月
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恋と会話をした日からひと月ほど経ったある日、部活時刻を終えたバスケ部更衣室で、部員達は時々怪訝そうな目をある方向へ向けていた。
それは三井に向けられた視線で、見かねた宮城が声をかけた。
「ニヤニヤして気持ち悪いぜ」
「あー?黙れ」
三井は無自覚だったのか、フンっと鼻を鳴らすと、バタンと荒々しくロッカーのドアを閉め部室を後にした。
辺りは暗くなりつつあるが、三井の足取りは妙に軽い。
その足取りはいつのまにやら早足になり、目的地に着く頃には気が早るのを抑えきれずに駆け足になっていた。
「…いねぇ」
ハァハァと肩で息をする三井が辿り着いた場所は、ここ数ヶ月の間よく来て見慣れた場所だった。
ただ、そこには誰もいなかった。
「はー、そりゃそうだよな。んな都合よくいるかよ」
三井は自嘲気味に呟くと額に滲む汗を袖で拭った。
目的地、もとい目的の人物の姿を探してしまう三井を、空に浮かぶ満月が淡く光りながら見下ろしている。
三井は息を整え夜空を見上げると、その月に見惚れた。
光り輝く満月は、三井の中に1人の笑顔を思い起こさせ、どこかその2つの優しさが似ていると思った。
「あ、三井さんではないですか?」
「あ?」
三井が唐突な声にパッと視線を移すと、そこには恋が見慣れた笑みを向けて立っていた。
「こんばんは」
「あ、あぁ。コンバンハ」
三井がぎこちなく挨拶をすると、恋はゆっくりと歩き出し、三井の前に立ってから頭を下げた。
その仕草はどこまでも綺麗で、三井はそれにまた見惚れた。
「お元気でしたか?」
「あぁ。お前は?」
「はい。変わりありませんよ」
恋が笑顔を向けると、三井は少し視線を外した。
不意に恋が小さく笑ったので、三井は恋に視線を戻す。
「何だよ?」
「いえ、満月の夜は毎回お会いしているので、不思議だなと」
そう、偶然とは思えない程に会っているとは三井も実感している。
ただ、今日は三井自ら探したので自然と会ったとも言い難いのだが、それを恋に教えるのは躊躇してしまい、三井は素っ気無く答えた。
「そうだな」
「あ、今日は誰にも衝突していないんですよ!」
「…はっ、そりゃすげぇ」
「はい」
それは当たり前の事なのだが、恋があまりに誇らしげに言うものだからか、三井は苦笑してしまった。
恋は変わらず笑みを浮かべている。
三井は笑みの色を変えると言葉をかけた。
「前の所まで、また歩くのか?」
「はい。あ、もしお時間ありましたら、またご一緒して下さいますか?」
「あ?」
「また、月を一緒に見ませんか?」
「あぁ」
その言葉を皮切りに2人は並んで歩き出す。
素っ気ない返事をしていた三井だったが、内心胸はざわついていた。
どこか落ち着かない三井は、話題を探すが何も思いつかず恋にチラリと視線を落とす。
恋はニコニコとしていて、時折夜空に見惚れながら歩いていた。
三井は、その姿にやはりどこか目を奪われてしまう。
「そう言えば、三井さんは何の部活をされているんですか?」
「ん?…あぁ、バスケだよ」
「そうなのですか!ふふ、きっとカッコいいんでしょうね」
「…じゃあ、見に来るか?」
三井はついて出た言葉に、しまったと思った。
そんな事を言うつもりなどなかったのだが、恋の何故か嬉しそうな表情に、ついそんな言葉が出てしまったのだ。
一瞬、驚いた顔をした恋だったが、どこか興奮したように前のめりになった。
「よろしいんですか?」
「…あぁ、別にいいぜ」
「では、またご都合がつく日を教えて下さいね」
ふわりと笑みを浮かべる恋に、三井は戸惑いを勘付かれないように小さく頷きすぐに視線を逸らした。
今更、断る術をなくしてしまった約束。
その約束は、2人にとってすぐに特別な物として昇華されていた。
ある日の試合後、三井が皆と帰り道を歩いていると、前方から見覚えのある姿が近づいてきた。
その人物は恋で、三井の姿を見るや笑みを浮かべた。
「こんにちは」
「ぶっ」
「え?誰だよ、このお嬢様オーラ漂う子は!?」
「みっちーの知り合いか!?」
「はい。三井さんと仲良くさせて頂いている如月と申します」
「はぁぁあ!?どこで知り合うんだよ、こんなお嬢様と!」
「ありえーん!」
三井の事など置いてけぼりで、恋と部員達は話を進めてしまう。
桜木軍団も一緒にいたせいか、矢継ぎ早で振られる話題に恋は笑みを浮かべたまま答えている。
三井は、恋の腕をぐっと掴んだ。
