妬心
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ほわほわと陽気な気分と共に眠気が増してくる季節、仙道は教室の自分の席でぼんやりとしていた。
休み時間中の教室はどこも騒がしい。
その騒がしさを耳にしつつも、時間など無視して容易に襲ってくる眠気と仙道は戦っていた。
くあっと大きく欠伸をした時、開いた窓から越野が声をかけて来た。
「聞いたぜ。お前も大変だなー」
うしゃしゃとどこか楽しそうな越野に仙道はきょとんと見返した。
「何が?」
「恋、サッカー部の1年に告白されたんだろ?人の彼女に告白するとか勇気あるよな」
「え?」
「…え?」
仙道の驚きの声に思わず越野も同じ言葉を返したが、瞬間越野の顔色が青ざめた。
「もしかして、知らなかったのか…?」
「あぁ、全く」
「うぇ!?いや、嘘だろ…何で言ってねぇんだよ…」
途端、バツが悪そうに越野は視線を落とし、小さく呟いた。
恋と仙道は付き合って半年は過ぎようかとしているが、恋の性格からしてその話をしていないとは思っていなかったのだ。
仙道はそんな越野に淡々と返すしかない。
「越野は何で知ってるんだ?」
「あ?いや、サッカー部の奴に聞いたんだけどよ。…悪い」
「別にいいさ。お前が悪いんじゃないだろ」
仙道は苦笑を浮かべているが、他人からその話を聞くのは良い気がしないだろうと思い、越野は努めて明るく言った。
「あー…でもよ、ちゃんと仙道が彼氏だからって断ったらしいぜ!」
ニカッと越野は笑ったが、仙道の顔はどこか浮かない気がした。
越野は自身の発言に酷く後悔したが、出てしまった言葉は取り消せずに上塗りするしかなかった。
「いや、まぁ当たり前だよな…。けど、相手の1年入ったばっかで知らなかったらしいしよ!ま、気にすんなよ!」
「そうだな」
越野はそう言い残しそそくさと去って行った。
仙道は何とは無しに教室内で恋の姿を探す。
クラスメイトでもある恋の姿は、その時どこにもなかった。
放課後、仙道が体育館へ向かっているとふいに聞き覚えのある声が真横から聞こえた。
「仙道!」
「ん?」
「そこどいて!」
「え?うわっ」
仙道が確認するよりも早く体に衝撃が走り、その物体を咄嗟に支えた。
見ればそれは恋で、わっぷなどと妙な声を上げていた。
「ごめんごめん。大丈夫?」
「いや、恋こそ大丈夫か?」
「仙道が支えてくれたから、大丈夫大丈夫!」
恋ははにかんだ笑顔で仙道を見上げた。
仙道は優しく笑うと無意識に恋の頭を撫でた。
「何か急いでた?」
「あー、ちょっとね」
「何?」
「…内緒!じゃね、また連絡するから!」
恋は最後にギュッと仙道に抱き着くと、すぐに離れて走り去って行った。
「え?あぁ、また」
仙道は1人取り残されその後ろ姿を見送った。
去り際の恋は、どこか意気揚々としていたように感じて仙道は首を微かに傾げるのだった。
その日、仙道は部活の帰り道を越野達と歩いていた。
話に花を咲かせ歩いていると、越野がある方向を見て立ち止まった。
「あ、恋」
「ん?あ、本当だ。一緒にいるの誰だろう」
仙道もそこへ視線を移せば、恋が同年代くらいの男と話していた。
越野はじーっと見るとあっけらかんと言い放つ。
「バイト先の奴じゃねぇの?」
「バイト?」
「何か短期で始めたとか言…もしかして聞いてねぇ…?」
越野のこの百面相はつい最近見た気がしたが、そんな事は今仙道にはどうでも良かった。
自然と仙道の声は低くなる。
「…あぁ」
「げっ、またかよ。恋の奴言っとけよ…」
「越野はよく知ってるんだな、恋の事」
「はぁ!?いや、あいつが…いや、まぁともかくだ!大丈夫だから!何か理由があるんだよ!な!」
「理由って?」
「あ?…それは知らねーけど…」
口籠る越野から視線を移せば、恋が男に照れた笑みを向けているのが見えた。
「悪い、またな」
仙道の胸はチリリと痛み気付けば走り出していた。
すぐに目的地に辿り着くと仙道は声を掛けた。
「恋」
「ん?え?仙道!?」
恋の顔は驚きに満ちているが、仙道はスタスタとその隣に立った。
仙道は、笑みを向けて恋の腰を引き寄せ男との距離を微かに離す。
「何してるんだ?そっちは誰?」
「あー、バイト先の水戸くん。湘北の1年らしいよ」
恋は引きつった笑みを浮かべ引き寄せられた腕に抵抗しようとしていたが、仙道は笑顔のまま離しはしなかった。
その笑みに何かやましい事でもあるのかと仙道は勘ぐりそうになっていたが、突然話題は仙道に向かって来た。
