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第144話:『巨大要塞カイゼル・サウザンド出現!』









バリアン世界-----




ドン・サウザンドの前に置かれているテーブルの上にあるのは、”血のデスリング”、”アラクネーの宝玉”、”ヴィータのペンダント”の3つだった。


この3つが、今後の計画に必要不可欠のものになる。


ドン・サウザンド:「鍵は揃っている。だが、この力を完全に引き出すための生け贄がまだない」

ウェスカー:「完全に引き出せば、あなたは凄まじい力を手に入れることでしょう」

ドン・サウザンド:「あぁ、自分でも、この楽しみを味わうのは久しぶりだ」
ドン・サウザンドがテーブルの上にある3つの物に対して、両手をかざす。


ドン・サウザンド:「計画の第1段階に入る。生贄なしでも、この鍵の力を引き出すことはできる」
ドン・サウザンドの両手が輝く。


ウェスカーを初め、バリアンみんなが頭を下げる。



ドン・サウザンドが呪文のような言葉を発して唱える。




ネオコーポレーションシティに災いが起きるまで、もう時間はない…。








第9OP『HEART・BEAT《MARIA》』







第144話:『巨大要塞カイゼル・サウザンド出現!』








ベクターの反逆に対し、それを止めに現れた遊馬。




一馬:「遊馬…!」

トロン:「シティに戻ってきてたのか…!?」3か月ほど前に任務で、本部より姿を消した遊馬が、目の前にいることにみんなが驚く。


そして、みんながいる元に百々原が到着した。



ベクターはアンブラル・ファルチェを強く握り、力を入れる。


遊馬も、その力に負けないように踏ん張る。


ベクター:「やっと来たな、遊馬」

遊馬:「ベクター…、お前…」

ベクター:「こうなることはわかっていたはずだ、遊馬。ドン・サウザンドが現れたときからな!」
不気味な笑みを浮かべながら大きな声でそう言った。



凌牙:「遊馬…、やっぱりお前、ドン・サウザンドと会って来たのか」
数時間前から気配を感じていた。


ドン・サウザンドとぶつかるもう一つの気配。それはやっぱり遊馬だった。


カイト:「ドン・サウザンドに会っただと…!」

ミザエル:「それは本当か、遊馬!」
ベクターを足止めしている遊馬に声をかけるミザエル。




アストラル:『我々が会ったのは、ドン・サウザンドの影。いわゆる偽者だ』
突然、聞こえてきた声。


少し離れた場所にアストラルが浮遊していた。


小鳥:「アストラル…!」




アストラル:『ベクター、君は人間を捨て再びバリアンとして生きる。そのつもりで、このような行動を起こしたのか』
アストラルがベクターを見てそう聞いた。

その眼差しは真剣な眼差し以外、何もなかった。



ベクター:「人間として生まれ変わり、気付かされたのさ。やっぱり、人間って言うのはつまんねえ生き物だってな」

遊馬:「それは、お前の想像にしかすぎねえよ、ベクター。人間って言うのは、楽しい生き物だぜ」
少し笑った表情を見せる遊馬。


ベクター:「どうだかな。所詮は、自由に生きることができない生物だ。それに比べてバリアンは、自由があるんだよ」

遊馬:「本当の自由なんてねえぞ、ベクター」


ベクター:「そんなことはねえさ。バリアンにつけば、人間界を滅ぼし、バリアン世界を復活させて自由な生き方ができる。こんな家畜な生き物と違うんだよ。タイミングがいいことに、ドン・サウザンドは俺と璃緒いや、メラグを必要としているみたいじゃねえか」

凌牙:「何!?」

鉄男:「ベクターと璃緒さんを…!」

ドロワ:「一体、なぜ…」
ベクターの発言に驚く凌牙たち。



遊馬:「罠かもしれねえぞ」

ベクター:「そんときは、そんときだ。メラグと一緒に、あの世に行ってやるよ。そして、人間界が滅び、お前たちもすぐに後を追ってくるのさ」
満足げに高笑いするベクター。