「ちょっと来い!」
三井は恋を引き連れ、少し離れた場所へと移動した。
流石に皆ついてくる事などしないが、見られている事に気付いて三井は隠すように恋の前に立った。
恋は、少し眉を下げて三井を見返していた。
「もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑っつーか…」
「どうかしましたか?」
「いや、いい。つーか、来てたんだな」
「はい。約束しましたから」
「あー、そうだな」
そう、三井は先月の逢瀬で、試合の話を恋にしていた。
社交辞令もあるのだろうと思っていた三井だったが、まさか本当来るとも思っておらず、現れた恋の姿に複雑な感情が生まれた。
恋が来てくれた事は素直に嬉しいのだ。
だが、それを他の部員達に見られたのがどうしようもなく、三井には気恥ずかしかった。
気の無い返事をした三井を見て、恋は変わらず笑みを浮かべ言葉を発した。
「とってもカッコ良かったです!」
「あ!?あぁ…サンキュー」
唐突な褒め言葉に、三井は居心地が悪くなる。
けれど、恋は気にせず言葉を続けた。
「ふふ、あんなに何度も入るものなのですね、スリーポイントって」
「あぁ」
「あれだけ入ると、気持ち良さそうですね!」
「ふっ、何だよ、すげぇ興奮してんじゃねぇか」
「はい!試合を間近で見たの始めてだったんです。凄く楽しかったです!」
「そうか」
恋が興奮気味に笑顔で紡ぐ言葉に、三井も自然と笑みが溢れていた。
自身の好きな物を好意的に見てくれた事に、三井は照れ臭さと同時に嬉しさがこみ上げていた。
「それに、皆さん凄く高く飛ばれるんですね!あの赤い髪の方なんて何度も飛ばれて凄かったです!」
「あぁ…」
「それに個性的な髪の方は、周りの方より小柄でしたのにそれに負けていませんし、黒髪の方はとても点を入れられていました。皆さん凄いのですね!」
「…あぁ」
「でも、1番三井さんがカッコ良かったです!見惚れてしまいました」
「そ、そうか」
「また、見に来ても良いですか?」
「あ、あぁ」
恋の勢いに圧倒された三井は二つ返事で答えた。
恋は嬉しそうに笑うと、三井をジッと見据えた。
「あの…月、見ませんか?今日は満月なんですよ」
「けどお前、門限とかねぇのか?つーか、習い事は?」
「習い事は、先生の都合が悪く今日はありません。門限は勿論ありますが、今日は特別に許可を頂いているので」
「何かあるのか?」
「何かと言いますか…今日は、私の誕生日なんです」
言いづらそうに恋が言葉を発すると、三井は驚いて素っ頓狂な声が出た。
「はぁっ!?」
「父も母も、誕生日だけは色々と甘く見てくださるんです。今日は友人と遊ぶので、遅くなると伝えてますから大丈夫です!」
「そ、そうか」
「はい。ですから、一緒にどこかへ出かけませんか?」
「あぁ」
恋の誘いに圧倒されながら、三井は返事をした。
ただ、出かける場所と行ってもすぐには浮かばない。
今は試合後だからか、お腹が空いていて頭が働かないというのもあるのだろう。
「お前って、ファーストフード店とか行ったことあんのか?」
「一度友人と行ったことがあります。初めての事ばかりで楽しかったです」
「そ、そうか」
三井にとっては小腹を満たすのに丁度いい場所ではあるのだが、恋の反応を見るに誘って良いものか迷ってしまった。
「行くのですか?」
「いや、味はどうだった?」
「味ですか?えっと…」
「そりゃあ、舌の肥えた奴には合わねぇよな」
苦笑して言う三井に、恋は慌てて声を出す。
「え、でも、あのっ」
「いいって。無理すんな。ってぇなると、どっかあっかな」
「おーい、みっちー」
「あぁ!?」
話に夢中で気づかなかったが、どうやら部員達は待っていたようで、三井達を見ていた。
そう言えば学校で少しミーティングをすると言っていたと思い出す。
「学校戻んぞー」
「あぁ、そうか…後で待ち合わせてもいいか?」
「はい、構いませんよ。ただ…」
「良かったら、彼女も一緒にー」
恋の言葉を遮って聞こえてきたのは、ニヤニヤと笑う面々からの言葉だった。
「はぁ!?宮城てめぇ!」
「よろしいんですか?」
「は?」
「ご一緒しても!」
「なっ、けどよ…」
「駄目でしょうか?」
「あー…俺のそばいろよ」
「はい」
恋の嬉しそうな反応に三井はそれしか言えなくなってしまい、2人は元いた場所へ向かった。
それから約1時間後、明るい内に2人で並んで歩く帰り道は、どこか新鮮だった。
