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「よーよー、良い物食べてんじゃないかぁ、三井ー」
初夏の爽やかな風が吹く中、教室で昼食をとっていた三井は、ふいに頭上から声をかけられその方向へ鋭く目を向けた。
「あぁ!?…って、恋かよ。何だ、その言い方」
視線を上げた先、開け放たれたドアから顔を覗かせていたのは恋だった。
三井と恋は高校一年生の時のクラスメイトで、会えば雑談を交わす顔見知りだ。
つい先日まで三井は不良真っ只中にいたのだが、三井の風貌が変わろうとクラスが変わろうと、恋は変わらずに会えば三井に声をかけてきていた。
そんな女子は珍しく、自然と恋と三井は疎遠になる事もなかった。
その為声をかけられた事に疑問は出ないが、恋にしては珍しい口調で話しかけられ三井は眉を寄せた。
そんな三井に、恋は快活な笑みを返して言った。
「えへへー、不良の真似」
「バーカ。で、なんか用か?」
「んー?いや、それ美味しそうだなって」
恋は三井の手にあるパンを指差した。
どうやら廊下を歩いていて三井の手元が目に入ったらしく、声をかけたのだと言う。
「あ?お前飯は?」
「忘れたのー。手持ち少なくて買えなかったんだ。だから恵んでー」
手を顔の前で合わせる恋に、三井はハハッと軽く笑い飛ばす。
「ダチに金借りろよ」
「えー、今更悪いじゃん」
軽く頬を膨らませる恋に三井は少し呆れてしまった。
きっと弁当を忘れた事に気付き慌てて購買へ行き、そこで財布の中身を見てすごすご帰って来たのだろう。
三井は、そんな恋の様子が目に浮かんだのかポケットから財布を取り出すと、パンと共にお金を差し出した。
「はぁ…ったく、ほらよ」
「え?いいってば、一口くれれば」
恋は驚いているが、三井は恋の手を掴むとそれらを握らせた。
「全部やる。他もちゃんと買ってこい」
三井はそう言い袋から別のパンを取り出そうとする。
恋はふるふると体を揺らすと満面の笑みを浮かべた。
「…ありがとー!明日返すから!」
「おー、さっさと行かねぇと食いっぱぐれるぞ」
「うん!本当ありがとね!」
恋が手を振り意気揚々と去って行くのを見て、三井の口元には自然と笑みがこぼれていたのだった。
翌日、屋上で昼食をとっていた三井の所へ恋がやって来た。
「よーよー、良い物飲んでんじゃないかぁ、三井!」
「あぁ!?って、またお前か。やんねーぞ」
そこには昨日と同じく笑みを浮かべる恋がいて、三井は呆れてから微かに笑った。
どうにもこの絡み方が気に入ったのか、恋は満足そうにしていた。
「えー、一口ちょうだい?」
にこりと笑いながら言う恋だが、本当に欲しいと思っているのかは怪しい所で、三井はふんと鼻を鳴らし答えた。
「嫌だね」
「え?そんな美味しいの!?」
「はぁ?意味わかんねぇ」
「だって、美味しいから人にあげたくないんでしょ?」
「ちげぇよ!」
けち臭いと言われたようで三井は思わず言葉を荒げる。
恋はその言葉を聞きニヤリと笑った。
「じゃあ、一口くらいいいじゃん」
そう言われると三井は返答に困った。
三井自身ジュースくらいあげても良いとは思っている。
だが、何となく素直にあげるのは憚られた。
今日もあげれば、事あるごとにたかられるかもしれない。
そして、ジュースは直接口をつけているのが何より問題だとも思う。
「俺のやろうか?」
二人のやり取りを見かねて、三井と共に昼食をとっていた堀田が声をかけた。
「あ、いい、いい。悪いし。三井のが飲みたいだけだから」
恋はその誘いには乗らず、三井は内心何故かホッとした。
「はー。ほら、もうちょっとしかねぇから全部やるよ」
諦めた三井はズイッとジュースを差し出したが、恋はジュースの残量を確認すると驚き突き返した。
「え、全部は多い!」
