はちみつのかおり
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チャイムが授業の終わりを告げている頃、恋は屋上にいた。
3月にしては暖かく、本日最後の授業をサボり寝ていたのだ。
チャイムの音と共に目覚め、しばらくして手摺にもたれ掛ると大きく伸びをする。
その時、ドアの開く音がしたので見るとそこには水戸が立っていた。
水戸は恋に近付き声を掛ける。
「花道、ハルコちゃん所に行ったぜ」
水戸は恋の隣りに座り、ニマニマと笑い話の様に切り出した。
恋は不思議そうに水戸を見返す。
「何、いきなり」
「ホワイトデーだし、お返し期待してんのかと思ってよ」
「してないよ。花道が私にくれるわけないじゃん」
恋は諦め切った顔をして首を振る。
水戸は少し目を見張る。
「分かんねぇだろ?」
「ないない。晴子ちゃん所行ってんだし」
「たくっ…ほらよ」
溜め息を吐き、水戸は恋の膝の上に袋をポンと置く。
恋はそれを見つめて水戸に問い掛けた。
「何?」
「俺らからのお返し」
恋は、バレンタインのお返しだと瞬時に理解し笑顔を浮かべる。
桜木を除いた軍団からのお返しは意外に大きく、恋はとても嬉しそうにしていた。
「わ、ありがと。開けていい?」
「あぁ」
恋は袋を開け、箱を取り出し中身を見ると声を上げる。
その表情はパァッと明るくなっていた。
「お菓子だ」
「それとこれも」
水戸は嬉しそうな顔をしている恋を見て微笑むと、ポケットから小さな袋を差し出した。
「あれ…これ」
恋が受け取った袋のシールを剥し中を見れば、そこには見覚えのある物が入っていた。
水戸は少し照れくさそうにしながら言った。
「この間、お前欲しそうにしてたろ。俺からのお返し」
先日、桜木軍団と共に遊びに行き、たまたま見付けたピアス。
その時は時間もなく買わなかったのだが、また行く機会もなくすっかり忘れていた。
そのピアスが今、恋の手元にある。
恋は嬉しく思いつつも困惑してしまう。
「え?でも、お菓子もだよね?」
恋は膝に置いたままのお菓子を見る。
『俺ら』と言ったと言う事は水戸も含まれるのだろう。
「別にいいって。安いし」
「ありがと、洋平」
恋は折角くれた物なので有り難く受け取り、手に取ると光にかざす様に空にかざして礼を言う。
水戸もそのピアスに視線を送りながら言った。
「で?花道と今日話したのか?」
「何を?」
恋はピアスを上げたまま首だけで水戸に振り返る。
水戸はニヤリと笑っていた。
「お返しの催促」
「しないよ。無駄だし、馬鹿にされそうじゃない?」
「まぁ、ハルコちゃんしか見えてねぇしな、あいつ」
水戸は恋の意見に最もだと言うしかない。
桜木は変わらず晴子に夢中なのである。
恋はふと今朝の桜木を思い出した。
「今日、花束持ってたよ?ちっちゃいやつだけど、晴子ちゃんにあげるんだろうね、あれ」
今朝の桜木は小さな花束を手に持ち、意気揚々と登校していた。
それが目立つ事も厭わない桜木には、終始晴子の事しか頭にないのであろうと思われる。
水戸も桜木の様子を思い出し笑みを浮かべていた。
「あぁ、見た見た。あいつに花はつくづく似合わねぇよなぁ」
「私も思った。てか、花道に可愛い系、綺麗系の物が似合わない」
「同感。しっかしあいつ、告白しねぇのかな」
恋と水戸は喜々と話していたがふと疑問を持つ。
恋はしばし考えるが、答えが1つしか出なかった。
「無理じゃないの?確実、フラれ記録更新じゃん」