だが、三井は眉間に皺を寄せ、恋は笑いを抑えきれずにいるのか、ずっと笑みを浮かべていた。
「皆さん面白い方ですね」
「どこがだ。ここぞとばかりにあいつら…」
「ふふ、ありがとうございました。守って下さって」
「あ?あー、いや…別に」
学校までの帰り道、2人を茶化す面々と三井は1人戦っていた。
恋はニコニコと全てに返答するので、三井は気が気ではなくなり、ほとほと疲れてしまった。
自身のプライベートが晒されているようで、どこか落ち着かず気恥ずかしかったのだ。
その後校門前で一旦別れ、急いで戻れば恋は変わらない笑みを浮かべていて、三井は面映ゆい気分になるも、それを悟られたくなくて表情に出さないようにしていた。
「どこか行きたい所などありますか?」
「お前は?」
「そうですね、三井さんが普段行ってらっしゃる所がいいです」
「は?あーそうだ…な…」
三井の言葉が終わるよりも先に、ポトンと頭に何か降ってきたと空を見上げると、一斉に土砂降りの雨が辺りを覆った。
空はいつのまにか灰色の雲が広がり、土砂降りの雨模様に変わっている。
2人は豆鉄砲を食らったように反応が遅れた。
「わっ」
「雨!?とりあえず、あそこまで走れ」
「は、はい」
目先に見えた軒下まで走り、雨が遮られた場所で2人はハァハァと肩で息をした。
三井は体にへばりつく服に、気持ち悪さが先立ちたまらず空を見上げる。
分厚い雲からは、雨がまだ勢い良く降っていた。
「あー冷てぇ…大丈夫か?」
「はい」
「これ使え。これは綺麗なやつだから」
「ありがとうございます」
「結構降ってんな」
通り雨かとも思うが、濡れた服で出歩く事は出来ないだろう。
恋もそれは分かっているのか、借りたタオルを丁寧に扱うと、残念そうに笑みを浮かべた。
「そうですね。仕方ありません、今日は帰りましょうか。迎えを呼びますから、お家までお送りします」
「…いや、俺ん家こっから近ぇし」
「そうですか?では、せめて傘だけでも。迎えの車に乗せてあると思いますから」
「…家、来るか?」
「え?」
「いや、多分お袋とかいると思うから、服乾かせるだろうし」
恋の、言葉とは裏腹の残念そうな顔つきに三井はそんな提案をした。
だが、言ってすぐに後悔し訂正する。
「いや、でも、まずいよな、お嬢サマが見ず知らずの男の家行くとか」
「よろしいのですか?」
「あ?」
「実は先ほどから寒くて…。きっと迎えも少し時間がかかると思いますから、お近くであるのならば服を…わぷっ!?」
恋が微かに震えているのが分かり、三井は焦って鞄からジャージを取り出すと恋の頭から被せた。
「わりぃ気付かなくて!ちょっと汗くせぇかもしんねぇけど、ないよりはマシだろ」
「ありがとうございます」
恋がすっぽり包むジャージに感想を持つ間も無く、三井は恋の手を取った。
「走れるか?」
「はい」
2人は、またも濡れるのを覚悟し走り出す。
僅かに勢いがなくなった中、2人は道をビチャビチャと鳴らしながら走った。
それからしばらくして着いた家の中に入ると、三井はドサリと荷物を置いた。
「ただいま」
「あら、お帰り。アンタ雨に濡れなか…っ!?」
物音に反応した三井の母親が玄関まで来ると、その状況に目を丸くし声をなくした。
三井と見知らぬ少女が、びしょ濡れで玄関に立っているのだ。
恋は、母親を見るなり深々と頭を下げた。
「は、初めまして。如月 恋と申します。突然お邪魔して申し訳ありません」
「雨に降られたから、風呂沸かして欲しい。寒いらしいんだよ」
「えぇ!?ちょ、も、わ、わかったから、すぐに上がってちょうだい。タオルも持って来るから。それから寿、後で色々と話あるから!」
「へぇへぇ」
ドタバタと忙しなく奥へ消えて行った母親に、三井は嘆息した。
恋は、呆気に取られながらも不安そうな顔になる。
「えっと、私、変ではなかったでしょうか?」
「は?」
「いえ、お母様が怒ってらっしゃったようなので、失礼があったのでは…」
「あぁ、ねぇねぇ。気にするな。それより、風呂こっち」
「お邪魔します」
恋はおずおずと部屋の中へ上がり込み、風呂場へと向かった。
数十分後、恋が案内された部屋をノックしてから入ると、着替えた三井がベッドに寝転がり雑誌を見ていた。
恋の姿に一瞬目を丸くした三井だったが、すぐに起き上がると雑誌を読む手を止めた。
「温まったか?」
「はい、ありがとうございました。三井さんも、どうぞお入りになって下さい」
「あぁ、俺はいい」
「駄目です!風邪を引かれては大変です!」