「じゃあ、捨てろ」
「何よー、残りは三井が飲めばいいじゃん。間接キスですよー?」
「…はぁ!?バ、何言っ…」
先程三井の頭によぎった事を恋にサラリと言われ、三井は言葉に詰まった。
そう、三井が拒んだ理由は、ジュースを一口だけあげて返されると間接キスになると気付いてしまったからだ。
別に今更そんな事に戸惑うのも変な話なのかも知れない。
気にしない人は気にしない事だろう。
男同士ならば何も思わず回し飲みくらい出来る。
しかし、異性となると何となく躊躇してしまうのは思春期だからだろうか。
そんな事を考えていた三井は言葉を探すのに必死になっていた。
「あはは、顔真っ赤ー!」
恋は三井の反応に思わず吹き出してしまった。
三井は耳まで真っ赤にさせていたのだ。
「うっせー!見るな!」
三井は顔を腕で隠した。
恋はそんな三井を可愛いなと思ったが、口には出さずポケットから小さな袋を取り出した。
これ以上この話題を引き伸ばしても、三井の機嫌を損ねるだけだと思ったのだ。
「あ、はいこれ。昨日はお金ありがとね」
「あ?あぁ」
「じゃねー」
三井が受け取ると恋は何事もなかったように去って行った。
それを見届け、三井はハァと小さく溜息をついたのだった。
それから暫くの間、案の定恋は三井に食べ物をたかりに来る事が増えた。
ただ、どうしても欲しい訳ではなさそうで単なる声をかける手段にも見えた。
だからか、三井もそこまで拒む事もなくなり、食べ物をあげる事もなく軽口を叩きすませていた。
それに恋が意を唱えることもなかった。
ある日、いつものように恋がやって来て雑談の輪に混じり笑いあっていると、ふいに話を振られた。
「三井ー」
「あ?何だよ」
三井は視線だけ恋に向ける。
恋は、話に花を咲かせる前方をぼんやりと見つめたまま言葉を続けた。
「バスケ、また始めたんだよね?」
「あぁ?何を今更…」
三井がバスケ部に復帰してからそこそこ日にちは経っている。
今更ながら確認された事に、三井は怪訝そうに眉を寄せた。
「見に行ってもいい?」
「はぁ?物好きだな、お前」
「だって、この間まで不良だったのに、急に髪短くしてまたスポーツ少年とか気になるでしょ」
「バカにしてんのか!」
「んなわけないじゃん。単なる好奇心」
ニシシと笑う恋に三井は言葉を返す気力をなくした。
実際、この変貌ぶりには三井自身どこか気恥ずかしさが伴い、からかいたくなる気持ちも分からなくはないと思う。
「たくっ、勝手に来ればいいだろ」
「じゃあ、今日行くねー」
恋はニコリと笑って再び雑談の輪に加わった。
その日の放課後、最後まで見学をして行った恋は体育館から出た三井に声をかけた。
「ねぇ、三井」
「あ?」
三井がタオルで汗を拭いながら歩く足を止めると、恋は微かに照れた笑みを浮かべて言った。
「かっこいいね」
「あ?誰が」
「三井が」
「っはぁ!?」
突然の賛辞に三井は素っ頓狂な声を上げた。
しかし、恋は気にもせず言葉を続けた。
「うん、やっぱりカッコいい、三井って」
「ふ、ふん、当たり前だろーが!」
再び向けられた言葉に三井は悪い気がせず、しかし反応に困り照れ隠しの悪態をついた。
恋は呆れたような微笑ましいようなそんな気分になり口元を緩めた。
「じゃ、またね」
恋はそう言い残し駆け出してしまった。
残された三井は言葉を反芻してしまい、羞恥が集約したように顔を赤く染め上げていた。
そんな三井に、後ろからやって来た宮城や桜木が不思議そうにしていたが、すぐにからかいの言葉をかけて来た。
からかわれ怒鳴る三井だったが、すぐに彩子が二人をハリセンではっ倒しその場は収束した。
三井は当然だと鼻を鳴らしたが、視線は恋が走り去り誰もいない場所に向けられているのだった。