「や、ハルコちゃんもいまいち分かんねぇからなぁ。もしオッケーしたら、どうすんだよ?」
水戸は桜木と晴子の様子を頭に浮かべている。
そして、もしもの話題を恋に振ったが、恋はきょとっとした顔のまま答えた。
「そうなったら諦めるしかないよね」
「諦めれんの?」
「時間と共にじゃないの?洋平こそ彼女作らないの?」
突然、自身に話を振られた水戸は戸惑い言葉を探す。
「あぁ、俺はいいや。そういうの面倒臭ぇ」
「淡白だねぇ。本当、花道と真逆だよね」
笑いながら言う恋に水戸もつられて笑った。
「だから仲良いんじゃね?」
「かもね。あ、ピアス付けてもいい?」
恋は手にしていたピアスを耳に当てている。
水戸は呆れ気味に言い返す。
「今かよ。まぁ、いいけど」
「やっぱカッコ良いなぁ、これ」
恋はすぐさま付けると、鏡を見ながらニコニコと笑みを浮かべた。
嬉しそうな表情に水戸も恋の耳元を見つめる。
「好きだよな、そういうの」
「うん。あ、でも目立つかな」
恋はハッとした様に言ったが水戸は嘆息する。
「今更だろ?何回先公に注意されてんだよ、ピアス」
恋は入学してからもずっとピアスをしているので、見られる度に教師から注意を受けている。
だが、従う気のない恋は無視し続けている。
その内教師も諦め始め、最近では余り注意も受けなくなったのである。
そんな事情も知る水戸は呆れていた。
「まぁそうだよねー。でも本当ありがとね、洋平。大切にする」
「あぁ。…っと、俺バイトあるから帰るな」
「うん、またね」
水戸は携帯の時計を見ると少し慌てて手を上げ屋上を出て行った。
恋はぼんやりと空を見つめていた。
「花道、何してんの?」
恋は屋上から下り教室に鞄を取りに行く。
その途中、廊下を歩いていると桜木の教室が目に付き、開け放たれたドアから中を覗けば誰もいない教室にポツンと1人桜木がいた。
窓際の席に1人座る桜木のその姿はどこか愁いを帯びて見える。
恋が声を掛けると桜木は振り向き立ち上がる。
「あ?恋か。何でもないぞ」
桜木は鞄を手にしドアに向かう。
もう部活も始まっている時間の為、恋は不思議に思うが詳しくは問い詰められなかった。
どこか桜木の態度が妙に感じられたのである。
だから、普段通りの態度で桜木に接した。
「ふぅん。晴子ちゃんに花束あげたの?」
「あぁ、あげたとも」
「喜んでくれたでしょ」
恋の言葉に桜木は二カッと不敵に笑み高笑いをした。
「あぁ。やはり、ハルコさんは優しい方だ」
「はいはい」
恋はご馳走様と言いたそうに溜め息を吐いた。
桜木が恋の側まで来るとじっと見つめられる。
「恋」
「何?」
「今日、一緒に帰らないか」
恋は桜木の真直ぐな視線に少しドキリとするが、平静を装い笑顔を向けた。
「いいよ」
「じゃあ、待っててくれ」
桜木はそれだけ言い体育館へと向かう。
恋は不思議そうにその後ろ姿を見ていた。
恋は鞄を取ってからそのまま体育館へ向かった。
練習に励む桜木を見てどこかホッとする。
先刻の違和感は勘違いだと思ってしまう程いつも通りだった。
そして終わった部活に、部員達は次々に部室へと去って行く。
その時ふと、恋に声を掛ける人物がいた。
「あんた」
「は?」
恋が見上げると、流川が首にタオルを掛けた状態で立っていた。
流川と恋は特別話した事もないので、今話し掛けられている事に恋は軽く驚くが、流川は気にせず話し掛けてくる。
「あの猿の飼い主か」
「花道?」
猿と言われ浮かんだ顔に恋は小首を傾げながら問う。