恋が必死の形相で三井に迫ると、三井は苦笑して立ち上がった。
「わーったよ。部屋の中、漁んじゃねぇぞ」
「そんな事しません!」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
三井は小さく笑うと部屋を出、それから十数分後、部屋へと戻って来た。
三井は姿勢良く座る恋の前へ、手にしていたコップを差し出した。
「服、もうすぐ乾くらしい。あと、茶」
「あ、ありがとうございます」
「それと、お袋が良かったら飯でもって言ってっけど、どうする?」
「よろしいんですか?」
「お前が良いなら」
「是非!」
恋が満面の笑みで答えるので、三井も一瞬間が出来てから笑みを返した。
それから2時間ほどして、恋は服を着替え三井の部屋で帰り支度をしていた。
借りた服を丁寧に折りたたみ、三井へ差し出した。
「今日はありがとうございました」
「いや」
「月は見れず残念でしたが、楽しい時間でした」
「あー、月…まだ曇ってんのかな」
三井は、言いながら窓を開けて空を見上げた。
「あ、見えるぞ」
「えっ!?」
三井が振り返り恋を見ると、恋はパッと明るい顔をして三井の隣に並んだ。
「ほら。ちょうど、雲の合間」
「はい!」
恋はキラキラとした目を三井に向け、すぐにまた夜空を見上げた。
隣に立つ恋へ向ける三井の瞳はどこか優しい。
「本当に好きだな、月」
「はい。何故かわかりませんが、とても懐かしいような切ないような、妙な気持ちになってしまって、気づいたら見惚れているのです」
「そうか」
「…?あの?」
恋は三井に不思議そうな顔を向けた。
恋の腕が、三井の手によって掴まれていたからだ。
三井は、妙に深刻そうな顔をして言葉を紡いだ。
「いや、なんかどっか行きそうに見えた」
「ふふ。私は、月には帰りませんよ」
「っ、そうだな」
不意に出た恋の言葉に、三井はカッと赤くなる。
以前、かぐや姫の話を木暮とした事を思い出し、そんな話をした覚えもない恋が同じ言葉を発した事に、言い表し難い感情が生まれてしまった。
恋はそんな三井を目を細め見つめていた。
「はい。よろしければ、これからも三井さんのおそばにいたいですし」
「…は?」
「私、三井さんのこと、好きですから」
「なっ、お前…」
恋から出た言葉に、三井は瞬時に顔を赤くさせたが、恋の反応は至って普通だった。
「どうしました?」
「いや。俺も…好きだぜ」
「はい?何かおっしゃいましたか?」
「…何でもねぇ」
勇気を振り絞った言葉は小さく、夜空に見惚れていた恋には聞こえなかった。
三井は、ぶっきらぼうにそっぽを向くしかない。
「そうですか?でも、本当に綺麗です。今日は三井さんの部屋で一緒に見るから、余計にそう見えるんでしょうか」
優しく笑いながら恋が言うやいなや、三井は恋を引き寄せ腕の中に閉じ込めていた。
恋は触れる温もりに目を丸くした。
「え?」
「うわぁ、悪い!」
三井は瞬間、腕を上げて後退りした。
恋があまりに可愛く思えてしまい、無意識の内に腕の中へ引き寄せてしまったのだ。
顔を赤くさせ頭を抱える三井に、恋は一歩、また一歩と近寄った。
「ふふ、いえ、嬉しいです。もう1度、よろしいですか?」
「は?何言っ…」
「失礼しますね」
「っ!?」
恋は、間近にいた三井の脇腹から腕を後ろに回すと、そのまま体をピタリと寄せた。
暫くしてから三井は、手持ち無沙汰だった両腕をゆっくりと恋の背に回した。
「ふふ、私と三井さん、同じ匂いがしますね」
「っ、あぁ」
「私、初めてお会いした日から、三井さんのことがとても気になっていました」
恋は、三井の腕の中から笑顔を浮かべて見上げる。
三井と視線が交わると、それは心底嬉しそうな笑みに変わった。
「三井さんといる時はドキドキして苦しいのですが、とても嬉しい気持ちになるのです。それを友人に相談したところ、私は三井さんが好きなのだと教えていただいたんです。今日は、それをお伝えしようと思って。それと、出来ましたら、三井さんのお気持ちもお聞きしたいと…」
「…俺は、好きでもねぇのに、こんな事しねぇ」
「…それは、私と同じ気持ちだと思っても良いのですか?」
「…あぁ。俺もお前のこと…好きだ」
ギュッと腕に力を込める三井に、恋の力も自然と強くなる。
互いに、うるさく鳴り響く心臓の音が聞こえそうだと思うも、その腕を離そうとは思えなかった。
2人は顔を見合わせると微笑み合う。
恋が月へ帰る事など、あり得ない。