「ん?アンタ陵南のエースじゃん」
「ん?お前は桜木の…」
見ればどこかで見た顔がそこにはいた。
遠目からはよくわからなかったが、この出で立ちは桜木の近くで何度か見た覚えがあり、仙道もまた驚きの表情に変わる。
「花道の連れっす。水戸洋平。俺のバイト先に最近恋が入って来たんすよ」
「…そうか」
「けど、納得。そりゃあ、彼氏の為に…」
「水戸くん!?」
唐突に恋が声を張り上げ水戸を見ていた。
水戸は何かを察したのかニヤニヤと笑った。
「ん?あー…なるほどね。悪い悪い。じゃ、俺はもう行くな。またなー」
水戸はそれだけ言い軽く手を挙げるとあっさり別れて行った。
恋は手を振り仙道に向き直る。
「仙道はどうしたの?練習帰り?」
「そうだよ。恋ってバイトしてたんだ」
「え!?あ、うん、そうなの!言うタイミングなくてさ!」
恋はどこか慌てており、何かを隠しているように見えた。
だが、仙道はそこで言葉を飲み込み恋を抱きしめた。
「そうか」
突然の事に反応出来なかった恋は我に返ると顔を赤くした。
人が行き交う道端で抱きしめられては、周りからの視線が気になるというものだ。
「何?」
「いや、何か抱きしめたくなっただけ」
「そ、そう」
「…恋、好きだよ」
恋は、きつく抱きしめ甘く囁く仙道にどう反応して良いかがわからなくなり、人目もはばからず抱きしめられていた。
仙道は深く息を吸うが、その表情は酷く曇っているのだった。
この日、陵南高校は練習試合をしていた。
しかし、結果は惜敗。
応援に来ていた恋は、試合が終わると部室前に佇んでいた。
恋は暫く躊躇していたが、意を決して部室のドアをノックする。
中からは簡素な声が聞こえ、応えるように中へ入ると仙道1人がまだ着替えずにそこにいた。
他の部員はもう帰ったようで室内は酷く静かだった。
恋はおずおずと仙道の隣に座り、どう声をかけようかと考えていた。
「なぁ、恋」
「ん?」
「今日の試合、途中いた?」
思い掛けない言葉に恋の表情には驚きの色が滲む。
「え!?何で?」
「休憩の時、ちらっと見たらいなかったから」
「そんな事ないよ!たまたまトイレ行ってただけだよ」
「ふーん」
どこか慌てる恋を見て、仙道は素っ気なくそんな返事をした。
恋はその反応を気にするよりも、どう話を切り出したものかと考えていた。
と言うのも、越野から仙道が珍しく落ち込んでいるように見えたと聞き様子を見に来たのだ。
確かに今の仙道はどこか気落ちしているように見える。
「仙道?」
「ん?」
「あー、その…残念だったね」
「そうだな」
「えーっと…」
「恋」
「ん?」
恋が仙道を見返すとぐっと引き寄せられた。
突然の事に恋は目を丸くするが、仙道は恋の肩に頭を埋め言った。
「ちょっとだけこのままでいさせて」
「うん」
仙道が珍しく弱っているように思えて恋は頷きその背を撫でた。
それから日々は巡り、とある日の放課後、恋は廊下である男子生徒と談笑していた。
帰る間際なのか恋は荷物を手にしている。
ふいに恋の手が男子生徒に触れた時、恋を探していた仙道は頭が考えるよりも先に体が動き、恋の元へやって来た。
そして、無言で男を睨むと恋の手を引き歩き出す。
「え!?ちょ、仙道!?」
恋が驚きながらも連れ立って行き着いた先は屋上だった。
仙道はドアが閉まるなり恋に向き直った。
その表情にいつもの笑みは見られない。
「あいつ、誰?」
「え!?あ、サッカー部の子で…」
「何で一緒にいるんだ?」
「一緒って言うかちょっと話してただ…っ!?」
仙道の雰囲気に戸惑う恋だったが、唐突に頬を掴まれ上を向かされたかと思うとそのまま唇を塞がれた。
その口づけは酷く荒々しく、恋は目を見張り同時に荷物が床にドサリと落ちた。
その時唇が離れたが、わずか数センチの至近距離に仙道の瞳がある。
それは自信なさげに揺らいでいた。
「何で他の奴の事見るんだ」
「仙道?」
「触るなよ、他の奴」
再び荒々しく口づける仙道に恋は答えるすべすらない。
どんどん深く長くなる口づけに、恋の息は上がり始めていた。
堪らず恋は仙道の胸を軽く叩きやっとの事で唇は離れたが、仙道との距離は近いままだった。
視線が交わった仙道は眉を下げると、その顔を見られないようにか視線を逸らし呟いた。
「よそ見しないで俺だけ見て…」
「仙道…どうしたの?」
「何でバイトしてる事、すぐに言わなかったんだ?」
「だ、だからそれは言うタイミングが…」
「何で…告白されたの言わなかった?」
「え!?何それ…」
