入隊希望者とその親族関係の明記を。
あなたを守ること 沖田
入隊希望者名簿
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それまで先陣を切っていた土方は目の前に立ち塞がる人影に異様な苦役を感じて足を止める。
そして、土方は他の隊士達にも立ち止まるように手振りで合図をした。
だが血気にはやる隊士一人はその合図を無視してかけ続けようとし、一刀のもとに切り伏せられた。
「てめえらふざけんなよ!──おい、大丈夫か!?」
永倉が声を荒げながら、倒れた隊士を抱き起こした。
だが、隊士には既に意識がないようだ。
斬られた男の身体からじわりと血溜まりが広がっていく。
突然の攻撃に驚きながらも、隊士達全員が人影へ殺意を向けた。
「その羽織は新選組だな。忠臣蔵の真似度とは、相変わらず野暮な風体をしている」
からかうような言葉に、隊士達の怒気はますます高まった。
羽織の裏に浅葱色を使うのは時代遅れだ、と言われることがあるが新選組が浅葱色の隊服を纏うには、それなりの理由がある。
「土方さん!その人、あの夜池田屋にいた人だと思います!龍之介さんから聞いている特徴に一致します!」
そう千鶴の言葉を聞いた土方はより不愉快そうに顔をしかめた。
「あの夜も池田屋に乗り込んできたかと思えば、今日もまた戦場で手柄探しとは……」
池田屋事件の晩、その場に居合わせたと示すような口調でいう。
「田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。……いや、貴様らは【侍】ですらなかったな。ここで引き返せ。さもなくば、今の者のように血反吐を吐いて倒れることになるぞ」
新選組の神経を逆撫でするような、失礼な台詞が次々に男の唇から語られる。
「……お前が池田屋で総司を倒した奴か。たいした凄腕らしいが……ずいぶん安い挑発をするもんだな」
土方は厳しい眼差しのまま、凍りつくような冷笑を浮かべた。
「【腕だけは確かな百姓集団】と聞いていたが、この有り様を見るにそれも作り話だったようだな」
男は倒れた隊士を見下ろして笑う。
「池田屋に来ていたあの男、沖田といったか。あれも剣客と呼ぶには非力な男だった」
土方は瞳を細めて、ギり、と奥歯を噛み締めた。
「総司の悪口なら好きなだけ言えよ。でもな、その前にこいつを殺した理由をいえ!」
殺意をみなぎらせた永倉が刀を抜き放つ。
永倉の足元では隊士が一人事切れていた。
「その理由が納得いかねぇもんだったら、今すぐ俺がお前をぶった斬ってやる!」
「貴様らが武士の誇りも知らず、手柄を得ることしか頭にない幕府の犬だからだ。敗北を知り戦場を去った連中を、何のために追いたてようというのだ。腹を切る時間と場所を求め天王山を目指した長州侍の誇りをなにゆえ理解せんのだ!」
どうやら長州の敗残兵は切腹するつもりらしい。
土方を見る千鶴だったが、土方達は驚きもしなかった。
予想していたのだ。この男が怒っているのは自分とは無関係な長州侍のため。
長州侍のために、新選組の足止めをしようとしている。
「誰かの誇りのために、誰かの命を奪ってもいいんですか?!誰かに形だけ【誇り】を守ってもらうなんて、それこそ【誇り】がズタズタになると思います」
「ならば新選組が手柄をたてるためであれば、他人の誇りを犯してもよいというのか」
「そういうわけじゃ、ないんですけど…」
鋭い視線に、千鶴は口ごもってしまう。
そんな二人のやり取りを見ていた土方は、その顔に分かりやすいあきれを浮かべていた。
「偉そうに話し出すからなにかと思えば……。戦いをなめんじゃねえぞ、この甘ったれが」
「何……?」
「身勝手な理由で喧嘩を吹っ掛けたくせに、討ち死にする覚悟もなく尻尾巻いた連中が、武士らしく綺麗に死ねるわけねえだろうが!」
土方の言葉が、その場に響き渡る。
土方が放つ威圧感に、千鶴は我知らず後ずさっていた。
「罪人は斬首刑で十分だ。自ずから腹を切る名誉なんざ、御所に弓引いた逆賊には不要のもんだろ?」
凛とした声音が理路整然とした論を紡いでいく。
「自ら戦いを仕掛けるからには、殺される覚悟も済ませておけと言いたいのか?」
「死ぬ覚悟もなしに戦を始めたんなら、それこそ武士の風上にもおけねえな」
