帰り道
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暑さが印象深いこの日、俺は生きてきた中で一番の窮地に陥っていた。
いや、それは言い過ぎかもしれない。
盲腸の方が辛かった。
けど、それくらい大変な事態になっている。
「ちょっと、もう、早くどうにかしてってば」
隣では、恋が嫌悪感剥き出しの様相で地面を指差している。
その先にいるのは、蝉。
どうやら死んでいるのか、ひっくり返って動かない。
帰り道を歩いていると、恋が道端で立ち止まっている事に気付いて、俺も足を止め声をかけるかどうか悩んでいると、恋の方から声をかけてきたのだが、それが運の尽きだった。
俺も虫は苦手だ。
けど、好きな子が目の前に立ち止まっていたら気になるし、まさか虫がいるとは思わないだろう、普通。
「イチノ、男の子でしょ!?バスケ部なんだから、虫大丈夫でしょ!?」
何の偏見だろう。
確かに、部員達は皆虫が平気だ。
美紀男は、今でも捕まえては嬉しそうに河田に見せてるし、他の奴も何だかんだ蝉を見かけると捕まえようとしている。
沢北なんかは嫌がりそうなのに、案外平気だ。
でも、俺は唯一部員内で虫が苦手なんだ。
「ほら、手で掴んで、その辺の草むらに捨てて、見えないようにしてくれたら良いから!そしたら通れるから!」
恋が俺の背を押す。
嫌だ、触りたくない。
でも、ここで意気地なしだと思われるのも嫌だ。
好きな子にはかっこいい所を見せたいし、そう思われたい。
俺は意を決して蝉に近づき、恐る恐る掴んだ。
瞬間、気持ち悪さが全身を駆け巡り鳥肌が立つ。
感触だけでも気持ち悪いから、極力物体は見ないよう目を細める。
でも、草むらに放り投げたらミッションコンプリートだと自身に言い聞かせ、俺は急いで蝉を捨てた。
「イチノ!かっこ良い!神!」
恋が、大袈裟なほど俺の後ろで叫んでいる。
その笑顔は、すごく可愛い。
……やって良かった。
「ねぇ、イチノは今帰り?」
「あぁ」
「じゃあ、そこまで一緒に帰ろ!」
恋は多分何も意識していないのに、俺はドキドキしてしまう。
その誘いは、かなり嬉しい。
「ねぇ、イチノー…」
「何?」
「非常に残念なお知らせがあります」
「何だよ?」
「そこにもいる…」
恋が、悲しそうに目線を逸らして地面を指差した。
確かにいる……蝉だ。
またひっくり返って死んでいる。
「イチノー…」
懇願する恋の瞳にドキリとさせられながらも、俺は躊躇した。
また触るなんて嫌だ。
今もすぐに手を洗いたくて仕方がないけど、それでも勇気を出すしかない。
かっこいい所を見せたいんだ。
だから、俺はさっきと同じように蝉に不用意に近付いた。
そしたら、奴は急にジジッと嫌な羽ばたき音をさせて動き出した。
「うわぁっ!?」
「いやぁっ!?」
二人の声が重なる。
蝉は不規則な動きを繰り広げ、そのままどこかへ行ってしまった。
最後の足掻きをして、忌々しい蝉め。
けど、これでどこかへ行った事に変わりはない。
ふぅと一息つこうとして、俺は体の異変に気付いた。
俺の体温ではない体温が感じられる。
恋の腕が、俺の体に絡みついていたんだ。
「……恋?」
「イチノのばかぁ…」
恋は、弱々しい声でそんな事を口にする。
顔は、しょげていて今にも泣き出しそうだ。
確かに怖かったのは分かる。
けど……蝉、グッジョブ!
「だ、大丈夫か?」
「うん。ごめんね、抱きついて」
恋は、そういうとスルリと手を離す。
温かさが消えて、どこか寂しいようなホッとしたような、複雑な感じがする。
「はぁ…早く帰ろ」
「……どこかでアイスでも買うか」
「えっ!?奢り!?」
「えっ、何でそうなるんだよっ」
「蝉が動き出した罰?」
「俺のせいじゃない!」
「っはは、うん、ありがとね、イチノ」
「何が」
「さっきのイチノ、めちゃくちゃかっこ良かったよ!」
恋の笑顔が眩しい。
あぁ、我慢して触って良かった。
恋が、笑顔のまま歩き出し何気ない会話を振ってくる。
俺がそれに答えれば、恋も話を続けてくれる。
このやりとりが、俺はすごく好きだ。
むさ苦しい工業高校にある癒やしだと思う。
そんな風に俺が恋に見惚れていると、突然恋が声を上げた。
「あっ」
「えっ?」
「イチノ、残念なお知らせが…」
恋が立ち止まり指差す方を見てみれば……。
「…………またか……」
俺は我慢の男、一之倉聡。
恋にかっこいい所を見せたくて、我慢は出来るし、する男だ。
我慢して手に入れた笑顔は、俺に幸せを感じさせてくれるし、さっきみたいなハプニング一つでドキドキもさせられる。
でも、このしつこい蝉どもはそんなひと時すら邪魔をしてくる。
あぁ、本当に虫は嫌いだ……。
けど、少しでも恋に良く思われたい。
少しずつでも好きになってほしい。
それが俺の願いだから、俺は我慢して今また蝉に向かうんだ。