流川はコクリと頷き言った。
「そう。飼い主ならちゃんと躾しろ」
流川は、恋と桜木が仲が良いのを知っているので抗議をして来た様だ。
恋と桜木が付き合っていると勘違いして言っているのかもしれない。
「ははっ、ごめんごめん。あれが花道だしさ。てか飼い主じゃないし」
「なら、何だ」
「え?んー…悪友?」
恋はその問いにすぐ答えが出ず、しばらく考えてから疑問符付きで返す。
すると流川は溜め息を吐いた。
「あんたもあいつと同類か…」
「違うよー。私は流川に突っ掛かったりしません」
恋はケラケラと笑いながら否定する。
すると桜木が近付いて来たのが見えた。
「おい、恋」
「花道、お疲れ」
恋は桜木を見ると軽く手を上げた。
桜木はどこか機嫌が悪そうである。
「何、キツネなんかと話してる。目が細くなるぞ」
桜木は恋を流川から剥す様に退した。
毎度の事ながら流川に突っ掛かる桜木に、流川も売り言葉に買い言葉である。
「なるか、どあほう」
「何を!?」
「はいはい。行くよ、花道。流川もお疲れー。バイバイ」
恋は、早々に火花の散る2人の会話を中断させ桜木の背を押した。
流川に手を振り部室へと桜木を行かせる。
「花道、いい加減流川に突っ掛かっるのやめたら?」
帰り道、恋は少し溜め息を交えながら桜木に言うが桜木はふんと鼻を鳴らした。
「あいつが突っ掛かってくるんだっ」
「違うと思うけど」
恋はふぅと溜め息を吐き、これ以上は言っても無駄かと思う。
桜木は桜木で恋の耳元を見ていた。
「恋。ピアス変えたのか?」
「ん?あー、うん。洋平にお返しで貰ったんだよね。気に入っててさ」
恋は耳元にあるピアスに触れながら言った。
嬉しそうにする恋に、桜木はどこか距離を感じる。
「…そうか」
「花道、何隠したの今」
恋は、桜木が言うと同時に手元の何かを隠す様に後ろに回したのを見逃さなかった。
目敏い恋に桜木はバツが悪そうな顔をしていた。
「何も隠してなどないわっ」
「今、後ろに何か隠した。何?」
「何でもないと言ってるだろうが、馬鹿者め」
「ちょっと、何よ?もうっ」
恋が勢い良く桜木に飛び付くと、その衝撃で桜木は手にしていた袋を落とした。
恋は素早くそれを拾いあげ、袋から飛び出した物を見る。
と同時に桜木は叫んだ。
「ぬぁっ」
「ん?ハンカチ?」
恋が手にしているのは女物のハンカチだった。
だが、瞬く間に桜木はババっと素早くそれを奪い取る。
「花道、何それ?女物でしょ?晴子ちゃんに渡し忘れたの?」
「違う。これは…貴様にくれてやるやつだ」
桜木から出て来た言葉に恋の思考は一時停止をしてしまう。
再び動き出した思考もすぐには理解出来ず、口からは一言しか出なかった。
「……………は!?」
「返しだと言ってるんだ、馬鹿者」
開き直った態度の桜木はそれを恋に差し出す。
恋はおずおずとそれを受け取り礼を言った。
「え…あ…ありがと」
「ふんっ」
桜木は鼻を鳴らしそっぽを向いてしまうが、恋はいまいち反応が出来ずにいた。
ハンカチを見ながらぽつりと言う。
「まさか花道から貰えると思わなかった」
「女性に物を貰ったら、返しをするのは当たり前だろう」
桜木は当たり前の様に言った。
恋は桜木の女の子に対する態度に少し感心する。
「一応、花道の美学に感謝かな」
恋はふふっと笑みを浮かべ、ハンカチを愛しそうに見た。
桜木はチラリと恋を見ると、またそっぽを向き歩き出す。
恋も追いかけると問い掛けた。
「ところで花道」
「何だ」
「晴子ちゃんに告らないの?」
