番外編
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恋は、コトリと机にシャープペンシルを置いた。
長く集中していた事で、シャットアウトされていた外の音が耳に届き、ふと窓の外を見る。
外にいる運動部からの声は、青空のように清々しくハツラツとしていた。
恋の様子に気付いた教師は、時計を見てから恋の席の前に立つ。
「時間だな。もう帰っていいぞ」
「はい、ありがとうございました」
恋は、テストの答案用紙を手渡すと軽くお辞儀をする。
恋は放課後の今、先日行われた試験の追試を受けていた。
試験最終日、恋は忌引きにより学校を欠席し、救済措置として追試を受ける事になったのだ。
教師が教室を出て行き、恋が鞄の中へ勉強道具をしまっていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
室内には恋しかおらず、開かれたままのドアをわざわざ鳴らすのは珍しい行動と言える。
その音を不審に思い顔を上げると、そこにいた意外な人物に恋は目を丸くする。
「牧さん!?」
ガタンと勢いよく恋が立ち上がると、私服姿の牧が少し遠慮がちながらも、優しい笑みを浮かべて中へと入って来た。
「追試らしいな。お疲れ」
「あ、はい」
恋は、疑問を抱きつつもその姿に喜びを隠せずにいた。
そんな態度を見ていると、牧も自然と穏やかな気持ちになり、恋の頭をついついひと撫でしてしまう。
恋は、少し照れたように笑みを浮かべると疑問を投げかけた。
「今日もバスケ部ですか?」
卒業してしばらく経つ牧は、稀に男子バスケットボール部に顔を出していた。
自身の大学での生活も忙しいながらも、時間を見つけては訪れる事があったのだ。
それは、恋に会いたいという理由も含まれているのだが、牧はそれを全面には出さない為に、恋はOBとして心配で来ているものだと思っている。
そもそも学校へ来る日は、大抵前もって牧から恋に知らせていたのだが、今回はその限りではなかったからか、当然なその疑問に牧は微かに笑った。
「たまには、恋を驚かせようと思ったんだ」
「え?」
「まさか、今日が追試だとは思わなかったが。さっき、清田から聞いたよ」
恋もまた、今日追試を受ける事を牧には伝えていなかった。
日々を忙しく過ごしている牧に、わざわざ知らせる事でもないかと思ったのだ。
「ごめんなさい、わざわざ伝える事でもないかと思って…」
「いや、俺も忙しくて連絡が中々取れなかったからな。恋の嬉しそうな顔が見られて良かったよ」
そう言われて、そんなに表情に出ていたのかと恋は少し気恥ずかしくなり、両手を頬に当て伏し目がちになる。
牧はそんな恋を愛おしそうに見つめると、恋の隣の席へと不意に座った。
「懐かしいな」
恋は牧が座った事で、無意識的に同じように着席して隣へと視線を送る。
「あ、大学はこういう感じの机とかじゃないんですよね?久しぶりの高校生気分はどうですか?」
「そうだな。まぁ、数ヶ月しか経ってない事なんだが、ただ……」
「ただ?」
「恋と同級生なら、こんな風に隣同士に座る事もあったのかも知れないと思うと、少し変な気分だ」
ふっと笑う牧に、恋はきょとんとしている。
「変…ですか?」
「あぁ。隣を見れば、恋がいるわけだろう?それだと、気になって仕方がなさそうだ」
牧が、どこか嬉しそうに話している事は声色から伝わる。
恋は、そんな言葉が聞けるなどとは思っておらず微かに頬を染めた。
それは、恋が諦めた夢物語だ。
学校では会えない日々が日常になりつつある中で、どうしても牧と同じ年だったらと考えてしまう事がある。
それは、もっとありふれた時間を共有出来ただろうという願望。
しかし、それはどうしようもないもので不可能な事だ。
それでも、こうして隣に座る空間を体験し、その思いが少しだけ実った気になって気分が浮ついている事を、我ながら単純だと恋は思わずにいられない。
ただ、それすらも牧を好きだという証拠のようで、心はほのかに暖かくなる。
「牧さんが隣の席だったら、当てられた時とか頼りになりそうですね。あ、教科書忘れたら机くっつけられますね!」
そう言い、恋は自身の机をガタガタと動かして隣の席へ距離を縮める。
机同士がくっつくと、自ずと二人の距離が近くなった事で自然に視線は交わり、恋は慌てた様子で視線を逸らした。
牧は恋の耳が赤くなっている事に気付き、相変わらずだなと思わず口元が緩んだ。