恋が驚愕の声を上げると、仙道は視線を戻し恋を見据えた。
その表情はどこか複雑そうだった。
「サッカー部の1年に告白されたんだろ?さっきの奴か?」
「え!?違…」
「じゃあ、誰だよ」
「ちょ、仙道!?」
怒気を含ませ少し口調が強くなると、なおも距離を縮めようとする仙道に恋はたじろいだ。
再び唇を奪われると恋が思った寸での所で、仙道の動きは止まった。
「恋は俺の事好きだよな?」
「…好きだよ」
「何で間があるんだよ…俺は恋しか見えてないのに」
恋は気恥ずかしく思い間ができてしまったが、それにすら心を掻き乱されて仙道は恋をギュッと抱きしめた。
いつもと違う抱き締め方に恋は身動きすらできない。
「それとさ、前に試合中いなくなってないって言ったよな?」
「…うん」
「いなくなってるよな、いつも。それで最後だけ戻って来る」
「そんな事…」
「俺は試合中だから確認は出来ていない。だから彦一に見てもらってたんだ」
仙道は以前言った恋の言葉がずっと気になっていた。
いくら試合中とは言え、休憩に入る時だけは恋の姿を無意識に探してしまう。
そして、その時には毎回見かけず不思議だったのだ。
「どこ行ってるんだ?」
その問いに恋は黙り込んでしまった。
仙道は場違いな笑みを浮かべ、恋を抱きしめる腕を少し緩めた。
「何で黙るんだよ。俺は恋がこんなに好きなのに。まるで俺だけが好きみたいだ」
仙道には恋が今何を考えているのかがわからない。
しかし、それでも仙道が恋に好意を寄せているのは変質しようがなく、繋ぎ止めたくて気持ちを吐露した。
恋は暫く黙ったままだったが、仙道を見上げた。
「あのね、仙道」
「何だ?」
「さっきのヤキモチ妬いたの…?」
答えにもなっていない問いだが、それには触れず仙道は素直に気持ちを吐き出した。
「当たり前だろ?俺は他の奴が恋を見たり、話したりするの本当は凄く嫌なんだ。他の奴が恋って呼ぶのも嫌だ。恋が触ったり触られたりするのも嫌。恋の隣にいていいのは俺だけなんだ」
「…言ってくれたらいいのに」
「言えるわけないだろ、カッコ悪い」
仙道はここまで素直に言葉を吐き出した事は今までになかった。
いつでもスマートでカッコいいと思ってもらえるような彼氏でありたいと思っていた。
普段、部活に忙しくあまり構えない事を心の何処かで気に病んでいたのかもしれない。
だから2人でいる時は、恋を優先し余裕のある男として振舞っていた。
女々しく言葉を口にするのはダサいとも思った。
けれど、疑惑が一度湧き起これば、それはどうしようもなく仙道を蝕んだ。
スマートに聞き出せればどんなによかっただろう。
けれど、恋が隠し事をする度にどんどんどうして良いかわからなくなり、独占欲ばかりが増していった。
結果、溢れ出した想いは堰を切って止まらなくなり、不様に恋へぶつけてしまい仙道はそれを後悔した。
経緯はどうあれ愛想を尽かされても仕方がないとも思ったが、恋の言葉はそれを吹き飛ばす。
「カッコ悪くないよ。可愛い」
「何だよ、それ」
複雑そうに仙道が恋を見れば、恋は優しく微笑んでいた。
「嬉しいって事。でも、ごめんね。そこまで不安にさせてると思ってなくて。…ねぇ」
「ん?」
「今日何の日か知ってる?」
「今日?」
「付き合って1年だよ」
恋がニコリと笑い仙道は少しだけ呆気にとられてしまう。
「あぁ…そうか。…そうだっけ?」
「忘れてた?」
「いや、覚えてるよ。当たり前だろ?」
「本当かなぁ?」
「信じてない?」
「んーん。仙道の事は全面的に信じてるよ。だから、はい」
恋は床に無造作に落ちてしまっていた袋を仙道に差し出した。
仙道は意味も分からずそれを見る。
「ん?」
「プレゼント。落としてごめん」
「いいのか?」
「うん。私があげたかっただけだし」
仙道が袋の中を見ればとある箱が入っていた。
恋に促され中を見れば欲しかったバッシュが入っていた。
「…高かっただろ、これ」
「大丈夫!その為にバイトしてたから!」
恋が満面の笑みで答えると、仙道はバイトの事がストンと腑に落ちた。
「あぁ…それでか…」
「うん、驚かせたくて。だから、ごめんね?黙ってて」
きっと、越野と水戸が言い淀んだのも恋がバイトを始めた理由を知っていたからだろう。
しかし、それを仙道本人に言うわけにもいかず曖昧な返事をした。
結果、仙道はモヤモヤとした気持ちを持つ事しかできなくなってしまったのだが、これが理由では仕方ないのかも知れないとも思った。
「それとね!私告白なんてされてないからね!」
