第177話:『激突!水の槍VS黒き聖剣!』
ウェスカー:「ブラックホール・デュランダル!」
黒いエネルギー球体が、ピアーズに直撃した瞬間、ブラックホールが発生し、ピアーズを飲み込む。
ピアーズ:「ぐわあああああああ!」
衝撃の痛みに耐えるピアーズの悲鳴は、みんなの耳に聞こえていた。
ベクター:「ピアーズ!!」
璃緒:「っ!」
あまりの衝撃に璃緒は目を閉じた。
ピアーズ:「ぐわあああああ!」
ウェスカー:「消えろ!我が旧知よ!」
ブラックホールが集約され、そこを中心に大爆発が起きた。
ピアーズ、散る。旧知であるウェスカーの手によって…。
大爆発の中からピアーズの身体が倒れた姿で出てきた。
凌牙:「ピアーズ!」
凌牙たちは急いでピアーズの元へ走った。
第10OP『鏡のデュアル・イズム《petit milady》』
第177話:『激突!水の槍VS黒き聖剣!』
ウェスカーに倒されたピアーズの身体はボロボロだった。
凌牙たちは急いで、ピアーズの元へ向かい、身体を起こす。
凌牙:「しっかりしろ!ピアーズ」
シンディ:「ピアーズ!」
凌牙がピアーズの身体を揺さぶる。
ピアーズはゆっくりと目を開けた。
シンディ:「ピアーズ…」
小鳥:「よかった、まだ生きてるわ」
ピアーズの意識があることに、みんながホッとする。
ピアーズ:「フッ、結局俺の負けか…」
凌牙:「しゃべるな。傷に触る」
ピアーズ:「いや、俺はどうやら、ここまでのようだぜ…」
ピアーズが右手を少しずつ上げる。
ピアーズの右手は光の粒子となっていた。
それは消滅の前兆を意味するものであった。
結衣:「そんな…」
ツバキ:「くっ…」
消えて行くピアーズを見届けることしかできないツバキは悔しい気持ちでいっぱいだった。
ピアーズ:「内心気付いてたさ…。ウェスカーには、ドン・サウザンドの力がある…。その力を使えば、俺は勝てねえってな…」
息苦しくなり、ピアーズは咳き込む。
凌牙:「ピアーズ…」
ピアーズ:「だが、ドン・サウザンドの力は無敵じゃねえ。お前たちはそれを知っているはずだ」
ピアーズの言う通りだ。
凌牙はドン・サウザンドの力を持っていたピアーズを一度倒している。
そして、小鳥もシンディを倒し、ドン・サウザンドの力を浄化した。
凶悪な力と言っても決して無敵ではない。
ピアーズ:「シンディ、さっきも言ったが、俺の希望をお前に託す…ぜ。俺も昔から心のどこかに人間として思いが残っていたみたいだからな…」
だから、こんな行動を取ったのかもしれない。ピアーズはそう思っていた。
ピアーズ:「凌牙…」
ピアーズは凌牙の胸蔵を掴む。
ピアーズ:「必ず、ドン・サウザンドに勝て…。人間世界をアストラル世界を…守り、バリアン世界を救ってくれ…」
もうすでに閉じそうな目だが、それでも強く、その気持ちを凌牙に伝えるピアーズ。
凌牙:「ああ、任せろ」
凌牙は自分の胸倉を掴むピアーズの手を握る。
ピアーズは一安心したのか笑って、少しずつ目を閉じていく。
完全に意識がなくなり、そしてピアーズの身体は光の塵となって消える。
シンディ:「ピアーズ!」
仲間だったピアーズが散った。
これはシンディにとって辛い気持ちだった。
そして、少し前に仲間として受け入れた凌牙や小鳥たちも、辛い気持ちとなった。
ウェスカー:「まずは、1人目だ」
セカンドステージ状態のバリアン・デュランダルを持つウェスカーが、旧知が死んだのにも関わらず、清々しい表情をしていた。
シンディ:「ウェスカー…あなたって人は…!」
涙目のシンディが、ウェスカーに怒りをぶつける。
ウェスカー:「次はお前だ、シンディ。女だからといって容赦はしない」
闇の力がウェスカーの身体から解き放たれる。
その力にシンディは怯えてしまう。
しかし、ウェスカーに対する怒りは変わらない。