「やつらに武士の【誇り】があるんなら、俺らも手を抜かねえのが最後のはなむけだろ?」
とうとうと土方が語る言葉は、彼の誇りを理由に紡がれているのだろう。
だが、この二人は相反するものを抱えているからいくら言葉を重ねても互いの線は交わらない。
土方は刀を抜き放つと、構えている永倉を目で制した。
永倉は顔をしかめたが、数秒間をおいてから素直に刀を納めた。
「で、お前も覚悟はできてるんだろうな。──俺たちの仲間を斬り殺した、その覚悟を」
人を殺すからには人に殺される覚悟をしろ。
土方の言葉は千鶴の耳にそう聞こえた。
「口だけは達者らしいが、まさか俺を殺せるとでも思っているのか?」
金属同士のぶつかり合う音が、真昼の町中に響き渡った。
かみあった刀と共に身を離し、土方は慎重に彼我の距離をとる。
「土方さんよ、この部隊の指揮権限、今だけ俺が借りておくぜ!」
「いうじゃねえか……任せたぜ、新八!」
永倉がそういった言葉を、土方は視線は寄越さず敵だけを見据えて言った。
だか、その唇は笑みの形に歪んでいる。
「ようし。……いいか、おまえら!今から天王山目指して全力疾走再開だ!」
永倉が号令をかけると隊士達は声をあげて了解の意を示す。
「貴様ら……!」
「余所見してんじゃねえよ。真剣勝負って言葉の意味も知らねえのか」
「邪魔をするな!」
隊士達が行く道を進ませないと土方が刀を構え続ける。
男が振り下ろした一撃を受けた土方がそのままの姿勢で後ろに弾き飛ばされる。
「くそっ……なんて馬鹿力だ……っ!」
土方との距離が空いてしまったため、男は永倉たちのほうに顔を向けた。
千鶴は立ち止まろうとする足に力を入れそのまま駆けた。
「そうだ。それでいい!そのまま走れ!」
瞬く間に土方が男に肉薄し、刃を突きつける。
「実力もわからぬか、この幕府の犬が!」
「あいにくだな。戦場の実力なんざ、気合でどうとにでもなるもんだぜ!」
千鶴は土方に必ず追い付いてくださいと声をかけて天王山を目指した。
天王山にたどり着き、麓で待機していた千鶴達のもとに土方が戻ってきた。
途中薩摩藩の横やりが入ったとのこと。
あの男は風間千景という薩摩の人間であった。
薩摩は会津と共闘して長州を追い払っていたが、風間は上の指示を無視して行動していたようだ。
薩摩の連中も迷惑しているのか強く言えないらしかった。
そして、長州の敗残兵は残らず切腹。生き残っているものはいなかったという。
長州の過激派浪士達が御所に討ち入ったこの事件は、後に禁門の変、蛤御門の変とよぼれるようになる。
新選組の動きはごてに回り、残念ながら活躍らしい活躍もできなかった。
味方同士の間で情報の伝達がうまくいかず、無駄に時間を浪費してしまったのだ。
たが、戦場で不思議な出会いもあった。
池田屋で総司を倒した、風間千景。
彼は薩摩藩に所属している。
池田屋で平助の額を割ったのが天霧九寿。
この人物も薩摩藩に所属している。
そして、長州浪士達と共に戦っていた、不知火匡と言う人物。
三人は決して新選組の味方ではなく、むしろ強大な敵と言える存在。
彼らと戦うことになれば、新選組も大きな被害を受けることは間違いない。
敵対することにならなければ、それが一番である。
しかし、土方と別れる直前に三人とも"新選組にいる女隊士にいつかまた会おう"と伝えるように言っていたらしい。
新選組にいる女隊士は千鶴と鶴姫の二人だけ。
それがどちらを指すのかは分からないが、千鶴だとすれば土方に"さっきの威勢のいい隊士に"とでも言えばわかることだ。
わざわざ"新選組の女隊士"といったからには、千鶴でなく鶴姫に向けられた言葉である可能性は高かった。
ともかく、長州の指導者達は戦死し、また、自ら腹を切って息耐えた。
中には逃げ延びたやからもいる。
彼らは逃げながらも京の都に火を放った。
運悪く北から吹いていた風は御所の南方を焼け野原に変えてしまった。
この騒ぎが原因で尊皇攘夷の国事犯達が一斉に処刑された。
そして、京から離れることを許された新選組は大坂から兵庫にかけて警衛した。
乱暴を働く浪士達を取り締まり、周辺に須磨え人々の生活を守ったのである。
この禁門の変のあと、長州藩は御所に向けて発砲したことを理由に、朝廷に歯向かう逆賊として扱われていく。
