第十七章
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後夜祭が行われる中、恋はぼんやりと隅の方で座っていた。
今日あった出来事が頭を反芻しては顔を赤らめている。
考えたくなくともふとした折に記憶が蘇り、模擬店に集中する事で紛らわせていた昼間と違い、終了してしまった今となってはそれも叶わない。
「恋」
頭を悩ませていると、頭上から声がかかり見上げればそこには木暮と赤木が立っていた。
「あれ?こーちゃん達も出てたの?」
「最後だしね。気分転換がてら」
「そっか。あ、お疲れ様でした」
恋が、2人に笑みを向けペコリと頭を下げて改めて挨拶をすると、赤木はフッと笑い返事をした。
「あぁ、如月も。それは出し物の衣装か?」
「はい。動物喫茶だったので。来てくれました?」
「あぁ、赤木と一緒に流川がいる時に行ったよ。流川は狼だったっけ」
「うん、そうそう。じゃあ、入れ違いかな?2人とも見てない」
木暮と赤木が来たのなら気づかないはずもないのだが、恋の記憶にはない。
ちょうどタイミング良く出払っていた時なのだろうと残念に思った。
「如月は狐か?」
「はい」
「はは、可愛い可愛い」
「そうだな。尻尾も存在感がある」
木暮が笑いながら言うと赤木も軽く頷き尻尾を見た。
狐の尻尾なだけに、ボリュームのあるそれは物珍しいのかもしれない。
「あ、触ってみます?意外にモフモフなんですよ、これが」
「へぇ?…あ、本当だ。赤木も触ってみろよ、手触り良いよ」
「あ、あぁ」
木暮は恋の言葉に躊躇なくその尻尾を掴んで触っているが、赤木は少し照れたようにそっと触れた。
前へ回しているとは言え位置的には尻にある為思春期男子にとっては躊躇する事なのかも知れない。
木暮のように、幼馴染などの深い関係ならば気にしないのかもしれないが、赤木と恋は単なる部活での上下関係に過ぎないのだ。
少し触り離した赤木に比べ、木暮はマジマジと見つめながら何度も触っていた。
「面白い事考えるなぁ。あ、三井」
木暮が視線を上げたと同時に視界に捉えたのは三井だった。
三井はちょうど1人で歩いていたのか近寄って来た。
「あ?木暮…と…」
しかし、歩いている最中は人混みに隠れて気づかなかった恋が視界に入ると、三井は途端に声が消えて行く。
恋は三井に視線を送れるはずも無く俯いていた。
「ほら、三井も触ってみろよ、これモフモフしてる」
「はぁ!?そんなの触れるわけ…」
「三井?」
途端、微かに頬を赤らめ言葉を強くする三井に木暮は不思議そうにしていた。
三井はバツが悪そうに踵を返した。
「チッ。じゃあな」
「待てよ、久しぶりにゆっくり話そう」
木暮が笑顔でそう言った為に、三井は渋々その場に留まる事にする。
本来ならばすぐにでも立ち去りたい所だが、この空間に色々と後ろ髪引かれる思いもあったのだ。
そして、少しそっぽを向いて立っている三井に赤木が話しかけた。
「三井が出ているのは珍しいな」
「あ?別に良いだろ」
「三井のクラスってトリックアートだっけ?あれ凄かったよ」
「あぁ、中々面白かったぞ」
木暮が感心した様子で言い赤木も頷いていた。
実際、評判も上々だったので三井は悪い気もせず、少し誇らしげに不遜な態度へと変わる。
「当たり前だ。お前らはチョコバナナだっけか。普通に美味かった」
「デコレーションしてみたか?あれ凝りだすと面白いんだよ」
「木暮はああいったコツコツする物が好きだな」
木暮が嬉しそうに言うので赤木は少し笑ってしまう。
準備の段階でも、凝った物を作っていて時間が足りなくなっていたなと思い出が蘇った。
木暮達3年が話に花を咲かせているのに対して恋はただ押し黙っていた。
このままそっと居なくなっても気にされないのではないかとも思うのだが、それはどこかはばかられる。