シンディは、”CX(カオスエクシーズ)ヴァルキリア・フェアリー・イヤー”のクロスボウタイプのデュエルギア”ヴァルキリア・スルー”を手に持ち、戦う準備をする。
小鳥:「シンディ…!」
深影:「あいつと戦う気…!」
シンディ:「あいつは、私の仲間を殺した。あいつにとっても仲間だったはずのピアーズを…。だから、許せない。絶対に、許せない!」
シンディの怒りは頂点に達していた。
シンディ:「コンパーション・ソング!」
ヴァルキリア・スルーにエネルギーが溜められ、引き金を引き、矢が放たれた瞬間、矢が無数に拡散する。
ウェスカー:「甘いな…」
ウェスカーはバリアン・デュランダルを一振りし、シンディが放った矢を全て打ち消した。
シンディ:「!」
ウェスカー:「俺とお前は長い付き合いだ。お前の攻撃は、俺には通用しない」
シンディ:「嘗めないで!」
シンディはヴァルキリア・スルーから連続で矢を打ち続ける。
だが、全て放った矢は打ち消されてしまう。
ウェスカー:「無駄だ。シンディ、お前も俺には勝てない。バリアン8人衆のリーダーである俺にはな!」
ウェスカーがセカンドステージ状態のバリアン・デュランダルから斬撃を解き放つ。
シンディに黒い斬撃が襲いかかってくる。
当たれば一溜りもないだろう。
しかし、シンディに攻撃が当たる直前、何者かがシンディの前に立ち、でゅえるデュエルギアを使用して黒い斬撃を受け止める。
大鎌タイプのデュエルギアを振り回し、黒い斬撃を受け止め耐えきる…。
シンディ:「…!」
璃緒:「りょ、凌牙…!?」
シンディを守ったのは、凌牙だった。
手に持っているのは”バハムート・シャーク”の大鎌タイプのデュエルギア”バハムート・エッジサイト”だ。
シンディ:「あなた、どうして…」
凌牙:「奴はお前の力を理解している。このまま続けても、勝ち目がないのは目に見えている…」
凌牙の言う通りだ。ウェスカーは、私の力を十分に理解しているはず…。ピアーズの力を知っているのと同様で…。
シンディも気づいていた。自分ではウェスカーに勝てないことに…。
凌牙:「俺がやる」
シンディ:「え?」
凌牙:「俺が奴を倒す。ピアーズの仇は俺が撃つ」
凌牙が前に出る。
璃緒:「待って、凌牙」
璃緒が双子の兄を止めようとするが、璃緒の肩をベクターが掴む。
璃緒:「ベクター…!」
ベクター:「やらせてやれ。今のあいつは、誰にも止められねえ」
ベクターの言っている意味は璃緒にとって、正直理解できなかった。
鬼柳:「あいつの目をよくみて見ろ」
鬼柳に言われて、璃緒は凌牙の目を見る。
その目は、怒りに満ちた目だった。
璃緒:「凌牙…」
未来:「消えてしまった彼のことを仲間だと思っていたのね。じゃなきゃ、あんな目をすることなんてないわ」
凌牙の気持ちが何となく理解できる未来は、凌牙の表情を見てそう呟く。
凌牙がウェスカーの前に立つ。
ウェスカー:「神代凌牙。No.3のエースのマークを持つ者にして、元バリアン七皇リーダー、ナッシュ。例え、お前が俺の相手をするとしてもお前が勝つことはない」
凌牙:「なぜ、そう言いきれる?」
ウェスカー:「俺にはドン・サウザンド様からもらい受けた力がある!そして、元バリアンであるお前に、この力はない。圧倒的力の差がある!」
ウェスカーの背後に黒い影が現れる。
その影に浮かぶ2つの眼が凌牙を見つめる。
周りで見ている者達数名は、これを見て恐怖心を覚えた。
ジャック:『身体が…』
オブライエン:『動かない…』
慎也:『こいつが持つドン・サウザンドの力は、他のバリアン達の比ではないということか…』
恐怖に身体が思うように動かない慎也たち。
しかし、そんな中、凌牙は…。
凌牙:「はぁ」
大きなため息をついた。
ウェスカー:「?」
