第175話:『バリアンとしての迷い』
カイゼル・サウザンド内部に展開されるマルピアスの空間。
とある場所で、爆発が起きた。
その爆発を、少し高い場所から見つめているものがいた。
バリアン8人衆の1人であり紅一点シンディだ。
シンディは一度、小鳥に敗北した。その敗北をきっかけにドン・サウザンドからもらい受けた力を失っている。
そう小鳥とのバトルの中で、彼女が自分の身体に眠るドン・サウザンドの魂を浄化したのだ。
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???:『バリアンの力を嘗めるな…!』
小鳥:「なら、人間の力も嘗めないでよね!」
力に飲み込まれたとき、うる覚えだが、小鳥がそう言って攻撃を放っていたことを思い出すシンディ。
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シンディ:「まだ人間としての気持ちが、私の中に残っているのなら、私は…」
シンディはそう呟き、自分の胸元を触った。
第10OP『鏡のデュアル・イズム《petit milady》』
第175話:『バリアンとしての迷い』
蝉丸、クラゲ先輩、蚊忍者にデュエルで勝った海馬瀬人。
遊馬達の近くにDホイールを止める。
そして、敗北した3人はダメージを受けた身体を引きずるように立ち上がる。
蝉丸:「何故だ…。なぜ俺たちは負けた…」
クラゲ先輩:「俺たちはドン・サウザンド様から力をもらったはずだ…!」
蚊忍者:「理解できないって蚊…!」
蝉丸たちは現実に起きたことを認められなかった。
だが、認めたくなくても、現実に起きていることは事実。3人は敗北したのだ。
そして、3人の前にそれぞれ、偽りのナンバーズとカオスナンバーズの計6枚のカードが宙に浮く。
そのカードから黒い炎が吹き出し、3人を飲み込む。
クラゲ先輩:「ぎゃああああ!」
蚊忍者:「ゆ、許してくれって蚊…!ドン・サウザンド様!」
蝉丸:「俺たちに、もう一度チャンスを…!」
黒い炎に包まれながらも嘆く3人。
だが、ドン・サウザンドにとって、こいつらはもう不必要なのだろう。3人の言葉は、ドン・サウザンドに届いていなかった。
3人は黒い炎に燃やし尽くされた。
遊馬は、この光景を見て、かつて自分に敗北して用済みとなって消されたハートランドのことを思い出す。
ハートランドも黒い炎に包まれて、燃やし尽くされた。
ボマー:「なんと惨いことを…」
鉄男:「やっぱり、ドン・サウザンドはおっかねえ奴だ」
燃やし尽くされた3人のことを見て、呟く鉄男たち。
海馬はDホイールから降りて、エンジンが搭載されている箇所を見る。
かなり煙が出ている。もう少し走っていたらオーバーヒートで、爆発していたかもしれない。
海馬は、自分専用に改造したミッションウォッチからホログラムを出し、更にブルーアイズ・エクステンダーを粒子にして、ミッションウォッチの格納機能を起動させて格納する。
ちなみに、海馬専用のミッション・ウォッチは昨日こそ同じだが、時計の淵部分がブルーアイズと同じ色をしている。
モクバ:「にいさまー!」
誰かが、手を振ってこちらに近づいてくる。
海馬の弟モクバだ。他にも、ハラルド、ドラガン、ブレイブ、SOA隊2係リーダーのジェリドに、SOA隊5係リーダーのモンドもいる。
モクバ:「兄様、俺たちを置いて行くなんてひどいよ。ってあれ?Dホイールは?」
海馬:「エンジンがオーバーヒートした。一度、持って帰って再点検が必要だ」
ハラルド:「いきなり走らせたんだ。まだまだ調整が必要だろう」
ブルーアイズ・エクステンダーの開発に手を貸していたハラルドが呟く。
カーリー:「チーム・ラグナロクがどうして、ここに。最近、見かけてないと思っていたけど」
チーム・ラグナロク3人は、最近ずっとフロンティア本部を留守にしていた。だから、ここにいることが不思議でならなかったのだ。
