可能性
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雨がしとしとと降り続く梅雨の時期、湘北高校では雨音を打ち消すようにチャイムが鳴り響いていた。
一気に賑わいを見せる教室内で、私はお弁当箱を鞄から取り
出す。
それから、立ち上がり友達の元へ行こうとしてふと足を止めた。
「流川くん、もうお昼だよ?」
私は、隣で居眠りをしている流川くんにそっと声をかけた。
皆が思い思いに離席する中、流川くんはいつものように机に突っ伏している。
先生はもう諦めているのか、さっきの授業では注意すらしていなかった。
だから、そのままスヤスヤと眠っていた流川くんはお昼休みになっても起きない。
放っておいてもいいんだろうけど、直近の席替えであの流川くんとせっかく隣の席になれたんだし、声くらいかけたいと思ってしまう。
ふと気になり、私はキョロキョロと辺りを見回した。
何故なら、流川くん親衛隊は怖いから話しかけているのを見られたくはないのだ。
「ん…はよう」
と、どうせ起きないだろうと思っていた隣からくぐもった声が返ってきた。
私が驚き視線を落とすと、流川くんがどこを見てるんだか見てないんだかわからない、ぼんやり眼で固まっていた。
微動だにしない様子に空耳かと思ったけど、流川くんは、ふぁっと大きく欠伸をしながら体を起こしたので、起きたのだと確信した。
しかも、以前は起こされると誰が相手だろうと暴れていたのに、今日は落ち着いて返事までされた。
その衝撃は結構なものだ。
「…弁当」
「え?」
「弁当忘れた」
鞄の中を探り出した、流川くんの唐突なその言葉に私は絶句した。
でも、購買なり食堂なりに行けば食べ物は売ってるんだから買えばいい。
そう返そうとした時、流川くんがパタパタと体を触っているのに気付いた。
次に鞄の中を探って机の中。
これは…。
「財布忘れた」
予想通りの言葉が返ってきて私はまたも絶句。
この人、今までどうやって生きてきたんだろうってくらいマイペースだし、少々の事で動じないからある意味すごい。
ただ、そこすらも何故だか魅力的に見えてしまう気がして少し困るけど。
見た目ってやっぱ大事だなと、流川くんを見ているとよく思う。
そして、チャンスとばかりに私は続けて声をかけた。
「か、貸そうか?」
「…いいのか?」
「いや、うん。流石に、それ聞いたらこの言葉出るよね、普通」
私は、財布からお金を取り出すと流川くんに差し出した。
それを、ゆっくりした手つきで受け取ると流川くんが言った。
「明日返す」
そう言って、席を立った流川くんは振り返ることなく教室を出て行った。
漫画でよくあるみたいに手が触れた…なんて事はなく、何の変哲も無いやりとりに私は少し溜め息を漏らした。
翌朝、教室内の自分の席で友達と話をしていると、流川くんがドアをガラリと開けて入ってきた。
流川くんはバスケ部の朝練が終わったばかりだからか、まだ目が冴えているようでしっかりした足取りで席に向かう。
私が「おはよう」と声をかければ、流川くんからは小さく「っす」と声がした。
流川くんは、意外と挨拶はちゃんと返してくれる。
ちゃんとと言っても今みたいなものだけど、たまにハッキリと「おはよう」と言うのが聞ける時がある。
それは、流川くんの機嫌なのか覚醒具合にもよるのか、滅多にない。
ただ、周りとわいわいしているタイプではないから、元気よく挨拶をされても少し戸惑ってしまう自信がある。
だから、これくらいの方が流川くんらしいとは思える。
私に続いて友達も挨拶していると、流川くんは唐突に、ポケットから財布を取り出し中身を抜くと私に差し出した。
「返す」
「あ、うん」
「昨日は助かった。サンキュ」
そう言って、スッと席に着く流川くんに私は言葉が出ない。
友達は皆ニヤニヤと私を見ている。
何故なら、流川くんがそんな風に言ってくれるなんて誰も思っていなかっただろうし、あの流川くんにお礼を言われるなんて奇跡に近いと思える。
そりゃあ、流川くんだってお礼は言うと思う。
けど、流川くんは基本他人に興味がないと私は思っている。
バスケ命って言っても良いのではないだろうか。
他人に興味を示さない人が気遣いを見せるのは、しかも、それが私なのはとてつもなく嬉しい。
だから、私の気持ちを知っている友達はニヤニヤしているんだろう。
少しして本鈴が鳴り、友達が席に戻ったので私は流川くんをチラリと見た。
現段階では、授業を受ける気があるみたいで教科書を出している。
その仕草は何故か新鮮でドキドキした。