「俺が教えるとは限らないだろう?」
「えっ!?」
恋があまりにも驚いた表情を向けるので、牧はそこまで期待してしまうのかと少し呆れながらも、親しみのこもった笑いが堪えきれなくなった。
「まぁ、俺も恋には甘い自覚はあるからな。きっと、教えてしまうだろう」
牧は、ククッと声を出すと恋を見据えた。
隣の席から来る視線に、どうしても落ち着かず恋は思わず俯く。
牧が私服姿でいる事が、学校生活とはほど遠くも感じつつ、記憶に残る牧の制服姿が勝手にリンクする。
「どうした?」
「い、いえ!」
視線を逸らしたままの恋を、牧はふっと目元を緩めて見つめていた。
恋の言動が可愛く思えて、駄目だとは思いつつも甘やかさないと言う選択肢が浮かばない。
「恋」
「はい?」
「今だけ、敬語をなくしてみないか?」
「え?」
「敬語をとるのはその内で良いと言ったが、少しクラスメイトごっこをしたくなった」
「ごっこ……ですか?」
牧から意外な言葉が出てきて、恋は思わず視線を上げるが、その表情は面食らったのかポカンとしている。
それは、付き合い始めてしばらく経った日、二人の会話に敬語は必要ないと思った牧は、恋に提案してみたのだが、敷居が高いとの事で結局は先延ばしとなった話だ。
それを覆すような提案だったが、牧は視線が交わると笑みを深くした。
「あぁ、同じクラスで過ごしているような、そんな体験をしてみるのも楽しいだろう?」
「でも、具体的にはどうすればいいですか…?」
唐突な要望に、恋は言動が思いつかない。
牧にしてみても、言ってみたはいいが、具体的にこうして欲しいといったものはなかった。
「そうだな、普通に休み時間とかの感じでいいんじゃないか?隣の席の奴と話したりする事もあるだろう?」
「あ、はい…。えっと……」
何故か、恋は姿勢を正しくすると、緊張しているのか何ともぎこちない顔をしていて、牧はクスリと笑った。
牧の言葉に振り回されている恋を見る事は、牧にとって楽しいひと時でもある。
精一杯答えようとする恋の真面目な姿勢に好感が生まれ、愛おしさは増すばかりだ。
「恋は、昨日の夜は何をしていた?」
「え?えっと、昨日は勉強してました」
「ふっ、敬語だな。友達なんだから、敬語でなくていいだろう?」
「友達なんですか!?」
「何だ、すでに恋人同士の方が良かったか?」
牧が少しだけ意地悪そうな表情を浮かべていて、恋は何も言えなくなった。
その表情ですらドキリとさせられる程に、久しぶりに会った牧の存在は、恋にとって夢見心地に感じる。
「友達……ですよね、友達…。えっと……私は今日の為に勉強してたけど、ま、牧くんは、昨日何してた…の?」
恋は、勇気を振り絞り言葉を紡ぐ。
その言葉に牧は虚を突かれたのか、知らず知らず視線を逸らすと微かに頬を染めた。
一見しただけでは、色黒のその肌に変化は見られないが、牧のまとう雰囲気がそうだと物語っていた。
その照れが恋にも伝わったのか、恋の頬も赤く染まり、二人の間にしばしの沈黙が流れる。
と、牧がコホンと咳払いをしてから恋の方へと向き直った。
「俺も勉強していたな。ただ、机の写真を見て、恋としばらく会っていないなと思ったら、途端に集中出来なくなった」
「えっ?」
「ん?」
「しゃ、写真って何の……」
「藤真から貰っただろう?あいつらの文化祭の時のだ」
以前、恋から牧へと渡った一枚の写真の事だとすぐに理解し、今初めて判明した内容に恋は驚きが隠せなかった。
「か、飾ってるんですか!?あ、いえ、飾ってる…の……?」
「あぁ、良い写真だからな」
牧は何でもなさそうに続けたが、恋にとっては予想外でしかない。
写真のその後など考えた事もなく、何となくそういう物を飾るタイプでもないだろうと思っていた為に、その事実が恋の心を騒ぎ立てる。
恋もあの写真は部屋に飾っていて、同じように時々、その姿に想いを馳せているのだ。
同じ気持ちを家でも共有している事に、羞恥と喜びがじわじわと湧いてくる。
「あの日は楽しかったな。あの写真を見ると、妙に恋に会いたくなる」
屈託なく話す牧に、恋は耳を塞ぎたいような気持ちになり、視線は下を向く。
「恋?」
「な、何でもない!わ、私も飾ってるよ!中々会えないから、それで我慢してる!」
「……悪い」
「えっ、何で謝るの?」
恋は、唐突な言葉に顔を上げた。
恋にとっては当たり障りない事を言ったつもりだったが、牧は少しだけすまなそうな顔をしている。
「もう少し、時間が取れればいいんだけどな」