「え?」
「私の友達がね、サッカー部に好きな子がいて、その子が1年でさっきの子なんだけど。そしたら中学の時からあの子も友達の事好きらしくてさ。で、ちょっと告白の練習に付き合ったと言うか…だから私に告白したんじゃないからね!」
「…そうか」
恋が告白されていたのは練習現場で、それを見たサッカー部員が勘違いをしたのが事の始まりだったようだ。
そして、人に伝わる内に尾ひれがつき、恋が断ったとまで伝わったのだろう。
仙道はホッとしつつも内心複雑な想いだった。
それが顔に出ていたのか、恋は不思議そうに仙道の顔を覗き込む。
「何で、まだちょっと不満気?」
「練習でも、恋に告白したって聞くとあまりいい気がしないな」
「え!?いや、あの、本当に何にもないよ!?」
「うん、分かってる。けど、嫌なものは嫌なんだ」
恋に愛の言葉を向けるのは自分だけで良いと仙道は思う。
他の男が恋に告白するのを想像しただけで、どうようもなく不快だった。
練習と言えど、恋に愛の言葉を向けて欲しくないのだ。
恋は真っ直ぐに向けられた気持ちに、少し気恥ずかしそうに言葉を紡いだ。
「もし、誰かに告白されても私の彼氏は仙道だけだよ?」
「…うん、ありがとう」
「あとね、試合中の話なんだけど」
「あぁ…」
「あれね、最後まで見てらんないの…」
「え?」
「悪い意味じゃなくてね!あのね!あの…」
恋は顔を徐々に紅潮させて言い澱んだ。
仙道は眉間を寄せて問う。
「何?」
「…仙道がカッコよすぎて見てらんないの…」
恥ずかしそうに目を瞑りそう言った恋に仙道の思考は止まった。
そんな仙道を見て呆れられたと思ったのか、恋は慌てて口を開いた。
「ごめんね!変だよね!でもね、あの、試合中の仙道って本当にカッコよくて動悸が激しくなるって言うか!だから…ちょっと離れて落ち着きたくて…いや、最後まで観たいんだよ!?観たいんだけ…ど…」
俯きがちに早口で言い連ねる恋がふと仙道を見れば、仙道は額に手を当てそっぽを向いていた。
「仙道?」
「ごめん、顔見ないで」
そう言い仙道は恋を優しく腕の中へ招き入れた。
その優しい手つきに、恋は仙道が照れていると分かり少し笑ってしまう。
「凄く嬉しい。ありがとう」
「うん。最後まで観れるように頑張るからね」
「いや、いいよ。観に来てくれるだけで充分だから」
「でも…」
恋は先程までのやりとりから不安にさせている事に気づき、そんな思いをさせるのは嫌だと思った。
ならば出来るだけ我慢して最後まで見ようと思ったのだが、仙道は優しく笑みを返した。
「理由聞くまではどこ行ってるのかとか、誰かに会ってるんじゃないかとか考えてたけど、今の聞いたらどうでも良くなった」
仙道は腕の力を緩めると少しだけ恋と距離を開いた。
しかし、両腕は腰をがっしりと包み離しはしない。
「俺、やっぱり恋が好きだよ。ずっと俺だけ見て?」
「うん」
「ありがとう」
ニコリと満足そうに笑うと仙道は何かを思い出したのか、ポケットに手を入れた。
腕から解放され恋が仙道の手元を見ているとそこには細長い箱が握られていた。
「そうだ、これ」
「ん?」
差し出された箱を不思議そうに恋が受け取ると、ニコリと仙道は笑った。
「1年記念」
「え!?」
「貰ってくれるか?」
「う、うん!開けていい?」
「どうぞ?」
驚きつつもどこかワクワクとした表情の恋に仙道は微笑み返した。
恋は包みを丁寧に開けると中を見て感嘆の声を上げた。
「わ、可愛い。ありがとう!」
それは小ぶりのトップが付いたネックレスだった。
恋は煌めくそれを満面の笑みで眺め、それを仙道も優しく見守っていた。
「付けようか」
「うん!」
恋の背に回り仙道がネックレスを付けると、恋は見てくれと言わんばかりに上半身だけで振り返る。
「うん、やっぱり似合う」
ニコリと笑う仙道に恋ははにかんだ。
「ありがと…ぅん!?」
礼を言う恋の言葉は仙道の唇により遮られた。
先ほどよりも優しく甘い口づけに頭が痺れ始めた時、そっと愛おしむように感触が離れた。
「恋」
仙道は優しい声音で恋の名を呼ぶ。
恋は蕩けた表情で見つめていた。
「好き。よそ見なんかしないでずっと俺だけ見てて。それで何度も俺に惚れて?俺は何度も恋に惚れてるから。きっとこれからもそれは変わりそうにない」
朗らかに笑う仙道に恋は瞬く間に頬を紅潮させた。
その告白は恋の心を捉えるには十分過ぎた。
照れつつも笑みを返すと仙道は再び優しく口づけた。
今心にある暖かな物とどこか似た陽射しは、いつまでも2人を見守っているのだった。