そんな恋の考えなど知らない木暮は話題を振った。
「恋はやった?」
「え、あ、うん。行ったよ両方。楽しかった」
「友達と?盛り上がっただろ」
「え、う、うん」
友達と言われ、何故か戸惑いが生じ恋は微かに三井を見てしまう。
だが、三井は恋の方は見ておらずどこかホッとしてしまった。
「トリックアートは写真も貰えて良かったな」
「あぁ、写真にすると見応えが出たよな」
「如月も貰ったか?」
木暮の返事に頷きながら赤木も恋に話題を振る。
恋はただ頷くしか出来なかった。
「あ、はい。貰いました」
「あ、写真と言えば母さんが恋の写真見たいって言ってたんだ。今撮っていいか?ちょうど楽しそうな格好してるし」
唐突に思い出したのか、木暮はポケットからカメラを取り出した。
恋はパチパチと2、3度瞬きすると笑みを浮かべた。
「いいよ。おばさん元気?うちのお母さんも言ってたよ、会いたいって」
「そうか。2人ともまだ飛び回ってるのか?」
「うん、国際線だから時間が被らない事多くて、ほとんど会わないけどね」
「ん?親御さんは共働きなのか?」
恋が苦笑いを浮かべつつも繰り広げられる会話に赤木は疑問を抱いた。
問われた恋は少し姿勢を正すと赤木に向き直る。
「あ、はい、キャビンアテンダントとパイロットなので、時間が皆バラバラなんです」
「1人の事も多いのか?」
「そうですね。いても寝てたり勉強してる事も多くて、あまり干渉はしないです、お互いに。イベント毎もほとんど一緒に過ごした思い出ないですし。それでも、小さい頃はわりと家にいてくれてたんですけどね」
「そうか、じゃあ寂しいだろう」
「あはは、もう慣れちゃいましたよ」
「慣れても寂しいものは寂しいだろう」
苦笑いを浮かべて言う恋に、赤木は少し溜息を漏らしつつそんな事を言った。
恋にとっては昔から続いている事で、今更深く考えもしなかった事だが、そう言われると強くは否定できない。
恋はまだ高校生で親の愛情は間近で必要な年頃でもあるのだ。
「…そうですね、だからか結構依存体質なんですよ、私」
「そう言えば昔は後ろによくくっついて来てたよな」
「あはは、ごめんね。だってこーちゃんって優しいから安心できてさ」
思い出の中の2人を手繰り寄せると、いつも木暮の後に恋がくっついていた。
恋にとっては年が近く、家が隣同士の木暮は本当の兄のように慕っていたのだ。
それは木暮も同じで、後ろをついて回る恋を守らなければと妙な正義感が働き、妹のようだと思っていた。
2人の絆に赤木はポツリと零した。
「じゃあ彼氏が出来たら大変そうだな」
「えっ!?」
「依存してしまうんじゃないのか」
「え、あ、えーっと…」
赤木の冗談交じりの言葉に恋は狼狽えてしまう。
事実、元彼である鼎に恋は依存していたのだろう。
何をされようとただ側にいて欲しかったのだ。
現状、三井にも依存しそうにはなっているのかも知れない。
何度冷たくされ、自身で嫌気がさしてお互いに傷つけあっていてもなお、追いかけずにはいられない。
恋は昔から1度好きになると中々次へと移れなかった。
叶うのならば常に何をするにも一緒に居たいとさえ思う。
だが、それが相手にとっては重くのしかかる事であるとも理解はしている。
それでも、実際好きになってしまえば自制など出来はしなかった。
それが原因の現状とも言える。
笑みを貼り付けたまま何も言えずにいる恋を見て三井は言葉を発した。
「写真撮らねぇのか」
「あ、撮る撮る。折角だし皆で撮ろうか」
「あ!?」
「え!?」
木暮がそう言ったのに対し、恋と三井は同時に声を上げた。
しかし、木暮はそんな事など露ほども気にせず近場にいた生徒に声をかけた。
「あ、すみません、ちょっとシャッター押して欲しいんだけど…」
木暮がその生徒にカメラを渡し恋の隣に立つ。
