは嫌いじゃないし」
『ふふ。好きにする』
寒空の下、鶴姫は胸を張ってそう答えた。
油小路の変は新選組にとってとても大きな事件だった。
事情を知らない隊士にとってはかつての仲間だった御陵衛士との戦い。
多少事情を知る者たちにとっては、その背後にある薩長の動きや坂本龍馬暗殺、その他諸々の状況の変化。
全てを知る幹部の面々にとっては、鬼たちの行動、そして羅刹となった沖田と藤堂。
そんな大事件の後だからか、ここ最近屯所の中は騒がしい。
たとえ一瞬の静寂が流れても屯所の空気はざわついていて、気が休まることは無かった。
揺れ動いている新選組。
【羅刹隊】は……そして、新選組はどうなってしまうのだろう。
羅刹になった人、仲間が羅刹になるのを見ているしか無かった人。
皆の気持ちがバラバラになってしまっているような気がした。
そして数日後、王政復古の大号令が下され天皇による政治が復古する。
幕府が、将軍職が廃止され、京都守護職や所司代までが無くなり新選組が信じてきたものが大きく音を立てて崩れ始めようとしていた。
To be continued
油小路の変からあと少しで一ヶ月になろうとしている。
あの後、斎藤も藤堂も新選組に戻ってきたが、新選組は元に戻らなかった。
隊内は暗く、張り詰めた雰囲気に支配されている気がした。
鬼たちが屯所を襲撃した時、亡くなった隊士も多い。
負傷した人はもっと沢山いて、藤堂もその一人。
あの夜、藤堂が重傷を負っていた姿は一般の隊士も目にしている。
だから、藤堂は表向きは死んだことにされ【羅刹隊】の一員となった。
斎藤は無傷だったが、今は一般の隊士から陰口を叩かれている。
一度は離隊して伊藤一派につきながら、不利と見るやそれを裏切って新選組に舞い戻ったと思われているのだ。
事情をあかせば、口さがないことをいう隊士も減るとは思うだろうが、それは同時に羅刹隊のことを暴露することでもあった。
局長や副長に批判の矛先が向かないよう、斎藤は頑なに口を閉ざしている。
彼は土方の計らいでほとぼりが冷めるまでしばらく屯所を離れることになった。
今は紀州藩の公用人である三浦を警護するため天満屋に滞在しているという。
夜、鶴姫は夜風に当たろうと外に出ると玄関を出たところに沖田の姿があった。
ぼんやりと佇んだまま一人空を見上げている。
何を見つめているのか、何を想っているのか。
その背中に声をかけることを、つい躊躇ってしまう。
「……鶴姫ちゃん、いるんでしょ?そんなところに居ないで、こっちに来れば?」
『……』
勧められるまま、沖田の隣に進んで肩を並べる。
星あかりに照らされた横顔はいつもより青白く見えた。
顔色が悪いのか、それとも暗がりの中にいるせいなのかはわからない。
『……身体の具合はどう?』
「それは、胸の病のこと?それとも、羅刹になった身体の具合?」
『どっちも』
「ああ、ごめん。困らせるつもりはなかったんだ。そうだなあ……昼間起きてるのは無理だけど、体調自体は日毎に回復してるみたい。養生してればまたこれまで通り剣も振るえるようになるって」
その言葉はまるで自分に言い聞かせているみたいな響きが込められていた。
『そろそろ中に戻ろう。もう冬だし、夜に空を見ていたら身体に障るから』
「別に。これくらいの寒さ、どうってことないよ。ずっと寝床にいると気が滅入るし、そっちの方が、よっぽど身体に障る気がするしね」
『そうかもしれないけど、京の冬の冷え込みは特に厳しいんだからね』
「ああ、それは確かに。上洛してきたばかりの頃、みんなが文句言ってたのを思い出すよ。……僕は、この寒さ、嫌いじゃないんだけどね」
『確かに身は引き締まるような気がしますけどさ』
「……うん」
『これだけ寒いと雪が降りそう』
「そうだね」
『…………』
冬の寒さに唇が凍ったように、言葉が出てこなかった。
沖田もまた表情を消して、凍てついた星空を見上げている。
「……ねえ」
『ん?』
「僕が自分で選んだことなんだし、君が気にする必要なんてないんだよ」
『……』
「気にしてるんでしょ?僕があれを飲んだこと。顔に書いてあるよ。鶴姫ちゃん、嘘つくの下手だから。本当に、気に病むことは無いよ。僕が決めた事だし、僕自身は悔やんでないんだから」
何を言いたいのか、言えばいいのか、自分でもよく分からない状態だった。
「……それからさ、君はもう僕に関わらない方がいいと思う」
『お断りします』
「……僕の聞き間違いかな?【嫌だ】って聞こえたんだけど」
『聞き間違いじゃないよ。【嫌だ】と言ったよ』
「まったく……病人の頼みを真っ向から断るなんて君って酷いなあ」
『都合がいい時だけ病人ぶっても私には効果ありません』
「でも、病人っていうのは本当だよ。いや、そうじゃない……僕は死人なんだ。もう、生きてすらいないんだよ」
沖田が振るう剣のように、沖田の言葉は素早く鋭く鶴姫の胸を刺し貫く。
『それを言ったら私は生まれた時から鬼。総司が死人と言うのなら既に人間ではない状態は同じ。でも、今こうして生きている。会話もしている』