遊馬:「そこまで落ちたのか…ベクター!」
遊馬が反撃に出ようとする。


しかし…。


凌牙:「どけ!遊馬!そいつは、俺が止める!」
凌牙が走って、遊馬とベクターに接近してくる。


遊馬:「シャーク…!」
ベクターを本気で殺すような目をしていた凌牙の目を見て、遊馬は少し後ろに下がる。


凌牙はブラックランサーを握り、ベクターに仕掛ける。

ベクターはアンブラル・ファルチェでブラックランサーを受け止める。


ベクター:「お前も一緒に来ないか?ナッシュ。バリアンに戻れば、お前は遊馬以上の力を手に入れられるかもしれないぞ」

凌牙:「俺をナッシュと呼ぶな!璃緒を離せ!」
凌牙の目は怒りに満ちていた。


凌牙:「璃緒をドン・サウザンドの元へは行かせない」

ベクター:「威勢だけはいいな。だが、それだけで俺を止められねえぞ!」
アンブラル・ファルチェが黒いオーラに纏われる。


ベクター:「セカンドステージ」
アンブラル・ファルチェの鎌の形状が変化。

アンブラル・ファルチェがセカンドステージしたのだ。


凌牙:「っ!」
デュエルギアがパワーアップした所為か、ベクターからとてつもない殺気が放たれ、凌牙が動揺する。


ベクター:「はあ!」
ベクターはセカンドステージしたアンブラル・ファルチェを力強く振り、凌牙を吹き飛ばし、距離を取った。


凌牙:「チッ」
凌牙は遊馬のすぐ横に着地する。


ベクター:「わりいが時間だ」
そう言って、ベクターはポケットから何かを手元に出した。


ギラグ:「ベクター、そいつは!」

ドルべ:「バリアンズスフィアキューブ…!?」
六面三角形のキューブ状のそれは、かつて”バリアンズスフィアフィールド”を展開させるために使っていたものと同じ奴だった。


先ほど、ピアーズから受け取ったバリアンズスフィアキューブだ。


ベクターはキューブを右手で握り締め、前に突き出す。


すると、キューブを握っている右手が輝く。



カイト:「っ!」

ゴーシュ:「なんだ…!?」
ベクターの右手の輝きは、周りにいるものたちの目を瞑らせるほどのものだった。


遊馬:「ベクター!」
遊馬は目を開き、ベクターを見ると、ベクターの目の前にゲートのようなものが展開されていた。


ベクター:「バリアンズスフィアキューブは、こんな使い方もできるんだよ」

首を少しだけ回し、遊馬と凌牙の方を見てそう言った。


凌牙:「待て!ベクター!」


ベクター:「戦いはもう始まる。俺は先に向こうで待ってるぜ。遊馬」
先ほどまでとは違い、真剣な眼差しをしたベクターが、そう言い残しゲートを潜り抜けた。


小鳥:「ベクター!」

鉄男:「璃緒さん!」
ゲートを潜り抜けるベクターと、ベクターが抱える璃緒がゲートの中へ入り、ゲートは消えた。

闇川:「消えた…」

ハルト:「そんな…」
ゲートが消えたこと、そしてベクターがバリアン側に寝返ったことに、現実が混乱してしまう。


凌牙:「璃緒ーーー!」
妹を救い出せなかったショックに名前を叫ぶ凌牙。


すると、凌牙、カイト、小鳥、Ⅴ、ドルべ、ゴーシュ、アンナ、そして遊馬の右手の甲にエースのマークが浮かび上がり輝き出す。


アンナ:「エースのマークが!」

Ⅴ:「輝いている…」

ゴーシュ:「何だよ、いきなり!」
エースのマークの輝きに動揺するゴーシュ達。








ドン・サウザンド:「さあ、3つの鍵よ。その力を解放し、我に新たな力を授けよ」
ドン・サウザンドの前にあるテーブルの上にある血のデスリング、アラクネーの宝玉、ヴィータのペンダントが輝く。



ミスター・ハートランド:「おお、遂に、遂に遂に!始まるのですね、人間界を滅ぼすタイムリミットが!私も準備をしなくては!」
光を放つ3つの鍵を見て、ミスター・ハートランドが興奮する。