ドラガン:「俺たちは海馬社長の新たなDホイールの開発に手を貸していたんだ」
ブレイブ:「だから、海馬コーポレーションでずっと仕事三昧」
羅夢:「そう言えば、ジェリドさんもモンドさんも特別任務に当たっていると聞きましたが、それがDホイールの開発だったんですか?」
ジェリド:「あぁ、正確には開発作業の護衛と言ったところだがな」
モンド:「海馬コーポレーションはフロンティアとのつながりが高い。海馬コーポレーションの新たな開発と聞いて動き出す組織もあるらしいからな」
海馬コーポレーションにずっといたことを明かすジェリドたち。
まさか、海馬がDホイールを開発していたとは誰も予想していなかった。
ハラルド:「それよりも先を急いでいるんだろ?ここからは、私たちも手を貸す」
モクバ:「エンジンの調整がまだとはいえ、ブルーアイズ・エクステンダーは完成したんだ。それなのに世界を終わりにさせるなんてできるかよ!」
一馬:「急ぐぞ、遊馬」
遊馬:「あぁ、わかってるぜ」
遊馬達は、再び大樹を目指して走る。
その頃、小鳥たちも、大樹に向かっていた。
小鳥たちは、大樹より少し離れた距離に転移したため、本当に急ぐ必要があった。
小鳥:「…」
小鳥は、マルピアスに来たことがない。
だが、遊馬がここで落石事故に遭ったとき、小鳥はテレビに映るマルピアスを見て、呆然としたときがあった。
幼馴染で、バカで、おっちょこちょいだけど、それでも大好きだった彼氏が失ったとき…。
あの時の気持ちは今でも忘れない。その時は、まさか遊馬が生きていたなんて誰も予想などしていなかったから…。
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小鳥:『遊馬、遊馬、遊馬…!どうして!』
自分の部屋で布団で身を包み、丸一日悲しんだ。
母親が声をかけても私は返事をしなかった。
あの時は、本当に現実に起きていることを認めたくなかった。
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辛い過去だった…。例え、遊馬が生きていたとわかっていても、あんな気持ちを体感したことを忘れることはない…。
ロビン:「小鳥?大丈夫」
小鳥の表情を見て気にしたのか、ロビンが声をかけてくれた。
小鳥:「うん、大丈夫。ちょっと昔のことを思い出していただけだから」
ロビンは、小鳥が言った昔のことが何なのか何となく察しが付いた。
遊馬が死んだと思ったとき、みんなで小鳥を励ましに行ったことがあったからだ。
悲しんでいる小鳥を、何とか元気付かせようとしたのがロビンや鉄男たちだった。
深影:「この距離だと、あの大樹まではもう少しかかりそうね」
龍亜:「だが、急がねえと。時間は限られているからな」
ミゾグチ:「Dホイールを持ってこればよかったですね」
ミゾグチが本音を漏らす。ミッションウォッチの粒子格納機機能に入れて来なかったことを後悔しているミゾグチたちであった。
…海馬が、Dホイールでカイゼル・サウザンドに乗り込んできたことは、このメンバーで知る者はいなかった。
急いでドン・サウザンドがいると思われる大樹に向かう小鳥たち。
しかし、そんな小鳥たちに忍び寄る1つの影…。
小鳥は、その気配に気づいていた。
小鳥:「みんな、止まって」
小鳥が、その場に止まった。
いきなり、小鳥が止まったことに戸惑うが、小鳥の表情が一変したということは、近くに何かいると、みんなは察しが付いた。
小鳥は少しだけ顔を上げ、上を見る。
小鳥:「やっぱり来たのね」
小鳥の目線の先には宙に浮くシンディがいた。
シンディ:「バリアンとして、決着を付けなければいけないわ。だから、また来たのよ」
”CX(カオスエクシーズ)ヴァルキリア・フェアリー・イヤー”の限界勢力によって生成された翼を背中に纏うシンディは、小鳥たちの前に着地する。