恋の何気ない会話を切り出す態度に桜木は怪訝そうに眉を寄せる。
「何だ、急に」
「いや、いい加減告ってもいい時期でしょ?…って花道?」
恋は言ったはいいものの、桜木が押し黙ってしまった事に違和感を覚える。
いつもの桜木はこんな反応はしない。
桜木はぼんやりと空を見上げて言った。
「ハルコさんにはもうフラれている」
「へ?」
恋は桜木を見つめ聞き返した。
桜木の表情は、数時間前に教室で見た表情と同じだった。
「この間告白したが、玉砕した」
「何で?ってか、いつ!?」
桜木の淡々とした言い方に恋は少し声を荒げる。
そんな話は恋も、多分水戸達も聞いてはいないだろう。
「この間だと言ってるだろうが」
桜木は少し機嫌悪そうに言い放った。
恋は桜木の態度が気になり、ついこんな事を聞いてしまう。
「何で告ったの?てかさ、その割にダメージあんまなくない?」
「まぁ、分かっていたからな。…それに…」
「それに?」
恋は、桜木が晴子に脈がない事に気付いていたのに驚きつつも続きの言葉を待った。
そして桜木は静かに言った。
「他に気になる奴が出来た」
「そうなの?誰?私知ってる?」
聞いてみたは良い物の恋は内心穏やかではなくなる。
だが、普段通りの態度で聞き返した。
桜木は立ち止まり恋をじっと見つめる。
「…恋だ」
「はい?」
「だから、お前が好きだと言ってるんだ!1回で聞き取らんか、馬鹿者っ」
桜木は頬を少し赤らめ声を荒げた。
恋はきょとんとした表情で桜木を見返す。
またもや思考が一時停止状態である。
「え?てか、何で?」
「バレンタインに貰った時に、恋が泣いたのを見て泣かせたくないと思ったのだ。それにハルコさんにフラれたが、余りショックではなかったしな」
桜木は重い口を開き素直な言葉で言ってのけた。
「それだけ?」
「俺の第六感がそう言ったのだ」
どこまでも野生的な桜木のその言葉が妙な説得力を持ち恋の心に染み渡る。
恋は、段々と高ぶる感情を胸に宿し笑顔を浮かべた。
「何か、嬉しいかも」
「何だ『かも』とは」
「私も花道好きだもん」
突然の言葉に聞き間違いかと思ってしまう桜木だが、恋を見れば笑顔を向けている。
桜木は思わず声を上げた。
「んぬぁ!?」
「どっから声出してんのよ。だから、私はずっと花道が好きだったって言ってんの」
「ななな」
恋がどんっと桜木の胸元を叩くと、桜木は言葉にならない様で言葉を詰まらせた。
恋はじっと桜木の目を見つめもう1度言う。
「好きなの、ずっと」
「…っ。そうか」
桜木はふいっと視線を逸らし少し俯く。
その顔は耳まで赤い。
「何照れてんの?」
「照れてなどいないわ」
「照れてるじゃん。顔赤いよ?照れてる、照れてる。可愛…」
恋が茶化そうとしていると、桜木が突然恋の口を塞いだ。
だが、勢いがよ過ぎたのかガチンとお互いの歯が当たる。
「痛…」
「ってぇ」
2人同時に口元を押さえ離れると、恋が痛みに堪えながら言った。
「花道…有り得ないよ、今のは」
「うるさい、馬鹿者」
桜木はこんなはずじゃなかったと言いたそうな顔をして悪態つく。
恋は少し痛みの残る唇に指を当て桜木を見上げる。
「ね、もう1回してよ。今度はちゃんとしたの」
恋のねだる様な催促に桜木はゆっくり顔を近付ける。
恋の手を取り微かに唇と唇が触れ合った。
すると恋が桜木の首に手を回し、もっととせがむ様に離さない。
桜木は応える様に恋の後頭部を押さえ深く口付けた。
それはどこかぎこちなく初々しいが、どこかとろける様な口付けだった。