けれど、これでそんなお伽話のような心配など生まれようもなくなった。
これからは、この腕の中にいつでもおさめられるのだからー…。
→アトガキ
それは三井に向けられた視線で、見かねた宮城が声をかけた。
「ニヤニヤして気持ち悪いぜ」
「あー?黙れ」
三井は無自覚だったのか、フンっと鼻を鳴らすと、バタンと荒々しくロッカーのドアを閉め部室を後にした。
辺りは暗くなりつつあるが、三井の足取りは妙に軽い。
その足取りはいつのまにやら早足になり、目的地に着く頃には気が早るのを抑えきれずに駆け足になっていた。
「…いねぇ」
ハァハァと肩で息をする三井が辿り着いた場所は、ここ数ヶ月の間よく来て見慣れた場所だった。
ただ、そこには誰もいなかった。
「はー、そりゃそうだよな。んな都合よくいるかよ」
三井は自嘲気味に呟くと額に滲む汗を袖で拭った。
目的地、もとい目的の人物の姿を探してしまう三井を、空に浮かぶ満月が淡く光りながら見下ろしている。
三井は息を整え夜空を見上げると、その月に見惚れた。
光り輝く満月は、三井の中に1人の笑顔を思い起こさせ、どこかその2つの優しさが似ていると思った。
「あ、三井さんではないですか?」
「あ?」
三井が唐突な声にパッと視線を移すと、そこには恋が見慣れた笑みを向けて立っていた。
「こんばんは」
「あ、あぁ。コンバンハ」
三井がぎこちなく挨拶をすると、恋はゆっくりと歩き出し、三井の前に立ってから頭を下げた。
その仕草はどこまでも綺麗で、三井はそれにまた見惚れた。
「お元気でしたか?」
「あぁ。お前は?」
「はい。変わりありませんよ」
恋が笑顔を向けると、三井は少し視線を外した。
不意に恋が小さく笑ったので、三井は恋に視線を戻す。
「何だよ?」
「いえ、満月の夜は毎回お会いしているので、不思議だなと」
そう、偶然とは思えない程に会っているとは三井も実感している。
ただ、今日は三井自ら探したので自然と会ったとも言い難いのだが、それを恋に教えるのは躊躇してしまい、三井は素っ気無く答えた。
「そうだな」
「あ、今日は誰にも衝突していないんですよ!」
「…はっ、そりゃすげぇ」
「はい」
それは当たり前の事なのだが、恋があまりに誇らしげに言うものだからか、三井は苦笑してしまった。
恋は変わらず笑みを浮かべている。
三井は笑みの色を変えると言葉をかけた。
「前の所まで、また歩くのか?」
「はい。あ、もしお時間ありましたら、またご一緒して下さいますか?」
「あ?」
「また、月を一緒に見ませんか?」
「あぁ」
その言葉を皮切りに2人は並んで歩き出す。
素っ気ない返事をしていた三井だったが、内心胸はざわついていた。
どこか落ち着かない三井は、話題を探すが何も思いつかず恋にチラリと視線を落とす。
恋はニコニコとしていて、時折夜空に見惚れながら歩いていた。
三井は、その姿にやはりどこか目を奪われてしまう。
「そう言えば、三井さんは何の部活をされているんですか?」
「ん?…あぁ、バスケだよ」
「そうなのですか!ふふ、きっとカッコいいんでしょうね」
「…じゃあ、見に来るか?」
三井はついて出た言葉に、しまったと思った。
そんな事を言うつもりなどなかったのだが、恋の何故か嬉しそうな表情に、ついそんな言葉が出てしまったのだ。
一瞬、驚いた顔をした恋だったが、どこか興奮したように前のめりになった。
「よろしいんですか?」
「…あぁ、別にいいぜ」
「では、またご都合がつく日を教えて下さいね」
ふわりと笑みを浮かべる恋に、三井は戸惑いを勘付かれないように小さく頷きすぐに視線を逸らした。
今更、断る術をなくしてしまった約束。
その約束は、2人にとってすぐに特別な物として昇華されていた。
***
ある日の試合後、三井が皆と帰り道を歩いていると、前方から見覚えのある姿が近づいてきた。
その人物は恋で、三井の姿を見るや笑みを浮かべた。
「こんにちは」
「ぶっ」
「え?誰だよ、このお嬢様オーラ漂う子は!?」
「みっちーの知り合いか!?」
「はい。三井さんと仲良くさせて頂いている如月と申します」
「はぁぁあ!?どこで知り合うんだよ、こんなお嬢様と!」
「ありえーん!」
三井の事など置いてけぼりで、恋と部員達は話を進めてしまう。
桜木軍団も一緒にいたせいか、矢継ぎ早で振られる話題に恋は笑みを浮かべたまま答えている。
三井は、恋の腕をぐっと掴んだ。
「ちょっと来い!」
三井は恋を引き連れ、少し離れた場所へと移動した。