それから暫く経った昼休み、廊下を歩いているとジュース片手に歩いている恋を見つけ、三井は声をかけた。
「恋」
「ん?三井じゃん、何?」
恋は声に反応して立ち止まると、いつもと変わらない笑みを向けた。
三井は何故だか内心ホッとしていた。
「ちゃんと食ってんのか、最近」
「何それ?」
「いや、この間までよくたかりに来てただろ」
そう、先日まで恋は食べ物をたかると言う名の雑談をしに三井の元を度々訪れていた。
しかし、見学をして行った翌日から、恋が三井の元へ訪れる事はピタリと止んだ。
それまではそれが当たり前だったのだが、その移ろいに落ち着かなくなってしまった三井は恋に理由を尋ねたくなったのだ。
恋は三井の顔をチラリと見て言った。
「あー…何、来なくて寂しい?」
「んなわけねぇだろ」
「ならいいじゃん、行かなくても」
苦笑する恋に、三井はグッと拳を握ると言葉を探しながら言った。
「寂しくはねぇけど、何か調子狂うんだよ」
「え?」
「何か餌付けしてるみてぇだったし、それが急になくなると調子狂う」
頬を掻き、どこか不機嫌そうに言葉を紡ぐ三井に恋は目が丸くなる。
そして自然と笑いが込み上げた。
「…あははっ」
「あ?何だよ?」
途端、三井は怪訝そうに眉根を寄せた。
恋は笑みを漏らしながら答える。
「んーん、何でもない。ただ成功かなーって思って」
「成功?」
含み笑いをする恋に三井は首を傾げるが、恋はそれ以上その事に触れず言った。
「あーのさ、三井」
「あ?」
「放課後、また見に行ってもいい?」
「あ?別に勝手に見ればいいだろ」
三井は部活の事と理解すると言葉がサラリと出た。
そもそも、確認を取らずとも来たければ勝手に来ればいいとも思う。
流川親衛隊など、確実に了承など取らずに騒がしくしている。
余りに騒がしくするのではなく、ただ見るだけならば邪魔にもならない筈で、何故わざわざ確認を取るのかと三井は思った。
恋は何故か苦笑すると言った。
「うん。でさ、その後ちょっとだけいい?」
「あ?あぁ、別にいいけど」
「そっか。じゃあ、放課後にね!」
恋は明るく声を発すると手を振り去って行った。
放課後、部活が終わった三井は、体育館前でぼんやりと佇んでいる恋に声をかけた。
「恋」
「ん?ああ、もういいの?」
恋は、今気づいたと言わんばかりに三井を見返した。
三井は恋の様子を不思議に思うも言葉を返す。
「あぁ。支度して来るから、ちょっとだけ待ってろ」
「え?一緒に帰るの?」
恋が目を丸くするので三井は眉を寄せた。
「はぁ?話あるんじゃねぇのかよ」
「あー…そうだね…」
「何だよ?」
「んーん。じゃあ、帰ろっか」
恋が困ったような微妙な笑みを浮かべそう言うと、三井は疑問を抱えつつも校門で待ってろと言い残し校内へと消えて行った。
三井が素早く帰り支度を済ませ校門へ向かうと、やはりどこかぼんやりとした恋がいた。
二人が合流するとどちらからともなく歩き出す。
「で、話って何だよ」
「んー…」
妙に歯切れの悪い恋を三井は少し心配そうな顔で見る。
「何だ、相談事か?」
「違うけど…」
「じゃあ、何だよ。言われてから気になってんだよ。言え」
訳がわからず気を揉む三井は回答を急く。
恋はチロリと三井に視線を送ると呟いた。
「あー…勇気いるなぁ…」
「あ?何か言っ…ぶぇっくし」
「私三井が好き!」
瞬間、三井のくしゃみと恋の早口に出る声が重なった。
途端、沈黙がやって来る。
「は?」
「え?」
再び出た言葉も重なる。
訪れる沈黙を破ったのは三井だった。
「あー…悪い、今なんつった?」
「間悪すぎ…」
「何で怒ってんだよ」
ムッとした表情で恋はプイとそっぽを向いてしまった。
それからぼそりと呟く。
「私の勇気を返せ」
「はぁ?」
「あー、もう…だから私は三井が…」
「好きだ」
恋の言葉に続くように三井は言った。