物凄く侮辱されたような感じがしたウェスカーは、凌牙に話しかけた。
ウェスカー:「恐怖でため息つくことしかできないか?落ちたものだ。バリアン七皇のリーダーも」
そう言って、余裕の笑みを見せるウェスカーは、過去の凌牙を侮辱する。
凌牙:「ドン・サウザンドの力だぁ?」
ため息をついてから初めて口を開いた。
凌牙:「所詮、他人の力を借りて強くなっただけだろ?」
凌牙はウェスカーにそう言った。ウェスカーは、この言葉を聞いて、少し怒りを覚えたようだ。
ウェスカー:「神代凌牙…、同じことをもう一度言ってみろ。その言葉はドン・サウザンド様への侮辱だぞ」
凌牙:「何度でも言ってやる。その力がなきゃ、お前は弱いバリアンだって言ってんだ」
ウェスカーは、ドン・サウザンドの力を纏い、凌牙に突っ込む。
凌牙はウェスカーの怒りを買うかのように、ウェスカーが持つセカンドステージ状態のバリアン・デュランダルを、バハムート・エッジサイトで受け止める。
ウェスカー:「どうやら死にたいようだな。神代凌牙!」
ウェスカーがバリアン・デュランダルに力を与える。
凌牙はウェスカーの攻撃を受け止めながら、先ほど消滅したピアーズのことを思い出す。
初めて会ったときは、嫌な奴だった…。
それ以外、言葉が思い浮かばない。
しかし、ドン・サウザンドのやっていることが誤っていると気付いてから、態度が変わってきた。
それでも、あいつの願いはバリアン世界を救うことだった。
バリアンとして生まれ変わってから過ごした世界を忘れることができないのだろう。
凌牙:「ふん!」
凌牙はバハムート・エッジサイトを思いっきり振り、ウェスカーと距離を取る。
凌牙の右手の甲に、No.3のエースのマークが浮かび上がる。
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ピアーズ:『必ず、ドン・サウザンドに勝て…。人間世界をアストラル世界を…守り、バリアン世界を救ってくれ…』
消える直前にピアーズが言った言葉は、凌牙の心に大きく響いていた。
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凌牙:「ウェスカー!ピアーズに託された希望を背負って、お前を倒す!」
物凄い気迫を放つ凌牙はバハムート・エッジサイトと、そしてもう一つの”ブラックレイ・ランサー”のトライデント形状の槍、”ブラックランサー”を握り、気迫をウェスカーにぶつける。
亜美:「今まで感じたことのない気迫…」
ベクター:「あいつ、本気で怒ってやがるな」
凌牙の怒りが伝わってくる…。
ピアーズを殺めたウェスカーを本当に許せないのだ。
ウェスカー:「気迫がどれだけ凄くても、お前では俺には勝てない。それを教えてやる!」
ウェスカーの身体に闇属性の波動が纏われる。
いや、闇属性の波動だけじゃない、”CX(カオスエクシーズ)-バリアンズ・デュランダル・ヴァルキリー”の力を身に纏ったのだ。
そう、限界勢力の力だ。
ウェスカー:「行くぞ、神代凌牙!お前にはとっておきのステージを用意してやる!」
ウェスカーの身体から闇のオーラが放たれる。
ウェスカー:「ヘクトール・ゾーナ!!」
放たれた闇のオーラが、結界を作り出し、ウェスカーと凌牙を、その結界の中に閉じ込める。
杏子:「な、何…!?」
小鳥:「シャーク!」
璃緒:「凌牙!!」
凌牙が闇のオーラに包まれる直前に、璃緒が凌牙の元へ走るが、凌牙の姿は謎の結界の所為で姿が見えなくなってしまった。
右京:「彼の姿が見えない…」
隼人:「この変な、結界の所為なのか…」
吹雪:「今は、彼を信じるしかないね」
こちらから手出しさせないつもりなのだろう…。
結界の外にいる者たちは、凌牙を信じることしかできない状況に立たされた。