流石に皆ついてくる事などしないが、見られている事に気付いて三井は隠すように恋の前に立った。
恋は、少し眉を下げて三井を見返していた。
「もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑っつーか…」
「どうかしましたか?」
「いや、いい。つーか、来てたんだな」
「はい。約束しましたから」
「あー、そうだな」
そう、三井は先月の逢瀬で、試合の話を恋にしていた。
社交辞令もあるのだろうと思っていた三井だったが、まさか本当来るとも思っておらず、現れた恋の姿に複雑な感情が生まれた。
恋が来てくれた事は素直に嬉しいのだ。
だが、それを他の部員達に見られたのがどうしようもなく、三井には気恥ずかしかった。
気の無い返事をした三井を見て、恋は変わらず笑みを浮かべ言葉を発した。
「とってもカッコ良かったです!」
「あ!?あぁ…サンキュー」
唐突な褒め言葉に、三井は居心地が悪くなる。
けれど、恋は気にせず言葉を続けた。
「ふふ、あんなに何度も入るものなのですね、スリーポイントって」
「あぁ」
「あれだけ入ると、気持ち良さそうですね!」
「ふっ、何だよ、すげぇ興奮してんじゃねぇか」
「はい!試合を間近で見たの始めてだったんです。凄く楽しかったです!」
「そうか」
恋が興奮気味に笑顔で紡ぐ言葉に、三井も自然と笑みが溢れていた。
自身の好きな物を好意的に見てくれた事に、三井は照れ臭さと同時に嬉しさがこみ上げていた。
「それに、皆さん凄く高く飛ばれるんですね!あの赤い髪の方なんて何度も飛ばれて凄かったです!」
「あぁ…」
「それに個性的な髪の方は、周りの方より小柄でしたのにそれに負けていませんし、黒髪の方はとても点を入れられていました。皆さん凄いのですね!」
「…あぁ」
「でも、1番三井さんがカッコ良かったです!見惚れてしまいました」
「そ、そうか」
「また、見に来ても良いですか?」
「あ、あぁ」
恋の勢いに圧倒された三井は二つ返事で答えた。
恋は嬉しそうに笑うと、三井をジッと見据えた。
「あの…月、見ませんか?今日は満月なんですよ」
「けどお前、門限とかねぇのか?つーか、習い事は?」
「習い事は、先生の都合が悪く今日はありません。門限は勿論ありますが、今日は特別に許可を頂いているので」
「何かあるのか?」
「何かと言いますか…今日は、私の誕生日なんです」
言いづらそうに恋が言葉を発すると、三井は驚いて素っ頓狂な声が出た。
「はぁっ!?」
「父も母も、誕生日だけは色々と甘く見てくださるんです。今日は友人と遊ぶので、遅くなると伝えてますから大丈夫です!」
「そ、そうか」
「はい。ですから、一緒にどこかへ出かけませんか?」
「あぁ」
恋の誘いに圧倒されながら、三井は返事をした。
ただ、出かける場所と行ってもすぐには浮かばない。
今は試合後だからか、お腹が空いていて頭が働かないというのもあるのだろう。
「お前って、ファーストフード店とか行ったことあんのか?」
「一度友人と行ったことがあります。初めての事ばかりで楽しかったです」
「そ、そうか」
三井にとっては小腹を満たすのに丁度いい場所ではあるのだが、恋の反応を見るに誘って良いものか迷ってしまった。
「行くのですか?」
「いや、味はどうだった?」
「味ですか?えっと…」
「そりゃあ、舌の肥えた奴には合わねぇよな」
苦笑して言う三井に、恋は慌てて声を出す。
「え、でも、あのっ」
「いいって。無理すんな。ってぇなると、どっかあっかな」
「おーい、みっちー」
「あぁ!?」
話に夢中で気づかなかったが、どうやら部員達は待っていたようで、三井達を見ていた。
そう言えば学校で少しミーティングをすると言っていたと思い出す。
「学校戻んぞー」
「あぁ、そうか…後で待ち合わせてもいいか?」
「はい、構いませんよ。ただ…」
「良かったら、彼女も一緒にー」
恋の言葉を遮って聞こえてきたのは、ニヤニヤと笑う面々からの言葉だった。
「はぁ!?宮城てめぇ!」
「よろしいんですか?」
「は?」
「ご一緒しても!」
「なっ、けどよ…」
「駄目でしょうか?」
「あー…俺のそばいろよ」
「はい」
恋の嬉しそうな反応に三井はそれしか言えなくなってしまい、2人は元いた場所へ向かった。
それから約1時間後、明るい内に2人で並んで歩く帰り道は、どこか新鮮だった。
だが、三井は眉間に皺を寄せ、恋は笑いを抑えきれずにいるのか、ずっと笑みを浮かべていた。
「皆さん面白い方ですね」