「だって、牧さんは将来を期待されてるし、勉強だって忙しいだろうし、私に割く時間が少なくなるのは当たりま……」
恋の言葉は続かない。
それは、牧がグッと距離を縮め唐突に唇を塞いだからに他ならなかった。
何かを訴えるような、深い深い口づけがそっと離れ、二人の視線は絡まり解けようもない。
「そういう風には思ってほしくない」
「でも…」
「でもじゃない。俺は恋が好きだし、どうしても優先にできない時がある事は否定しないが、恋を蔑ろに考えた事などない。そう思わせていたのならすまない。言いたい事はちゃんと言ってくれ。言えない状況にしているのなら……俺自身に腹が立つよ」
牧は眉根を下げて自嘲気味に笑い、恋の肩へぽすりと頭を置いた。
珍しい牧の行動に恋はしばし固まってしまうが、すぐ側にある牧の頭へ無意識に手を伸ばす。
その手は小さく左右に動き撫で始めた。
「あの、じゃあ、ワガママ……言っても良いですか?」
「ん?あぁ」
牧は少しだけ頭の向きを変えると、恋を上目遣い気味に見た。
何を言われるのかなど見当はつかないが、恋の事だから小さな我儘だろうと牧は思っていた。
恋は、微かに深呼吸をするとゆっくりと口を開く。
「牧さん」
「ん?」
「私は、牧さんが好きです。前より、もっともっと凄く好きになっています。中々会えないけど、それでも大好きです。会えない分、会えた時は凄く嬉しいし、いっぱい話したいし、いっぱい手も繋ぎたいです。頭も撫でてほしいし、ギュッてされるのもキスされるのも凄く嬉しいし、もっともっとってどんどん思ってしまうんです。会えない時は寂しいけど、我慢できるし、我慢してるくらいが私には丁度良いんです。じゃないと、牧さんでいっぱいになり過ぎちゃいそうで…だから、気にしないでください。その代わりと言っては何なんですけど、ずっとずっと一緒にいてください」
はにかんだ笑みを浮かべながら紡がれた言葉は、矢を射るように牧の心へ届いた。
その言葉達に、牧は少し居心地が悪そうに、また頭の向きを変える。
恋は視界から消えた牧の表情に、じわりじわりと不安が湧いてくる。
「牧さん?」
「いや、流石にちょっと…な……」
「やっぱり、ずっとは無理ですか…?」
恋が声のトーンを落とすと、牧は無言でギュッと恋を抱きしめた。
唐突な感触に恋は言葉が出ずにどうして良いか分からなくなるも、おずおずとその背に腕を絡ませる。
恋から表情が見えないようにしていた牧は安堵しつつも、口元は引き締まる余裕がない。
そんな風に言われるとは予想しておらず、自然と気持ちが口元に出てしまう。
「違う。そこまで面と向かって言われると、流石に照れてしまうな。何だか、プロポーズでもされた気分だ」
「プ!?ち、違います!いや、違わなくもないですけど、違うくてですね、あのっ、そのっ!」
恋はわたわたと慌てた声を出すが、牧は小さく笑うだけで更に腕に力を込めた。
「分かっている。ありがとう」
「は、はい」
恋は結局弁明が浮かばず、牧の腕の中におさまったまましばらく時間は過ぎた。
不意に腕の力が緩み距離ができると、牧は何とも言えない表情をしている恋を不思議そうに見つめる。
「どうかしたか?」
「えっ!?あっ、やっ、あの、今日の牧さんは、何だかいつもと違うなと思って…」
「どう違うんだ?」
「何だか、可愛いなって」
「可愛い?」
言われ慣れない言葉に牧が眉を顰めると、恋は再びアタフタと両手を左右に振った。
口が滑ってしまい、牧を不快にさせたかと一気に不安になる。
「えっ!?あ、いや、ごめんなさい、嘘です!あの、いえ、嘘ではないんですけど、嘘です‼︎」
「クッ…ハハハッ、どっちなんだ?それは」
「ご、ごめんなさい」
顔を赤らめしゅんとした様子の恋の頭を、牧は実に可笑しそうに、それでいて嬉しそうに優しく触れた。
「相変わらずだな、恋は」
「成長してないって事ですよね…」
「いや、前よりもっと可愛く成長していると思うぞ」
なでなでとあやすような手つきに、恋は空耳かと思わず聞き返す。
「えっ?」
「その声も好きだし、笑顔も困った顔も可愛らしい。体は柔らかいし、頭の撫で心地も良い。勿論、見た目だけじゃなくて、性格は相変わらず良いと思うし、変わらない所もあるが、変わった所もあると思っている。前よりも、気持ちをハッキリ伝えてくれるようになった事が、何より嬉しいよ」
降り注ぐ褒め言葉に、恋はみるみる内に顔が紅潮していく。
その表情ですら、牧にとっては甘美なものに映る。