その頃、闇の結界の包まれた凌牙は…。
凌牙:「…」
冷静に周りを見て、自分の状況下を確認する。
ウェスカー:「俺が持つ闇属性の波動、そして限界勢力によってバリアンズ・デュランダル・ヴァルキリーと一つになったことによる力で作り上げた結界”ヘクトール・ゾーナ”。この結界の中にいれば、バリアンズ・デュランダル・ヴァルキリーと一つになっている俺の力は倍以上に跳ね上がる」
凌牙:「お前に有利な空間というわけか」
ウェスカー:「せこいとは言わせないぞ。これが、俺の力だ!」
ウェスカーが背中から黒い翼を生やし、凌牙に接近する。
凌牙:「ドラゴン・オンダス!!」
水波を生成し発生させ、そこから龍の頭が現れ攻撃する。
ウェスカー:「獄災・突破!!」
ウェスカーが持つセカンドステージ状態のバリアン・デュランダルの刀身が赤く輝き、その状態でウェスカーは凌牙の放った攻撃に突っ込む。
凌牙:『ドラゴン・オンダスに突っ込む気か…!』
凌牙が放った攻撃により出てきた龍が口を大きく開ける。
ウェスカーは、その口の中にお構いなしに突っ込んだ。
ウェスカー:「貴様の水の力では、俺の闇の力には勝てないことを教えてやる!」
ウェスカーは、水で象られた龍を突破し、凌牙の目の前に現れる。
凌牙:「くっ!」
凌牙はブラックランサーで、バリアン・デュランダルを受け止める。
ウェスカー:「その受け止め方は失敗だ」
凌牙:「何…!」
ウェスカー:「この攻撃は、物体に触れた瞬間、黒いのオーラを放ち…」
バリアン・デュランダルから黒いオーラが放出される。
ウェスカー:「敵を包み込む」
黒いオーラが凌牙を包み込む。
凌牙:「何…!?」
自分を包み込む黒いオーラの所為で、凌牙は身動きが取れない状態になってしまった。
ウェスカー:「動けないだろう?そのオーラは敵の動きを止める力が備わっているからな」
凌牙:「くっ…」
ウェスカーが一歩後ろに下がり、セカンドステージ状態のバリアン・デュランダルを振りかざす。
凌牙:「!」
ウェスカー:「情けない終わり方だった。地獄でピアーズが待っているぞ」
ウェスカーがバリアン・デュランダルを振り下ろす。
その瞬間、凌牙のNo.3のエースのマークが強い輝きを放ち、自分を包み込む黒いオーラを即座に吸収する。
そして、凌牙はブラックランサーで振り下ろされたバリアン・デュランダルを受け止める。
ウェスカー:「!?」
少し驚いたのか、ウェスカーは一旦後ろに下がる。
ウェスカー:「動きを止めていたはずのオーラが吸収されただと…」
凌牙:「エースのマークの力か…」
凌牙にも何が起きたのか理解できなかった。
ウェスカー:「エースのマークの力で、俺の力を無効化したようだな。だが、所詮はその場しのぎだ」
ウェスカーはセカンドステージ状態のバリアン・デュランダルを前に突き出す。
ウェスカー:「はぁぁ」
気迫を溜め込むウェスカー。
足元に魔法陣が展開される。
凌牙:『来る…!』
凌牙はバハムート・エッジサイトに、闇属性の波動を流し込む。
凌牙:「シャドー・シャーク!」
紫色の鮫の残像を放ち、ウェスカーの周りを動き回る。
この技は、敵の視線を誘導する技だ。
しかし、ウェスカーの視線は変わらない…。
ウェスカーの足元に展開されている魔法陣から闇のオーラが放出され、周りに散布される。
更に、ウェスカーの背後にバリアンズ・デュランダル・ヴァルキリーの幻影が現れる。
ウェスカー:「…暗黒のドゥリンダナ」
ウェスカーは凌牙に向かって走る。
凌牙はウェスカーの動きを追う。
しかし、目の前にいたはずのウェスカーが視界から突然消え、凌牙は唖然とする。
凌牙:「!!?」
凌牙は周りを見渡す。
凌牙:「どういうことだ…!なぜ、奴がいなくなった…!」
