入隊希望者とその親族関係の明記を。
あなたを守ること 沖田
入隊希望者名簿
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元治元年十月――
やがて秋が訪れても、尊王攘夷派は不穏な動きを見せないままだった。
巡察には相変わらず同行できるが、父二人と兄の手掛かりはつかめていない。
何も起きない代わりに平穏な日々が過ぎていった。
そして落ち葉も舞う頃の、ある夕暮れのことだった。
『あと少しかな』
茜たちは最近は新選組に来た頃よりも、自由が利くようになっていた。
雑務をこなす範囲なら、部屋を出ても許される。
だから巡察に同行できない日は屯所の手伝いをするか小姓としての任務を全うしていた。
「よう、茜ちゃん。今日も精がでるなあ」
『あ、永倉さん』
横から声をかけられ、茜は掃除の手を止める。
「そろそろ日も暮れるし、適当に終わらせとけよ」
「ほんと真面目だよなあ。毎日こんな遅くまでさ」
『原田さんに、平助まで……三人そろってお出かけですか?』
「ま、俺らもお務めにな」
『ははーん。島原ですね』
この三人が揃っていくところとなれば花街しかない。
「朝までには帰るから心配いらねえ」
「い、一応言っとくけどもちろん吞むだけだぜ?」
『何も如何わしいことなんて考えてませんよ』
「女目当てで行きたがるのは新八っつあんくらいだから!」
「おい平助。何も女の子の前で本当のこと言う必要ねぇだろ」
『否定しないんですね』
「そ、それは……なあ!」
「とにかく後は頼むわ。土方さんが俺らのこと探してたら、うまく誤魔化しといてくれ」
そういうと原田たちは行ってしまった。
急いで庭掃除を済ませようとしていると何やら表のほうが騒がしくなった。
『何かあったのかしら』
急いで表に行ってみると、そこにいたのは十人ほどの子供たち。
そして輪の中央には…
『沖田さん』
「あれ、龍之介。君が玄関の外に出てくるなんて珍しいね」
『声が聞こえたので。この子たちは……?』
「あ。誘拐とかじゃないし、安心してくれていいよ?ちょうど暇だったから、遊んでもらってるとこ」
『遊んでもらってるとこって……』
笑顔で語られる言葉に少し考えこむ。
『もしかして全員お友達ですか?』
「うん。そんな感じかな。いつもお世話になってるんだ」
『どんな立場…』
普通は沖田が遊んであげる側だろとと心の中で唱える。
遊んでもらっているというところは、らしいといえばらしい。
「もしかして龍之介、僕たちと一緒に遊びたい?」
『いや……』
かなり困惑しながら首を横に振る。
『それより新選組の屯所に子供たちを入れていいんですか?』
「土方さんに見つかったら、まず間違いなく怒られるよね」
『ですね』
「以前の山南さんなら、一緒に遊んでくれただろうけど、今は八つ当たりされそうかな」
『それなら屯所で遊ぶのってものすごく危険なことでは……』
そういうと沖田は笑顔でうなずく。
「他のみんなも怒りそうだしね。見逃してくれるのは君くらいだよ」
『まだ見逃すとも何とも言ってないんですが。それに、見つかりたくないなら子供たちを返したほうが――』
そういうと一人の子供が口を開く。
「俺たちのことに口出すなよ。どこで遊ぼうが勝手だろ?」
「外野は黙っててくれよな。俺たちは総司と遊ぶんだから」
親の顔が見たくなった。
沖田は子供たちからすごく好かれてるみたいだが。
彼らを放っておいて大丈夫な理由にはならない気がした。
『ここが空き地ならそうでいいが、ここはそういう場所ではない』
「総司だって新選組なのに俺らと一緒に遊んでるよ?」
『沖田さんはちょっとな……他の人とは違う要素が多いというか』
「どうせ、大した仕事してないんだろ?」
「京の平和がどうとか言ってるけど、評判は悪いよね。人斬りとか」
実際そうしている部分がないわけではない。
だが新選組がいなくては京の治安が保てないのも事実。
浪士による天誅の被害も減っているわけではない。
「新選組なんて変な奴ばっかり。俺らが命令される筋合いないよ」
『これは命令ではなく相談だ。それに、確かに乱暴者も多いが、そうじゃない人もいる。』
「しかも新選組はよく島原通いしてるって父ちゃんが言ってた!」
『……父さんがそんなこと言えるってことは、父さんもよく島原通いしてんのかもな』
本当に大人げないと思うが、茜はそう言い返す。
それを聞いた子供は黙りこくってしまう。
「もしかして龍之介、すごい真面目に考えてる?」
『まあ、世話になってるので弁護したい気持ちではあります』
「本当のことばかり言われて、言い訳のしようがない感じ?」
『う……』
そういうと沖田は素直すぎると茜を笑う。
「むしろ全面的に同意かな。新選組は悪い印象を持たれて仕方ない集団だと思ってるし」
「ほら、やっぱり新選組って悪い奴らの集まりなんだろ?」
『全員が全員悪いわけじゃない。それは新選組に限った話ではない。善人の面した悪人だって世の中にはいる』
「怖い奴が善人なわけないだろ。むしろみんな悪人面してるし」
『そうか?なら沖田も悪人面か』
そうやって沖田の顔を見やる。
「土方さんとか。いつも厳しい顔してるよね?眉間に深いしわ寄せてさ。それに山南さんだって笑顔が消えるとかなり怖い形相になるよ?」