「そういう顔もとても好きだ。離したくなくなる。会う度に好きだとちゃんと伝えたくなってしまうのは、恋が初めてだ」
牧の言葉は、恋の心を揺り動かすには十分で、二人の視線は自然と交わらなくなる。
恋が俯いてしまうと、牧はその頬にそっと触れた。
無理に視線を合わせさせるつもりはないのか、恋の頬にある掌は動く様子もなく、その温もりだけを伝え続けていた。
沈黙が続く中、牧はゆっくりと口を開く。
「愛している…と言ったら重いだろうか?」
「そ、そんな事ないです」
恋は牧の遠慮がちな声音に、ガバリと顔を上げるとすぐさま否定する。
真っ赤にしているその表情に、牧は安心したように笑うと親指を動かし、恋の頬を優しく撫でた。
「そうか。恋、俺は恋を愛している。これから先もずっと一緒にいたいのは俺も一緒だし、いてくれると嬉しいよ」
「っ、はい」
恋が大きく頷くと、牧は喜びを頬に浮かべた。
恋の一挙手一投足が愛おしくてたまらない。
「恋は、顔に出やすいな」
「牧さんが、急にそうなるような事言うからです!」
「そうかもしれないな。だが、本当の事だから仕方ないだろう?」
「やっぱり今日の牧さんは、いつもと違うと思いますっ」
そう吐き出す恋は、どこか不満そうにしていた。
いつもの牧よりも言葉はストレートに、疑いを孕ませる余裕すらないほどにストンと届き、心拍は上昇するばかりだ。
「そうだな。恋に会えて、浮かれているからかもしれないな」
「なっ!?」
恋が余裕のない表情を向けるので、牧は堪えきれず口元に手を当てると肩を小刻みに震わせた。
「ククク…」
「もう!」
恋が羞恥に震えていても、牧にはからかいを含む余裕があった事に、恋は不平だと言いたそうにしている。
牧自身、今の言葉は本心ではあるものの、ついついからかってしまいたい衝動に駆られるのは、恋の素直さ故んだろう。
恋の頭を、ぽすりと大きな掌が包む。
「浮かれているのは本当だ。久しぶりに会うんだ、浮かれないわけがないだろう?」
「牧さんでもですか?」
「当たり前だ。彼女に会うのに、浮かれない奴はいないだろう?」
「もう、それ以上言わないでください。心臓がもちません…」
牧は、先ほどからハッキリと気持ちを言葉にしている。
それは以前から変わらない事ではあるのだが、今日は特段意識的な言葉にされている気が恋にはしていた。
会えない期間が長かった為に溢れてしまうものなのか、牧自身にもハッキリとは分からなかったが、言葉を隠す必要は感じない。
「ハハハ、そうだな。言葉はここまでにしておくよ」
「えっ?」
「代わりにこっちで伝えよう」
牧は、きょとんとしている恋の唇をそっと奪う。
初めは啄むような口付けも次第に深くなり、静かな室内には二人から発せられる音しかしない。
じわじわと頭の中を互いの事で覆い尽くそうとしている瞬間は、極上のひと時だった。
「そろそろ、時間だな」
そっと離れた温もりに寂しさを感じつつも二人が時計を確認すると、牧には部活の時間が迫っていた。
部活までの僅かな時間を恋と会う事に換えた牧は、名残惜しそうにしつつも立ち上がった。
恋も立ち上がり荷物を手にする。
と、視界を移せば、目の前には牧の手がある。
「ん?どうした?」
差し出された手に、恋ははにかみ指を絡めた。
「自然に繋げるって良いですよね」
「ん?」
「付き合う前は、手を繋ぐ時って牧さんに聞かれてからか、強引なのが多かったので」
「嫌だったか?」
「いえ、嬉しかったけど、その理由がわからなかったので、戸惑ってばかりでした。でも、今はその手に迷わず手を伸ばして良いんだって思うと、すごく嬉しくて」
「恋から繋いでくれても良いんだぞ?」
「えっ!?そ、それは……もうちょっと待ってください…」
恋は、頬を染めながら代わりとばかりにギュッと牧の手を握る。
牧は、前向きなその返答に嬉しさが込み上げた。
「次の日曜日は、どこかへ出かけないか?」
「えっ!?お休みなんですか?」
「あぁ。ゆっくり恋と過ごしたい」
「大丈夫ですか?疲れませんか?」
「疲れないさ。むしろ、良い充電になると思うが?」
「そうですか?」
「あぁ。それともし、帰したくなくなったら……ごめんな?」
「えっ!?」
牧は、どこか艶やかさをまとった笑みを浮かべるだけで、真意は恋に正しくは伝わらない。
ただ、それでもいいと思えるほどに二人の距離は穏やかなものだ。