そして、授業が始まってしばらくすると、足元に何かが当たった気がして視線を落とす。
そこには、消しゴムが落ちていた。
それをひょいと拾い上げて辺りを見渡すと、流川くんと目が合った。
どうやら流川くんのらしい。
今日はどうした事か、授業をちゃんと受けていてノートをとっている。
私は、笑顔で流川くんに消しゴムを差し出した。
軽く会釈して受け取る流川くんの手に、指先が微かに触れた。
たったそれだけの事に胸が騒ぎ出す。
流川くんは、私を気にする事なく板書の続きをしていた。
ある日の体育の時間、女子は体育館、男子はグラウンドでの活動だった。
すっかり気温が高くなった季節の体育館は熱気がこもりやすく、汗が額から流れる。
授業が終われば、皆暑いと言いながら手洗い場に向かっていた。
そんな中、友達の1人が不意にこんな事を言った。
「流川くんってさ、恋と仲良くなったよね」
その言葉に私は少しドキリとした。
それは、最近私が少し意識していた事でもある。
けれど、平静を装って私は答えた。
「そう?」
「えー、だって流川くんって女子とちゃんと会話続けないじゃない?」
「わかるー。私、要件伝えてそれだけだよ。でも、恋の時はちょっと会話してるよね」
その話題は次第に広がりをみせる。
私は返答に困ってしまった。
「そ、そうかな?」
「流川くんにとって、恋って特別だったりして!」
「えぇ?それはないよー」
「わかんないじゃん!」
「あ、ほら、流川くんだ」
思わず視線を移せば、手洗い場に数人いる男子の中に流川くんがいた。
丁度、頭から水を被っているところだったようで、頭が蛇口のすぐ下にある。
それから頭を上げると、流川くんは無造作に体操服の裾で顔を拭き始めた。
筋肉質な腹筋が見えて、頭からは水が滴っている。
それは、絵に描いたみたいに様になっていて自然と見惚れてしまった。
「ほんと、カッコいいよね」
「うん」
同じく友達も見惚れていたようで、ポツリと言葉が漏れていた。
私は、そんな言葉を聞き流してしまうほどに流川くんへ視線を送ってしまった。
と、視線が合った気がした。
「え、何か恋のこと見てない!?」
「それはないでしょ」
「わかんないじゃーん」
すかさずそんな事をヒソヒソと友達が言ってくるから、私は気恥ずかしくて視線を外して笑い話に変える。
確かに合った気はしたのだ。
私の胸は、またもドキドキと早鐘を打ち続けていた。
放課後、帰ろうと席を立ち隣にいる流川くんを見た。
流川くんは、この日最後の授業を爆睡で過ごしていた。
部活も始まる時間だろうと起こそうか私が迷っていると、自然に起きたようで、流川くんはぼんやりと時計を見た。
それから、いそいそと荷物を持ち立ち上がった。
「あ、流川くん」
「何」
私が声をかけると、流川くんは私を見下ろした。
どうしても、今気になる部分があって声をかけてしまったけど、少しだけ迷惑そうな反応に見えた。
それでも声をかけてしまった手前、言葉は続けるしかない。
「髪跳ねてるよ。5時間目の体育の後、水被ってちゃんと乾かさなかったんじゃない?」
私は笑顔で自身の頭を指差し、跳ねている位置を流川くんに教えた。
けど、流川くんからは特に反応がなくて、私は笑って流川くんの髪に手を伸ばそうとした。
ただ、それが間違いだった事は、次の反応ですぐに理解した。
流川くんは私の手を軽く払いのけたのだ。
そして、「じゃあな」と言ってそのまま教室を出て行ってしまった。
その瞬間、私は一気に理解した。
流川くんにとって私はちっとも特別なんかじゃない。
『私は、この人の特別になれる』
そんな事を思ったのはいつだったか。
けど、今その考えは180度変わった。
私が、この人の特別になれる日なんて来ない。
この人に、私なんて映らない。
正直、手を振り払われるなんて思いもしなかったけど、何とも思っていない相手に突然触れられるのは嫌だと思う。
少し仲良くなれたと自惚れていた私の落ち度だろう。
私との話なんかより、部活に行きたかったのだと予想出来た。
流川くんは、バスケ命と言っても過言ではない。
そんな事は分かっていた。
部活に行く為にいそいそと準備していたのを見たのに、どうして余計な事をしてしまったんだろうと、私の胸は苦しくなった。
挨拶はされた。
だから、完全な拒絶じゃないと思う。
けど、迷惑だと言われたみたいに一瞬で冷や汗が出た。
それくらい好意の欠片もない視線と仕草だった。
正直、ハッキリ言葉を突き付けられるよりキツイ。
しかも、これが勘違いなら良いと願う自分が微かにいるから嫌になる。
ただ、さっきの出来事はそれすら打ち消すには十分で、私は羞恥と悲哀に支配されるしかなかった。