昼間なのにも関わらず、雲の所為で空が暗いネオコーポレーションシティ。


だが、それはあくまで予兆に過ぎなかった。


そう、信じられないものが、ネオコーポレーションシティに現れたのであった。





イシズ:「皆さん!あれを!」

美寿知:「何ですか…、あれは!」
イシズが指を指す方を見る遊馬達。

目に映ったものは、明らかにこの世のものではないものだった。



トロン:「ドン・サウザンドの仕業か…」


等々力:「とどのつまり、僕は今、夢でも見ているのでしょうか」
目を丸くする等々力。目を擦り、自分の目に映っているものが、本物かを見極める。

だが、何度目を擦っても、目に映るものは変わらなかった。



ネオコーポレーションシティ上空に現れたものは、立方体で6つの面がそれぞれ9個の正方形に分割されたいわばルービックキューブのようなものだった。

だが、その大きさは計り知れず、シティに大きな影が覆い被さる。



シティの人々も何事かと外に出て、その巨大な物体を目に映す。







クロノス:「あれは一体、何なノーね!」

鮫島:「巨大要塞…」
フロンティア本部の屋上にいるクロノスや鮫島たちが動揺する。



すると、大きな落雷が落ちてきた。


それと同時に、妙な声が街中に響く。


???:『ハート・バーニング!ネオコーポレーションシティの皆さーん!』
調子が狂ってしまうような、大きな声。しかし、遊馬は、この声に聞き覚えがあった。

いや、遊馬だけじゃない数人が、この声に聞き覚えがあった。



すると、ネオコーポレーションシティ上空に現れた巨大物体の周りに無数のスクリーンが現れ、そこに1人の男性が映った。


ミスター・ハートランド:『どうですか!我が主、ドン・サウザンドが3つの鍵を使って生み出した”カイゼル・サウザンド”の姿は!これが、人間界を滅ぼす第一歩になるのです!』
スクリーンに映る男性を見て、遊馬たちは驚愕する。



フェイカー:「ミスター・ハートランド…!」

一馬:「そんな、バカな…」
ミスター・ハートランド。その男は、かつて遊馬に倒され既に消滅しているはずの男だった。


Ⅳ:「あいつは、あのとき、遊馬とアストラルに倒されて消滅したはずだ!」

Ⅲ:「多元世紀の影響で蘇っていたのか。それともバリアンの力で…」

カイト:「奴がバリアンに手引きしていたとはな」
ミスター・ハートランドを見て、思い出したくない記憶が蘇ってきたカイト。


凌牙は拳を握る。


凌牙:「どいつもこいつも、バリアンに付きやがって。そんなに力が欲しいのかよ」
凌牙の怒りは頂点を達しているように見える。

そんな凌牙の姿を遊馬は見ていた。



ミスター・ハートランド:『憎き人間の皆さん。地球は、このネオコーポレーションシティをスタート時点として滅びるときが来ました』
街中いや、世界中のモニターにミスター・ハートランドの姿が映る。


つまり、回線が奪われたのだ。






ネオコーポレーションシティにある海馬コーポレーション



モクバ:「おい!どうなっている!」
管理室にいたモクバがオペレーターたちに状況を聞く。


オペレーター:「海馬コーポレーションが所有する回線…いえ世界中の回線が何者かに奪われました!こちらからの通信を一切受け付けません!」

モクバ:「兄様は、今どこに!」

オペレーター:「チーム・ラグナロクの3名及びフロンティアから来ている来客と共に整備室にいます」

モクバ:『そうか、兄様はまだあれの調整を…』
モクバは海馬が何をしているのか察しが付いていた。

モクバ:「兄様には後で俺が連絡する。どんな手段を使ってもいい、急いで回線を復旧させろ!」
モクバがオペレーターたちに命令する。




ミスター・ハートランド:『皆さんはバリアン世界を知っていますか?バリアン世界は、かつてある世界と戦いを繰り広げ敗れ、忘れ去られた世界。人間界よりも高度の技術を持ちながら、バリアン世界からあらゆる世界から懸念され、あろうことかその世界を収めていた主でさえ、封印されていました。ですが!その主は、再び動き出したのです!バリアン世界を完全に復活させるために!』
ミスター・ハートランドは地球上にいる人間たちに思いをぶつける。





ラクオウジシティ


フロンティア西支部の研究室で仲間たちとテレビを見ていた天兵。

天兵:「何を言っているんだ、この人は…」
ミスター・ハートランドの言っていることが理解できない天兵は、小さい声でそう言った。








バリアンの1人ペイトンが奪い去ったアラクネーの宝玉が眠っていた”エルフェンの森




あることをきっかけに、この森に来ていたキャットちゃん、静香、明日香、龍可、剣代、梨香、珠里、レミたちは、フロンティア所有のヘリの中にあるモニターからミスター・ハートランドの言葉を聞いていた。