「そうだね……あれからね、咳も出なくなったんだ。傷や病が治るっていいのは本当らしいね。その代償かな。昼間動こうとすると凄く辛いんだ……。これで病気が治る、また近藤さんの役に立つことができると思ってあの薬を飲んだのに、昼間動けないんじゃ、巡察にも出られない。近藤さんの敵を斬ることだってできやしない。僕はもう……、何一つできない。役たたずなんだよ」
沖田がこんなに弱々しい心情を吐露するところを目にしたのは初めてだった。
近藤の役に立つことは沖田にとってこれほどまでに大切なことなのだろうか。
『近藤さんは総司が役に立つから傍に置いてるわけじゃないと思う』
すると沖田はまるで敵に向けるような剣呑な眼差しで鶴姫を睨んだ。
「……近藤さんの気持ちを、君なんかが勝手に代弁しないでくれる?たかが四年やそこら、僕たちと一緒にいただけの君がさ」
『言葉を返すようだけど、その私よりも長く一緒にいても近藤さんの本当の気持ちなんて、本人以外知る由もないよ』
「じゃあ、君にはわかるっていうの?」
『【わかる】とはっきり言い切れる訳じゃない。ただ、少なくとも私が知っている近藤さんは生きていたって死んでいたってたとえ人間でなくとも総司は総司だと考えるはず。生きていてくれてよかったって思ってくださってる方。私がこの四年足らずで見てきた近藤さんはそういうお方』
その言葉を沖田はどこか呆然とした表情で聞いていた。
「……本当にそう思ってくれてると思う?剣を取れなくなっても、近藤さんは僕のことを必要としてくれるかな?」
『もちろん。たった四年しか一緒にいない私のことも気にかけて必要としてくださっている。それ故に、もっと長い間一緒にいる総司のことはずっと強くそう思ってくださっているに決まってる。総司の目に映る近藤さんはどう?』
すると沖田は少しだけ空を仰ぎ昔の出来事を振り返るような表情で言った。
「……そうだね。あの人、本当、お人好しだから。多分、僕が本当に役立たずになっても、絶対見放したりしないだろうな」
『だろうではなく、しないよ』
その表情には少しだけ生気が戻っていた。
沖田がようやくほんの少し前を向いてくれたことに安堵する。
『……近藤さんのこと大切にしなくちゃ。やむを得ない決断だったことは近藤さんも理解してくださってると思うけれど、それでも総司が変若水を飲んでしまったこと近藤さんはとても悲しんでるはずだから』
「……うん、わかってる」
その沖田の言葉を聞いて鶴姫はふと考える。
鶴姫はそもそも人間では無いことは先述した通りだが、沖田のような決断をした時、以前と変わらず想ってくれる人はいるのだろうか。
「……鶴姫ちゃん、どうしたの?」
『あ、いや……なんでも』
「なんでもないって顔じゃないでしょ。言ってみたら?慰めたり励ましたりするのは苦手だけど、聞いてあげるだけならできるし」
口ぶりはいつもの素っ気ない沖田のままだが、こんな風に気遣ってくれるのは初めての事じゃないだろうか。
そんなことを思いながら、抱えている思いを少しだけ打ち上げる。
『……近藤さんみたいな方がそばに居る総司のことが羨ましいと思ったの』
憎悪と怨恨が込められた楽の瞳が脳裏をよぎる。
『私は普通の人間じゃないし、実の兄にもあんな風に思われてた…』
苦い思いが湧き出して、知らず知らずのうちに唇を噛み締めてしまう。
「ああ、そうだったっけ。すっかり忘れてた……君が人間だとか鬼だとか、そんなこと考えたこと無かったし」
その言葉で張り詰めていた心が少しだけ和らいだ気がした。
沖田は鶴姫が人では無いことを気にせずにいてくれる。
やがて沖田は星明かりに目を細めながら付け加える。
「それに、実の兄がどうとかって言ってたけど……家族なんて所詮、血の繋がりがあるだけの他人だよ。君が自分で選んだ相手じゃない。生まれた時、たまたまそばに居ただけなんだから、君は何一つ気にする必要なんてないと思うけど」
『そうかな』
そう空を見上げる。
冬の冷える風が頬を撫でる。
そんな中でかけられた言葉に胸が温かくなる。
『ありがとう。総司もそうやって私が何者かなんて気にせずに接してくれてるの、私は嬉しい。また、こうして話してもいい?』
「……やれやれ。君って本当、物好きだよね。いいよ、好きにすれば?僕も鶴姫ちゃんと話すのは嫌いじゃないし」
『ふふ。好きにする』
寒空の下、鶴姫は胸を張ってそう答えた。
油小路の変は新選組にとってとても大きな事件だった。
事情を知らない隊士にとってはかつての仲間だった御陵衛士との戦い。
多少事情を知る者たちにとっては、その背後にある薩長の動きや坂本龍馬暗殺、その他諸々の状況の変化。
全てを知る幹部の面々にとっては、鬼たちの行動、そして羅刹となった沖田と藤堂。
そんな大事件の後だからか、ここ最近屯所の中は騒がしい。
たとえ一瞬の静寂が流れても屯所の空気はざわついていて、気が休まることは無かった。
揺れ動いている新選組。
【羅刹隊】は……そして、新選組はどうなってしまうのだろう。
羅刹になった人、仲間が羅刹になるのを見ているしか無かった人。
皆の気持ちがバラバラになってしまっているような気がした。
そして数日後、王政復古の大号令が下され天皇による政治が復古する。
幕府が、将軍職が廃止され、京都守護職や所司代までが無くなり新選組が信じてきたものが大きく音を立てて崩れ始めようとしていた。
To be continued