「ほら、撮るぞ。三井も!」
木暮が三井に声をかけると渋々後ろで立つ赤木の横へと並んだ。
シャッター音が聞こえると三井はスッと恋から距離を取る。
「ありがとう。これで母さんに見せれるよ」
木暮がカメラ片手に恋へと笑顔を向けると、唐突に思い出したのか言葉を続けた。
「そう言えば思い出したけど、今日仙道に会ったよ」
「あぁ、いたな。あいつはよく目立つ」
赤木も同意し仙道とのやりとりを思い返す。
しかし、恋と三井はその名に表情が固まった。
「ん?どうしたんだ?2人とも」
「う、ううん」
「っ、俺はもう行くぞ」
「え、あぁ、引き止めて悪かったな。部活頑張れよ」
慌てて否定する恋とは打って変わって、三井はそそくさとその場を去って行った。
木暮は小首を傾げながらその姿を見送った。
「何か三井、顔が赤くなかったか?」
「そうか?」
木暮はそう言うが、赤木は特に気にした風もなく同じく三井の背を見送っていた。
恋は木暮の服の裾を軽く引っ張ると笑みを浮かべた。
「私も皆の所戻るね」
「あぁ。写真出来たら渡すよ」
「ありがとう」
恋は手を振るとその場から足早に立ち去った。
逃れるように歩いているうちに次第に小走りになり、人気のない場へ逃げ込むように走りついた。
恋は、はぁと一息つくとポツリと言葉を漏らす。
「どんな顔してたらいいの…」
口元に手を当てた恋の頬は紅潮していた。
三井が目の前にいるだけで心穏やかにいられるはずもなく、そこへ考えないようにしていた仙道の名が降りかかり、恋の頭は一気に思考が停止してしまった。
そして、瞬間蘇る記憶。
それから目を逸らす事など出来ず、あの行為が記憶に色を塗る。
恋の心臓はまたも早鐘を打ち始めた。
『どうして』
そんな事は今どうでも良かった。
ただただその出来事が嬉しくて仕方がなく、この後どうなるかなど考えたくもない。
それは杞憂に終わるかも知れないが、淡く芽生えざるを得ない期待と共にひと時の幸せを、恋は1人噛み締めているのだった。
→第十八章
今日あった出来事が頭を反芻しては顔を赤らめている。
考えたくなくともふとした折に記憶が蘇り、模擬店に集中する事で紛らわせていた昼間と違い、終了してしまった今となってはそれも叶わない。
「恋」
頭を悩ませていると、頭上から声がかかり見上げればそこには木暮と赤木が立っていた。
「あれ?こーちゃん達も出てたの?」
「最後だしね。気分転換がてら」
「そっか。あ、お疲れ様でした」
恋が、2人に笑みを向けペコリと頭を下げて改めて挨拶をすると、赤木はフッと笑い返事をした。
「あぁ、如月も。それは出し物の衣装か?」
「はい。動物喫茶だったので。来てくれました?」
「あぁ、赤木と一緒に流川がいる時に行ったよ。流川は狼だったっけ」
「うん、そうそう。じゃあ、入れ違いかな?2人とも見てない」
木暮と赤木が来たのなら気づかないはずもないのだが、恋の記憶にはない。
ちょうどタイミング良く出払っていた時なのだろうと残念に思った。
「如月は狐か?」
「はい」
「はは、可愛い可愛い」
「そうだな。尻尾も存在感がある」
木暮が笑いながら言うと赤木も軽く頷き尻尾を見た。
狐の尻尾なだけに、ボリュームのあるそれは物珍しいのかもしれない。
「あ、触ってみます?意外にモフモフなんですよ、これが」
「へぇ?…あ、本当だ。赤木も触ってみろよ、手触り良いよ」
「あ、あぁ」
木暮は恋の言葉に躊躇なくその尻尾を掴んで触っているが、赤木は少し照れたようにそっと触れた。
前へ回しているとは言え位置的には尻にある為思春期男子にとっては躊躇する事なのかも知れない。
木暮のように、幼馴染などの深い関係ならば気にしないのかもしれないが、赤木と恋は単なる部活での上下関係に過ぎないのだ。
少し触り離した赤木に比べ、木暮はマジマジと見つめながら何度も触っていた。