→アトガキ
3月にしては暖かく、本日最後の授業をサボり寝ていたのだ。
チャイムの音と共に目覚め、しばらくして手摺にもたれ掛ると大きく伸びをする。
その時、ドアの開く音がしたので見るとそこには水戸が立っていた。
水戸は恋に近付き声を掛ける。
「花道、ハルコちゃん所に行ったぜ」
水戸は恋の隣りに座り、ニマニマと笑い話の様に切り出した。
恋は不思議そうに水戸を見返す。
「何、いきなり」
「ホワイトデーだし、お返し期待してんのかと思ってよ」
「してないよ。花道が私にくれるわけないじゃん」
恋は諦め切った顔をして首を振る。
水戸は少し目を見張る。
「分かんねぇだろ?」
「ないない。晴子ちゃん所行ってんだし」
「たくっ…ほらよ」
溜め息を吐き、水戸は恋の膝の上に袋をポンと置く。
恋はそれを見つめて水戸に問い掛けた。
「何?」
「俺らからのお返し」
恋は、バレンタインのお返しだと瞬時に理解し笑顔を浮かべる。
桜木を除いた軍団からのお返しは意外に大きく、恋はとても嬉しそうにしていた。
「わ、ありがと。開けていい?」
「あぁ」
恋は袋を開け、箱を取り出し中身を見ると声を上げる。
その表情はパァッと明るくなっていた。
「お菓子だ」
「それとこれも」
水戸は嬉しそうな顔をしている恋を見て微笑むと、ポケットから小さな袋を差し出した。
「あれ…これ」
恋が受け取った袋のシールを剥し中を見れば、そこには見覚えのある物が入っていた。
水戸は少し照れくさそうにしながら言った。
「この間、お前欲しそうにしてたろ。俺からのお返し」
先日、桜木軍団と共に遊びに行き、たまたま見付けたピアス。
その時は時間もなく買わなかったのだが、また行く機会もなくすっかり忘れていた。
そのピアスが今、恋の手元にある。
恋は嬉しく思いつつも困惑してしまう。
「え?でも、お菓子もだよね?」
恋は膝に置いたままのお菓子を見る。
『俺ら』と言ったと言う事は水戸も含まれるのだろう。
「別にいいって。安いし」
「ありがと、洋平」
恋は折角くれた物なので有り難く受け取り、手に取ると光にかざす様に空にかざして礼を言う。
水戸もそのピアスに視線を送りながら言った。
「で?花道と今日話したのか?」
「何を?」
恋はピアスを上げたまま首だけで水戸に振り返る。
水戸はニヤリと笑っていた。
「お返しの催促」
「しないよ。無駄だし、馬鹿にされそうじゃない?」
「まぁ、ハルコちゃんしか見えてねぇしな、あいつ」
水戸は恋の意見に最もだと言うしかない。
桜木は変わらず晴子に夢中なのである。
恋はふと今朝の桜木を思い出した。
「今日、花束持ってたよ?ちっちゃいやつだけど、晴子ちゃんにあげるんだろうね、あれ」
今朝の桜木は小さな花束を手に持ち、意気揚々と登校していた。
それが目立つ事も厭わない桜木には、終始晴子の事しか頭にないのであろうと思われる。
水戸も桜木の様子を思い出し笑みを浮かべていた。
「あぁ、見た見た。あいつに花はつくづく似合わねぇよなぁ」
「私も思った。てか、花道に可愛い系、綺麗系の物が似合わない」
「同感。しっかしあいつ、告白しねぇのかな」
恋と水戸は喜々と話していたがふと疑問を持つ。
恋はしばし考えるが、答えが1つしか出なかった。
「無理じゃないの?確実、フラれ記録更新じゃん」
「や、ハルコちゃんもいまいち分かんねぇからなぁ。もしオッケーしたら、どうすんだよ?」
水戸は桜木と晴子の様子を頭に浮かべている。