→アトガキ
休み時間中の教室はどこも騒がしい。
その騒がしさを耳にしつつも、時間など無視して容易に襲ってくる眠気と仙道は戦っていた。
くあっと大きく欠伸をした時、開いた窓から越野が声をかけて来た。
「聞いたぜ。お前も大変だなー」
うしゃしゃとどこか楽しそうな越野に仙道はきょとんと見返した。
「何が?」
「恋、サッカー部の1年に告白されたんだろ?人の彼女に告白するとか勇気あるよな」
「え?」
「…え?」
仙道の驚きの声に思わず越野も同じ言葉を返したが、瞬間越野の顔色が青ざめた。
「もしかして、知らなかったのか…?」
「あぁ、全く」
「うぇ!?いや、嘘だろ…何で言ってねぇんだよ…」
途端、バツが悪そうに越野は視線を落とし、小さく呟いた。
恋と仙道は付き合って半年は過ぎようかとしているが、恋の性格からしてその話をしていないとは思っていなかったのだ。
仙道はそんな越野に淡々と返すしかない。
「越野は何で知ってるんだ?」
「あ?いや、サッカー部の奴に聞いたんだけどよ。…悪い」
「別にいいさ。お前が悪いんじゃないだろ」
仙道は苦笑を浮かべているが、他人からその話を聞くのは良い気がしないだろうと思い、越野は努めて明るく言った。
「あー…でもよ、ちゃんと仙道が彼氏だからって断ったらしいぜ!」
ニカッと越野は笑ったが、仙道の顔はどこか浮かない気がした。
越野は自身の発言に酷く後悔したが、出てしまった言葉は取り消せずに上塗りするしかなかった。
「いや、まぁ当たり前だよな…。けど、相手の1年入ったばっかで知らなかったらしいしよ!ま、気にすんなよ!」
「そうだな」
越野はそう言い残しそそくさと去って行った。
仙道は何とは無しに教室内で恋の姿を探す。
クラスメイトでもある恋の姿は、その時どこにもなかった。
放課後、仙道が体育館へ向かっているとふいに聞き覚えのある声が真横から聞こえた。
「仙道!」
「ん?」
「そこどいて!」
「え?うわっ」
仙道が確認するよりも早く体に衝撃が走り、その物体を咄嗟に支えた。
見ればそれは恋で、わっぷなどと妙な声を上げていた。
「ごめんごめん。大丈夫?」
「いや、恋こそ大丈夫か?」
「仙道が支えてくれたから、大丈夫大丈夫!」
恋ははにかんだ笑顔で仙道を見上げた。
仙道は優しく笑うと無意識に恋の頭を撫でた。
「何か急いでた?」
「あー、ちょっとね」
「何?」
「…内緒!じゃね、また連絡するから!」
恋は最後にギュッと仙道に抱き着くと、すぐに離れて走り去って行った。
「え?あぁ、また」
仙道は1人取り残されその後ろ姿を見送った。
去り際の恋は、どこか意気揚々としていたように感じて仙道は首を微かに傾げるのだった。
***
その日、仙道は部活の帰り道を越野達と歩いていた。
話に花を咲かせ歩いていると、越野がある方向を見て立ち止まった。
「あ、恋」
「ん?あ、本当だ。一緒にいるの誰だろう」
仙道もそこへ視線を移せば、恋が同年代くらいの男と話していた。
越野はじーっと見るとあっけらかんと言い放つ。
「バイト先の奴じゃねぇの?」
「バイト?」
「何か短期で始めたとか言…もしかして聞いてねぇ…?」
越野のこの百面相はつい最近見た気がしたが、そんな事は今仙道にはどうでも良かった。
自然と仙道の声は低くなる。
「…あぁ」
「げっ、またかよ。恋の奴言っとけよ…」
「越野はよく知ってるんだな、恋の事」
「はぁ!?いや、あいつが…いや、まぁともかくだ!大丈夫だから!何か理由があるんだよ!な!」
「理由って?」
「あ?…それは知らねーけど…」
口籠る越野から視線を移せば、恋が男に照れた笑みを向けているのが見えた。
「悪い、またな」
仙道の胸はチリリと痛み気付けば走り出していた。
すぐに目的地に辿り着くと仙道は声を掛けた。
「恋」
「ん?え?仙道!?」
恋の顔は驚きに満ちているが、仙道はスタスタとその隣に立った。
仙道は、笑みを向けて恋の腰を引き寄せ男との距離を微かに離す。
「何してるんだ?そっちは誰?」
「あー、バイト先の水戸くん。湘北の1年らしいよ」
恋は引きつった笑みを浮かべ引き寄せられた腕に抵抗しようとしていたが、仙道は笑顔のまま離しはしなかった。
その笑みに何かやましい事でもあるのかと仙道は勘ぐりそうになっていたが、突然話題は仙道に向かって来た。
「ん?アンタ陵南のエースじゃん」
「ん?お前は桜木の…」
見ればどこかで見た顔がそこにはいた。