『……』
沖田まで子供たちと一緒に言い出すから困る。
それに当てはまる人を出してしまえばそうにしかならなくなるというのに。
『例えば局長の近藤さんは優しいぞ』
「確か局長ってさあ、すごい鈍そうなやつだろ?」
『鈍そうって……能ある鷹は爪を隠すだ』
「そうか?にこにこしながら散歩してるの見たけどさ」
「なんか頼りない感じ。めちゃくちゃ弱そう」
「他のやつらのほうが、まだまともそう」
ちらっと沖田のほうを見る茜。
沖田は相変わらずの笑顔だが……なんだか嫌な予感を茜はヒシヒシと感じ取っていた。
「あんなのが局長だから、新選組はダメなんだって!」
『見た目を判断材料にして人となり迄悪く言うのはどうかと思うな。それに上が厳しいだけではいずれ組織は壊滅する。適材適所という言葉があるし、社会は一人の力だけでは動いていない』
思わず声を荒げる茜のことを沖田が笑顔で押しとどめた。
「まあまあ、龍之介。君もちょっと落ち着こう?相手は子供なんだし、そんなに怒ることないよ」
『しかし!』
「総司、そいつ無視して俺たちと遊ぼう」
「うん、そうだね」
沖田はいつもと変わらないはずの笑顔のまま、その子のそばに近寄った。
「君はどんな遊びがしたいの?【たかいたかい】とかどう?」
「それでいいよ。総司って背が高いしさ」
「うん。身長がこんなことで役に立つなんて面白いよね」
沖田は笑顔のまま男の子を抱き上げる。
沖田の背よりも高く抱え上げ荒れた男の子はすごくうれしそうな声を上げる。
そんな様子を見ているとなんだか胸がもやもやする。
「ほーら、楽しい?いつもと違う高さって、それだけで面白いよね」
「うんっ!」
……。
沖田はいつまでたかいたかいを続けるつもりなんだろうか。
そう思いながら、”遊んでいる”ところを眺める。
「……あのさ総司。そろそろそいつおろしていいよ」
「遠慮しないでいいよ。たかいたかいしてもらうの、僕も昔は好きだったし」
すると、抱えあげられている男の子は何かを察したのか恐怖で顔がゆがみ始める。
挙句子供は泣き始めてしまった。
沖田は泣くほど喜ばなくてもいいのにと笑う。
その声は寒気がするほど冷たかった。
よく見ると、目は全くといっていいほど笑っていなかった。
『沖田さん、相手は子供なんですよね。そろそろ下ろしたあげたらどうですか』
「やだなあ、龍之介。僕は遊んであげてるだけだよ」
『まーったく遊んでいるように見えません』
「ごめん、ごめんってば!」
「君もどうして謝るのさ。遊んでもらったときは、普通【ありがとう】だよね?」
「ゆ、許してよ総司!俺たちが悪かった!」
「し、新選組の悪口なんてもう言わないよー!だから許して―!!」
やがて沖田は渋々といった感じで男の子を解放する。
茜は泣くじゃくる子供を慰める。
『お互い様だ。ごめんな』
青い顔でおびえていた他の子たちを泣いている男の子たちと一緒に帰らせる。
陽はとっくに暮れかかっていた。
『総司、お友達ならあんなことしちゃダメ』
茜がそう叱ると沖田はまるで子供のようにつぶやいた。
「だって……だってあの子、近藤さんを馬鹿にしたし。何も知らないくせにさ。あんなこと言う資格ないよ」
『気持ちは分かるけど、同じ釜の飯を食う間柄じゃないんだよ?どうしてもああなってしまうよ』
そういいつつ昔自分も同じようなことを言った手前、強くは言えなかった。
それと同時に土方さんのことは悪く言われてもいいのかと考えると笑いがこみ上げる。
「なんで笑うの?」
『総司は本当に近藤さんのことが好きなんだなと』
「うん!」
そううなずいた時の沖田の表情はとても嬉しそうだった。
「だから茜ちゃんが怒ってくれたの、結構うれしかったよ」
『私も近藤さんやみんなのこと悪く言われるの嫌だから。あの子とも早いうちに仲直りしてあげてね』
「わかってる。ちゃんと謝っておく。あと茜ちゃんにはお礼にいいことしてあげる」
『お礼?』
「うん。こっちおいで」
そう言われて沖田に近づいた茜。
その瞬間、足が宙に浮いた。
『きゃっ!』
「ほら、たかいたかい!」
『おろして!』
「可愛いよ」
『からかわないでー!』
そう沖田の手から逃れようともがくが、降ろされたと思えばあっさりと沖田の腕の中に納められる。
いわゆる抱擁状態だ。
「ありがとう」
『……総司?』
地面に下ろしてくれたかと思うと、気づいた時には見つめ合う形になっていた。
「どうしたの?」
『どうしたのって……』
「可愛かったよ。顔を赤くして必死に訴える茜ちゃん」
『可愛くない……』
あまりの恥ずかしさに小さな声で答える。
少しだけ沈黙の時間が流れるも、茜の耳には心臓の音が響いていた。
『あっ、もう夕食の時間、とっくに過ぎてる!』
そう言って沖田の手から離れると茜一目散に走っていく。
その場に取り残された沖田は、腕を見つめていた。
広間についた二人は、先に食べていた人たちにどやされながら席に着く。
「赭月」
『は、はい!』
「どうした、顔が赤いぞ」
「本当ですね。熱はありませんか?」
『大丈夫です!ちょっと走ってきたので』
必死に顔くをあおぐ茜。
その理由は沖田と茜だけの秘密
to be continued