「どこがだ。ここぞとばかりにあいつら…」
「ふふ、ありがとうございました。守って下さって」
「あ?あー、いや…別に」
学校までの帰り道、2人を茶化す面々と三井は1人戦っていた。
恋はニコニコと全てに返答するので、三井は気が気ではなくなり、ほとほと疲れてしまった。
自身のプライベートが晒されているようで、どこか落ち着かず気恥ずかしかったのだ。
その後校門前で一旦別れ、急いで戻れば恋は変わらない笑みを浮かべていて、三井は面映ゆい気分になるも、それを悟られたくなくて表情に出さないようにしていた。
「どこか行きたい所などありますか?」
「お前は?」
「そうですね、三井さんが普段行ってらっしゃる所がいいです」
「は?あーそうだ…な…」
三井の言葉が終わるよりも先に、ポトンと頭に何か降ってきたと空を見上げると、一斉に土砂降りの雨が辺りを覆った。
空はいつのまにか灰色の雲が広がり、土砂降りの雨模様に変わっている。
2人は豆鉄砲を食らったように反応が遅れた。
「わっ」
「雨!?とりあえず、あそこまで走れ」
「は、はい」
目先に見えた軒下まで走り、雨が遮られた場所で2人はハァハァと肩で息をした。
三井は体にへばりつく服に、気持ち悪さが先立ちたまらず空を見上げる。
分厚い雲からは、雨がまだ勢い良く降っていた。
「あー冷てぇ…大丈夫か?」
「はい」
「これ使え。これは綺麗なやつだから」
「ありがとうございます」
「結構降ってんな」
通り雨かとも思うが、濡れた服で出歩く事は出来ないだろう。
恋もそれは分かっているのか、借りたタオルを丁寧に扱うと、残念そうに笑みを浮かべた。
「そうですね。仕方ありません、今日は帰りましょうか。迎えを呼びますから、お家までお送りします」
「…いや、俺ん家こっから近ぇし」
「そうですか?では、せめて傘だけでも。迎えの車に乗せてあると思いますから」
「…家、来るか?」
「え?」
「いや、多分お袋とかいると思うから、服乾かせるだろうし」
恋の、言葉とは裏腹の残念そうな顔つきに三井はそんな提案をした。
だが、言ってすぐに後悔し訂正する。
「いや、でも、まずいよな、お嬢サマが見ず知らずの男の家行くとか」
「よろしいのですか?」
「あ?」
「実は先ほどから寒くて…。きっと迎えも少し時間がかかると思いますから、お近くであるのならば服を…わぷっ!?」
恋が微かに震えているのが分かり、三井は焦って鞄からジャージを取り出すと恋の頭から被せた。
「わりぃ気付かなくて!ちょっと汗くせぇかもしんねぇけど、ないよりはマシだろ」
「ありがとうございます」
恋がすっぽり包むジャージに感想を持つ間も無く、三井は恋の手を取った。
「走れるか?」
「はい」
2人は、またも濡れるのを覚悟し走り出す。
僅かに勢いがなくなった中、2人は道をビチャビチャと鳴らしながら走った。
それからしばらくして着いた家の中に入ると、三井はドサリと荷物を置いた。
「ただいま」
「あら、お帰り。アンタ雨に濡れなか…っ!?」
物音に反応した三井の母親が玄関まで来ると、その状況に目を丸くし声をなくした。
三井と見知らぬ少女が、びしょ濡れで玄関に立っているのだ。
恋は、母親を見るなり深々と頭を下げた。
「は、初めまして。如月 恋と申します。突然お邪魔して申し訳ありません」
「雨に降られたから、風呂沸かして欲しい。寒いらしいんだよ」
「えぇ!?ちょ、も、わ、わかったから、すぐに上がってちょうだい。タオルも持って来るから。それから寿、後で色々と話あるから!」
「へぇへぇ」
ドタバタと忙しなく奥へ消えて行った母親に、三井は嘆息した。
恋は、呆気に取られながらも不安そうな顔になる。
「えっと、私、変ではなかったでしょうか?」
「は?」
「いえ、お母様が怒ってらっしゃったようなので、失礼があったのでは…」
「あぁ、ねぇねぇ。気にするな。それより、風呂こっち」
「お邪魔します」
恋はおずおずと部屋の中へ上がり込み、風呂場へと向かった。
数十分後、恋が案内された部屋をノックしてから入ると、着替えた三井がベッドに寝転がり雑誌を見ていた。
恋の姿に一瞬目を丸くした三井だったが、すぐに起き上がると雑誌を読む手を止めた。
「温まったか?」
「はい、ありがとうございました。三井さんも、どうぞお入りになって下さい」
「あぁ、俺はいい」
「駄目です!風邪を引かれては大変です!」
恋が必死の形相で三井に迫ると、三井は苦笑して立ち上がった。
「わーったよ。部屋の中、漁んじゃねぇぞ」
