向かう想い
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***
あれから数日が経ち、三井はいつものように放課後の部活をしていた。
三井が放ったボールがゴールを避けて床に落ちると、忌々しそうにそのボールを拾いに行く。
ここのところずっとこんな調子で、三井は本調子でなかった。
その原因に心当たりがないわけではない。
しかし、それを認める気にもならず、三井が深々とため息を吐くと、近くにいた彩子が声をかけた。
「ねぇ、先輩」
「あ?何だよ、彩子」
「来ませんね、あの子」
「だったら何だよ。来なくてせいせいするっつーの」
あの子と言っただけで思い浮かぶほど、三井には気がかりとなっているのであろう事に、彩子は小さなため息が漏れる。
「はぁ。ならもう少し調子戻してくれませんか。じゃないと、選抜危ないんで」
「アヤちゃん!三井さんが役立たずでも、俺がいるから大丈夫だぜ」
すかさず、近くにいた宮城が彩子に迫る。
宮城の自信満々な態度に、彩子は呆れ顔を浮かべるが軽くあしらい、三井に諭すように続けた。
「はいはい。でも、皆が万全じゃないと厳しいの分かってるでしょ?赤木主将も木暮先輩もいないんですよ、先輩」
「分かってるっつーの」
三井は、うるさいとでも言いたそうに彩子を手で追い払う。
その態度に宮城が文句を垂れてはいるが、彩子はまたも小さくため息を吐くと、宮城を連れてその場を離れた。
三井は、モヤモヤとした心にある棘が取れずイライラが日々募っていく。
三井の脳裏に浮かぶのは、いつも笑顔で愛の言葉を向けていた恋ではなく、先日の後ろ姿だけだった。
三井は気分を晴らそうと、少しだけ体育館を出る事にした。
水道付近に向かい歩いていると、見知った姿を見つけてしまう。
それは、近頃の悩ましい原因となっている恋だった。
恋も三井の姿を同時に見つけたのか、慌てた様子で物陰に隠れる。
その行為が余りに不器用で、三井はズカズカと恋に近寄った。
恋は、隠れる場所に影ができた事で思わず見上げると、そこには三井が眉間に皺を寄せた姿で立っていた。
「何でいんだよ」
「すみません。さようなら」
「くそっ」
恋は、答える事無く立ち上がると走り去って行った。
その姿に、またも三井の苛立ちは募り、気分転換など出来ようもなかった。
仕方なく体育館へ戻り、間も無く練習は再開された。
だが、調子は一向に上がらない。
見兼ねた宮城は、呆れた声を三井にかけた。
「三井さん、本当いい加減にしてくれよー。今日凡ミス多すぎ」
「わーってるっつーの!」
三井は、ガシガシと頭を掻き悪態を付いた。
自身のメンタルが影響しているのがありありと分かり、そんな弱い自身の不甲斐なさに嫌気が差しそうになる。
だからと言って解決策は浮かばず、その日の練習は散々な結果となった。
その後部活も終わり、自主練習をしていた三井は、やはり調子が戻らず今日は潔く諦めて帰る事にした。
歩きながらも近頃の練習風景が頭に蘇り、忌々しそうに独り言を呟いてしまう。
「あー、くそっ。何でこんなイライラすんだよ」
原因など分かりきっているのだが、どうしてもそれを認める気にならず、いつまでも感情は堂々巡りだった。
「先輩」
それは、思いもよらない声だった。
三井が声のした方に視線を移せば、そこには恋が立っていたのだ。
今は、二十一時近い時間だ。
部活をしていない恋が、この時間、こんな場所にいる事で三井は驚きが隠せず、思わず呆けたような声が出る。
「はっ?」
「すみません。これ、差し入れです」
恋が差し出したのは、まだ温かい缶のココアだった。
いつからここにいたのか、何故いるのか、三井の思考は追いつかず、缶を無意識的に受け取ると短く問う事しか出来ない。