いつか報われる日を信じて。
いや、それは言い過ぎかもしれない。
盲腸の方が辛かった。
けど、それくらい大変な事態になっている。
「ちょっと、もう、早くどうにかしてってば」
隣では、恋が嫌悪感剥き出しの様相で地面を指差している。
その先にいるのは、蝉。
どうやら死んでいるのか、ひっくり返って動かない。
帰り道を歩いていると、恋が道端で立ち止まっている事に気付いて、俺も足を止め声をかけるかどうか悩んでいると、恋の方から声をかけてきたのだが、それが運の尽きだった。
俺も虫は苦手だ。
けど、好きな子が目の前に立ち止まっていたら気になるし、まさか虫がいるとは思わないだろう、普通。
「イチノ、男の子でしょ!?バスケ部なんだから、虫大丈夫でしょ!?」
何の偏見だろう。
確かに、部員達は皆虫が平気だ。
美紀男は、今でも捕まえては嬉しそうに河田に見せてるし、他の奴も何だかんだ蝉を見かけると捕まえようとしている。
沢北なんかは嫌がりそうなのに、案外平気だ。
でも、俺は唯一部員内で虫が苦手なんだ。
「ほら、手で掴んで、その辺の草むらに捨てて、見えないようにしてくれたら良いから!そしたら通れるから!」
恋が俺の背を押す。
嫌だ、触りたくない。
でも、ここで意気地なしだと思われるのも嫌だ。
好きな子にはかっこいい所を見せたいし、そう思われたい。
俺は意を決して蝉に近づき、恐る恐る掴んだ。
瞬間、気持ち悪さが全身を駆け巡り鳥肌が立つ。
感触だけでも気持ち悪いから、極力物体は見ないよう目を細める。
でも、草むらに放り投げたらミッションコンプリートだと自身に言い聞かせ、俺は急いで蝉を捨てた。
「イチノ!かっこ良い!神!」
恋が、大袈裟なほど俺の後ろで叫んでいる。
その笑顔は、すごく可愛い。
……やって良かった。
「ねぇ、イチノは今帰り?」
「あぁ」
「じゃあ、そこまで一緒に帰ろ!」
恋は多分何も意識していないのに、俺はドキドキしてしまう。
その誘いは、かなり嬉しい。
「ねぇ、イチノー…」
「何?」
「非常に残念なお知らせがあります」
「何だよ?」
「そこにもいる…」
恋が、悲しそうに目線を逸らして地面を指差した。
確かにいる……蝉だ。
またひっくり返って死んでいる。
「イチノー…」
懇願する恋の瞳にドキリとさせられながらも、俺は躊躇した。
また触るなんて嫌だ。
今もすぐに手を洗いたくて仕方がないけど、それでも勇気を出すしかない。
かっこいい所を見せたいんだ。
だから、俺はさっきと同じように蝉に不用意に近付いた。
そしたら、奴は急にジジッと嫌な羽ばたき音をさせて動き出した。
「うわぁっ!?」
「いやぁっ!?」
二人の声が重なる。
蝉は不規則な動きを繰り広げ、そのままどこかへ行ってしまった。
最後の足掻きをして、忌々しい蝉め。
けど、これでどこかへ行った事に変わりはない。
ふぅと一息つこうとして、俺は体の異変に気付いた。
俺の体温ではない体温が感じられる。
恋の腕が、俺の体に絡みついていたんだ。
「……恋?」
「イチノのばかぁ…」
恋は、弱々しい声でそんな事を口にする。
顔は、しょげていて今にも泣き出しそうだ。
確かに怖かったのは分かる。
けど……蝉、グッジョブ!
「だ、大丈夫か?」
「うん。ごめんね、抱きついて」
恋は、そういうとスルリと手を離す。
温かさが消えて、どこか寂しいようなホッとしたような、複雑な感じがする。
「はぁ…早く帰ろ」
「……どこかでアイスでも買うか」
「えっ!?奢り!?」
「えっ、何でそうなるんだよっ」
「蝉が動き出した罰?」
「俺のせいじゃない!」
「っはは、うん、ありがとね、イチノ」
「何が」
「さっきのイチノ、めちゃくちゃかっこ良かったよ!」
恋の笑顔が眩しい。
あぁ、我慢して触って良かった。
恋が、笑顔のまま歩き出し何気ない会話を振ってくる。
俺がそれに答えれば、恋も話を続けてくれる。
このやりとりが、俺はすごく好きだ。
むさ苦しい工業高校にある癒やしだと思う。
そんな風に俺が恋に見惚れていると、突然恋が声を上げた。
「あっ」
「えっ?」
「イチノ、残念なお知らせが…」
恋が立ち止まり指差す方を見てみれば……。
「…………またか……」
俺は我慢の男、一之倉聡。
恋にかっこいい所を見せたくて、我慢は出来るし、する男だ。
我慢して手に入れた笑顔は、俺に幸せを感じさせてくれるし、さっきみたいなハプニング一つでドキドキもさせられる。
でも、このしつこい蝉どもはそんなひと時すら邪魔をしてくる。
あぁ、本当に虫は嫌いだ……。
けど、少しでも恋に良く思われたい。
少しずつでも好きになってほしい。
それが俺の願いだから、俺は我慢して今また蝉に向かうんだ。
いつか報われる日を信じて。
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