勇気を出せるかな
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少し肌寒い風が吹く。
それは、窓やドアを全て開け放っている体育館内の隅々にまで届いた。
しかし、室内で部活動をしている者達には微塵も関係なく、上気した体温には程よく感じられるほどだ。
笛の合図で、走り続けていた部員達は足を止めて休憩に入る。
そんな部員にタオルやボトルを渡し歩いているのは、海南バスケ部マネージャーの恋だった。
恋が笑顔で声をかけていると、清田がふいに恋へ声をかけた。
それは他愛もない会話だったが、近くにいた神には、妙に仲が良く見えた。
つい最近までは、ここまで仲が良さそうには見えなかったはずである。
仲が悪いとかではなく、単なるクラスメイトでマネージャーという関係に見えていたのだ。
それがどうしたことか、妙に距離が縮まっている。
「何だか仲が良いね」
思わず神がそう声をかけると、清田は何故か嬉しそうに答えた。
「そうっすか!?」
「え?」
その反応に、恋は驚いた目を清田に向ける。
その視線に清田は慌てて言葉を撤回した。
「あっ!そ、そんなことないっすよ!な!?」
「う、うん?」
恋は言われるままに答えている。
神はそのやりとりに少し笑ってしまった。
「信長がそう思ってるなら、まぁいいけど」
「何がっすか!?」
清田は明らかに動揺している。
神にはその様子が微笑ましく見えた。
「それは、信長が分かってると思うけど。そう言えば、恋って何でマネージャーになったの?」
「え?」
「あ、別に悪い意味じゃないよ。ただ、そういうの聞いたことなかったなと思って」
海南バスケ部はインターハイ常連の名門校と言える。
そのバスケ部に、何の知識もなく突如恋はマネージャーとして入部したのだ。
それも中途半端な夏休み終わりに。
それまで、マネージャー業は控えの選手やそれに満たない部員が担当していた。
それで事足りる程には部員もいる。
だから、恋が入部した理由は少し部内で話題になっていた。
牧も特別それには触れないので、部員から疑問を投げかけ辛かったのもあり、うやむやになっていたのだ。
恋は、疑問を聞くなり何故か嬉しそうにしていた。
「言ってもいいですか?」
「ん?」
「皆がカッコ良かったからです!」
「え?」
それは予想だにしない答えであった。
恋はその理由を肯定的にとっているのか、満面の笑みを浮かべ頬を微かに染めていた。
「インターハイを観て、皆がカッコよくて近くで見たいと思いました」
「…へぇ。監督にもそう言ったの?」
「はい。監督にも牧さんにもそう言いましたよ。二人とも苦笑いしてました」
「まぁ、そこまでハッキリ言われるとね…」
神もまさに今、苦笑していた。
恋の物言いは潔すぎて呆れるしか出来ないのだ。
ただ、それが部を取り仕切る2人には意外にも好反応だったのか、恋は今、マネージャーという職に就いている。
恋も自覚があるのか、否定することなく言葉を続けた。
「ですよね。動機が不純なのは分かってます。でも、お手伝いしたいんです」
恋の強く感じ取れる意気込みに、神は自然と笑みを浮かべた。
「うん、分かってるよ。いつも助かってるから」
「あ、ありがどうございます!そんなこと言われるとは思ってなくて…嬉しいです」
「俺も助かってると思ってるし、声かけとか励みになってるからな!」
「うん、ありがとう」
恋が頬を軽く染めて神に頭を下げるのを隣で見ていた清田は、身を乗り出して恋に言った。
恋から笑みを返されると清田も嬉しそうに笑みを返した。
とある日、熱気と緊張が途切れた合図は部活終わりの挨拶の声だった。
先程までの張り詰めた空気はどこへ行ったのか、今、体育館内は和やかな空気へと変わっていた。
清田も流れる汗をTシャツの裾で拭い、更衣室へ向かおうと歩き出した時、ふいに声をかけられた。
「清田くん、お疲れ様」
恋が笑顔でツツツッと寄ってきたため、清田はドキリとした。
恋との距離は近く、今にも触れそうだ。
けれど、焦りを勘付かれまいと平静を装って清田は答えた。
「おー、お疲れー」
「ね、ね、ちょっと手出して」
「え?」
ニマニマと笑う恋に言われ、躊躇いながら清田は手を差し出す。
すると、恋は清田の手を両手で掴み掌を押し始めた。