そして、もしもの話題を恋に振ったが、恋はきょとっとした顔のまま答えた。
「そうなったら諦めるしかないよね」
「諦めれんの?」
「時間と共にじゃないの?洋平こそ彼女作らないの?」
突然、自身に話を振られた水戸は戸惑い言葉を探す。
「あぁ、俺はいいや。そういうの面倒臭ぇ」
「淡白だねぇ。本当、花道と真逆だよね」
笑いながら言う恋に水戸もつられて笑った。
「だから仲良いんじゃね?」
「かもね。あ、ピアス付けてもいい?」
恋は手にしていたピアスを耳に当てている。
水戸は呆れ気味に言い返す。
「今かよ。まぁ、いいけど」
「やっぱカッコ良いなぁ、これ」
恋はすぐさま付けると、鏡を見ながらニコニコと笑みを浮かべた。
嬉しそうな表情に水戸も恋の耳元を見つめる。
「好きだよな、そういうの」
「うん。あ、でも目立つかな」
恋はハッとした様に言ったが水戸は嘆息する。
「今更だろ?何回先公に注意されてんだよ、ピアス」
恋は入学してからもずっとピアスをしているので、見られる度に教師から注意を受けている。
だが、従う気のない恋は無視し続けている。
その内教師も諦め始め、最近では余り注意も受けなくなったのである。
そんな事情も知る水戸は呆れていた。
「まぁそうだよねー。でも本当ありがとね、洋平。大切にする」
「あぁ。…っと、俺バイトあるから帰るな」
「うん、またね」
水戸は携帯の時計を見ると少し慌てて手を上げ屋上を出て行った。
恋はぼんやりと空を見つめていた。
「花道、何してんの?」
恋は屋上から下り教室に鞄を取りに行く。
その途中、廊下を歩いていると桜木の教室が目に付き、開け放たれたドアから中を覗けば誰もいない教室にポツンと1人桜木がいた。
窓際の席に1人座る桜木のその姿はどこか愁いを帯びて見える。
恋が声を掛けると桜木は振り向き立ち上がる。
「あ?恋か。何でもないぞ」
桜木は鞄を手にしドアに向かう。
もう部活も始まっている時間の為、恋は不思議に思うが詳しくは問い詰められなかった。
どこか桜木の態度が妙に感じられたのである。
だから、普段通りの態度で桜木に接した。
「ふぅん。晴子ちゃんに花束あげたの?」
「あぁ、あげたとも」
「喜んでくれたでしょ」
恋の言葉に桜木は二カッと不敵に笑み高笑いをした。
「あぁ。やはり、ハルコさんは優しい方だ」
「はいはい」
恋はご馳走様と言いたそうに溜め息を吐いた。
桜木が恋の側まで来るとじっと見つめられる。
「恋」
「何?」
「今日、一緒に帰らないか」
恋は桜木の真直ぐな視線に少しドキリとするが、平静を装い笑顔を向けた。
「いいよ」
「じゃあ、待っててくれ」
桜木はそれだけ言い体育館へと向かう。
恋は不思議そうにその後ろ姿を見ていた。
恋は鞄を取ってからそのまま体育館へ向かった。
練習に励む桜木を見てどこかホッとする。
先刻の違和感は勘違いだと思ってしまう程いつも通りだった。
そして終わった部活に、部員達は次々に部室へと去って行く。
その時ふと、恋に声を掛ける人物がいた。
「あんた」
「は?」
恋が見上げると、流川が首にタオルを掛けた状態で立っていた。
流川と恋は特別話した事もないので、今話し掛けられている事に恋は軽く驚くが、流川は気にせず話し掛けてくる。
「あの猿の飼い主か」
「花道?」
猿と言われ浮かんだ顔に恋は小首を傾げながら問う。
流川はコクリと頷き言った。
「そう。飼い主ならちゃんと躾しろ」
流川は、恋と桜木が仲が良いのを知っているので抗議をして来た様だ。