駅までの道のりは短くも、満たされた心には十分な距離で、互いに想い合っているのが指先から伝わるように、二人の口元には穏やかな笑みがあるのだった。
長く集中していた事で、シャットアウトされていた外の音が耳に届き、ふと窓の外を見る。
外にいる運動部からの声は、青空のように清々しくハツラツとしていた。
恋の様子に気付いた教師は、時計を見てから恋の席の前に立つ。
「時間だな。もう帰っていいぞ」
「はい、ありがとうございました」
恋は、テストの答案用紙を手渡すと軽くお辞儀をする。
恋は放課後の今、先日行われた試験の追試を受けていた。
試験最終日、恋は忌引きにより学校を欠席し、救済措置として追試を受ける事になったのだ。
教師が教室を出て行き、恋が鞄の中へ勉強道具をしまっていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
室内には恋しかおらず、開かれたままのドアをわざわざ鳴らすのは珍しい行動と言える。
その音を不審に思い顔を上げると、そこにいた意外な人物に恋は目を丸くする。
「牧さん!?」
ガタンと勢いよく恋が立ち上がると、私服姿の牧が少し遠慮がちながらも、優しい笑みを浮かべて中へと入って来た。
「追試らしいな。お疲れ」
「あ、はい」
恋は、疑問を抱きつつもその姿に喜びを隠せずにいた。
そんな態度を見ていると、牧も自然と穏やかな気持ちになり、恋の頭をついついひと撫でしてしまう。
恋は、少し照れたように笑みを浮かべると疑問を投げかけた。
「今日もバスケ部ですか?」
卒業してしばらく経つ牧は、稀に男子バスケットボール部に顔を出していた。
自身の大学での生活も忙しいながらも、時間を見つけては訪れる事があったのだ。
それは、恋に会いたいという理由も含まれているのだが、牧はそれを全面には出さない為に、恋はOBとして心配で来ているものだと思っている。
そもそも学校へ来る日は、大抵前もって牧から恋に知らせていたのだが、今回はその限りではなかったからか、当然なその疑問に牧は微かに笑った。
「たまには、恋を驚かせようと思ったんだ」
「え?」
「まさか、今日が追試だとは思わなかったが。さっき、清田から聞いたよ」
恋もまた、今日追試を受ける事を牧には伝えていなかった。
日々を忙しく過ごしている牧に、わざわざ知らせる事でもないかと思ったのだ。
「ごめんなさい、わざわざ伝える事でもないかと思って…」
「いや、俺も忙しくて連絡が中々取れなかったからな。恋の嬉しそうな顔が見られて良かったよ」
そう言われて、そんなに表情に出ていたのかと恋は少し気恥ずかしくなり、両手を頬に当て伏し目がちになる。
牧はそんな恋を愛おしそうに見つめると、恋の隣の席へと不意に座った。
「懐かしいな」
恋は牧が座った事で、無意識的に同じように着席して隣へと視線を送る。
「あ、大学はこういう感じの机とかじゃないんですよね?久しぶりの高校生気分はどうですか?」
「そうだな。まぁ、数ヶ月しか経ってない事なんだが、ただ……」
「ただ?」
「恋と同級生なら、こんな風に隣同士に座る事もあったのかも知れないと思うと、少し変な気分だ」
ふっと笑う牧に、恋はきょとんとしている。
「変…ですか?」
「あぁ。隣を見れば、恋がいるわけだろう?それだと、気になって仕方がなさそうだ」
牧が、どこか嬉しそうに話している事は声色から伝わる。
恋は、そんな言葉が聞けるなどとは思っておらず微かに頬を染めた。
それは、恋が諦めた夢物語だ。
学校では会えない日々が日常になりつつある中で、どうしても牧と同じ年だったらと考えてしまう事がある。
それは、もっとありふれた時間を共有出来ただろうという願望。
しかし、それはどうしようもないもので不可能な事だ。
それでも、こうして隣に座る空間を体験し、その思いが少しだけ実った気になって気分が浮ついている事を、我ながら単純だと恋は思わずにいられない。
ただ、それすらも牧を好きだという証拠のようで、心はほのかに暖かくなる。
「牧さんが隣の席だったら、当てられた時とか頼りになりそうですね。あ、教科書忘れたら机くっつけられますね!」
そう言い、恋は自身の机をガタガタと動かして隣の席へ距離を縮める。
机同士がくっつくと、自ずと二人の距離が近くなった事で自然に視線は交わり、恋は慌てた様子で視線を逸らした。
牧は恋の耳が赤くなっている事に気付き、相変わらずだなと思わず口元が緩んだ。
「俺が教えるとは限らないだろう?」
「えっ!?」
