約束
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初夏特有の清々しさと、にじり寄る暑さが交わう頃、如月は教科担当が来るまでの数分をぼんやりと教科書をめくりながら過ごしていた。
ふと、髪に時々訪れる違和感に気付きその原因であろう後ろへ軽く振り向いた。
そこには眠そうな目をした流川がいる。
流川は、ぼんやりと如月の髪を軽く引っ張っては離してと繰り返していた。
流川は如月の怪訝そうな視線に気づくと口を開いた。
「髪…」
「え?」
「どうなってるんだ?」
「何が?」
「くるくるしてる」
流川は、なおも如月の髪を引っ張っては離しと弄び疑問を投げかける。
如月は合点がいき反対の髪を一筋摘んで答えた。
「あぁ、これ?パーマあててるからクルクルなんだよ」
如月は入学当初から髪に軽くパーマをあてているのだが、今更ながらにそんな事を言われ少し呆れてしまう。
初めての席替えで流川の前の席になったのは先週の事。
それから1週間ほど経つのだが、それまで毎日同じ頭を後ろから見ているはずの流川は今更そんな事を言ってのけたのだ。
流川の事だからきっと人の髪型など関心もないのだろうが、改めて言われてしまうとどこか物悲しくもあった。
しかし、流川はそんな如月の胸中など知る由もなく髪を見つめている。
「ほう…」
「何、珍しい?」
「そう…だな」
記憶を辿る流川は思い当たる事がなかったのか、そんな返事をするが、確かバスケ部マネージャーの女子は同じ様にパーマがかかっていたと如月は記憶している。
2人がやり取りしているのを見た事もあり、それなりに近しい間柄にも見えていたのだが、流川の今の答えにやはり他人の髪型などには興味がないのだろうと妙に納得してしまった。
「そう…。うん、でも急に引っ張らないでくれない?ビックリするから」
如月が苦笑いを浮かべそう告げると、流川は今更気付いたのかパッと手を離した。
「…悪い」
「いや、いいけどさ」
「…いいな…くるくる」
「え?」
そして、もう1度だけ髪に触れると机に突っ伏してしまった。
もしや、今のは寝惚けていたのだろうかと如月の頭には過ぎる。
流川はその後静かに寝息を立て始めたので、真相は近いのかもしれないと呆れつつも、如月は今し方触れられた髪に同じ様に軽く触れた。
如月はなぜか妙に気恥ずかしく、口元を髪ごと覆い頬杖をついたのだった。
あれから数日、またも後ろから感じる感触に如月は振り返る。
「何か用?」
「いや」
そこには流川がいつもと同じ顔で如月の髪に触れていた。
あの日から、何故かふいに髪に触れられる機会が極端に増えていた。
端正な顔立ちをし、バスケ部エースとして名を轟かせ始めている流川とそんなやり取りが出来るのは内心まんざらでもないのだが、いかんせん唐突に髪を触れられるので不快まではいかずとも気持ちのいいものではなかった。
しかも大抵が眠そうな、所謂寝惚け眼の時なので、流川はほぼほぼ無意識で触っている様だ。
如月は軽く溜息をつき言葉を発した。
「じゃあ、意味もなく引っ張らないでくれない?」
「あぁ」
「流川くん?」
流川は頷いたにも関わらずまだ触っていて、如月は眉を顰めて流川を見た。
流川はその視線を受け、名残惜しそうに手を離すと言った。
「いいな、これ」
「うん?」
「くるくる」
「そう…ですか」
微かに笑った様に見えた流川に、如月は驚きつつも頬に熱が集まるのを感じた。
だが、そんな如月など放ったまま、流川は再び眠りにつき始めた。
授業中、8割方寝ている流川に如月は少し呆れて前に向き直るのだった。
それから暫く経った朝、如月が自身の席に着いていると、朝練を終えたであろう流川が教室に入って来た。
友人と会話していた如月が席にやって来た流川に挨拶すると、鞄を机に置いた流川は少し目を見開きつつ口を開いた。
「髪…」
「ん?」
「切ったのか」
「あぁ、うん、夏だし切りたくて」
暑さが身に堪え始めたのに合わせ、週明けの今日、如月はバッサリと髪を切って来ていた。