「面白い事考えるなぁ。あ、三井」
木暮が視線を上げたと同時に視界に捉えたのは三井だった。
三井はちょうど1人で歩いていたのか近寄って来た。
「あ?木暮…と…」
しかし、歩いている最中は人混みに隠れて気づかなかった恋が視界に入ると、三井は途端に声が消えて行く。
恋は三井に視線を送れるはずも無く俯いていた。
「ほら、三井も触ってみろよ、これモフモフしてる」
「はぁ!?そんなの触れるわけ…」
「三井?」
途端、微かに頬を赤らめ言葉を強くする三井に木暮は不思議そうにしていた。
三井はバツが悪そうに踵を返した。
「チッ。じゃあな」
「待てよ、久しぶりにゆっくり話そう」
木暮が笑顔でそう言った為に、三井は渋々その場に留まる事にする。
本来ならばすぐにでも立ち去りたい所だが、この空間に色々と後ろ髪引かれる思いもあったのだ。
そして、少しそっぽを向いて立っている三井に赤木が話しかけた。
「三井が出ているのは珍しいな」
「あ?別に良いだろ」
「三井のクラスってトリックアートだっけ?あれ凄かったよ」
「あぁ、中々面白かったぞ」
木暮が感心した様子で言い赤木も頷いていた。
実際、評判も上々だったので三井は悪い気もせず、少し誇らしげに不遜な態度へと変わる。
「当たり前だ。お前らはチョコバナナだっけか。普通に美味かった」
「デコレーションしてみたか?あれ凝りだすと面白いんだよ」
「木暮はああいったコツコツする物が好きだな」
木暮が嬉しそうに言うので赤木は少し笑ってしまう。
準備の段階でも、凝った物を作っていて時間が足りなくなっていたなと思い出が蘇った。
木暮達3年が話に花を咲かせているのに対して恋はただ押し黙っていた。
このままそっと居なくなっても気にされないのではないかとも思うのだが、それはどこかはばかられる。
そんな恋の考えなど知らない木暮は話題を振った。
「恋はやった?」
「え、あ、うん。行ったよ両方。楽しかった」
「友達と?盛り上がっただろ」
「え、う、うん」
友達と言われ、何故か戸惑いが生じ恋は微かに三井を見てしまう。
だが、三井は恋の方は見ておらずどこかホッとしてしまった。
「トリックアートは写真も貰えて良かったな」
「あぁ、写真にすると見応えが出たよな」
「如月も貰ったか?」
木暮の返事に頷きながら赤木も恋に話題を振る。
恋はただ頷くしか出来なかった。
「あ、はい。貰いました」
「あ、写真と言えば母さんが恋の写真見たいって言ってたんだ。今撮っていいか?ちょうど楽しそうな格好してるし」
唐突に思い出したのか、木暮はポケットからカメラを取り出した。
恋はパチパチと2、3度瞬きすると笑みを浮かべた。
「いいよ。おばさん元気?うちのお母さんも言ってたよ、会いたいって」
「そうか。2人ともまだ飛び回ってるのか?」
「うん、国際線だから時間が被らない事多くて、ほとんど会わないけどね」
「ん?親御さんは共働きなのか?」
恋が苦笑いを浮かべつつも繰り広げられる会話に赤木は疑問を抱いた。
問われた恋は少し姿勢を正すと赤木に向き直る。
「あ、はい、キャビンアテンダントとパイロットなので、時間が皆バラバラなんです」
「1人の事も多いのか?」
「そうですね。いても寝てたり勉強してる事も多くて、あまり干渉はしないです、お互いに。イベント毎もほとんど一緒に過ごした思い出ないですし。それでも、小さい頃はわりと家にいてくれてたんですけどね」
「そうか、じゃあ寂しいだろう」
「あはは、もう慣れちゃいましたよ」
「慣れても寂しいものは寂しいだろう」
苦笑いを浮かべて言う恋に、赤木は少し溜息を漏らしつつそんな事を言った。
恋にとっては昔から続いている事で、今更深く考えもしなかった事だが、そう言われると強くは否定できない。
恋はまだ高校生で親の愛情は間近で必要な年頃でもあるのだ。