瞬時に理解が出来なかった恋は沈黙するしかない。
それから理解したと同時に口から漏れたのは一言だけだった。
「…は?」
「俺も恋が好きだっつったんだよ」
三井は少し頬を赤らめどこか不機嫌そうに言った。
恋は徐々に顔を赤く染めあげると混乱して言い放つ。
「っ、はぁ!?聞こえてんじゃないの!」
「いや、語尾しか聞き取れなかった。だからもっかいちゃんと言ってくれ」
「言うわけないでしょ!?」
「あぁ!?…くそっ、聞き違いかよ…」
どこか落ち込んだトーンで言われ恋は少し慌てた。
「え!?いや、聞き違いじゃな…い…けど…」
頬を紅潮させ尻すぼみになる恋の言葉に、三井も照れ臭そうに頬を掻いた。
「あ?あー…じゃあ、もう一回言うぞ」
「へ?何を…」
「俺は恋が好きだ。だから付き合ってくれ」
「…うん」
三井の告白に恋は気恥ずかしい気持ちで小さく頷いた。
しかし、それを見た三井は微かに不満そうにしている。
「何?」
「言わねぇのか、お前は」
「え?何を?」
「ちゃんとした言葉で聞きてぇっつってんだよ」
ぶっきらぼうに、けれどどこか残念そうに言う三井に恋は何度となく口を開いては閉じてと繰り返した。
言いたい言葉はあるようだが上手く出ない、そう見えた。
三井は小さく息を吐き口を開く。
「はー、もう…」
「私も三井が好き!」
またも言葉が重なったが、恋の言葉は三井の脳内に直接届いたかのように鮮明に聞き取れた。
恋は強い意志を含んだ瞳で三井を射抜く。
その顔は赤く、どこか満足げにも見えた。
三井は頬に熱が集まるのを感じ取り恋を抱き寄せた。
「な、何急に」
「何でもねぇよ」
ギュッと力を込める三井に、恋は黙ってその腕の中に包まれているしか出来ない。
互いに気持ちが通じた実感があった。
恋がゆっくりと三井の背中へと腕を回すと、互いの鼓動に反して妙に穏やかな気持ちが二人を包んでいる気がしたのだった。
→アトガキ
初夏の爽やかな風が吹く中、教室で昼食をとっていた三井は、ふいに頭上から声をかけられその方向へ鋭く目を向けた。
「あぁ!?…って、恋かよ。何だ、その言い方」
視線を上げた先、開け放たれたドアから顔を覗かせていたのは恋だった。
三井と恋は高校一年生の時のクラスメイトで、会えば雑談を交わす顔見知りだ。
つい先日まで三井は不良真っ只中にいたのだが、三井の風貌が変わろうとクラスが変わろうと、恋は変わらずに会えば三井に声をかけてきていた。
そんな女子は珍しく、自然と恋と三井は疎遠になる事もなかった。
その為声をかけられた事に疑問は出ないが、恋にしては珍しい口調で話しかけられ三井は眉を寄せた。
そんな三井に、恋は快活な笑みを返して言った。
「えへへー、不良の真似」
「バーカ。で、なんか用か?」
「んー?いや、それ美味しそうだなって」
恋は三井の手にあるパンを指差した。
どうやら廊下を歩いていて三井の手元が目に入ったらしく、声をかけたのだと言う。
「あ?お前飯は?」
「忘れたのー。手持ち少なくて買えなかったんだ。だから恵んでー」
手を顔の前で合わせる恋に、三井はハハッと軽く笑い飛ばす。
「ダチに金借りろよ」
「えー、今更悪いじゃん」
軽く頬を膨らませる恋に三井は少し呆れてしまった。
きっと弁当を忘れた事に気付き慌てて購買へ行き、そこで財布の中身を見てすごすご帰って来たのだろう。
三井は、そんな恋の様子が目に浮かんだのかポケットから財布を取り出すと、パンと共にお金を差し出した。
「はぁ…ったく、ほらよ」
「え?いいってば、一口くれれば」
恋は驚いているが、三井は恋の手を掴むとそれらを握らせた。
「全部やる。他もちゃんと買ってこい」
三井はそう言い袋から別のパンを取り出そうとする。
恋はふるふると体を揺らすと満面の笑みを浮かべた。
「…ありがとー!明日返すから!」