杏子:「あなたはさっきの…」
結衣:「また戦いに来たの…!」
ツバキ:「もうドン・サウザンドの力は、君にはないはず。戦う意味なんてないはずだ」
一度、小鳥に負けたシンディ。そのとき、彼女の身体にあったドン・サウザンドの力は、小鳥の力で浄化された。
もう、ドン・サウザンドに縛られる力はないはずだった。
シンディ:「あの方の力がなくても、私がバリアン世界の住民であることに変わりはないわ。私は人間を捨てた身。もうバリアンとして戦うことしかできないわ」
シンディはそう言うと、”CX(カオスエクシーズ)ヴァルキリア・フェアリー・イヤー”のクロスボウタイプのデュエルギア”ヴァルキリア・スルー”を右手に握った。
シンディが武器を構えたことでシェリーとツバキが戦う体勢に入ったが、それを小鳥が止めた。
ロビン:「小鳥…」
小鳥:「大丈夫…、シンディは私が何とかするから…。今度は、必ず助けてみせる」
助けてみせる…。
倒してみせるではなく、助けてみせると、小鳥は言った。
つまり、小鳥に取って、シンディは敵ではないということだ。
小鳥は、”フェアリー・チア・ガール”の弓タイプのデュエルギアである”フェアリー・アーチャリー”を手に取る。
しかし、初手からフェアリー・チア・ガールはセカンドステージに入っていた。
シンディ:『…』
シンディの手は少し震えていた。
シンディ:『恐怖…じゃないわ。まだ迷いがあるのね、私には…。私の中に残る人間として気持ちが、私に戦いをやめるようにって訴えているのね』
シンディは目を閉じた。
シンディ:『でも、ケジメは付けなきゃいけないの…。だから、邪魔しないで』
シンディは自分の気持ちに怒りをぶつけ、これからの戦いに集中する。
シンディ:「行くわよ!」
そういうと、シンディはヴァルキリア・スルーから生成した矢を解き放つ。
その頃、バリアン8人衆の1人ピアーズと行動を共にすることになったベクターと璃緒も、ドン・サウザンドがいると思われる大樹に向かっていた。
ピアーズ:「!」
ピアーズは、この先から感じる気配に気付いた。
ピアーズ:『この感じはシンディか…。どうやら、まだ死なずに済んだようだな』
その気配がシンディであることに、すぐ気付いたピアーズ。
このまま進めば、シンディがいると思われる場所に着くだろう。
だが、自分たちは急いでドン・サウザンドの場所に向かわなければいけない。なら、遠回りするべきだと思った。
そんな迷いを持ちながら、ピアーズは、ベクターと璃緒と共に前へ進む。
その頃、凌牙たちも大樹に向かっていたが、実は小鳥たちの近くにいたことは誰も気づいていなかった。
凌牙のNo.3のエースのマークが光るまでは…。
右京:「エースのマークが、再び輝きを…!」
クロノス:「近くで誰か戦っているノーね?」
凌牙:「おそらくな…。この感じは…」
凌牙はエースのマークを通じて、誰が戦っているのかを感じ取った。
そして、それがすぐに小鳥だと気付いた。
凌牙:「あいつか…」
慎也:「一度合流しよう。ドン・サウザンドと戦うなら、人数は多い方がいい」
凌牙:「こっちだ」
凌牙はみんなを連れて、小鳥たちがいる方へ誘導する。
その頃、小鳥とシンディはお互いの攻撃をぶつけ合っていた。
シンディ:「コンパーション・ソング!」
ヴァルキリア・スルーから放たれた矢は、無数の矢となり拡散する。
小鳥:「エターナル・クロイツ・アロー!」
セカンドステージしたフェアリー・アーチャリーから赤い矢を放つ。
そして放たれた矢は十字架の形を作り、シンディが放った無数の矢を消滅させた。
シンディ:「くっ」
次の攻撃を放とうとヴァルキリア・スルーを構えるシンディは、小鳥に照準を合わせる。
しかし、うまく照準が定まらない…。
シンディ:『私は、バリアンよ。だから!』
シンディは完璧に照準が定まっていないのにも関わらず矢を放った。
その矢は、特に変哲もない矢だった。