恋があまりにも驚いた表情を向けるので、牧はそこまで期待してしまうのかと少し呆れながらも、親しみのこもった笑いが堪えきれなくなった。
「まぁ、俺も恋には甘い自覚はあるからな。きっと、教えてしまうだろう」
牧は、ククッと声を出すと恋を見据えた。
隣の席から来る視線に、どうしても落ち着かず恋は思わず俯く。
牧が私服姿でいる事が、学校生活とはほど遠くも感じつつ、記憶に残る牧の制服姿が勝手にリンクする。
「どうした?」
「い、いえ!」
視線を逸らしたままの恋を、牧はふっと目元を緩めて見つめていた。
恋の言動が可愛く思えて、駄目だとは思いつつも甘やかさないと言う選択肢が浮かばない。
「恋」
「はい?」
「今だけ、敬語をなくしてみないか?」
「え?」
「敬語をとるのはその内で良いと言ったが、少しクラスメイトごっこをしたくなった」
「ごっこ……ですか?」
牧から意外な言葉が出てきて、恋は思わず視線を上げるが、その表情は面食らったのかポカンとしている。
それは、付き合い始めてしばらく経った日、二人の会話に敬語は必要ないと思った牧は、恋に提案してみたのだが、敷居が高いとの事で結局は先延ばしとなった話だ。
それを覆すような提案だったが、牧は視線が交わると笑みを深くした。
「あぁ、同じクラスで過ごしているような、そんな体験をしてみるのも楽しいだろう?」
「でも、具体的にはどうすればいいですか…?」
唐突な要望に、恋は言動が思いつかない。
牧にしてみても、言ってみたはいいが、具体的にこうして欲しいといったものはなかった。
「そうだな、普通に休み時間とかの感じでいいんじゃないか?隣の席の奴と話したりする事もあるだろう?」
「あ、はい…。えっと……」
何故か、恋は姿勢を正しくすると、緊張しているのか何ともぎこちない顔をしていて、牧はクスリと笑った。
牧の言葉に振り回されている恋を見る事は、牧にとって楽しいひと時でもある。
精一杯答えようとする恋の真面目な姿勢に好感が生まれ、愛おしさは増すばかりだ。
「恋は、昨日の夜は何をしていた?」
「え?えっと、昨日は勉強してました」
「ふっ、敬語だな。友達なんだから、敬語でなくていいだろう?」
「友達なんですか!?」
「何だ、すでに恋人同士の方が良かったか?」
牧が少しだけ意地悪そうな表情を浮かべていて、恋は何も言えなくなった。
その表情ですらドキリとさせられる程に、久しぶりに会った牧の存在は、恋にとって夢見心地に感じる。
「友達……ですよね、友達…。えっと……私は今日の為に勉強してたけど、ま、牧くんは、昨日何してた…の?」
恋は、勇気を振り絞り言葉を紡ぐ。
その言葉に牧は虚を突かれたのか、知らず知らず視線を逸らすと微かに頬を染めた。
一見しただけでは、色黒のその肌に変化は見られないが、牧のまとう雰囲気がそうだと物語っていた。
その照れが恋にも伝わったのか、恋の頬も赤く染まり、二人の間にしばしの沈黙が流れる。
と、牧がコホンと咳払いをしてから恋の方へと向き直った。
「俺も勉強していたな。ただ、机の写真を見て、恋としばらく会っていないなと思ったら、途端に集中出来なくなった」
「えっ?」
「ん?」
「しゃ、写真って何の……」
「藤真から貰っただろう?あいつらの文化祭の時のだ」
以前、恋から牧へと渡った一枚の写真の事だとすぐに理解し、今初めて判明した内容に恋は驚きが隠せなかった。
「か、飾ってるんですか!?あ、いえ、飾ってる…の……?」
「あぁ、良い写真だからな」
牧は何でもなさそうに続けたが、恋にとっては予想外でしかない。
写真のその後など考えた事もなく、何となくそういう物を飾るタイプでもないだろうと思っていた為に、その事実が恋の心を騒ぎ立てる。
恋もあの写真は部屋に飾っていて、同じように時々、その姿に想いを馳せているのだ。
同じ気持ちを家でも共有している事に、羞恥と喜びがじわじわと湧いてくる。
「あの日は楽しかったな。あの写真を見ると、妙に恋に会いたくなる」
屈託なく話す牧に、恋は耳を塞ぎたいような気持ちになり、視線は下を向く。
「恋?」
「な、何でもない!わ、私も飾ってるよ!中々会えないから、それで我慢してる!」
「……悪い」
「えっ、何で謝るの?」
恋は、唐突な言葉に顔を上げた。
恋にとっては当たり障りない事を言ったつもりだったが、牧は少しだけすまなそうな顔をしている。
「もう少し、時間が取れればいいんだけどな」
「だって、牧さんは将来を期待されてるし、勉強だって忙しいだろうし、私に割く時間が少なくなるのは当たりま……」