「おー、さっさと行かねぇと食いっぱぐれるぞ」
「うん!本当ありがとね!」
恋が手を振り意気揚々と去って行くのを見て、三井の口元には自然と笑みがこぼれていたのだった。
***
翌日、屋上で昼食をとっていた三井の所へ恋がやって来た。
「よーよー、良い物飲んでんじゃないかぁ、三井!」
「あぁ!?って、またお前か。やんねーぞ」
そこには昨日と同じく笑みを浮かべる恋がいて、三井は呆れてから微かに笑った。
どうにもこの絡み方が気に入ったのか、恋は満足そうにしていた。
「えー、一口ちょうだい?」
にこりと笑いながら言う恋だが、本当に欲しいと思っているのかは怪しい所で、三井はふんと鼻を鳴らし答えた。
「嫌だね」
「え?そんな美味しいの!?」
「はぁ?意味わかんねぇ」
「だって、美味しいから人にあげたくないんでしょ?」
「ちげぇよ!」
けち臭いと言われたようで三井は思わず言葉を荒げる。
恋はその言葉を聞きニヤリと笑った。
「じゃあ、一口くらいいいじゃん」
そう言われると三井は返答に困った。
三井自身ジュースくらいあげても良いとは思っている。
だが、何となく素直にあげるのは憚られた。
今日もあげれば、事あるごとにたかられるかもしれない。
そして、ジュースは直接口をつけているのが何より問題だとも思う。
「俺のやろうか?」
二人のやり取りを見かねて、三井と共に昼食をとっていた堀田が声をかけた。
「あ、いい、いい。悪いし。三井のが飲みたいだけだから」
恋はその誘いには乗らず、三井は内心何故かホッとした。
「はー。ほら、もうちょっとしかねぇから全部やるよ」
諦めた三井はズイッとジュースを差し出したが、恋はジュースの残量を確認すると驚き突き返した。
「え、全部は多い!」
「じゃあ、捨てろ」
「何よー、残りは三井が飲めばいいじゃん。間接キスですよー?」
「…はぁ!?バ、何言っ…」
先程三井の頭によぎった事を恋にサラリと言われ、三井は言葉に詰まった。
そう、三井が拒んだ理由は、ジュースを一口だけあげて返されると間接キスになると気付いてしまったからだ。
別に今更そんな事に戸惑うのも変な話なのかも知れない。
気にしない人は気にしない事だろう。
男同士ならば何も思わず回し飲みくらい出来る。
しかし、異性となると何となく躊躇してしまうのは思春期だからだろうか。
そんな事を考えていた三井は言葉を探すのに必死になっていた。
「あはは、顔真っ赤ー!」
恋は三井の反応に思わず吹き出してしまった。
三井は耳まで真っ赤にさせていたのだ。
「うっせー!見るな!」
三井は顔を腕で隠した。
恋はそんな三井を可愛いなと思ったが、口には出さずポケットから小さな袋を取り出した。
これ以上この話題を引き伸ばしても、三井の機嫌を損ねるだけだと思ったのだ。
「あ、はいこれ。昨日はお金ありがとね」
「あ?あぁ」
「じゃねー」
三井が受け取ると恋は何事もなかったように去って行った。
それを見届け、三井はハァと小さく溜息をついたのだった。
***
それから暫くの間、案の定恋は三井に食べ物をたかりに来る事が増えた。
ただ、どうしても欲しい訳ではなさそうで単なる声をかける手段にも見えた。
だからか、三井もそこまで拒む事もなくなり、食べ物をあげる事もなく軽口を叩きすませていた。
それに恋が意を唱えることもなかった。
ある日、いつものように恋がやって来て雑談の輪に混じり笑いあっていると、ふいに話を振られた。
「三井ー」
「あ?何だよ」
三井は視線だけ恋に向ける。
恋は、話に花を咲かせる前方をぼんやりと見つめたまま言葉を続けた。
「バスケ、また始めたんだよね?」
「あぁ?何を今更…」
三井がバスケ部に復帰してからそこそこ日にちは経っている。
今更ながら確認された事に、三井は怪訝そうに眉を寄せた。
「見に行ってもいい?」