「何で」
その問いに恋はすぐに答えず、どこか迷っている風に見える。
けれど、意を決したのか、三井を真っ直ぐ見据え大きな声を出した。
「今日は、お願いがあって来ました!」
場違いな声のトーンに三井は少しだけ顔を顰めるも、それを聞かないわけにもいかず更に問う。
「あ?何だよ」
「あの、先輩が私を好きになることはないって分かってはいるんですけど!勝手に想ってるだけなのは良いですか!?」
「は?」
「絶対、もう好きだとは言いません。だから、諦められるまでは好きでいさせてください!」
捲し立てる恋の言葉に、三井は動揺し始めずにいられなくなる。
恋の考えがさっぱり分からず、三井は心底呆れ返った。
「何で、いちいち許可取るんだよ」
「フラれたのに想ってるのって迷惑だと思うからです。でも、すぐには諦められないので、猶予をください」
「何の猶予だよ」
「私、好きな人ができるとその人でいっぱいになっちゃうんです。だから、目で追うし、つい好きって言っちゃうし、それだけ大目に見てください。これから絶対言わないようにします!でも、経験上言っちゃう時があるんです」
「何だ、それ」
「お願いします」
恋のあまりに真剣な瞳に、三井は気圧されそうになり沈黙が流れる。
恋の言葉は、今までずっと嘘偽りはなく三井に届けられていた。
それは、煩わしくも少し面映い気持ちにさせるが、決して心の底から不快という事ではなかったのだと気付く。
ただ、人目を気にせず好きなものは好きだと主張する恋の姿が、見栄を張って好きなものから逃げた自身の過去との比較をしてしまい嫌だったのかもしれない。
恋の真っ直ぐさとへこたれ無さはある種羨ましくもあり、三井自身にはない強さで向かって来る事が受け入れ難かったのだ。
「……別にいいけど」
「えっ?」
「別に、言うくらい構わねぇ」
「ありがとうございます!」
三井の言葉を聞いた恋は、見るからに嬉しそうな表情に変え、深々と頭を下げた。
「じゃあ、失礼しますね」
恋は、本当にただそれだけが言いたくて待っていたのか、切り替え早く踵を返していた。
三井はその背を思わず引き留めた。
「なぁ」
「はい?」
「お前が、好きだっつってたキャラクター」
「はい…?」
恋が話の切り口に不思議そうな返事をすると、三井は鞄を無造作に開けてから小さなレジ袋を取り出した。
「やる」
「え?」
「貰ったからやる」
言葉の意図が理解出来ず、恋は袋の中身を確認する。
するとそこには、所々台紙が折れパッケージに包まれたキャラクターグッズが入っていた。
ずっと入れっ放しだったのだろうと推察できるその中身は、傷一つなく可愛らしい存在を主張していた。
そして、そのグッズには見覚えがあり、恋の手はワナワナと微かに震える。
「先輩」
「あ?」
「これ、限定品ですよね。貰ったって嘘ですよね」
「嘘じゃねぇ」
「だって、これ、くじの上位賞ですよ?人気で、すぐ完売したって有名なんですよ!?」
そう、それはコンビニで開催されたくじの景品だった。
恋自身チェックしていて挑戦もしたのだが、下位賞しか当たらず諦めた物だ。
「知るかよ。たまたまやったら当たったんだよ」
「やっぱり先輩がやったんじゃないですか!いいです、先輩に返します」
「俺はいらねぇよ、興味ねぇ」
恋が恐れ多いと言わんばかりにそれを突き返すと、三井は受け取りもせずそっぽを向きそんな事を言う。
ますます、恋には理解し難い状況となった。
「え?じゃあ、何でやったんですか?」
「別に。お前が好きだっつってたの思い出しただけだ」
「えっ、覚えててくれたんですか?」
「あんだけ言ってたら覚えるだろ、普通」
恋は愛の言葉を告げるついでにと、自身の事をよく話していた。