遠目からはよくわからなかったが、この出で立ちは桜木の近くで何度か見た覚えがあり、仙道もまた驚きの表情に変わる。
「花道の連れっす。水戸洋平。俺のバイト先に最近恋が入って来たんすよ」
「…そうか」
「けど、納得。そりゃあ、彼氏の為に…」
「水戸くん!?」
唐突に恋が声を張り上げ水戸を見ていた。
水戸は何かを察したのかニヤニヤと笑った。
「ん?あー…なるほどね。悪い悪い。じゃ、俺はもう行くな。またなー」
水戸はそれだけ言い軽く手を挙げるとあっさり別れて行った。
恋は手を振り仙道に向き直る。
「仙道はどうしたの?練習帰り?」
「そうだよ。恋ってバイトしてたんだ」
「え!?あ、うん、そうなの!言うタイミングなくてさ!」
恋はどこか慌てており、何かを隠しているように見えた。
だが、仙道はそこで言葉を飲み込み恋を抱きしめた。
「そうか」
突然の事に反応出来なかった恋は我に返ると顔を赤くした。
人が行き交う道端で抱きしめられては、周りからの視線が気になるというものだ。
「何?」
「いや、何か抱きしめたくなっただけ」
「そ、そう」
「…恋、好きだよ」
恋は、きつく抱きしめ甘く囁く仙道にどう反応して良いかがわからなくなり、人目もはばからず抱きしめられていた。
仙道は深く息を吸うが、その表情は酷く曇っているのだった。
***
この日、陵南高校は練習試合をしていた。
しかし、結果は惜敗。
応援に来ていた恋は、試合が終わると部室前に佇んでいた。
恋は暫く躊躇していたが、意を決して部室のドアをノックする。
中からは簡素な声が聞こえ、応えるように中へ入ると仙道1人がまだ着替えずにそこにいた。
他の部員はもう帰ったようで室内は酷く静かだった。
恋はおずおずと仙道の隣に座り、どう声をかけようかと考えていた。
「なぁ、恋」
「ん?」
「今日の試合、途中いた?」
思い掛けない言葉に恋の表情には驚きの色が滲む。
「え!?何で?」
「休憩の時、ちらっと見たらいなかったから」
「そんな事ないよ!たまたまトイレ行ってただけだよ」
「ふーん」
どこか慌てる恋を見て、仙道は素っ気なくそんな返事をした。
恋はその反応を気にするよりも、どう話を切り出したものかと考えていた。
と言うのも、越野から仙道が珍しく落ち込んでいるように見えたと聞き様子を見に来たのだ。
確かに今の仙道はどこか気落ちしているように見える。
「仙道?」
「ん?」
「あー、その…残念だったね」
「そうだな」
「えーっと…」
「恋」
「ん?」
恋が仙道を見返すとぐっと引き寄せられた。
突然の事に恋は目を丸くするが、仙道は恋の肩に頭を埋め言った。
「ちょっとだけこのままでいさせて」
「うん」
仙道が珍しく弱っているように思えて恋は頷きその背を撫でた。
***
それから日々は巡り、とある日の放課後、恋は廊下である男子生徒と談笑していた。
帰る間際なのか恋は荷物を手にしている。
ふいに恋の手が男子生徒に触れた時、恋を探していた仙道は頭が考えるよりも先に体が動き、恋の元へやって来た。
そして、無言で男を睨むと恋の手を引き歩き出す。
「え!?ちょ、仙道!?」
恋が驚きながらも連れ立って行き着いた先は屋上だった。
仙道はドアが閉まるなり恋に向き直った。
その表情にいつもの笑みは見られない。
「あいつ、誰?」
「え!?あ、サッカー部の子で…」
「何で一緒にいるんだ?」
「一緒って言うかちょっと話してただ…っ!?」
仙道の雰囲気に戸惑う恋だったが、唐突に頬を掴まれ上を向かされたかと思うとそのまま唇を塞がれた。
その口づけは酷く荒々しく、恋は目を見張り同時に荷物が床にドサリと落ちた。
その時唇が離れたが、わずか数センチの至近距離に仙道の瞳がある。
それは自信なさげに揺らいでいた。
「何で他の奴の事見るんだ」
「仙道?」
「触るなよ、他の奴」
再び荒々しく口づける仙道に恋は答えるすべすらない。
どんどん深く長くなる口づけに、恋の息は上がり始めていた。
堪らず恋は仙道の胸を軽く叩きやっとの事で唇は離れたが、仙道との距離は近いままだった。
視線が交わった仙道は眉を下げると、その顔を見られないようにか視線を逸らし呟いた。
「よそ見しないで俺だけ見て…」
「仙道…どうしたの?」
「何でバイトしてる事、すぐに言わなかったんだ?」
「だ、だからそれは言うタイミングが…」
「何で…告白されたの言わなかった?」
「え!?何それ…」
恋が驚愕の声を上げると、仙道は視線を戻し恋を見据えた。
その表情はどこか複雑そうだった。
「サッカー部の1年に告白されたんだろ?さっきの奴か?」