→アトガキ
一気に賑わいを見せる教室内で、私はお弁当箱を鞄から取り
出す。
それから、立ち上がり友達の元へ行こうとしてふと足を止めた。
「流川くん、もうお昼だよ?」
私は、隣で居眠りをしている流川くんにそっと声をかけた。
皆が思い思いに離席する中、流川くんはいつものように机に突っ伏している。
先生はもう諦めているのか、さっきの授業では注意すらしていなかった。
だから、そのままスヤスヤと眠っていた流川くんはお昼休みになっても起きない。
放っておいてもいいんだろうけど、直近の席替えであの流川くんとせっかく隣の席になれたんだし、声くらいかけたいと思ってしまう。
ふと気になり、私はキョロキョロと辺りを見回した。
何故なら、流川くん親衛隊は怖いから話しかけているのを見られたくはないのだ。
「ん…はよう」
と、どうせ起きないだろうと思っていた隣からくぐもった声が返ってきた。
私が驚き視線を落とすと、流川くんがどこを見てるんだか見てないんだかわからない、ぼんやり眼で固まっていた。
微動だにしない様子に空耳かと思ったけど、流川くんは、ふぁっと大きく欠伸をしながら体を起こしたので、起きたのだと確信した。
しかも、以前は起こされると誰が相手だろうと暴れていたのに、今日は落ち着いて返事までされた。
その衝撃は結構なものだ。
「…弁当」
「え?」
「弁当忘れた」
鞄の中を探り出した、流川くんの唐突なその言葉に私は絶句した。
でも、購買なり食堂なりに行けば食べ物は売ってるんだから買えばいい。
そう返そうとした時、流川くんがパタパタと体を触っているのに気付いた。
次に鞄の中を探って机の中。
これは…。
「財布忘れた」
予想通りの言葉が返ってきて私はまたも絶句。
この人、今までどうやって生きてきたんだろうってくらいマイペースだし、少々の事で動じないからある意味すごい。
ただ、そこすらも何故だか魅力的に見えてしまう気がして少し困るけど。
見た目ってやっぱ大事だなと、流川くんを見ているとよく思う。
そして、チャンスとばかりに私は続けて声をかけた。
「か、貸そうか?」
「…いいのか?」
「いや、うん。流石に、それ聞いたらこの言葉出るよね、普通」
私は、財布からお金を取り出すと流川くんに差し出した。
それを、ゆっくりした手つきで受け取ると流川くんが言った。
「明日返す」
そう言って、席を立った流川くんは振り返ることなく教室を出て行った。
漫画でよくあるみたいに手が触れた…なんて事はなく、何の変哲も無いやりとりに私は少し溜め息を漏らした。
***
翌朝、教室内の自分の席で友達と話をしていると、流川くんがドアをガラリと開けて入ってきた。
流川くんはバスケ部の朝練が終わったばかりだからか、まだ目が冴えているようでしっかりした足取りで席に向かう。
私が「おはよう」と声をかければ、流川くんからは小さく「っす」と声がした。
流川くんは、意外と挨拶はちゃんと返してくれる。
ちゃんとと言っても今みたいなものだけど、たまにハッキリと「おはよう」と言うのが聞ける時がある。
それは、流川くんの機嫌なのか覚醒具合にもよるのか、滅多にない。
ただ、周りとわいわいしているタイプではないから、元気よく挨拶をされても少し戸惑ってしまう自信がある。
だから、これくらいの方が流川くんらしいとは思える。
私に続いて友達も挨拶していると、流川くんは唐突に、ポケットから財布を取り出し中身を抜くと私に差し出した。
「返す」
「あ、うん」
「昨日は助かった。サンキュ」
そう言って、スッと席に着く流川くんに私は言葉が出ない。
友達は皆ニヤニヤと私を見ている。
何故なら、流川くんがそんな風に言ってくれるなんて誰も思っていなかっただろうし、あの流川くんにお礼を言われるなんて奇跡に近いと思える。
そりゃあ、流川くんだってお礼は言うと思う。
けど、流川くんは基本他人に興味がないと私は思っている。
バスケ命って言っても良いのではないだろうか。
他人に興味を示さない人が気遣いを見せるのは、しかも、それが私なのはとてつもなく嬉しい。
だから、私の気持ちを知っている友達はニヤニヤしているんだろう。
少しして本鈴が鳴り、友達が席に戻ったので私は流川くんをチラリと見た。
現段階では、授業を受ける気があるみたいで教科書を出している。
その仕草は何故か新鮮でドキドキした。
そして、授業が始まってしばらくすると、足元に何かが当たった気がして視線を落とす。
そこには、消しゴムが落ちていた。
それをひょいと拾い上げて辺りを見渡すと、流川くんと目が合った。