恋の言葉は続かない。
それは、牧がグッと距離を縮め唐突に唇を塞いだからに他ならなかった。
何かを訴えるような、深い深い口づけがそっと離れ、二人の視線は絡まり解けようもない。
「そういう風には思ってほしくない」
「でも…」
「でもじゃない。俺は恋が好きだし、どうしても優先にできない時がある事は否定しないが、恋を蔑ろに考えた事などない。そう思わせていたのならすまない。言いたい事はちゃんと言ってくれ。言えない状況にしているのなら……俺自身に腹が立つよ」
牧は眉根を下げて自嘲気味に笑い、恋の肩へぽすりと頭を置いた。
珍しい牧の行動に恋はしばし固まってしまうが、すぐ側にある牧の頭へ無意識に手を伸ばす。
その手は小さく左右に動き撫で始めた。
「あの、じゃあ、ワガママ……言っても良いですか?」
「ん?あぁ」
牧は少しだけ頭の向きを変えると、恋を上目遣い気味に見た。
何を言われるのかなど見当はつかないが、恋の事だから小さな我儘だろうと牧は思っていた。
恋は、微かに深呼吸をするとゆっくりと口を開く。
「牧さん」
「ん?」
「私は、牧さんが好きです。前より、もっともっと凄く好きになっています。中々会えないけど、それでも大好きです。会えない分、会えた時は凄く嬉しいし、いっぱい話したいし、いっぱい手も繋ぎたいです。頭も撫でてほしいし、ギュッてされるのもキスされるのも凄く嬉しいし、もっともっとってどんどん思ってしまうんです。会えない時は寂しいけど、我慢できるし、我慢してるくらいが私には丁度良いんです。じゃないと、牧さんでいっぱいになり過ぎちゃいそうで…だから、気にしないでください。その代わりと言っては何なんですけど、ずっとずっと一緒にいてください」
はにかんだ笑みを浮かべながら紡がれた言葉は、矢を射るように牧の心へ届いた。
その言葉達に、牧は少し居心地が悪そうに、また頭の向きを変える。
恋は視界から消えた牧の表情に、じわりじわりと不安が湧いてくる。
「牧さん?」
「いや、流石にちょっと…な……」
「やっぱり、ずっとは無理ですか…?」
恋が声のトーンを落とすと、牧は無言でギュッと恋を抱きしめた。
唐突な感触に恋は言葉が出ずにどうして良いか分からなくなるも、おずおずとその背に腕を絡ませる。
恋から表情が見えないようにしていた牧は安堵しつつも、口元は引き締まる余裕がない。
そんな風に言われるとは予想しておらず、自然と気持ちが口元に出てしまう。
「違う。そこまで面と向かって言われると、流石に照れてしまうな。何だか、プロポーズでもされた気分だ」
「プ!?ち、違います!いや、違わなくもないですけど、違うくてですね、あのっ、そのっ!」
恋はわたわたと慌てた声を出すが、牧は小さく笑うだけで更に腕に力を込めた。
「分かっている。ありがとう」
「は、はい」
恋は結局弁明が浮かばず、牧の腕の中におさまったまましばらく時間は過ぎた。
不意に腕の力が緩み距離ができると、牧は何とも言えない表情をしている恋を不思議そうに見つめる。
「どうかしたか?」
「えっ!?あっ、やっ、あの、今日の牧さんは、何だかいつもと違うなと思って…」
「どう違うんだ?」
「何だか、可愛いなって」
「可愛い?」
言われ慣れない言葉に牧が眉を顰めると、恋は再びアタフタと両手を左右に振った。
口が滑ってしまい、牧を不快にさせたかと一気に不安になる。
「えっ!?あ、いや、ごめんなさい、嘘です!あの、いえ、嘘ではないんですけど、嘘です‼︎」
「クッ…ハハハッ、どっちなんだ?それは」
「ご、ごめんなさい」
顔を赤らめしゅんとした様子の恋の頭を、牧は実に可笑しそうに、それでいて嬉しそうに優しく触れた。
「相変わらずだな、恋は」
「成長してないって事ですよね…」
「いや、前よりもっと可愛く成長していると思うぞ」
なでなでとあやすような手つきに、恋は空耳かと思わず聞き返す。
「えっ?」
「その声も好きだし、笑顔も困った顔も可愛らしい。体は柔らかいし、頭の撫で心地も良い。勿論、見た目だけじゃなくて、性格は相変わらず良いと思うし、変わらない所もあるが、変わった所もあると思っている。前よりも、気持ちをハッキリ伝えてくれるようになった事が、何より嬉しいよ」
降り注ぐ褒め言葉に、恋はみるみる内に顔が紅潮していく。
その表情ですら、牧にとっては甘美なものに映る。
「そういう顔もとても好きだ。離したくなくなる。会う度に好きだとちゃんと伝えたくなってしまうのは、恋が初めてだ」