「はぁ?物好きだな、お前」
「だって、この間まで不良だったのに、急に髪短くしてまたスポーツ少年とか気になるでしょ」
「バカにしてんのか!」
「んなわけないじゃん。単なる好奇心」
ニシシと笑う恋に三井は言葉を返す気力をなくした。
実際、この変貌ぶりには三井自身どこか気恥ずかしさが伴い、からかいたくなる気持ちも分からなくはないと思う。
「たくっ、勝手に来ればいいだろ」
「じゃあ、今日行くねー」
恋はニコリと笑って再び雑談の輪に加わった。
その日の放課後、最後まで見学をして行った恋は体育館から出た三井に声をかけた。
「ねぇ、三井」
「あ?」
三井がタオルで汗を拭いながら歩く足を止めると、恋は微かに照れた笑みを浮かべて言った。
「かっこいいね」
「あ?誰が」
「三井が」
「っはぁ!?」
突然の賛辞に三井は素っ頓狂な声を上げた。
しかし、恋は気にもせず言葉を続けた。
「うん、やっぱりカッコいい、三井って」
「ふ、ふん、当たり前だろーが!」
再び向けられた言葉に三井は悪い気がせず、しかし反応に困り照れ隠しの悪態をついた。
恋は呆れたような微笑ましいようなそんな気分になり口元を緩めた。
「じゃ、またね」
恋はそう言い残し駆け出してしまった。
残された三井は言葉を反芻してしまい、羞恥が集約したように顔を赤く染め上げていた。
そんな三井に、後ろからやって来た宮城や桜木が不思議そうにしていたが、すぐにからかいの言葉をかけて来た。
からかわれ怒鳴る三井だったが、すぐに彩子が二人をハリセンではっ倒しその場は収束した。
三井は当然だと鼻を鳴らしたが、視線は恋が走り去り誰もいない場所に向けられているのだった。
***
それから暫く経った昼休み、廊下を歩いているとジュース片手に歩いている恋を見つけ、三井は声をかけた。
「恋」
「ん?三井じゃん、何?」
恋は声に反応して立ち止まると、いつもと変わらない笑みを向けた。
三井は何故だか内心ホッとしていた。
「ちゃんと食ってんのか、最近」
「何それ?」
「いや、この間までよくたかりに来てただろ」
そう、先日まで恋は食べ物をたかると言う名の雑談をしに三井の元を度々訪れていた。
しかし、見学をして行った翌日から、恋が三井の元へ訪れる事はピタリと止んだ。
それまではそれが当たり前だったのだが、その移ろいに落ち着かなくなってしまった三井は恋に理由を尋ねたくなったのだ。
恋は三井の顔をチラリと見て言った。
「あー…何、来なくて寂しい?」
「んなわけねぇだろ」
「ならいいじゃん、行かなくても」
苦笑する恋に、三井はグッと拳を握ると言葉を探しながら言った。
「寂しくはねぇけど、何か調子狂うんだよ」
「え?」
「何か餌付けしてるみてぇだったし、それが急になくなると調子狂う」
頬を掻き、どこか不機嫌そうに言葉を紡ぐ三井に恋は目が丸くなる。
そして自然と笑いが込み上げた。
「…あははっ」
「あ?何だよ?」
途端、三井は怪訝そうに眉根を寄せた。
恋は笑みを漏らしながら答える。
「んーん、何でもない。ただ成功かなーって思って」
「成功?」
含み笑いをする恋に三井は首を傾げるが、恋はそれ以上その事に触れず言った。
「あーのさ、三井」
「あ?」
「放課後、また見に行ってもいい?」
「あ?別に勝手に見ればいいだろ」
三井は部活の事と理解すると言葉がサラリと出た。
そもそも、確認を取らずとも来たければ勝手に来ればいいとも思う。
流川親衛隊など、確実に了承など取らずに騒がしくしている。
余りに騒がしくするのではなく、ただ見るだけならば邪魔にもならない筈で、何故わざわざ確認を取るのかと三井は思った。
恋は何故か苦笑すると言った。
「うん。でさ、その後ちょっとだけいい?」
「あ?あぁ、別にいいけど」
「そっか。じゃあ、放課後にね!」