パーマをあて、ふわふわと揺れていた髪は跡形もなくショートストレートへと変貌していた。
「そうか」
「似合わない?」
どこか声のトーンが下がった様に感じた如月は小首を傾げた。
丁度そこでチャイムが鳴り友人達は席へと戻っていく。
如月がそれを見送り視線を戻すと、流川は如月の髪を見つめて着席し答えた。
「そうじゃない。…けど」
「けど?」
「くるくるの方が好きだった」
サラリと言ってのけた流川に驚きつつも、少し嬉しく感じた如月は冗談めかして笑った。
「…じゃあ、また伸ばしてあてようかな?」
「本当か?」
「まぁ、あれだけ伸ばすには時間かかるから、すぐには無理だよ?」
「そうか。期待してる」
意外な相槌に如月は戸惑いが生まれ、それを隠す様に呆れた顔をした 。
「話聞いてた?まだまだ無理だよ?ていうか、他のロングでパーマあててる子とかじゃダメなの?」
「あぁ…そうだな」
如月の提案に今更気づいたのか、流川は頷いた。
そもそも何が気に入ったのか女子の髪を触る流川はそれ自体が珍しい。
女子には興味などなく、バスケ一筋、それが周囲からの流川に対する評価だろう。
その流川が如月の髪に頻繁に触れると言うのは些か違和感があるのだ。
如月の髪に触れるのならば、他の女子のを触ってもいいはずだ。
そう思ったからこそ出た言葉ではあるのだが、その肯定の言葉に如月の胸は何故かチクリと痛んだ気がした。
ある日、如月がクラスで集めたノートを手に廊下を歩いているとふいに呼び止められた。
「如月」
「何?」
そこにいたのは流川で、スタスタと如月に近寄ってくると開口一番こう言った。
「ダメだった」
「何が?」
「他の奴のくるくる」
「ん?」
「お前のくるくるが良い」
『くるくる』と言う言葉に髪の事だとすぐに理解する。
流川は淡々と言うが、如月は戸惑いが隠せずに、ぎこちなく礼を言った。
「え、えっと…ありがと」
「だから、期待してる」
「あー、うん」
その言葉に特別な意味などないのだろうが、如月は何か芽生えるものを胸に感じる。
如月が複雑そうに表情を変えていると、流川は如月の手にあるノートの束に目が行き、それを持ち上げた。
如月は唐突になくなった重みに流川を見る。
「え、流川くん?」
「重そうだから持つ」
重さはあるものの、1人で持てない量でもない。
だが、流川はそう言い残しスタスタ歩き始めてしまった。
如月は流川の服をグッと掴み、遠慮する。
「いいよ、持てるし!」
「別にいい。触らせて貰う礼だ」
触らせて貰った、ではなく、触らせて貰う、と言う未来の事に対する礼に如月は何故か自然と笑みが溢れてしまう。
その約束が果たせるかは分からないのだが、それを実現したい思いがじわじわと湧いてくる。
そして、どこまでもよくわからない人だと思った。
仕方なく手ぶらで流川の隣を歩いていると、流川が唐突に如月を見て言った。
「くるくるの如月は好きだ」
どこか言葉足らずに感じるが、言いたい意味は伝わり、如月は苦笑いをした。
「えー…パーマじゃないと好きじゃないって事?」
「…どうだろう」
「何それ!」
視線を宙に彷徨わせて考えた流川の答えに如月は笑ってしまった。
流川の言葉は深い意味など持たないのだろう。
ただ、ふわふわとして離せば戻る髪が気に入ったに過ぎないのかも知れないと如月は思った。
「でも、お前はお前だから」
「え?あー、うん、ありがと」
「どっちも嫌いじゃない。可愛いと思う」
「え!?」
その言葉に如月は驚愕するしか出来なかった。
流川の口から他人に対して『可愛い』などと感想が生まれる事自体が青天の霹靂の様なものだ。
その場で固まる如月に流川は振り向いた。
「何だ?」
「う、ううん!何でもない!また伸ばすね!」
「じゃあ、期待してる」
「う、うん!」
如月は頷き流川の後を追う。
流川は普段と変わらず無表情のままだ。
きっと深い意味など無いのだろうが、如月の胸の高鳴りは徐々に増していくのだった。
→アトガキ
ふと、髪に時々訪れる違和感に気付きその原因であろう後ろへ軽く振り向いた。