恋と桜木が付き合っていると勘違いして言っているのかもしれない。
「ははっ、ごめんごめん。あれが花道だしさ。てか飼い主じゃないし」
「なら、何だ」
「え?んー…悪友?」
恋はその問いにすぐ答えが出ず、しばらく考えてから疑問符付きで返す。
すると流川は溜め息を吐いた。
「あんたもあいつと同類か…」
「違うよー。私は流川に突っ掛かったりしません」
恋はケラケラと笑いながら否定する。
すると桜木が近付いて来たのが見えた。
「おい、恋」
「花道、お疲れ」
恋は桜木を見ると軽く手を上げた。
桜木はどこか機嫌が悪そうである。
「何、キツネなんかと話してる。目が細くなるぞ」
桜木は恋を流川から剥す様に退した。
毎度の事ながら流川に突っ掛かる桜木に、流川も売り言葉に買い言葉である。
「なるか、どあほう」
「何を!?」
「はいはい。行くよ、花道。流川もお疲れー。バイバイ」
恋は、早々に火花の散る2人の会話を中断させ桜木の背を押した。
流川に手を振り部室へと桜木を行かせる。
「花道、いい加減流川に突っ掛かっるのやめたら?」
帰り道、恋は少し溜め息を交えながら桜木に言うが桜木はふんと鼻を鳴らした。
「あいつが突っ掛かってくるんだっ」
「違うと思うけど」
恋はふぅと溜め息を吐き、これ以上は言っても無駄かと思う。
桜木は桜木で恋の耳元を見ていた。
「恋。ピアス変えたのか?」
「ん?あー、うん。洋平にお返しで貰ったんだよね。気に入っててさ」
恋は耳元にあるピアスに触れながら言った。
嬉しそうにする恋に、桜木はどこか距離を感じる。
「…そうか」
「花道、何隠したの今」
恋は、桜木が言うと同時に手元の何かを隠す様に後ろに回したのを見逃さなかった。
目敏い恋に桜木はバツが悪そうな顔をしていた。
「何も隠してなどないわっ」
「今、後ろに何か隠した。何?」
「何でもないと言ってるだろうが、馬鹿者め」
「ちょっと、何よ?もうっ」
恋が勢い良く桜木に飛び付くと、その衝撃で桜木は手にしていた袋を落とした。
恋は素早くそれを拾いあげ、袋から飛び出した物を見る。
と同時に桜木は叫んだ。
「ぬぁっ」
「ん?ハンカチ?」
恋が手にしているのは女物のハンカチだった。
だが、瞬く間に桜木はババっと素早くそれを奪い取る。
「花道、何それ?女物でしょ?晴子ちゃんに渡し忘れたの?」
「違う。これは…貴様にくれてやるやつだ」
桜木から出て来た言葉に恋の思考は一時停止をしてしまう。
再び動き出した思考もすぐには理解出来ず、口からは一言しか出なかった。
「……………は!?」
「返しだと言ってるんだ、馬鹿者」
開き直った態度の桜木はそれを恋に差し出す。
恋はおずおずとそれを受け取り礼を言った。
「え…あ…ありがと」
「ふんっ」
桜木は鼻を鳴らしそっぽを向いてしまうが、恋はいまいち反応が出来ずにいた。
ハンカチを見ながらぽつりと言う。
「まさか花道から貰えると思わなかった」
「女性に物を貰ったら、返しをするのは当たり前だろう」
桜木は当たり前の様に言った。
恋は桜木の女の子に対する態度に少し感心する。
「一応、花道の美学に感謝かな」
恋はふふっと笑みを浮かべ、ハンカチを愛しそうに見た。
桜木はチラリと恋を見ると、またそっぽを向き歩き出す。
恋も追いかけると問い掛けた。
「ところで花道」
「何だ」
「晴子ちゃんに告らないの?」
恋の何気ない会話を切り出す態度に桜木は怪訝そうに眉を寄せる。
「何だ、急に」
「いや、いい加減告ってもいい時期でしょ?…って花道?」