牧の言葉は、恋の心を揺り動かすには十分で、二人の視線は自然と交わらなくなる。
恋が俯いてしまうと、牧はその頬にそっと触れた。
無理に視線を合わせさせるつもりはないのか、恋の頬にある掌は動く様子もなく、その温もりだけを伝え続けていた。
沈黙が続く中、牧はゆっくりと口を開く。
「愛している…と言ったら重いだろうか?」
「そ、そんな事ないです」
恋は牧の遠慮がちな声音に、ガバリと顔を上げるとすぐさま否定する。
真っ赤にしているその表情に、牧は安心したように笑うと親指を動かし、恋の頬を優しく撫でた。
「そうか。恋、俺は恋を愛している。これから先もずっと一緒にいたいのは俺も一緒だし、いてくれると嬉しいよ」
「っ、はい」
恋が大きく頷くと、牧は喜びを頬に浮かべた。
恋の一挙手一投足が愛おしくてたまらない。
「恋は、顔に出やすいな」
「牧さんが、急にそうなるような事言うからです!」
「そうかもしれないな。だが、本当の事だから仕方ないだろう?」
「やっぱり今日の牧さんは、いつもと違うと思いますっ」
そう吐き出す恋は、どこか不満そうにしていた。
いつもの牧よりも言葉はストレートに、疑いを孕ませる余裕すらないほどにストンと届き、心拍は上昇するばかりだ。
「そうだな。恋に会えて、浮かれているからかもしれないな」
「なっ!?」
恋が余裕のない表情を向けるので、牧は堪えきれず口元に手を当てると肩を小刻みに震わせた。
「ククク…」
「もう!」
恋が羞恥に震えていても、牧にはからかいを含む余裕があった事に、恋は不平だと言いたそうにしている。
牧自身、今の言葉は本心ではあるものの、ついついからかってしまいたい衝動に駆られるのは、恋の素直さ故んだろう。
恋の頭を、ぽすりと大きな掌が包む。
「浮かれているのは本当だ。久しぶりに会うんだ、浮かれないわけがないだろう?」
「牧さんでもですか?」
「当たり前だ。彼女に会うのに、浮かれない奴はいないだろう?」
「もう、それ以上言わないでください。心臓がもちません…」
牧は、先ほどからハッキリと気持ちを言葉にしている。
それは以前から変わらない事ではあるのだが、今日は特段意識的な言葉にされている気が恋にはしていた。
会えない期間が長かった為に溢れてしまうものなのか、牧自身にもハッキリとは分からなかったが、言葉を隠す必要は感じない。
「ハハハ、そうだな。言葉はここまでにしておくよ」
「えっ?」
「代わりにこっちで伝えよう」
牧は、きょとんとしている恋の唇をそっと奪う。
初めは啄むような口付けも次第に深くなり、静かな室内には二人から発せられる音しかしない。
じわじわと頭の中を互いの事で覆い尽くそうとしている瞬間は、極上のひと時だった。
「そろそろ、時間だな」
そっと離れた温もりに寂しさを感じつつも二人が時計を確認すると、牧には部活の時間が迫っていた。
部活までの僅かな時間を恋と会う事に換えた牧は、名残惜しそうにしつつも立ち上がった。
恋も立ち上がり荷物を手にする。
と、視界を移せば、目の前には牧の手がある。
「ん?どうした?」
差し出された手に、恋ははにかみ指を絡めた。
「自然に繋げるって良いですよね」
「ん?」
「付き合う前は、手を繋ぐ時って牧さんに聞かれてからか、強引なのが多かったので」
「嫌だったか?」
「いえ、嬉しかったけど、その理由がわからなかったので、戸惑ってばかりでした。でも、今はその手に迷わず手を伸ばして良いんだって思うと、すごく嬉しくて」
「恋から繋いでくれても良いんだぞ?」
「えっ!?そ、それは……もうちょっと待ってください…」
恋は、頬を染めながら代わりとばかりにギュッと牧の手を握る。
牧は、前向きなその返答に嬉しさが込み上げた。
「次の日曜日は、どこかへ出かけないか?」
「えっ!?お休みなんですか?」
「あぁ。ゆっくり恋と過ごしたい」
「大丈夫ですか?疲れませんか?」
「疲れないさ。むしろ、良い充電になると思うが?」
「そうですか?」
「あぁ。それともし、帰したくなくなったら……ごめんな?」
「えっ!?」
牧は、どこか艶やかさをまとった笑みを浮かべるだけで、真意は恋に正しくは伝わらない。
ただ、それでもいいと思えるほどに二人の距離は穏やかなものだ。
駅までの道のりは短くも、満たされた心には十分な距離で、互いに想い合っているのが指先から伝わるように、二人の口元には穏やかな笑みがあるのだった。
fin