どうやら流川くんのらしい。
今日はどうした事か、授業をちゃんと受けていてノートをとっている。
私は、笑顔で流川くんに消しゴムを差し出した。
軽く会釈して受け取る流川くんの手に、指先が微かに触れた。
たったそれだけの事に胸が騒ぎ出す。
流川くんは、私を気にする事なく板書の続きをしていた。
***
ある日の体育の時間、女子は体育館、男子はグラウンドでの活動だった。
すっかり気温が高くなった季節の体育館は熱気がこもりやすく、汗が額から流れる。
授業が終われば、皆暑いと言いながら手洗い場に向かっていた。
そんな中、友達の1人が不意にこんな事を言った。
「流川くんってさ、恋と仲良くなったよね」
その言葉に私は少しドキリとした。
それは、最近私が少し意識していた事でもある。
けれど、平静を装って私は答えた。
「そう?」
「えー、だって流川くんって女子とちゃんと会話続けないじゃない?」
「わかるー。私、要件伝えてそれだけだよ。でも、恋の時はちょっと会話してるよね」
その話題は次第に広がりをみせる。
私は返答に困ってしまった。
「そ、そうかな?」
「流川くんにとって、恋って特別だったりして!」
「えぇ?それはないよー」
「わかんないじゃん!」
「あ、ほら、流川くんだ」
思わず視線を移せば、手洗い場に数人いる男子の中に流川くんがいた。
丁度、頭から水を被っているところだったようで、頭が蛇口のすぐ下にある。
それから頭を上げると、流川くんは無造作に体操服の裾で顔を拭き始めた。
筋肉質な腹筋が見えて、頭からは水が滴っている。
それは、絵に描いたみたいに様になっていて自然と見惚れてしまった。
「ほんと、カッコいいよね」
「うん」
同じく友達も見惚れていたようで、ポツリと言葉が漏れていた。
私は、そんな言葉を聞き流してしまうほどに流川くんへ視線を送ってしまった。
と、視線が合った気がした。
「え、何か恋のこと見てない!?」
「それはないでしょ」
「わかんないじゃーん」
すかさずそんな事をヒソヒソと友達が言ってくるから、私は気恥ずかしくて視線を外して笑い話に変える。
確かに合った気はしたのだ。
私の胸は、またもドキドキと早鐘を打ち続けていた。
放課後、帰ろうと席を立ち隣にいる流川くんを見た。
流川くんは、この日最後の授業を爆睡で過ごしていた。
部活も始まる時間だろうと起こそうか私が迷っていると、自然に起きたようで、流川くんはぼんやりと時計を見た。
それから、いそいそと荷物を持ち立ち上がった。
「あ、流川くん」
「何」
私が声をかけると、流川くんは私を見下ろした。
どうしても、今気になる部分があって声をかけてしまったけど、少しだけ迷惑そうな反応に見えた。
それでも声をかけてしまった手前、言葉は続けるしかない。
「髪跳ねてるよ。5時間目の体育の後、水被ってちゃんと乾かさなかったんじゃない?」
私は笑顔で自身の頭を指差し、跳ねている位置を流川くんに教えた。
けど、流川くんからは特に反応がなくて、私は笑って流川くんの髪に手を伸ばそうとした。
ただ、それが間違いだった事は、次の反応ですぐに理解した。
流川くんは私の手を軽く払いのけたのだ。
そして、「じゃあな」と言ってそのまま教室を出て行ってしまった。
その瞬間、私は一気に理解した。
流川くんにとって私はちっとも特別なんかじゃない。
『私は、この人の特別になれる』
そんな事を思ったのはいつだったか。
けど、今その考えは180度変わった。
私が、この人の特別になれる日なんて来ない。
この人に、私なんて映らない。
正直、手を振り払われるなんて思いもしなかったけど、何とも思っていない相手に突然触れられるのは嫌だと思う。
少し仲良くなれたと自惚れていた私の落ち度だろう。
私との話なんかより、部活に行きたかったのだと予想出来た。
流川くんは、バスケ命と言っても過言ではない。
そんな事は分かっていた。
部活に行く為にいそいそと準備していたのを見たのに、どうして余計な事をしてしまったんだろうと、私の胸は苦しくなった。
挨拶はされた。
だから、完全な拒絶じゃないと思う。
けど、迷惑だと言われたみたいに一瞬で冷や汗が出た。
それくらい好意の欠片もない視線と仕草だった。
正直、ハッキリ言葉を突き付けられるよりキツイ。
しかも、これが勘違いなら良いと願う自分が微かにいるから嫌になる。
ただ、さっきの出来事はそれすら打ち消すには十分で、私は羞恥と悲哀に支配されるしかなかった。
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