この事件がきっかけとなり、長州藩は【朝敵】とされたのだ。
to be continued
そして、土方は他の隊士達にも立ち止まるように手振りで合図をした。
だが血気にはやる隊士一人はその合図を無視してかけ続けようとし、一刀のもとに切り伏せられた。
「てめえらふざけんなよ!──おい、大丈夫か!?」
永倉が声を荒げながら、倒れた隊士を抱き起こした。
だが、隊士には既に意識がないようだ。
斬られた男の身体からじわりと血溜まりが広がっていく。
突然の攻撃に驚きながらも、隊士達全員が人影へ殺意を向けた。
「その羽織は新選組だな。忠臣蔵の真似度とは、相変わらず野暮な風体をしている」
からかうような言葉に、隊士達の怒気はますます高まった。
羽織の裏に浅葱色を使うのは時代遅れだ、と言われることがあるが新選組が浅葱色の隊服を纏うには、それなりの理由がある。
「土方さん!その人、あの夜池田屋にいた人だと思います!龍之介さんから聞いている特徴に一致します!」
そう千鶴の言葉を聞いた土方はより不愉快そうに顔をしかめた。
「あの夜も池田屋に乗り込んできたかと思えば、今日もまた戦場で手柄探しとは……」
池田屋事件の晩、その場に居合わせたと示すような口調でいう。
「田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。……いや、貴様らは【侍】ですらなかったな。ここで引き返せ。さもなくば、今の者のように血反吐を吐いて倒れることになるぞ」
新選組の神経を逆撫でするような、失礼な台詞が次々に男の唇から語られる。
「……お前が池田屋で総司を倒した奴か。たいした凄腕らしいが……ずいぶん安い挑発をするもんだな」
土方は厳しい眼差しのまま、凍りつくような冷笑を浮かべた。
「【腕だけは確かな百姓集団】と聞いていたが、この有り様を見るにそれも作り話だったようだな」
男は倒れた隊士を見下ろして笑う。
「池田屋に来ていたあの男、沖田といったか。あれも剣客と呼ぶには非力な男だった」
土方は瞳を細めて、ギり、と奥歯を噛み締めた。
「総司の悪口なら好きなだけ言えよ。でもな、その前にこいつを殺した理由をいえ!」
殺意をみなぎらせた永倉が刀を抜き放つ。
永倉の足元では隊士が一人事切れていた。
「その理由が納得いかねぇもんだったら、今すぐ俺がお前をぶった斬ってやる!」
「貴様らが武士の誇りも知らず、手柄を得ることしか頭にない幕府の犬だからだ。敗北を知り戦場を去った連中を、何のために追いたてようというのだ。腹を切る時間と場所を求め天王山を目指した長州侍の誇りをなにゆえ理解せんのだ!」
どうやら長州の敗残兵は切腹するつもりらしい。
土方を見る千鶴だったが、土方達は驚きもしなかった。
予想していたのだ。この男が怒っているのは自分とは無関係な長州侍のため。
長州侍のために、新選組の足止めをしようとしている。
「誰かの誇りのために、誰かの命を奪ってもいいんですか?!誰かに形だけ【誇り】を守ってもらうなんて、それこそ【誇り】がズタズタになると思います」
「ならば新選組が手柄をたてるためであれば、他人の誇りを犯してもよいというのか」
「そういうわけじゃ、ないんですけど…」
鋭い視線に、千鶴は口ごもってしまう。
そんな二人のやり取りを見ていた土方は、その顔に分かりやすいあきれを浮かべていた。
「偉そうに話し出すからなにかと思えば……。戦いをなめんじゃねえぞ、この甘ったれが」
「何……?」
「身勝手な理由で喧嘩を吹っ掛けたくせに、討ち死にする覚悟もなく尻尾巻いた連中が、武士らしく綺麗に死ねるわけねえだろうが!」
土方の言葉が、その場に響き渡る。
土方が放つ威圧感に、千鶴は我知らず後ずさっていた。
「罪人は斬首刑で十分だ。自ずから腹を切る名誉なんざ、御所に弓引いた逆賊には不要のもんだろ?」
凛とした声音が理路整然とした論を紡いでいく。
「自ら戦いを仕掛けるからには、殺される覚悟も済ませておけと言いたいのか?」
「死ぬ覚悟もなしに戦を始めたんなら、それこそ武士の風上にもおけねえな」
「やつらに武士の【誇り】があるんなら、俺らも手を抜かねえのが最後のはなむけだろ?」