好きな物や興味のある事、特にこのキャラクターについては度々語っていて、嫌でも三井の記憶に残ってしまっている。
それは、恋の言葉にちゃんと耳を傾けていた三井の姿でもある。
恋は思わず涙ぐんで、その袋を握る指先に力を入れた。
三井は、何も返してこない恋の表情を盗み見てギョッとした。
「なっ!?何で、泣きそうな顔してんだよ」
「だって、私の話聞いてくれてたなんて。それだけで十分なのに、貰うとか私の一生分の運使った気がします」
「大袈裟だろ」
「大袈裟にもなります!好きな人から貰えるとか、一生の宝物に……ごめんなさい、今のは聞かなかったことにしてください」
続けようとした言葉を飲み込み、恋は謝っていた。
有限不実行すぎると自身が嫌になるも、三井は淡々と言葉を紡いだ。
「別にいい」
「えっ?」
「別に、お前にそう言われるのは嫌じゃない」
「えっ?でも、この間迷惑って」
「あれは、売り言葉に買い言葉っつーか。とにかく!今まで通りでいい。じゃないと調子が狂う」
ガシガシと焦れったそうにする三井に、恋はポカンと口を開けていた。
「いいんですか?」
「いいって言ってんだろ。大体お前のせいだぞ、最近調子悪いの」
「えぇっ!?そんなの知りませんよ!」
「あんなに毎日毎日来てたのが、ピタッとなくなるとか気持ち悪いんだよ」
毎日あった出来事が、急になくなるのは妙に落ち着かないものだろう。
現に、三井はそれにより不調に陥り、文句の一つでも言いたくなるというものだ。
「だって、これ以上言ったら嫌われそうだし」
「別に、嫌いにはなんねぇよ」
ボソリと呟いた言葉は恋の耳へと届き、嬉しそうに三井に詰め寄った。
「本当ですか!?」
「な、何だよ」
「本当に、好きなままでもいいですか!?好きって言っていいですか!?」
「いや、言わねぇんじゃねぇのかよ」
「あ、じゃあ、やめときます」
三井が、あまりの剣幕に恋の先程の言葉を持ち出すと、見るからに恋はしょぼんと落ち込んだ。
「だーかーらー、いちいち落ち込むな!」
「当たり前じゃないですか。好きな人にそんな事言われて、落ち込まない人なんていないと思います」
恋はいじけ気味に言葉を続けた。
持ち上げて落とされた気分になり少し納得がいかないものの、あまり強く出る気にはなれなかった。
それは、つい先程までの状態に戻るのが嫌だと思ったからだろう。
三井は、恋の態度にずっと疑問に思っていた事を口走る。
「なぁ、前から聞きたかったんだけどよ」
「はい?」
「何で俺なんだよ」
「えっ?」
「何で、俺が好きなんだよ」
こんな事をわざわざ聞くのもダサいと思ってしまうのだが、どうしてここまで学年も違い関わりも少ない恋に想われているのかが、三井にはさっぱり分からなかったのだ。
恋は、少しだけ言葉に戸惑いを見せながら答えた。
「えっと、実は前に一回先輩に会ったことがあって……」
「はっ?」
「あの、髪長かった時なんですけど、私が絡まれてた時に助けてもらって」
恋はどこかソワソワとした様子で言ったのだが、三井にそんな記憶は欠片もない。
恋もそれは承知の上なのか、慌てて言葉を続けた。
「覚えてないと思いますけど!でも、絡まれてた時に声をかけてくれて、その後、鉄男さん?がやっつけてました」
不良時代、鉄男が一緒にいる時、相手を倒すのは専ら鉄男の役割だった。
三井は、腕力に自信がない。
それでも、三井に惹かれる者達はそれを承知で、自ら役割を買って出てくれていたのだ。
「なら、鉄男に惚れるんじゃねぇの、普通」
「鉄男さんは、怖かったです……。でも、初め絡まれて凄く怖かった時に声をかけてくれたのは先輩で、私には先輩が王子様に見えました!」
「王子!?」
柄にもない事を言われて、三井は素っ頓狂な声が出る。