キャッシー:「バリアン世界を完全復活させる…、そんなことできるはずが…!」





任務で”ベイチニア半島”に訪れていたミスティ、鬼柳、吹雪、恵美、未来、亜美、エマリーは、ロヴィニ博士と共に、避難所にあるテレビモニターからミスター・ハートランドの言葉を聞いていた。


未来:「あなたも人間のはずなのに、どうしてこんなことを…」
悲しい表情を見せる未来であった。






ミスター・ハートランド:『それでは、ここで我が主から人間の皆さまにメッセージがあります』
ミスター・ハートランドがそう言うと、モニターは一瞬砂嵐となった。



しかし、その砂嵐はあくまで数秒。辺りが暗い所為か、顔ははっきり見えない何者かがモニターに映っていた。


ドン・サウザンド:『人間共よ。我は、バリアン世界の神、ドン・サウザンド…』
ドン・サウザンドの声が世界中に響く。



凌牙:「ドン・サウザンド…!」
ドン・サウザンドの声を聞いて更なる怒りを覚える凌牙。



アストラル:『遊馬、モニターに映っている奴は…』


遊馬:「あぁ、本物だ。間違いない。さっきの影武者とは違う殺気だ」
モニターに映っているドン・サウザンドが本物だと決定づける遊馬とアストラル。



ドン・サウザンド:『単刀直入に言おう。人間共よ、バリアン世界完全復活のために、その命を授け、新たな時代の礎となれ』
ドン・サウザンドが世界中にそう言うと、人間たちは激怒する。


剣山:「いきなり現れて何を勝手なこと言ってるドン!」

本田:「ドン・サンドイッチか、ドン・サウナーなんだか知らねえが、自分の目的に俺たちを巻き込むんじゃねえ!」
剣山と本田がモニターに向かって文句を言う。

だが、2人の声はドン・サウザンドに聞こえるわけなかった。


ドン・サウザンド:『バリアン世界は、人間界よりも、そして憎きアストラル世界よりも高度の技術に恵まれ、そして力のある世界だ。そんな世界を、決別するお前たちは、バリアン世界に不要な存在』
モニターにドン・サウザンドの鋭い目つきが映る。






エルフェンの森



梨香:「何が不要な存在よ、勝手なことばっかり言って!」

レミ:「急いで、ネオコーポレーションシティに戻りましょう」
レミの言う通りだ。ここにずっといるわけには行かない。


パイロットは急いで、ヘリの出発準備を整える。








ドン・サウザンド:『人間共よ、恐怖するがいい。このカイゼル・サウザンドが、人間界に召喚された今、地球の滅亡は迫っている』
ドン・サウザンドがそう言うと、いきなり落雷が何発も落ちてきた。



レイ:「きゃ!」
落雷に驚くレイ。


クロウ:「何だ!」

慎也:「どうなっている!」
慎也がそう言うと、葵がミッションウォッチを使って、気象状況を調べる。


葵:「ネオコーポレーションシティの気象が異常な数値を出しているわ。あの空に出てきた巨大物体が天候をおかしくしているのかも」
葵がミッションウォッチに映る気象数値を見て、慎也に伝える。

更に、突然激しい風が、みんなをいや、街中を襲う。


ドン・サウザンド:『タイムリミットは、5時間。それまでに、我を止めなければ、まずはネオコーポレーションシティが滅びる。そして、その後は世界を…。我のところまで来れるか、九十九遊馬!』
ドン・サウザンドが、遊馬の名前を口にする。


遊馬:「!」
自分の名前が呼ばれたことに一瞬戸惑う遊馬。


しかし、これはただ事ではない。遊馬の名前を口にしたということは、世界中に九十九遊馬の生存がバレたということだ。





ネオコーポレーションシティの街中


住民A:「九十九遊馬って確か、第1回ワールド・デュエル・カーニバル優勝者だった奴だろ?」

住民B:「ああ、今は行方不明って聞いてたけど、生きていたのね」

住民C:「何故だか知らねえが、あいつが指名してきたんだ。とっととあいつを倒しに行ってもらわねえと、俺たちは死んじまう!」

住民D:「地球が滅んだら、あいつを一生恨むぜ、俺は」
遊馬の名前を聞いて、住民たちが遊馬に責任を擦り付け、「戦ってこい」と、そんな言い方でをするかのように言う。


そんな住民たちの中にいた遊馬や小鳥の同級生でもあるセイとサチ。


セイ:「遊馬君、物凄く責められているように見えるわね」

サチ:「何も悪いことしてないのに…」
悲しそうな顔をして2人は話した。





ドン・サウザンド:『四大神王者のNo.4である以上、人間界の政府という連中は、お前に我を倒して来いと命じてくるはず。所詮、お前は逃れられない。このカイゼル・サウザンドで待っているぞ、九十九遊馬!』
ドン・サウザンドがそう言うと、カイゼル・サウザンドの周りに出てきていたモニターが一斉に消えた。街のモニターもすぐに砂嵐となった。