「そんな事しません!」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
三井は小さく笑うと部屋を出、それから十数分後、部屋へと戻って来た。
三井は姿勢良く座る恋の前へ、手にしていたコップを差し出した。
「服、もうすぐ乾くらしい。あと、茶」
「あ、ありがとうございます」
「それと、お袋が良かったら飯でもって言ってっけど、どうする?」
「よろしいんですか?」
「お前が良いなら」
「是非!」
恋が満面の笑みで答えるので、三井も一瞬間が出来てから笑みを返した。
それから2時間ほどして、恋は服を着替え三井の部屋で帰り支度をしていた。
借りた服を丁寧に折りたたみ、三井へ差し出した。
「今日はありがとうございました」
「いや」
「月は見れず残念でしたが、楽しい時間でした」
「あー、月…まだ曇ってんのかな」
三井は、言いながら窓を開けて空を見上げた。
「あ、見えるぞ」
「えっ!?」
三井が振り返り恋を見ると、恋はパッと明るい顔をして三井の隣に並んだ。
「ほら。ちょうど、雲の合間」
「はい!」
恋はキラキラとした目を三井に向け、すぐにまた夜空を見上げた。
隣に立つ恋へ向ける三井の瞳はどこか優しい。
「本当に好きだな、月」
「はい。何故かわかりませんが、とても懐かしいような切ないような、妙な気持ちになってしまって、気づいたら見惚れているのです」
「そうか」
「…?あの?」
恋は三井に不思議そうな顔を向けた。
恋の腕が、三井の手によって掴まれていたからだ。
三井は、妙に深刻そうな顔をして言葉を紡いだ。
「いや、なんかどっか行きそうに見えた」
「ふふ。私は、月には帰りませんよ」
「っ、そうだな」
不意に出た恋の言葉に、三井はカッと赤くなる。
以前、かぐや姫の話を木暮とした事を思い出し、そんな話をした覚えもない恋が同じ言葉を発した事に、言い表し難い感情が生まれてしまった。
恋はそんな三井を目を細め見つめていた。
「はい。よろしければ、これからも三井さんのおそばにいたいですし」
「…は?」
「私、三井さんのこと、好きですから」
「なっ、お前…」
恋から出た言葉に、三井は瞬時に顔を赤くさせたが、恋の反応は至って普通だった。
「どうしました?」
「いや。俺も…好きだぜ」
「はい?何かおっしゃいましたか?」
「…何でもねぇ」
勇気を振り絞った言葉は小さく、夜空に見惚れていた恋には聞こえなかった。
三井は、ぶっきらぼうにそっぽを向くしかない。
「そうですか?でも、本当に綺麗です。今日は三井さんの部屋で一緒に見るから、余計にそう見えるんでしょうか」
優しく笑いながら恋が言うやいなや、三井は恋を引き寄せ腕の中に閉じ込めていた。
恋は触れる温もりに目を丸くした。
「え?」
「うわぁ、悪い!」
三井は瞬間、腕を上げて後退りした。
恋があまりに可愛く思えてしまい、無意識の内に腕の中へ引き寄せてしまったのだ。
顔を赤くさせ頭を抱える三井に、恋は一歩、また一歩と近寄った。
「ふふ、いえ、嬉しいです。もう1度、よろしいですか?」
「は?何言っ…」
「失礼しますね」
「っ!?」
恋は、間近にいた三井の脇腹から腕を後ろに回すと、そのまま体をピタリと寄せた。
暫くしてから三井は、手持ち無沙汰だった両腕をゆっくりと恋の背に回した。
「ふふ、私と三井さん、同じ匂いがしますね」
「っ、あぁ」
「私、初めてお会いした日から、三井さんのことがとても気になっていました」
恋は、三井の腕の中から笑顔を浮かべて見上げる。
三井と視線が交わると、それは心底嬉しそうな笑みに変わった。
「三井さんといる時はドキドキして苦しいのですが、とても嬉しい気持ちになるのです。それを友人に相談したところ、私は三井さんが好きなのだと教えていただいたんです。今日は、それをお伝えしようと思って。それと、出来ましたら、三井さんのお気持ちもお聞きしたいと…」
「…俺は、好きでもねぇのに、こんな事しねぇ」
「…それは、私と同じ気持ちだと思っても良いのですか?」
「…あぁ。俺もお前のこと…好きだ」
ギュッと腕に力を込める三井に、恋の力も自然と強くなる。
互いに、うるさく鳴り響く心臓の音が聞こえそうだと思うも、その腕を離そうとは思えなかった。
2人は顔を見合わせると微笑み合う。
恋が月へ帰る事など、あり得ない。
けれど、これでそんなお伽話のような心配など生まれようもなくなった。
これからは、この腕の中にいつでもおさめられるのだからー…。
→アトガキ