けれど、恋は笑顔でそれを肯定した。
「はいっ」
「……そうかよ」
「あ、先輩ちょっと照れましたね!?でも、私には先輩が王子様です!」
「だーっ!連呼するな!」
やはり、恋の言葉は真っ直ぐで飾りなく届けられる。
それはこっ恥ずかしくもあり、どこか心地よくもあった。
ただ、三井はそれを素直に認めたくはない。
「先輩」
「あ?」
「好きです!」
そこには、満面の笑みで変わらない愛の言葉を紡ぐ恋の姿があった。
***
それは、春先のある日の夜。
三井達は、いつものように暗い夜道に繰り出していた。
不良となり早二年。
今では昔の輝きなどどこかへ行ってしまったかのように、三井は色褪せてしまった姿を誤魔化すために虚勢を張り続けていた。
談笑しながら三井が歩いていると、どこからか声が聞こえた気がして辺りを見渡した。
歩道の一角で不良に絡まれている少女を見つけ、三井の足は思わず立ち止まる。
「三井?どうした」
前を進んでいた鉄男がそれに気付き声をかけると、三井は一瞬考えてから口を開いた。
視線は、歩道の一角を見つめたままだ。
「いや、あれ」
「あー、あいつらこの間の。相変わらずくだらねぇ事してるんだな」
その姿に鉄男は見覚えがあった。
それは、つい先日喧嘩をした不良グループだ。
三井も見覚えはあったが、それよりも少女の事が気になっていた。
「あぁ」
「何だよ、助けるのか?」
「いや」
「気になるなら、助けてやれば」
生返事をする三井に、鉄男はニッと挑発的に笑っている。
三井は、しばらく迷ってから歩き出す。
向かう先は一つしかない。
「おい」
「あっ!?何だ……てめぇ、三井!」
「相変わらず、つまんねぇ事してんだな」
「うるせぇ!この間のカリ返してやる!」
「それは、俺にも喧嘩売ってるって事だよな?」
「げっ、鉄男!?」
不良達は、鉄男の姿を見るなり怯み、三井は驚きを隠せない少女に声をかけた。
「おい」
「は、はいっ」
「早く行けよ。大体、女が夜に出歩いてるんじゃねぇよ」
「じゅ、塾で……」
「聞いてねぇよ。早く行け」
「あ、あの、ありがとうございました!」
「あぁ、これからは気つけろよ」
少女が、頭を深々下げる姿は妙に印象的だった。
普段敬遠されがちな三井にとって、少しだけ心に響くものがある。
「おい、聞いてんのか三井!」
不良達は、感慨にふける暇も与えてくれないらしく、三井に向かって喚く。
それからすぐに喧嘩は始まり、夜の街に怒号が飛び交う。
そんな様子を、少女はこっそりと物陰から見つめていた。
勿論それに、三井が気付く事はない。
少女は、ドキドキとした胸をギュッと抑えて、非現実的な光景に見入っている。
それは、少女が今まさに一目惚れをした瞬間だった。
***
今日も、いつものように部活が体育館で行われようとしていた。
彩子は寒さが身に染みる中、我慢をして体育館内のドアを開けて回っていると、入り口付近で話している恋と三井が視界に入った。
一時期来なくなっていた恋が、再び体育館に顔を出すようになったのは、つい数日前の事だ。
やはり、部活が始まる前に三井へと話しかけては、しばらくすると帰っていく日々は、再開しても変わらない。
三井も相変わらず辟易とした様子で恋に対応しているのだが、彩子にはどう見ても以前と雰囲気が変わった気がしてならなかった。
「元の鞘に戻ったのかしら」
「いやー、あれ、どうなんですかね」
彩子がポツリと呟くと、丁度ドアの前にいた水戸が相槌のためか口を挟み、他の桜木軍団の面子も苦笑を浮かべていた。
やはり皆、変化は感じられるものの確証がないのか、そんな曖昧な返事しか出来ないのだろう。
「付き合えばいいのにね」
「あれで付き合ってねぇのかよ!?」