恋は言ったはいいものの、桜木が押し黙ってしまった事に違和感を覚える。
いつもの桜木はこんな反応はしない。
桜木はぼんやりと空を見上げて言った。
「ハルコさんにはもうフラれている」
「へ?」
恋は桜木を見つめ聞き返した。
桜木の表情は、数時間前に教室で見た表情と同じだった。
「この間告白したが、玉砕した」
「何で?ってか、いつ!?」
桜木の淡々とした言い方に恋は少し声を荒げる。
そんな話は恋も、多分水戸達も聞いてはいないだろう。
「この間だと言ってるだろうが」
桜木は少し機嫌悪そうに言い放った。
恋は桜木の態度が気になり、ついこんな事を聞いてしまう。
「何で告ったの?てかさ、その割にダメージあんまなくない?」
「まぁ、分かっていたからな。…それに…」
「それに?」
恋は、桜木が晴子に脈がない事に気付いていたのに驚きつつも続きの言葉を待った。
そして桜木は静かに言った。
「他に気になる奴が出来た」
「そうなの?誰?私知ってる?」
聞いてみたは良い物の恋は内心穏やかではなくなる。
だが、普段通りの態度で聞き返した。
桜木は立ち止まり恋をじっと見つめる。
「…恋だ」
「はい?」
「だから、お前が好きだと言ってるんだ!1回で聞き取らんか、馬鹿者っ」
桜木は頬を少し赤らめ声を荒げた。
恋はきょとんとした表情で桜木を見返す。
またもや思考が一時停止状態である。
「え?てか、何で?」
「バレンタインに貰った時に、恋が泣いたのを見て泣かせたくないと思ったのだ。それにハルコさんにフラれたが、余りショックではなかったしな」
桜木は重い口を開き素直な言葉で言ってのけた。
「それだけ?」
「俺の第六感がそう言ったのだ」
どこまでも野生的な桜木のその言葉が妙な説得力を持ち恋の心に染み渡る。
恋は、段々と高ぶる感情を胸に宿し笑顔を浮かべた。
「何か、嬉しいかも」
「何だ『かも』とは」
「私も花道好きだもん」
突然の言葉に聞き間違いかと思ってしまう桜木だが、恋を見れば笑顔を向けている。
桜木は思わず声を上げた。
「んぬぁ!?」
「どっから声出してんのよ。だから、私はずっと花道が好きだったって言ってんの」
「ななな」
恋がどんっと桜木の胸元を叩くと、桜木は言葉にならない様で言葉を詰まらせた。
恋はじっと桜木の目を見つめもう1度言う。
「好きなの、ずっと」
「…っ。そうか」
桜木はふいっと視線を逸らし少し俯く。
その顔は耳まで赤い。
「何照れてんの?」
「照れてなどいないわ」
「照れてるじゃん。顔赤いよ?照れてる、照れてる。可愛…」
恋が茶化そうとしていると、桜木が突然恋の口を塞いだ。
だが、勢いがよ過ぎたのかガチンとお互いの歯が当たる。
「痛…」
「ってぇ」
2人同時に口元を押さえ離れると、恋が痛みに堪えながら言った。
「花道…有り得ないよ、今のは」
「うるさい、馬鹿者」
桜木はこんなはずじゃなかったと言いたそうな顔をして悪態つく。
恋は少し痛みの残る唇に指を当て桜木を見上げる。
「ね、もう1回してよ。今度はちゃんとしたの」
恋のねだる様な催促に桜木はゆっくり顔を近付ける。
恋の手を取り微かに唇と唇が触れ合った。
すると恋が桜木の首に手を回し、もっととせがむ様に離さない。
桜木は応える様に恋の後頭部を押さえ深く口付けた。
それはどこかぎこちなく初々しいが、どこかとろける様な口付けだった。
→アトガキ
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