恋は真剣な表情になり、何度か清田の掌にギュッと刺激を与えると、ぱっと笑みを向けた。
「お疲れさま!」
「っ、な、何だよ、急に!」
清田は顔を赤らめその手をバッと離した。
恋は、きょとんとして手をわきわきと空中で動かす。
「手とか揉むと気持ちよくない?本当はマッサージとかしてあげたいけど、下手に押して逆に痛くなっちゃったら悪いし、手ならちょっとくらい大丈夫かなって。押していいなら足とかもするけど…」
「え、あ…いや!いい!」
清田は、その提案に一瞬迷ったが慌てて断った。
その様子を想像してしまい、気恥ずかしさに支配されたからだ。
他の部員にその様子を見られ、からかわれるかも知れないとも思う。
そうなった時に、上手くかわす方法が清田には思いつかなかったのだ。
恋はそんな清田の思いは知らず、断られたことに少し肩を落とした。
「そっか。やっぱり、誰かに教わった方がいいかな?」
「マッサージをか?」
「うん。ちゃんとした人に教わったら、多少私が皆をマッサージしたりできると思うんだ。本では勉強してるんだけど、やっぱりちゃんと教わった方がいいかなって」
「だ、だめだ!そんなのやらなくていいだろ!」
清田はもってのほかだと言わんばかりに強く言った。
恋は首をかしげる。
「どうして?出来るようになったら、清田くんの足とかも押せるよ?」
その言葉に、清田は一瞬想像してしまう。
恋がマッサージを覚えれば、きっと他の部員にもするのだろう。
そうなれば、そこまでからかわれることがないのかも知れない。
けれど、他の部員にもする、というのが清田には大問題だったのだ。
「うっ…で、でも、ダメだ!」
「えぇ?」
「覚えなくていいからな!他の事で十分役立ってるだろ!」
「そうかなぁ…」
納得のいっていない様子の恋を清田は必死に説得し、何とかその場を収めることに成功したのだった。
冬の気配を傍らに感じ始めた頃、恋は部活終わりに疲れた様子で歩いている宮益を見かけ声をかけた。
「あ、宮さん」
「ん?」
宮益は振り返ると、不思議そうに恋を見た。
恋は、少し緊張した面持ちで頭をぺこりと下げた。
「あの、少しだけ背中押させてくれませんか?」
「えぇ!?ど、どうして僕に…」
「えっと…マッサージの練習をさせてほしくてですね…。とりあえずレギュラー外の人達から声かけてたんですけど、次は準レギュラーの人にと思って…やっぱりダメですかね…?」
恋が自信なさそうに言ったために、宮益は強く断れなくなり言葉を発しかねた。
元々宮益は優しい人物なので、滅多なことでは人からの頼まれごとを断ったりはしない。
恋もそれを分かって宮益に声をかけたのだろう。
屈強な体格の男の多いバスケ部で宮益のような華奢なタイプは珍しく、元々初心者ということもあり恋は勝手に親近感を感じ懐いているのもあった。
宮益は眼鏡をクイっと押し上げると言った。
「ダメではないが…じゃ、じゃあ、よろしく…」
「はい!」
宮益がゆっくりと床にうつ伏せになると、恋はその脇に座りその背に手を添えた。
グッと力を込めようとした瞬間、大きな声がかけられた。
「あー!!」
「な、何!?」
「何してんだ!離れろっ」
大声の主は清田で、2人の様子に慌てて恋をひっぺがした。
恋は唐突なことに目を丸くするが、すぐさま振り向き抗議する。
「ちょ、清田くん!?」
「お、お前宮さんに何して…」
あわわと清田が青ざめているのに対し、恋は少しムッとした顔で答えた。
「マッサージさせて貰ってただけだよ」
何だ何だとチラチラ清田達を見て横を通り過ぎる部員をよそに、清田は大きく安堵した。
恋が宮益に対し、何かしでかそうとしているのかと焦ったのだ。
だが、ホッとしたのもつかの間、清田は我に返り声を荒げた。
「マッサージなんか覚えるなって言っただろ!?」
「なんで怒るの!?そんなの清田くんにどうこう言われる筋合いないし」
「ぐっ、けど!」
思った以上に恋から強く返され、清田は言葉に詰まる。
そこへすかさず恋の言葉が清田に突き刺さった。
「清田くんには絶対してあげないから!」
恋は、ベーっと清田に舌を向けると怒った様子でそっぽ向く。
それから宮益に謝ると、恋は体育館を足早に去って行った。
清田は1人、ショックで青ざめているのだった。