凌牙の周りにあるのは、ウェスカーの魔法陣から散布された闇のオーラだけだった。
凌牙:「この不気味なオーラの所為か…!」
ウェスカー:「気付いたところで、もう遅い。お前は、もう俺を捕えることはできない」
どこからか聞こえるウェスカーの声に翻弄されてしまう凌牙。
凌牙:「ぐはっ!」
突然、身体に打撃によるダメージが与えられる。
凌牙:「どこだ…!」
周りを見るが、どこにもウェスカーの姿はない。
次は足元に打撃によるダメージが与えられ、膝をついてしまう凌牙。
凌牙:「どこだ!ウェスカー!」
恐怖心の所為か。大きな声で叫ぶ凌牙。
ウェスカー:『終わりだ…』
散布される黒いオーラの中にウェスカーの目が浮かび上がる。
凌牙:「そこか!」
凌牙がウェスカーの気配を感じ、そちらの方を振り向く。
しかし、一足遅かった。
凌牙の右の二の腕が切られた。
凌牙:「うっ!」
凌牙は切られた場所を左手で押さえる。
ウェスカー:「フッ、終わりだな」
凌牙から見えないのを利用して、ウェスカーはやりたい放題に凌牙を痛みつける。
跪く凌牙を蹴り飛ばした。
凌牙:「ぐはっ!」
凌牙は蹴り飛ばされうつ伏せに倒れる。
立ち上がろうとすると、再び蹴り飛ばされ、立ち上がることができなかった。
凌牙:「くっ、奴を捕えることができなければ―」
ダメージを受けてもなお、立ち上がろうとする凌牙だが、ウェスカーは凌牙からみえないことを利用してダメージを与える。
ウェスカー:『フッ、そろそろ終わりにするとしよう』
ウェスカーは凌牙の背後から一歩ずつ前へ進み、近寄る。
その手には、黒い聖剣、セカンドステージ状態のバリアン・デュランダルが握られている。
聖剣とは聖なる力を与えられた剣として有名である。
だが、ウェスカーの持つ剣に、聖なる力などない。
あるのは、邪悪な殺意だけだ。
何も見えない凌牙は、後ろからウェスカーが近寄ってくることに気付いていない。
凌牙:「くっ」
右手の甲に浮かび上がるNo.3のエースのマークが輝きを徐々に失う。
輝きが失うということは、凌牙の限界も近いということだ。
凌牙:『ピアーズ、俺もお前のところに行くかもな…』
凌牙は、死ぬことを覚悟したのかそう呟いた。
???:『凌牙!』
???:『シャーク!』
???:『神代君!』
突然、耳に響いた声…。
それは、外にいる双子の妹の璃緒や、仲間である小鳥、右京の声だった。
この黒い結界にいるのは俺とウェスカーのはず…。なぜ、みんなの声が…。
凌牙は不思議そうな顔をするが、すぐに答えが見えた。
凌牙は右手の甲を見つめる。
凌牙:『こいつを通して、みんなの声が聞こえる…』
自分の右手の甲に浮かび上がるNo.3のエースのマーク。輝きは徐々に無くなっている。
しかし、それでもエースのマークは、凌牙に力を貸そうとしているのだ。
凌牙の頭の中に消滅直前のピアーズの顔を思い出す。
凌牙:『そうだ。俺はまだ、終わるわけにはいかねえ。まだ、ドン・サウザンドを倒していねえからな』
凌牙の目つきが変化した。その目は、まだ自身の終わりを告げるような表情ではない。
しかし、凌牙の表情は背後から近づくウェスカーには見えない。
ウェスカーのバリアン・デュランダルの黒い刀身が、凌牙の首筋寸前に構えられる。
近くにいてもなお、凌牙は背後にいるウェスカーに全然気づかないでいた。
凌牙:『落ち着け…。これは奴の能力による視界を潰す力だ…。気配を感じさえすれば…』
凌牙が目を瞑る。
ウェスカー:『神代凌牙、いやバリアン七皇ナッシュ。お前の首…』
ウェスカーがバリアン・デュランダルを振りかざす。
ウェスカー:『もらったぞ!』
黒い刀身が凌牙の首に目掛けて、振り下ろされた。
凌牙は黒い剣が迫っているのに気づかず、ずっと目を閉じている。