アストラル:『ドン・サウザンドは、君と決着を付けたがっているな』


遊馬:「…」
上空に浮遊するカイゼル・サウザンドを見つめる遊馬。




近くにいた百々原のミッションウォッチが着信音を鳴らす。


百々原:「私だ」
受信相手は十天老士の1人宝井だった。

宝井:『緊急会議です。お集まりください』

百々原:「わかった」
百々原は急いで、会議室に向かう。



凌牙:「…」
凌牙も遊馬と同様にカイゼル・サウザンドを見つめる。


凌牙:「璃緒、必ず助けに行く…。例え、ベクターを殺すことになっても」
妹を連れ去ったベクターに怒りを覚える凌牙。

その目つきは非常に怖かった。








その頃、ベクターはバリアン世界に訪れていた。


カイゼル・サウザンドの中ではなく、かつて自分がバリアンだったときにドルべたちと共に拠点としていた場所だ。


ピアーズ:「やっぱり来たんだな」
ベクターの背後にピアーズが現れる。


ベクターは璃緒を階段の側に下ろす。


ピアーズ:「どうだ?久しぶりに仲間を裏切り、こちら側に着くことになった感想は?」
ピアーズがベクターの横に立ち聞く。


ベクター:「久しぶりの快感だったぜ。やっぱり、俺にはこういうキャラが似合っているみたいだ」

ピアーズ:「そうかよ。なら、大人しくここで待っていろよ。俺は、カイゼル・サウザンドに移動する」
ピアーズの前にゲートが展開される。

ベクター:「なんだよ?カイゼル・サウザンドって?」

ピアーズ:「主の完璧な計画を遂行するためにあるものってやつだ」
ピアーズはそう言い残し、ゲートの中へ入った。ゲートは、その後消えた。


ベクター:「ったく意味のわからねえことを」
ベクターは階段に座り込む。


すると、璃緒が目を覚ます。

璃緒:「ここは…、はっ!」
璃緒はすぐに起き上がった。

ベクター:「安心しろよ。ここには、お前と俺しかいねえ」

璃緒:「ベクター、あなた!」

璃緒は、少し前のことを思い出す。


凌牙を探しに部屋を訪れるが、凌牙は留守だった。その後、ベクターが部屋の中に入ってきて、自分のお腹に一発食らわせ、私はそのまま気絶した。

私が気絶する寸前に、ベクターはこう言った。

『少し付き合ってもらうぜ…』
その言葉の意味はわからない。


ベクター:「今は大人しくしてようぜ。ドン・サウザンドが、ここに来るまでな」
ベクターはボーっと前を見た。










数十分前の会議室の様子



北支:「バリアンの件は全て九十九遊馬に一任させている!これは奴の問題だ!」

メキボ:「あいつを1人で向かわせる!それが十天老士一同の意見だ!」
十天老士はあくまでも遊馬を1人で戦いに向かわせようとしている。

それに反対する百々原。

百々原:「世界の危険が迫っているのだぞ!遊馬1人で向かわせて、手遅れになったらどうする!」
百々原が机を叩いてそう発言する。


宝井:「国家政府も、我々の意見には賛成しています。バリアンの件については、遊馬以外、手を出さないように命じられているのをお忘れか!」

百々原:「っ!」
忘れていたわけではない。だが、思い出したくもないことでもあった。

国家政府は、バリアンに関する事件は、四大神王者の中でも、一番バリアンと繋がりがある遊馬に一任させるように言っていた。

百々原:「しかし、エースのマークを所持する者たちもいる。戦力にはなる!」


杉山:「所詮、遊馬ほど力はない。手も足も出ないのが目に見えている」

ヤバ:「我々が争っていても仕方がない。今は一刻も猶予もないのだからな」

ランセツ:「諦めてください、元帥。今回ばかりは、あなたの発言に耳を傾けるわけにはいかない」
十天老士一同が、百々原を見つめる。


百々原:「くっ」
諦めたような表情をする百々原。






そして、百々原は元帥室で遊馬と一緒にいた。


百々原:「向こうの意志はいつも以上に固かった」

遊馬:「俺を嫌っていますからね、あの爺さん共は」

百々原:「避難誘導隊を中心に、シティの避難は開始している。この街が滅びるまでそろそろ4時間を切る。遊馬、済まないが―」
百々原が遊馬に何かをお願いしようと、遊馬の顔を見る。