「え!?違…」
「じゃあ、誰だよ」
「ちょ、仙道!?」
怒気を含ませ少し口調が強くなると、なおも距離を縮めようとする仙道に恋はたじろいだ。
再び唇を奪われると恋が思った寸での所で、仙道の動きは止まった。
「恋は俺の事好きだよな?」
「…好きだよ」
「何で間があるんだよ…俺は恋しか見えてないのに」
恋は気恥ずかしく思い間ができてしまったが、それにすら心を掻き乱されて仙道は恋をギュッと抱きしめた。
いつもと違う抱き締め方に恋は身動きすらできない。
「それとさ、前に試合中いなくなってないって言ったよな?」
「…うん」
「いなくなってるよな、いつも。それで最後だけ戻って来る」
「そんな事…」
「俺は試合中だから確認は出来ていない。だから彦一に見てもらってたんだ」
仙道は以前言った恋の言葉がずっと気になっていた。
いくら試合中とは言え、休憩に入る時だけは恋の姿を無意識に探してしまう。
そして、その時には毎回見かけず不思議だったのだ。
「どこ行ってるんだ?」
その問いに恋は黙り込んでしまった。
仙道は場違いな笑みを浮かべ、恋を抱きしめる腕を少し緩めた。
「何で黙るんだよ。俺は恋がこんなに好きなのに。まるで俺だけが好きみたいだ」
仙道には恋が今何を考えているのかがわからない。
しかし、それでも仙道が恋に好意を寄せているのは変質しようがなく、繋ぎ止めたくて気持ちを吐露した。
恋は暫く黙ったままだったが、仙道を見上げた。
「あのね、仙道」
「何だ?」
「さっきのヤキモチ妬いたの…?」
答えにもなっていない問いだが、それには触れず仙道は素直に気持ちを吐き出した。
「当たり前だろ?俺は他の奴が恋を見たり、話したりするの本当は凄く嫌なんだ。他の奴が恋って呼ぶのも嫌だ。恋が触ったり触られたりするのも嫌。恋の隣にいていいのは俺だけなんだ」
「…言ってくれたらいいのに」
「言えるわけないだろ、カッコ悪い」
仙道はここまで素直に言葉を吐き出した事は今までになかった。
いつでもスマートでカッコいいと思ってもらえるような彼氏でありたいと思っていた。
普段、部活に忙しくあまり構えない事を心の何処かで気に病んでいたのかもしれない。
だから2人でいる時は、恋を優先し余裕のある男として振舞っていた。
女々しく言葉を口にするのはダサいとも思った。
けれど、疑惑が一度湧き起これば、それはどうしようもなく仙道を蝕んだ。
スマートに聞き出せればどんなによかっただろう。
けれど、恋が隠し事をする度にどんどんどうして良いかわからなくなり、独占欲ばかりが増していった。
結果、溢れ出した想いは堰を切って止まらなくなり、不様に恋へぶつけてしまい仙道はそれを後悔した。
経緯はどうあれ愛想を尽かされても仕方がないとも思ったが、恋の言葉はそれを吹き飛ばす。
「カッコ悪くないよ。可愛い」
「何だよ、それ」
複雑そうに仙道が恋を見れば、恋は優しく微笑んでいた。
「嬉しいって事。でも、ごめんね。そこまで不安にさせてると思ってなくて。…ねぇ」
「ん?」
「今日何の日か知ってる?」
「今日?」
「付き合って1年だよ」
恋がニコリと笑い仙道は少しだけ呆気にとられてしまう。
「あぁ…そうか。…そうだっけ?」
「忘れてた?」
「いや、覚えてるよ。当たり前だろ?」
「本当かなぁ?」
「信じてない?」
「んーん。仙道の事は全面的に信じてるよ。だから、はい」
恋は床に無造作に落ちてしまっていた袋を仙道に差し出した。
仙道は意味も分からずそれを見る。
「ん?」
「プレゼント。落としてごめん」
「いいのか?」
「うん。私があげたかっただけだし」
仙道が袋の中を見ればとある箱が入っていた。
恋に促され中を見れば欲しかったバッシュが入っていた。
「…高かっただろ、これ」
「大丈夫!その為にバイトしてたから!」
恋が満面の笑みで答えると、仙道はバイトの事がストンと腑に落ちた。
「あぁ…それでか…」
「うん、驚かせたくて。だから、ごめんね?黙ってて」
きっと、越野と水戸が言い淀んだのも恋がバイトを始めた理由を知っていたからだろう。
しかし、それを仙道本人に言うわけにもいかず曖昧な返事をした。
結果、仙道はモヤモヤとした気持ちを持つ事しかできなくなってしまったのだが、これが理由では仕方ないのかも知れないとも思った。
「それとね!私告白なんてされてないからね!」
「え?」
「私の友達がね、サッカー部に好きな子がいて、その子が1年でさっきの子なんだけど。そしたら中学の時からあの子も友達の事好きらしくてさ。で、ちょっと告白の練習に付き合ったと言うか…だから私に告白したんじゃないからね!」