静かな空間…、そこら中に漂う奇妙な空気…、そして、どこからか放たれる殺気…。
おそらく、この殺気はウェスカーのものだろうと、凌牙は読んでいた。
どこからか流れる風の音…。そして、凌牙の意識が、ウェスカーを捕えた。
ウェスカー:「!?」
ウェスカーも驚いた。
凌牙はウェスカーがいる方を見ることなく、ブラックランサーを使って、バリアン・デュランダルを受け止めたのだ。
ウェスカー:『バカな…?そんなはずは…』
ウェスカーは一度、後ろに下がる。
そして、再び前に飛び出し、凌牙の首を狙う。
ウェスカー:「偶然か…。奴には、俺が見えないはずだ…!」
バリアン・デュランダルの黒い刀身が再び凌牙の首に迫る。
しかし、自分の方に近づかせまいと、凌牙はブラックランサーを大きく振ってウェスカーにダメージを与えようとする。
ウェスカーはギリギリでブラックランサーの攻撃を躱した。
ウェスカー:『こ、こいつ…!』
思うように自分の武器が凌牙に届かないことにウェスカーは歯を立てる。
凌牙:「こっちだな」
凌牙が目を開き、立ち上がりバハムート・エッジサイトを構える。
バハムート・エッジサイトの刃が青く輝き、凌牙の足元が大量の水で溢れる。
ウェスカー:『あの規模のデュエルギアだけで、あれだけの水を出せるはずがない…!水属性の波動か…!』
そう、凌牙の身体に一番流れているのは闇属性の波動だが、水属性の波動も彼にはそれなりに流れている。
そして、その水の波動をうまく利用した攻撃が、今炸裂する。
ブラックランサーを水で覆われる地面に突き刺し、バハムート・エッジサイトで振り回す。
バハムート・エッジサイトの刃からも水が出ており、地面に広がる水に落ちる。
地面に広がる水が盛り上がり、少しずつ水で象られた何かが現れる。
ウェスカー:『あいつは…、海の神とも言われた…!』
目の前に現れた人2人分の水で象られた何かにウェスカーは驚く。
凌牙:「エノシガイオス・アマルティア」
ポセイドンの罪…。
そう、凌牙の力により水で象られたのは、ギリシャ神話に登場する海や地震の神と言われたポセイドンだった。
凌牙:「行くぞ!」
水で象られたポセイドンが手に持つ槍を見えないはずのウェスカーに向ける。
そして、ポセイドンの槍が、ウェスカーにヒットする。
ウェスカー:『くっ、重い…』
ポセイドンの槍を受け止めるウェスカーは、その衝撃があまりにも重く、踏ん張ることに集中し過ぎた。
凌牙:「見えたぜ」
凌牙はの目線が、ウェスカーに向けられる。
さっきまで見えなかったはずのウェスカーの姿が見えるのだ。
凌牙はウェスカーがいる方へ走る。
地面に突き刺していたブラックランサーを手に持って…。
ウェスカー:「くっ…!」
ポセイドンの槍を無理矢理払うウェスカー。
だが、既に凌牙は目の前にいた。
凌牙:「終わりだ。ウェスカー!」
バハムート・エッジサイトとブラックランサーの刃が、ウェスカーを斬る。
この戦いに、勝負は決まったのか…!
第11ED『切望のフリージア《DaizyStripper》』
次回予告
ナレーション:ウェスカーを追い詰める凌牙。
黒い結界の中、戦いに終止符が打たれたと思ったが、ウェスカーはドン・サウザンドの力を解放し、相手を絶望するためだけの姿へと変貌する!
それに立ち向かう凌牙…!
果たして凌牙はウェスカーに勝ち、ドン・サウザンドの元へ向かえるのか…!
凌牙:次回、遊戯王5DXAL「ポセイドン・カリハリアス!」
凌牙:「じゃあな、俺の後継者…」
遊戯王5DXAL豆知識コーナー!!
凌牙:「ドン・サウザンドが血のデスリング、アラクネーの宝玉、ヴィータのペンダントの力で作り上げた”カイゼル・サウザンド”は力を完全解放したとき、人類の滅亡が始まる。そんなこと、俺たちが絶対にさせねえぞ、ドン・サウザンド!」