遊馬:「それ以上は言わないでくれ、元帥。それに、最初から俺は、1人で行くつもりだ」

百々原:「遊馬」

遊馬:「俺が決着を付けます。ドン・サウザンドと。それと、俺自身に…」
遊馬は1人でカイゼル・サウザンドに乗り込むことを決意する。いや、決意していた。

バリアンとは、自分一人で決着を付けることをずっと決めていたからだ。






ネオコーポレーションシティの街中


緊急避難警報が鳴り響く街中には、フロンティアの避難誘導隊が中心となって、避難が開始されていた。


避難誘導隊とは、避難誘導や救助活動をメインに行動するフロンティアの部隊だ。



仁志:「慌てずに、指示通りに動いてください」
避難誘導隊A班のリーダー、早瀬仁志は元々消防士を務めていた経歴がある持ち主だ。



巴:「お年寄り、お子さんと一緒にいる方は、声をかけてください。我々がお手伝いします」
避難誘導隊B班のリーダー、早瀬巴は昔、救命救急士を務めていた。

因みに、仁志と巴は夫婦である。

2人が避難誘導隊を引っ張ることで、隊がうまく動いているのだ。



仁志:「巴、そっちの状況はどうだ?」
仁志がミッションウォッチを通して巴と通信する。


巴:「今のところ、問題ないわ」
巴がそう言うと、避難する人々の中から、気になる言葉が聞こえた。


「どこへ逃げたって、九十九遊馬が何とかしないと、地球は終わりなんだろ」

「逃げる場所なんてあるのかよ」

そうだ。街から避難したところで、地球が破滅すれば、逃げる場所なんてない…。ただ、絶望するだけだった。



巴も、そして仁志も空に浮かぶカイゼル・サウザンドを見つめる。


我々は、本当に助かるのか…。







その頃、フロンティア本部の1本の廊下の壁にのしかかっていた遊馬はスマホた端末を出して、誰かにメールを送っていた。


『奴らと決着を付けてきます』
メールの本文にはそう記述されていた。

そして送り先は、四大神王者”アッシュ”と書かれていた。

そう、つまり遊戯に送るメールだ。遊馬は送信ボタンを押してメールを送った。



一息つき、遊馬は過去のことを思い出す。


それは、フロンティアの中でも仲の良かった人物”矢橋ライト”だ。


ライトは、ワックスポワロの事件の中で、命を落とした。


みんなを救うために…。遊馬も今から、みんなを救うために敵陣に乗り込む。もしかしたら、ライトの二の舞になる可能性がある。


遊馬:「ライト、俺もそろそろそっちに行くかもな」
遊馬がボソッと呟くと、スマホ端末がメール受信音を鳴らす。


遊馬はメールの内容を読む。

本文を見て、遊馬は目を点にしてしまいそうだった。


送り主は四大神王者アッシュの武藤遊戯からだった。


本文には、「生きて帰ってくること。それが条件!」そう記述されていた。


遊馬:「ったく、遊銀さんらしいエールだぜ」
メールの本文を見て、苦笑する遊馬。



すると、アストラルとエリファスが出てくる。

アストラル:『遊馬』

エリファス:『そろそろ行こう。我らの戦場に』
2人の声を聞いて、気持ちが切り替わったのか、遊馬の眼差しが真剣な眼差しになる。







数分後、遊馬は先ほどベクターと争っていた、フロンティア本部の屋上に来ていた。

今は自分以外、誰もいない。


しかし、突然目の前に、ゲートのようなものが現れた。

遊馬:「呼んでもいねえのに不気味な奴だぜ」


ゲートの中から、誰かが出てきた。


ウェスカー:「ドン・サウザンド様だけではない。我々も、お前の気配は感じられる」

遊馬:「そこを通れば、ドン・サウザンドに会えるのか?」

ウェスカー:「無論だ。だが、ドン・サウザンド様の元に行く途中、我々バリアン8人衆が立ち塞がる。貴様に、我々全員を倒す体力が残されているか―」

遊馬:「どんな奴が相手でも、俺は勝ち続け、ドン・サウザンドの元へ行く!そして、決着を付ける!ドン・サウザンドとの因縁に。そして、俺自身に!」
遊馬から放たれる気迫は、怒りで溢れていた。