それは、窓やドアを全て開け放っている体育館内の隅々にまで届いた。
しかし、室内で部活動をしている者達には微塵も関係なく、上気した体温には程よく感じられるほどだ。
笛の合図で、走り続けていた部員達は足を止めて休憩に入る。
そんな部員にタオルやボトルを渡し歩いているのは、海南バスケ部マネージャーの恋だった。
恋が笑顔で声をかけていると、清田がふいに恋へ声をかけた。
それは他愛もない会話だったが、近くにいた神には、妙に仲が良く見えた。
つい最近までは、ここまで仲が良さそうには見えなかったはずである。
仲が悪いとかではなく、単なるクラスメイトでマネージャーという関係に見えていたのだ。
それがどうしたことか、妙に距離が縮まっている。
「何だか仲が良いね」
思わず神がそう声をかけると、清田は何故か嬉しそうに答えた。
「そうっすか!?」
「え?」
その反応に、恋は驚いた目を清田に向ける。
その視線に清田は慌てて言葉を撤回した。
「あっ!そ、そんなことないっすよ!な!?」
「う、うん?」
恋は言われるままに答えている。
神はそのやりとりに少し笑ってしまった。
「信長がそう思ってるなら、まぁいいけど」
「何がっすか!?」
清田は明らかに動揺している。
神にはその様子が微笑ましく見えた。
「それは、信長が分かってると思うけど。そう言えば、恋って何でマネージャーになったの?」
「え?」
「あ、別に悪い意味じゃないよ。ただ、そういうの聞いたことなかったなと思って」
海南バスケ部はインターハイ常連の名門校と言える。
そのバスケ部に、何の知識もなく突如恋はマネージャーとして入部したのだ。
それも中途半端な夏休み終わりに。
それまで、マネージャー業は控えの選手やそれに満たない部員が担当していた。
それで事足りる程には部員もいる。
だから、恋が入部した理由は少し部内で話題になっていた。
牧も特別それには触れないので、部員から疑問を投げかけ辛かったのもあり、うやむやになっていたのだ。
恋は、疑問を聞くなり何故か嬉しそうにしていた。
「言ってもいいですか?」
「ん?」
「皆がカッコ良かったからです!」
「え?」
それは予想だにしない答えであった。
恋はその理由を肯定的にとっているのか、満面の笑みを浮かべ頬を微かに染めていた。
「インターハイを観て、皆がカッコよくて近くで見たいと思いました」
「…へぇ。監督にもそう言ったの?」
「はい。監督にも牧さんにもそう言いましたよ。二人とも苦笑いしてました」
「まぁ、そこまでハッキリ言われるとね…」
神もまさに今、苦笑していた。
恋の物言いは潔すぎて呆れるしか出来ないのだ。
ただ、それが部を取り仕切る2人には意外にも好反応だったのか、恋は今、マネージャーという職に就いている。
恋も自覚があるのか、否定することなく言葉を続けた。
「ですよね。動機が不純なのは分かってます。でも、お手伝いしたいんです」
恋の強く感じ取れる意気込みに、神は自然と笑みを浮かべた。
「うん、分かってるよ。いつも助かってるから」
「あ、ありがどうございます!そんなこと言われるとは思ってなくて…嬉しいです」
「俺も助かってると思ってるし、声かけとか励みになってるからな!」
「うん、ありがとう」
恋が頬を軽く染めて神に頭を下げるのを隣で見ていた清田は、身を乗り出して恋に言った。
恋から笑みを返されると清田も嬉しそうに笑みを返した。
***
とある日、熱気と緊張が途切れた合図は部活終わりの挨拶の声だった。
先程までの張り詰めた空気はどこへ行ったのか、今、体育館内は和やかな空気へと変わっていた。
清田も流れる汗をTシャツの裾で拭い、更衣室へ向かおうと歩き出した時、ふいに声をかけられた。
「清田くん、お疲れ様」
恋が笑顔でツツツッと寄ってきたため、清田はドキリとした。
恋との距離は近く、今にも触れそうだ。
けれど、焦りを勘付かれまいと平静を装って清田は答えた。
「おー、お疲れー」
「ね、ね、ちょっと手出して」
「え?」
ニマニマと笑う恋に言われ、躊躇いながら清田は手を差し出す。
すると、恋は清田の手を両手で掴み掌を押し始めた。
恋は真剣な表情になり、何度か清田の掌にギュッと刺激を与えると、ぱっと笑みを向けた。
「お疲れさま!」