とうとうと土方が語る言葉は、彼の誇りを理由に紡がれているのだろう。
だが、この二人は相反するものを抱えているからいくら言葉を重ねても互いの線は交わらない。
土方は刀を抜き放つと、構えている永倉を目で制した。
永倉は顔をしかめたが、数秒間をおいてから素直に刀を納めた。
「で、お前も覚悟はできてるんだろうな。──俺たちの仲間を斬り殺した、その覚悟を」
人を殺すからには人に殺される覚悟をしろ。
土方の言葉は千鶴の耳にそう聞こえた。
「口だけは達者らしいが、まさか俺を殺せるとでも思っているのか?」
金属同士のぶつかり合う音が、真昼の町中に響き渡った。
かみあった刀と共に身を離し、土方は慎重に彼我の距離をとる。
「土方さんよ、この部隊の指揮権限、今だけ俺が借りておくぜ!」
「いうじゃねえか……任せたぜ、新八!」
永倉がそういった言葉を、土方は視線は寄越さず敵だけを見据えて言った。
だか、その唇は笑みの形に歪んでいる。
「ようし。……いいか、おまえら!今から天王山目指して全力疾走再開だ!」
永倉が号令をかけると隊士達は声をあげて了解の意を示す。
「貴様ら……!」
「余所見してんじゃねえよ。真剣勝負って言葉の意味も知らねえのか」
「邪魔をするな!」
隊士達が行く道を進ませないと土方が刀を構え続ける。
男が振り下ろした一撃を受けた土方がそのままの姿勢で後ろに弾き飛ばされる。
「くそっ……なんて馬鹿力だ……っ!」
土方との距離が空いてしまったため、男は永倉たちのほうに顔を向けた。
千鶴は立ち止まろうとする足に力を入れそのまま駆けた。
「そうだ。それでいい!そのまま走れ!」
瞬く間に土方が男に肉薄し、刃を突きつける。
「実力もわからぬか、この幕府の犬が!」
「あいにくだな。戦場の実力なんざ、気合でどうとにでもなるもんだぜ!」
千鶴は土方に必ず追い付いてくださいと声をかけて天王山を目指した。
天王山にたどり着き、麓で待機していた千鶴達のもとに土方が戻ってきた。
途中薩摩藩の横やりが入ったとのこと。
あの男は風間千景という薩摩の人間であった。
薩摩は会津と共闘して長州を追い払っていたが、風間は上の指示を無視して行動していたようだ。
薩摩の連中も迷惑しているのか強く言えないらしかった。
そして、長州の敗残兵は残らず切腹。生き残っているものはいなかったという。
長州の過激派浪士達が御所に討ち入ったこの事件は、後に禁門の変、蛤御門の変とよぼれるようになる。
新選組の動きはごてに回り、残念ながら活躍らしい活躍もできなかった。
味方同士の間で情報の伝達がうまくいかず、無駄に時間を浪費してしまったのだ。
たが、戦場で不思議な出会いもあった。
池田屋で総司を倒した、風間千景。
彼は薩摩藩に所属している。
池田屋で平助の額を割ったのが天霧九寿。
この人物も薩摩藩に所属している。
そして、長州浪士達と共に戦っていた、不知火匡と言う人物。
三人は決して新選組の味方ではなく、むしろ強大な敵と言える存在。
彼らと戦うことになれば、新選組も大きな被害を受けることは間違いない。
敵対することにならなければ、それが一番である。
しかし、土方と別れる直前に三人とも"新選組にいる女隊士にいつかまた会おう"と伝えるように言っていたらしい。
新選組にいる女隊士は千鶴と鶴姫の二人だけ。
それがどちらを指すのかは分からないが、千鶴だとすれば土方に"さっきの威勢のいい隊士に"とでも言えばわかることだ。
わざわざ"新選組の女隊士"といったからには、千鶴でなく鶴姫に向けられた言葉である可能性は高かった。
ともかく、長州の指導者達は戦死し、また、自ら腹を切って息耐えた。
中には逃げ延びたやからもいる。
彼らは逃げながらも京の都に火を放った。
運悪く北から吹いていた風は御所の南方を焼け野原に変えてしまった。
この騒ぎが原因で尊皇攘夷の国事犯達が一斉に処刑された。
そして、京から離れることを許された新選組は大坂から兵庫にかけて警衛した。
乱暴を働く浪士達を取り締まり、周辺に須磨え人々の生活を守ったのである。
この禁門の変のあと、長州藩は御所に向けて発砲したことを理由に、朝廷に歯向かう逆賊として扱われていく。
この事件がきっかけとなり、長州藩は【朝敵】とされたのだ。
to be continued