彩子の言葉に反応したのは、たった今近寄って来た宮城だった。
宮城は彩子に話しかけようと思っていたのだが、そんな言葉が聞こえ思わず反応してしまったのだ。
「あの子が言ってたわよ。好きとは言われてないし、私の片想いですって」
再開したのはたった数日前なのにも関わらず、彩子の情報収集能力に皆驚きは隠せないが、今はそれどころではない。
その言葉は、恋達を表すのに適した言葉とはその場にいた誰もが思えなかった。
「いや、あれ、好きじゃなきゃしないでしょ、あんな顔」
「先輩は、認めたくないんじゃないかしら?」
「つまんねぇ意地張ってるなぁ」
思わずため息が出てしまうほどに、その場にいた全員が呆れてしまっていた。
三井の顔は、心底嫌っている風には見えず、時折垣間見える笑顔は優しく見える。
明らかに気持ちの変化は見られるのだ。
元々、三井がそこまで邪険には突っ放していなかった事は周知の事実で、照れ隠しだと大半の者が思っていた。
好きと言われて悪い気がする者は少ないだろうし、三井はわりと単純で反応が見て分かりやすいのだ。
ただ、見栄っ張りに近いものがある事も皆分かっているので、そうなると、見守るしか手立てはない。
皆は、生温かい眼差しで二人を見ていた。
一方、恋に捕まった三井は、まだ押し問答をしていた。
恋が、体育館に再び来るようになったきっかけは明らかに自身であるのだが、そうなった経緯に少しだけ後悔しない事もない。
「先輩!好きです!」
「だから、聞き飽きたっつーんだよ」
それは、少し懐かしくも感じるやりとりで、どこか心はホッとするのだが、三井はそれを認める事を何となく躊躇していた。
認めてしまえば、負けになるような気がしないでもなかった。
恋は、変わらない笑みを浮かべて言葉を続ける。
「じゃあ、ちょっとは好きになってくれましたか!?」
「ならねー」
「もう!どうやったら、好きになってくれるんですかー!」
恋が打開策なく困っている様を見て、三井は不意に笑みが溢れた。
「はは、自分で考えろ」
「っ!?」
「あ?」
恋が息を呑んだ気がして、三井は怪訝そうに見返したが、恋は慌てて言葉を紡ぐ。
今まで真っ直ぐ向けられる事のなかった、不意打ちの笑顔にやられたのだ。
「な、何ですか、今の顔!不意打ちです!ズルイです!」
「はぁ?」
「あのっ、ちょ、ジッと見ないで下さい!」
「あ?何だよ?振り向いて欲しいんだろ?」
恋の反応に、ニヤニヤと三井は顔を近づけた。
三井は、初めて優位に立ったような気持ちになり、反応を面白がっている。
恋は、今までの勢いが消え去りたじろいでいた。
恋自身から押していくのは躊躇なく出来るのだが、逆に攻めた反応を見せられてしまうと心は乱される。
いつも一定で保たれていた二人の距離が近寄った事で、恋は動揺を隠しきれなくなった。
「いや、あの、近っ……」
なおも近い距離を保ったままの三井に、恋は顔を赤らめて視線を逸らし、自身の手で三井の顔が見えないようにした。
三井はニッと笑い、その様子を満足そうにただ見つめている。
二人の間に流れる空気は、とても柔らかい。
「おーい、そこのバカップル。そろそろ始めるぞー」
と、その場の空気を破ったのは宮城だった。
三井はその言葉にすぐさま反応した。
「あぁ!?宮城、テメー!」
「はいはい。先輩、調子戻って来たんですから頑張ってくださいよ。誰のおかげか知りませんけど」
「彩子まで!」
茶化していく二人に、三井は不快感を露わにする。
恋は、戻った距離感にホッとしながら、三井に声をかけた。
「先輩!」
「あ?」
「部活、頑張って下さいね!」
「あぁ」
恋の力強い声援と笑みに、三井も朗らかな笑みを返す。
二人の関係に進展があるかどうかは、まだ誰にも分からないのだった。
→アトガキ