「…そうか」
恋が告白されていたのは練習現場で、それを見たサッカー部員が勘違いをしたのが事の始まりだったようだ。
そして、人に伝わる内に尾ひれがつき、恋が断ったとまで伝わったのだろう。
仙道はホッとしつつも内心複雑な想いだった。
それが顔に出ていたのか、恋は不思議そうに仙道の顔を覗き込む。
「何で、まだちょっと不満気?」
「練習でも、恋に告白したって聞くとあまりいい気がしないな」
「え!?いや、あの、本当に何にもないよ!?」
「うん、分かってる。けど、嫌なものは嫌なんだ」
恋に愛の言葉を向けるのは自分だけで良いと仙道は思う。
他の男が恋に告白するのを想像しただけで、どうようもなく不快だった。
練習と言えど、恋に愛の言葉を向けて欲しくないのだ。
恋は真っ直ぐに向けられた気持ちに、少し気恥ずかしそうに言葉を紡いだ。
「もし、誰かに告白されても私の彼氏は仙道だけだよ?」
「…うん、ありがとう」
「あとね、試合中の話なんだけど」
「あぁ…」
「あれね、最後まで見てらんないの…」
「え?」
「悪い意味じゃなくてね!あのね!あの…」
恋は顔を徐々に紅潮させて言い澱んだ。
仙道は眉間を寄せて問う。
「何?」
「…仙道がカッコよすぎて見てらんないの…」
恥ずかしそうに目を瞑りそう言った恋に仙道の思考は止まった。
そんな仙道を見て呆れられたと思ったのか、恋は慌てて口を開いた。
「ごめんね!変だよね!でもね、あの、試合中の仙道って本当にカッコよくて動悸が激しくなるって言うか!だから…ちょっと離れて落ち着きたくて…いや、最後まで観たいんだよ!?観たいんだけ…ど…」
俯きがちに早口で言い連ねる恋がふと仙道を見れば、仙道は額に手を当てそっぽを向いていた。
「仙道?」
「ごめん、顔見ないで」
そう言い仙道は恋を優しく腕の中へ招き入れた。
その優しい手つきに、恋は仙道が照れていると分かり少し笑ってしまう。
「凄く嬉しい。ありがとう」
「うん。最後まで観れるように頑張るからね」
「いや、いいよ。観に来てくれるだけで充分だから」
「でも…」
恋は先程までのやりとりから不安にさせている事に気づき、そんな思いをさせるのは嫌だと思った。
ならば出来るだけ我慢して最後まで見ようと思ったのだが、仙道は優しく笑みを返した。
「理由聞くまではどこ行ってるのかとか、誰かに会ってるんじゃないかとか考えてたけど、今の聞いたらどうでも良くなった」
仙道は腕の力を緩めると少しだけ恋と距離を開いた。
しかし、両腕は腰をがっしりと包み離しはしない。
「俺、やっぱり恋が好きだよ。ずっと俺だけ見て?」
「うん」
「ありがとう」
ニコリと満足そうに笑うと仙道は何かを思い出したのか、ポケットに手を入れた。
腕から解放され恋が仙道の手元を見ているとそこには細長い箱が握られていた。
「そうだ、これ」
「ん?」
差し出された箱を不思議そうに恋が受け取ると、ニコリと仙道は笑った。
「1年記念」
「え!?」
「貰ってくれるか?」
「う、うん!開けていい?」
「どうぞ?」
驚きつつもどこかワクワクとした表情の恋に仙道は微笑み返した。
恋は包みを丁寧に開けると中を見て感嘆の声を上げた。
「わ、可愛い。ありがとう!」
それは小ぶりのトップが付いたネックレスだった。
恋は煌めくそれを満面の笑みで眺め、それを仙道も優しく見守っていた。
「付けようか」
「うん!」
恋の背に回り仙道がネックレスを付けると、恋は見てくれと言わんばかりに上半身だけで振り返る。
「うん、やっぱり似合う」
ニコリと笑う仙道に恋ははにかんだ。
「ありがと…ぅん!?」
礼を言う恋の言葉は仙道の唇により遮られた。
先ほどよりも優しく甘い口づけに頭が痺れ始めた時、そっと愛おしむように感触が離れた。
「恋」
仙道は優しい声音で恋の名を呼ぶ。
恋は蕩けた表情で見つめていた。
「好き。よそ見なんかしないでずっと俺だけ見てて。それで何度も俺に惚れて?俺は何度も恋に惚れてるから。きっとこれからもそれは変わりそうにない」
朗らかに笑う仙道に恋は瞬く間に頬を紅潮させた。
その告白は恋の心を捉えるには十分過ぎた。
照れつつも笑みを返すと仙道は再び優しく口づけた。
今心にある暖かな物とどこか似た陽射しは、いつまでも2人を見守っているのだった。
→アトガキ
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