小鳥はNo.2のエースのマークの力を使い、バリアを周りに展開し、身を守る。
小鳥とシンディの戦いを見届ける者たちは、2人の戦いに割り込まず、見届けていた。
シェリー:「ドン・サウザンドの力を失ったからかしら。彼女が放つ矢にパワーがないわね」
龍亜:「所詮、ドン・サウザンドの力がなければバリアンは弱いってことだろ。この勝負、小鳥の勝ちで決まりだな!」
2人の戦いを見て、小鳥の勝利を確信する龍亜。
だが、忘れてはいけない。小鳥は勝つことを目的とはしていない。シンディを救うことを目的としている。
杏子:「小鳥ちゃんは、彼女を助けるために戦っているのよ。この戦いに勝ち負けはないわ」
龍亜:「そういえばそうだった。けど、あいつが攻撃してくる以上、こちらの言葉を聞く気はないだろうぜ」
小鳥に向けられたシンディの攻撃は収まることはなかった。
シンディはずっと目の前の小鳥に向かって攻撃は撃ち、そして小鳥は、その攻撃を打ち消すかもしくはバリアで身を守ることしかしていない。
しかし、ロビンやツバキは気付いていた。シンディの攻撃が明らかにおかしいことに…。
ツバキ:『シンディが撃つ攻撃…』
ロビン:『あの攻撃は、明らかに人を殺すような攻撃じゃない…』
ロビンは心の中で呟き、小鳥を見る。
ロビン:『小鳥、君も気づいているんだろ?シンディは、本気で君を殺そうとはしていないことに…』
勿論、小鳥も気づいている。シンディの攻撃に手応えがないことに…。
小鳥:『何を迷っているの?あなたは何を迷っているの?シンディ』
小鳥がそう呟いている間に、シンディは再び攻撃を仕掛けてきた。
シンディ:「エターナル・ヴァルキュリア!」
ヴァルキリア・フェアリー・イヤーの幻影が光の粒子となり、ヴァルキリア・スルーの先端に溜められているエネルギーと一つになる。
小鳥:『あの攻撃は、バリアを貫通させる攻撃…』
最初に戦ったとき、あの攻撃は、エースのマークの力で張ったバリアをも貫通させた。
シンディは溜めたエネルギーを一気に解き放った。
放った矢の速度は、かなりの速度だった。
小鳥:『速い…。でも、前の方が早かった…!』
シンディが放った矢に、小鳥はすぐ対応しようとする。
セカンドステージしたフェアリー・アーチャリーを構えると同時にエースのマークが輝き出す。
小鳥の足元に魔法陣を展開され、周りに小さい精霊たちが数体立ち並び、小鳥を囲う。
シンディ:『あれは…!』
小鳥の攻撃に見覚えがあったシンディ。
それもそのはず。小鳥が今、放とうとする攻撃は、シンディをドン・サウザンドの力から解放したときに放った攻撃なのだから…。
小鳥の周りに並び立つ小さい精霊たちが胸元に手を合わせ、エネルギーを溜める。
小鳥がフェアリー・アーチャリーに赤い矢を装填し、それを放つ。
それに対して、小さい精霊たちは溜めていたエネルギーを赤い矢に向かって放ち、赤い矢と精霊たちのエネルギーが一つになる。
小鳥:「ソウト・イルミナ・サンクチュアリ」
放たれた攻撃は、狼のような姿となり、シンディが放った攻撃を消し飛ばした。
シンディ:「!」
そして、小鳥が放った攻撃が、シンディに迫る。
シンディ:『…』
目を閉じるシンディ。死ぬ覚悟を決めたのだ。
もう、これで戦いは終わる…。
シンディは、そう思った。だが―。
小鳥が放った攻撃は、シンディの手前で消えた。
シンディ:「!?」
小鳥:「勝負あったわね」
小鳥が自ら攻撃をやめたのだ。
小鳥:「もうやめましょう、シンディ」
小鳥は一歩ずつシンディに近づく。
小鳥:「あなた、私と戦う気ないでしょ?」
シンディ:「何を言ってるのかわからないわね。私たちは敵同士のはずよ」
小鳥:「強がるのも、そこまでよ。私にはわかる。あなたの攻撃からは恐怖が感じられないわ」
攻撃を放つシンディも気付いた。私の攻撃は明らかに何かがおかしかった。
そう、目の前にいる敵を殺すような攻撃ではなかった。
小鳥とシンディの戦いの結末を見届けるロビンたち。