そこには眠そうな目をした流川がいる。
流川は、ぼんやりと如月の髪を軽く引っ張っては離してと繰り返していた。
流川は如月の怪訝そうな視線に気づくと口を開いた。
「髪…」
「え?」
「どうなってるんだ?」
「何が?」
「くるくるしてる」
流川は、なおも如月の髪を引っ張っては離しと弄び疑問を投げかける。
如月は合点がいき反対の髪を一筋摘んで答えた。
「あぁ、これ?パーマあててるからクルクルなんだよ」
如月は入学当初から髪に軽くパーマをあてているのだが、今更ながらにそんな事を言われ少し呆れてしまう。
初めての席替えで流川の前の席になったのは先週の事。
それから1週間ほど経つのだが、それまで毎日同じ頭を後ろから見ているはずの流川は今更そんな事を言ってのけたのだ。
流川の事だからきっと人の髪型など関心もないのだろうが、改めて言われてしまうとどこか物悲しくもあった。
しかし、流川はそんな如月の胸中など知る由もなく髪を見つめている。
「ほう…」
「何、珍しい?」
「そう…だな」
記憶を辿る流川は思い当たる事がなかったのか、そんな返事をするが、確かバスケ部マネージャーの女子は同じ様にパーマがかかっていたと如月は記憶している。
2人がやり取りしているのを見た事もあり、それなりに近しい間柄にも見えていたのだが、流川の今の答えにやはり他人の髪型などには興味がないのだろうと妙に納得してしまった。
「そう…。うん、でも急に引っ張らないでくれない?ビックリするから」
如月が苦笑いを浮かべそう告げると、流川は今更気付いたのかパッと手を離した。
「…悪い」
「いや、いいけどさ」
「…いいな…くるくる」
「え?」
そして、もう1度だけ髪に触れると机に突っ伏してしまった。
もしや、今のは寝惚けていたのだろうかと如月の頭には過ぎる。
流川はその後静かに寝息を立て始めたので、真相は近いのかもしれないと呆れつつも、如月は今し方触れられた髪に同じ様に軽く触れた。
如月はなぜか妙に気恥ずかしく、口元を髪ごと覆い頬杖をついたのだった。
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あれから数日、またも後ろから感じる感触に如月は振り返る。
「何か用?」
「いや」
そこには流川がいつもと同じ顔で如月の髪に触れていた。
あの日から、何故かふいに髪に触れられる機会が極端に増えていた。
端正な顔立ちをし、バスケ部エースとして名を轟かせ始めている流川とそんなやり取りが出来るのは内心まんざらでもないのだが、いかんせん唐突に髪を触れられるので不快まではいかずとも気持ちのいいものではなかった。
しかも大抵が眠そうな、所謂寝惚け眼の時なので、流川はほぼほぼ無意識で触っている様だ。
如月は軽く溜息をつき言葉を発した。
「じゃあ、意味もなく引っ張らないでくれない?」
「あぁ」
「流川くん?」
流川は頷いたにも関わらずまだ触っていて、如月は眉を顰めて流川を見た。
流川はその視線を受け、名残惜しそうに手を離すと言った。
「いいな、これ」
「うん?」
「くるくる」
「そう…ですか」
微かに笑った様に見えた流川に、如月は驚きつつも頬に熱が集まるのを感じた。
だが、そんな如月など放ったまま、流川は再び眠りにつき始めた。
授業中、8割方寝ている流川に如月は少し呆れて前に向き直るのだった。
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それから暫く経った朝、如月が自身の席に着いていると、朝練を終えたであろう流川が教室に入って来た。
友人と会話していた如月が席にやって来た流川に挨拶すると、鞄を机に置いた流川は少し目を見開きつつ口を開いた。
「髪…」
「ん?」
「切ったのか」
「あぁ、うん、夏だし切りたくて」
暑さが身に堪え始めたのに合わせ、週明けの今日、如月はバッサリと髪を切って来ていた。
パーマをあて、ふわふわと揺れていた髪は跡形もなくショートストレートへと変貌していた。