「っ、な、何だよ、急に!」
清田は顔を赤らめその手をバッと離した。
恋は、きょとんとして手をわきわきと空中で動かす。
「手とか揉むと気持ちよくない?本当はマッサージとかしてあげたいけど、下手に押して逆に痛くなっちゃったら悪いし、手ならちょっとくらい大丈夫かなって。押していいなら足とかもするけど…」
「え、あ…いや!いい!」
清田は、その提案に一瞬迷ったが慌てて断った。
その様子を想像してしまい、気恥ずかしさに支配されたからだ。
他の部員にその様子を見られ、からかわれるかも知れないとも思う。
そうなった時に、上手くかわす方法が清田には思いつかなかったのだ。
恋はそんな清田の思いは知らず、断られたことに少し肩を落とした。
「そっか。やっぱり、誰かに教わった方がいいかな?」
「マッサージをか?」
「うん。ちゃんとした人に教わったら、多少私が皆をマッサージしたりできると思うんだ。本では勉強してるんだけど、やっぱりちゃんと教わった方がいいかなって」
「だ、だめだ!そんなのやらなくていいだろ!」
清田はもってのほかだと言わんばかりに強く言った。
恋は首をかしげる。
「どうして?出来るようになったら、清田くんの足とかも押せるよ?」
その言葉に、清田は一瞬想像してしまう。
恋がマッサージを覚えれば、きっと他の部員にもするのだろう。
そうなれば、そこまでからかわれることがないのかも知れない。
けれど、他の部員にもする、というのが清田には大問題だったのだ。
「うっ…で、でも、ダメだ!」
「えぇ?」
「覚えなくていいからな!他の事で十分役立ってるだろ!」
「そうかなぁ…」
納得のいっていない様子の恋を清田は必死に説得し、何とかその場を収めることに成功したのだった。
***
冬の気配を傍らに感じ始めた頃、恋は部活終わりに疲れた様子で歩いている宮益を見かけ声をかけた。
「あ、宮さん」
「ん?」
宮益は振り返ると、不思議そうに恋を見た。
恋は、少し緊張した面持ちで頭をぺこりと下げた。
「あの、少しだけ背中押させてくれませんか?」
「えぇ!?ど、どうして僕に…」
「えっと…マッサージの練習をさせてほしくてですね…。とりあえずレギュラー外の人達から声かけてたんですけど、次は準レギュラーの人にと思って…やっぱりダメですかね…?」
恋が自信なさそうに言ったために、宮益は強く断れなくなり言葉を発しかねた。
元々宮益は優しい人物なので、滅多なことでは人からの頼まれごとを断ったりはしない。
恋もそれを分かって宮益に声をかけたのだろう。
屈強な体格の男の多いバスケ部で宮益のような華奢なタイプは珍しく、元々初心者ということもあり恋は勝手に親近感を感じ懐いているのもあった。
宮益は眼鏡をクイっと押し上げると言った。
「ダメではないが…じゃ、じゃあ、よろしく…」
「はい!」
宮益がゆっくりと床にうつ伏せになると、恋はその脇に座りその背に手を添えた。
グッと力を込めようとした瞬間、大きな声がかけられた。
「あー!!」
「な、何!?」
「何してんだ!離れろっ」
大声の主は清田で、2人の様子に慌てて恋をひっぺがした。
恋は唐突なことに目を丸くするが、すぐさま振り向き抗議する。
「ちょ、清田くん!?」
「お、お前宮さんに何して…」
あわわと清田が青ざめているのに対し、恋は少しムッとした顔で答えた。
「マッサージさせて貰ってただけだよ」
何だ何だとチラチラ清田達を見て横を通り過ぎる部員をよそに、清田は大きく安堵した。
恋が宮益に対し、何かしでかそうとしているのかと焦ったのだ。
だが、ホッとしたのもつかの間、清田は我に返り声を荒げた。
「マッサージなんか覚えるなって言っただろ!?」
「なんで怒るの!?そんなの清田くんにどうこう言われる筋合いないし」
「ぐっ、けど!」
思った以上に恋から強く返され、清田は言葉に詰まる。
そこへすかさず恋の言葉が清田に突き刺さった。
「清田くんには絶対してあげないから!」
恋は、ベーっと清田に舌を向けると怒った様子でそっぽ向く。
それから宮益に謝ると、恋は体育館を足早に去って行った。
清田は1人、ショックで青ざめているのだった。
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