すると、そこに―。
本田:「杏子!」
背後から消えこた男性の声。それは、杏子の友人である本田だった。
杏子:「本田…!それにみんなも」
可能なら合流しようと約束していた凌牙たちが、ここへやってきたのだ。
万丈目:「まだ、バリアンの生き残りがいたのか…!」
ジャック:「フッ、ここで倒してくれる!」
万丈目とジャックが、それぞれ”アームド・ツァーン”と”レッド・デーモンズ・バスター”を手に持ち、シンディにトドメを刺そうとする。
しかし―。
隼人:「やめるんだな。2人とも」
隼人が両手を広げ、2人を止める。
万丈目:「隼人…!」
ジャック:「何故止める…!?」
敵が目の前にいるのに、攻撃をやめさせようとする隼人に疑問を抱くジャック。
すると、シェリーがジャックの横に立つ。
シェリー:「小鳥は、彼女を助けようとしているのよ。話しの割り込みはしないで」
ペガサス:「どういうことデスか?なぜ、敵を助けようと…」
杏子:「彼女の中には、まだ人間としての心が残っているからよ。だから、彼女自身も心の迷いの所為で、攻撃に戸惑いを見せていたわ」
杏子も気づいていたシンディの攻撃が、小鳥を殺すような攻撃ではなかったことに…。
小鳥はシンディの目の前に立つ。
小鳥:「何を迷っているの?シンディ」
小鳥がシンディにそう問いかける。
目の前にいるのに、シンディはヴァルキリア・スルーを構えようとはしなかった。構えて攻撃を放てば確実に当てられる距離だ。
けど、もう自分の戸惑いの所為で、戦意はほぼなかった。
もういい…。もう嘘は付けない…。
シンディ:「人間を捨てたはずなのに、人間としての心を持っているなんて、バカな話よね」
一度鼻で笑い、自分が馬鹿だというシンディ。
手に持っていたヴァルキリア・スルーを地面に置き、もう戦う意思を見せなかった。
シンディ:「私の心のどこかで人間に戻りたいという気持ちがあるのかしら。それとも、バリアンとして生きる意味を見失っている所為かしら。どっちが私の身体を苦しめているのか、もうわけわからないわ」
シンディは自分の右手を額に当てる。
シンディの表情は一変し、苦しそうな顔をしていた。
小鳥:「あなたはもうドン・サウザンドに縛られていないはず。なら、もう自由なはずよ」
シンディ:「それでも、バリアンであることに変わりはないわ。だから、私はあの方から逃げられないの。バリアンの力を捨てたくても捨てられない。あの方がいる限り、私は苦しみ続けるわ」
シンディも、人間に戻りたいという気持ちがあるようだ。
だが、したくてもできない。ドン・サウザンドという神が、この世にいる限り、自分たちに自由などないことにシンディは気付いていた。
すると、そこに近づく足音―。
一歩ずつゆっくりと近づいている。
???:「ならそれに逆らえばいいことだ」
シンディ:「!」
シンディは聞き覚えのある声に反応し、顔を上げる。
ピアーズ:「俺たちがバリアンである以上、あの方の鎖が解き放たれることはないが、あの方からもらった力を失った以上、見放されたことにもなる。そうだろ?」
目の前に立っていたの、バリアン8人衆の1人ピアーズだった。
シンディ:「ピアーズ…」
もうすでに死んでいたと思っていた。
だが、同類がまだいたことに驚くシンディだった。
凌牙:「ピアーズ…」
ピアーズを倒した張本人である凌牙。トドメを刺さなかったので、別にここにいることに驚きはしなかった。
だが、ピアーズと共に行動していた2人には流石に驚いた。
璃緒:「凌牙!」
凌牙:「璃緒!」
バリアン世界にさらわれた双子の妹との再会。
璃緒の無事を確認した凌牙は、安心した表情をする。
ベクター:「感動の再会だな、凌牙」
そして、裏切り者の振りをして璃緒をさらったベクターが凌牙に話しかける。
凌牙:「ベクター…」
ベクター:「どうする?俺を殴るか?」
ベクターは挑発するかのように凌牙に言った。