「…そうですね、だからか結構依存体質なんですよ、私」
「そう言えば昔は後ろによくくっついて来てたよな」
「あはは、ごめんね。だってこーちゃんって優しいから安心できてさ」
思い出の中の2人を手繰り寄せると、いつも木暮の後に恋がくっついていた。
恋にとっては年が近く、家が隣同士の木暮は本当の兄のように慕っていたのだ。
それは木暮も同じで、後ろをついて回る恋を守らなければと妙な正義感が働き、妹のようだと思っていた。
2人の絆に赤木はポツリと零した。
「じゃあ彼氏が出来たら大変そうだな」
「えっ!?」
「依存してしまうんじゃないのか」
「え、あ、えーっと…」
赤木の冗談交じりの言葉に恋は狼狽えてしまう。
事実、元彼である鼎に恋は依存していたのだろう。
何をされようとただ側にいて欲しかったのだ。
現状、三井にも依存しそうにはなっているのかも知れない。
何度冷たくされ、自身で嫌気がさしてお互いに傷つけあっていてもなお、追いかけずにはいられない。
恋は昔から1度好きになると中々次へと移れなかった。
叶うのならば常に何をするにも一緒に居たいとさえ思う。
だが、それが相手にとっては重くのしかかる事であるとも理解はしている。
それでも、実際好きになってしまえば自制など出来はしなかった。
それが原因の現状とも言える。
笑みを貼り付けたまま何も言えずにいる恋を見て三井は言葉を発した。
「写真撮らねぇのか」
「あ、撮る撮る。折角だし皆で撮ろうか」
「あ!?」
「え!?」
木暮がそう言ったのに対し、恋と三井は同時に声を上げた。
しかし、木暮はそんな事など露ほども気にせず近場にいた生徒に声をかけた。
「あ、すみません、ちょっとシャッター押して欲しいんだけど…」
木暮がその生徒にカメラを渡し恋の隣に立つ。
「ほら、撮るぞ。三井も!」
木暮が三井に声をかけると渋々後ろで立つ赤木の横へと並んだ。
シャッター音が聞こえると三井はスッと恋から距離を取る。
「ありがとう。これで母さんに見せれるよ」
木暮がカメラ片手に恋へと笑顔を向けると、唐突に思い出したのか言葉を続けた。
「そう言えば思い出したけど、今日仙道に会ったよ」
「あぁ、いたな。あいつはよく目立つ」
赤木も同意し仙道とのやりとりを思い返す。
しかし、恋と三井はその名に表情が固まった。
「ん?どうしたんだ?2人とも」
「う、ううん」
「っ、俺はもう行くぞ」
「え、あぁ、引き止めて悪かったな。部活頑張れよ」
慌てて否定する恋とは打って変わって、三井はそそくさとその場を去って行った。
木暮は小首を傾げながらその姿を見送った。
「何か三井、顔が赤くなかったか?」
「そうか?」
木暮はそう言うが、赤木は特に気にした風もなく同じく三井の背を見送っていた。
恋は木暮の服の裾を軽く引っ張ると笑みを浮かべた。
「私も皆の所戻るね」
「あぁ。写真出来たら渡すよ」
「ありがとう」
恋は手を振るとその場から足早に立ち去った。
逃れるように歩いているうちに次第に小走りになり、人気のない場へ逃げ込むように走りついた。
恋は、はぁと一息つくとポツリと言葉を漏らす。
「どんな顔してたらいいの…」
口元に手を当てた恋の頬は紅潮していた。
三井が目の前にいるだけで心穏やかにいられるはずもなく、そこへ考えないようにしていた仙道の名が降りかかり、恋の頭は一気に思考が停止してしまった。
そして、瞬間蘇る記憶。
それから目を逸らす事など出来ず、あの行為が記憶に色を塗る。
恋の心臓はまたも早鐘を打ち始めた。
『どうして』
そんな事は今どうでも良かった。
ただただその出来事が嬉しくて仕方がなく、この後どうなるかなど考えたくもない。
それは杞憂に終わるかも知れないが、淡く芽生えざるを得ない期待と共にひと時の幸せを、恋は1人噛み締めているのだった。
→第十八章