「そうか」
「似合わない?」
どこか声のトーンが下がった様に感じた如月は小首を傾げた。
丁度そこでチャイムが鳴り友人達は席へと戻っていく。
如月がそれを見送り視線を戻すと、流川は如月の髪を見つめて着席し答えた。
「そうじゃない。…けど」
「けど?」
「くるくるの方が好きだった」
サラリと言ってのけた流川に驚きつつも、少し嬉しく感じた如月は冗談めかして笑った。
「…じゃあ、また伸ばしてあてようかな?」
「本当か?」
「まぁ、あれだけ伸ばすには時間かかるから、すぐには無理だよ?」
「そうか。期待してる」
意外な相槌に如月は戸惑いが生まれ、それを隠す様に呆れた顔をした 。
「話聞いてた?まだまだ無理だよ?ていうか、他のロングでパーマあててる子とかじゃダメなの?」
「あぁ…そうだな」
如月の提案に今更気づいたのか、流川は頷いた。
そもそも何が気に入ったのか女子の髪を触る流川はそれ自体が珍しい。
女子には興味などなく、バスケ一筋、それが周囲からの流川に対する評価だろう。
その流川が如月の髪に頻繁に触れると言うのは些か違和感があるのだ。
如月の髪に触れるのならば、他の女子のを触ってもいいはずだ。
そう思ったからこそ出た言葉ではあるのだが、その肯定の言葉に如月の胸は何故かチクリと痛んだ気がした。
***
ある日、如月がクラスで集めたノートを手に廊下を歩いているとふいに呼び止められた。
「如月」
「何?」
そこにいたのは流川で、スタスタと如月に近寄ってくると開口一番こう言った。
「ダメだった」
「何が?」
「他の奴のくるくる」
「ん?」
「お前のくるくるが良い」
『くるくる』と言う言葉に髪の事だとすぐに理解する。
流川は淡々と言うが、如月は戸惑いが隠せずに、ぎこちなく礼を言った。
「え、えっと…ありがと」
「だから、期待してる」
「あー、うん」
その言葉に特別な意味などないのだろうが、如月は何か芽生えるものを胸に感じる。
如月が複雑そうに表情を変えていると、流川は如月の手にあるノートの束に目が行き、それを持ち上げた。
如月は唐突になくなった重みに流川を見る。
「え、流川くん?」
「重そうだから持つ」
重さはあるものの、1人で持てない量でもない。
だが、流川はそう言い残しスタスタ歩き始めてしまった。
如月は流川の服をグッと掴み、遠慮する。
「いいよ、持てるし!」
「別にいい。触らせて貰う礼だ」
触らせて貰った、ではなく、触らせて貰う、と言う未来の事に対する礼に如月は何故か自然と笑みが溢れてしまう。
その約束が果たせるかは分からないのだが、それを実現したい思いがじわじわと湧いてくる。
そして、どこまでもよくわからない人だと思った。
仕方なく手ぶらで流川の隣を歩いていると、流川が唐突に如月を見て言った。
「くるくるの如月は好きだ」
どこか言葉足らずに感じるが、言いたい意味は伝わり、如月は苦笑いをした。
「えー…パーマじゃないと好きじゃないって事?」
「…どうだろう」
「何それ!」
視線を宙に彷徨わせて考えた流川の答えに如月は笑ってしまった。
流川の言葉は深い意味など持たないのだろう。
ただ、ふわふわとして離せば戻る髪が気に入ったに過ぎないのかも知れないと如月は思った。
「でも、お前はお前だから」
「え?あー、うん、ありがと」
「どっちも嫌いじゃない。可愛いと思う」
「え!?」
その言葉に如月は驚愕するしか出来なかった。
流川の口から他人に対して『可愛い』などと感想が生まれる事自体が青天の霹靂の様なものだ。
その場で固まる如月に流川は振り向いた。
「何だ?」
「う、ううん!何でもない!また伸ばすね!」
「じゃあ、期待してる」
「う、うん!」
如月は頷き流川の後を追う。
流川は普段と変わらず無表情のままだ。
きっと深い意味など無いのだろうが、如月の胸の高鳴りは徐々に増していくのだった。
→アトガキ
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