しかし、璃緒はそれをさせなかった。
璃緒:「やめて、凌牙。私がさらわれた後、ベクターは私を守ってくれたわ。それに、裏切りは―」
凌牙:「わかってる」
璃緒の言葉を最後まで聞かず、凌牙はそう言ってベクターに近づく。
凌牙:「今回は遊馬の作戦に乗って、裏切り者の振りをしたらしいからな。大目に見てやるよ。今回ばかりは。だが、次、同じような真似をしてみろ。だましでも許さねえからな」
少し怖い目でベクターを見つめる凌牙。
ベクター:「その言葉、遊馬に言ってくれねえか?いう相手間違っているだろ?」
凌牙:「ふん」
確かにな…。そう思いながら、凌牙は笑った。
そして、シンディとピアーズも同類同士話していた。
ピアーズ:「ドン・サウザンド様、いやドン・サウザンドはバリアン世界を復活させて神になろうとしている。だが、そのために人間界とアストラル世界を崩壊させようとしている。お前は、これが正しいことだと思うか?」
ピアーズの意外な質問にシンディは少し戸惑った。
しかし、その質問の答えは、心の中で既に決まっていた。
強がりでも何でもない。シンディの答えはNOだった。
シンディ:「バリアン世界の復活。復活のために他の世界を犠牲にする必要はない。私は正直、そう思っていたわ」
ピアーズ:「俺も、神代凌牙との戦いで、それに気付いた。バリアン世界は復活できる。だが、そのために他の世界を巻き込む理由はねえ」
ピアーズの力強い言葉に、シンディの心は動く。
ピアーズ:「俺は、ドン・サウザンドを止めに行く。例え裏切りものだろうと、俺は俺の心に従うまでだ」
ピアーズがそう言うと、シンディも口を開いた。
シンディ:「もう後戻りはできない。けど、私も自分の心に嘘はつきたくないわ」
シンディが立ち上がり、今まで見せたことのない真剣な表情をする。
そして、シンディは小鳥の方を見る。
シンディ:「罪滅ぼしってわけじゃないわ。でも、バリアン世界を復活させたいという気持ちは事実よ。バリアンとして、そして人間として正しい世界の復活を願う」
小鳥:「シンディ…」
シンディの表情を見て、彼女に敵意がないことがすぐにわかった。
凌牙:「いいんだな?お前たちは、ドン・サウザンドを裏切ることになるぞ?」
ピアーズ:「あの人から、見放された時点で、裏切りも何もねえよ」
シンディ:「それに、どうせあの人は、私たちを始末するに決まっている。なら、逃げも隠れもせず、正々堂々と向き合って戦うわ」
小鳥:「うん、行きましょう。ドン・サウザンドを倒しに」
小鳥がシンディを仲間として受け入れた。彼女を救えたのかどうかはわからない。
だが、彼女の心を開いたことに変わりはなかった。
???:「それじゃあ、僕たちも連れて行ってもらえるかな?」
背後から聞こえる男性の声。
みんなは、声が聞こえた方を向いた。
吹雪:「僕たちも、人間界を救いたいからね」
そこに立っていたのは、吹雪、恵美、亜美、鬼柳、ミスティ、エマリー、未来の7人だった。
慎也:「フッ、任務でベイチニア半島に向かっていたメンバーも合流するとはな」
葵:「人数は多い方がいいわね」
凌牙:「よし、行くぞ!ドン・サウザンドの元へ!」
凌牙、小鳥たちは、バリアン8人衆だったピアーズとシンディを仲間に加え、ドン・サウザンドがいると思われる大樹に向かった。
――しかし、ドン・サウザンドの前に、もう一つ大きな壁が待ち受けていたことを、彼等はまだ知らなかった。
第11ED『切望のフリージア《DaizyStripper》』
次回予告
ナレーション:ドン・サウザンドの元へ急ぐ凌牙たち。
しかし、その前に立ち塞がる最強の壁、バリアン8人衆のリーダーにして最後の生き残りウェスカーが現れる!
ドン・サウザンドに一番忠誠心が強いウェスカーに、ピアーズが対抗する!
闇の斬撃と、怒涛の雷が衝突する!!
凌牙:次回、遊戯王5DXAL「旧知!ピアーズVSウェスカー」
凌牙:「この戦いは、お前に任せるぞ」