恋は明るく声を発すると手を振り去って行った。
放課後、部活が終わった三井は、体育館前でぼんやりと佇んでいる恋に声をかけた。
「恋」
「ん?ああ、もういいの?」
恋は、今気づいたと言わんばかりに三井を見返した。
三井は恋の様子を不思議に思うも言葉を返す。
「あぁ。支度して来るから、ちょっとだけ待ってろ」
「え?一緒に帰るの?」
恋が目を丸くするので三井は眉を寄せた。
「はぁ?話あるんじゃねぇのかよ」
「あー…そうだね…」
「何だよ?」
「んーん。じゃあ、帰ろっか」
恋が困ったような微妙な笑みを浮かべそう言うと、三井は疑問を抱えつつも校門で待ってろと言い残し校内へと消えて行った。
三井が素早く帰り支度を済ませ校門へ向かうと、やはりどこかぼんやりとした恋がいた。
二人が合流するとどちらからともなく歩き出す。
「で、話って何だよ」
「んー…」
妙に歯切れの悪い恋を三井は少し心配そうな顔で見る。
「何だ、相談事か?」
「違うけど…」
「じゃあ、何だよ。言われてから気になってんだよ。言え」
訳がわからず気を揉む三井は回答を急く。
恋はチロリと三井に視線を送ると呟いた。
「あー…勇気いるなぁ…」
「あ?何か言っ…ぶぇっくし」
「私三井が好き!」
瞬間、三井のくしゃみと恋の早口に出る声が重なった。
途端、沈黙がやって来る。
「は?」
「え?」
再び出た言葉も重なる。
訪れる沈黙を破ったのは三井だった。
「あー…悪い、今なんつった?」
「間悪すぎ…」
「何で怒ってんだよ」
ムッとした表情で恋はプイとそっぽを向いてしまった。
それからぼそりと呟く。
「私の勇気を返せ」
「はぁ?」
「あー、もう…だから私は三井が…」
「好きだ」
恋の言葉に続くように三井は言った。
瞬時に理解が出来なかった恋は沈黙するしかない。
それから理解したと同時に口から漏れたのは一言だけだった。
「…は?」
「俺も恋が好きだっつったんだよ」
三井は少し頬を赤らめどこか不機嫌そうに言った。
恋は徐々に顔を赤く染めあげると混乱して言い放つ。
「っ、はぁ!?聞こえてんじゃないの!」
「いや、語尾しか聞き取れなかった。だからもっかいちゃんと言ってくれ」
「言うわけないでしょ!?」
「あぁ!?…くそっ、聞き違いかよ…」
どこか落ち込んだトーンで言われ恋は少し慌てた。
「え!?いや、聞き違いじゃな…い…けど…」
頬を紅潮させ尻すぼみになる恋の言葉に、三井も照れ臭そうに頬を掻いた。
「あ?あー…じゃあ、もう一回言うぞ」
「へ?何を…」
「俺は恋が好きだ。だから付き合ってくれ」
「…うん」
三井の告白に恋は気恥ずかしい気持ちで小さく頷いた。
しかし、それを見た三井は微かに不満そうにしている。
「何?」
「言わねぇのか、お前は」
「え?何を?」
「ちゃんとした言葉で聞きてぇっつってんだよ」
ぶっきらぼうに、けれどどこか残念そうに言う三井に恋は何度となく口を開いては閉じてと繰り返した。
言いたい言葉はあるようだが上手く出ない、そう見えた。
三井は小さく息を吐き口を開く。
「はー、もう…」
「私も三井が好き!」
またも言葉が重なったが、恋の言葉は三井の脳内に直接届いたかのように鮮明に聞き取れた。
恋は強い意志を含んだ瞳で三井を射抜く。
その顔は赤く、どこか満足げにも見えた。
三井は頬に熱が集まるのを感じ取り恋を抱き寄せた。
「な、何急に」
「何でもねぇよ」
ギュッと力を込める三井に、恋は黙ってその腕の中に包まれているしか出来ない。
互いに気持ちが通じた実感があった。
恋がゆっくりと三井の背中へと腕を回すと、互いの鼓動に反して妙に穏やかな気持ちが二人を包んでいる気がしたのだった。
→アトガキ
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