アストラル:『遊馬…』
遊馬の背後に現れたアストラルが小さい声でそう呟く。その表情は心配そうな表情をしていた。


ウェスカー:「ならば通るがいい。ここを通れば、我々が待つカイゼル・サウザンドの中へ行ける。待っているぞ」
ウェスカーはそう言って、ゲートの中へ入った。


ゲートは消えることなく、そこに留まっていた。


遊馬:『待っていろ、ドン・サウザンド』
遊馬はゲートに近づく。



小鳥:「遊馬!!」
背後から、自分の名前が呼ばれた。


遊馬は後ろを振り向いた。


そこには、小鳥や凌牙、慎也や葵など、SOA特務隊の仲間たちがいた。


遊馬:「み、みんな…、どうして…」


右京:「キミのことだ。1人で行くんじゃないかと思ってね」

鉄男:「水臭いぞ、遊馬。俺たちを置いて行くなんて」

等々力:「とどのつまり、少しは仲間を頼ってください」
優しい表情で、遊馬に言葉をぶつけるみんな。



慎也:「SOA特務隊は、全力でお前を手助けするつもりだ。一緒に、バリアンを倒しに行こう」


そんなことを言われた遊馬は、自分の掌を見る。

遊馬:「仲間…」
その言葉を呟いた瞬間、遊馬はある物影を一瞬思い出してしまった。

遊馬:「!」
遊馬は首を横に思いっきり振った。


遊馬:「みんなの手助けなんていらねえ。これは、俺だけの戦いだ」
表情を変えた遊馬。


その表情に、みんなの顔つきも変わる。


一馬:「遊馬、なぜそこまで1人で背負い込む?」
前に出てきた一馬がそう聞いて、遊馬の表情は再び暗くなる。





遊馬:「ドン・サウザンドとの因縁…。それを断ち切る」


ドルべ:「ドン・サウザンドとの因縁は、私たちにもある!理由は同じはずだ!」

遊馬:「俺には!俺には、みんなが知らないドン・サウザンドとの因縁がある…。だから、俺は1人で行く。1人でバリアンを倒して、ドン・サウザンドを倒す」
みんなが知らない遊馬とドン・サウザンドの因縁。それが何を意味しているのか誰にも理解できなかった。


アリト:「お前とドン・サウザンドの間に、一体何があったんだ?」
2人の因縁について気になるアリトが、遊馬に聞いた。

しかし、遊馬は口を開かなかった。


アンナ:「何があったのか知らねえが、お前が何を行こうと俺は行くぞ!お前と一緒で、エースのマークを持っているんだからな!」

Ⅴ:「そうだ。キミは、我々を強くするために修行までついてくれた。そこで身に付けたことを、活かす時が来たのではないのか」
どうしても行くと一点張りの仲間たち。

遊馬:「何度も言わせるな!お前たちが何言おうが、俺は1人で奴らを…」
遊馬がそう言って口を開いていると、1人の男性が遊馬に向かって走る。


凌牙:「一発持って行け!遊馬!」
遊馬に向かって走る凌牙が、その拳を遊馬の顔にぶつけた。

遊馬は吹き飛ばされた。


遊馬:「ゴホッゴホッ、ペェ。シャーク、お前!」
口の中が切れたのか、少しだけ血を飛ばす遊馬。

そして、目の前に自分を殴った凌牙が立っていた。


凌牙:「いい加減にしろ!遊馬!」

遊馬:「!」

凌牙:「今は、この街のいや、地球の人々の命がかかっているんだ。お前の因縁よりも重いものが、お前には背負われているんだ!」
凌牙の言う通りだ。ドン・サウザンドを止めなければ、この街を初め、地球の人々の命が危ない…。


カイト:「この街が、破滅するまでタイムリミット4時間半を切っている。もう因縁がどうこう言っているいる場合ではない」

Ⅳ:「それに、璃緒が連れ去れているんだ。もし俺たちが行かなくても、こいつは行くぜ」
Ⅳが凌牙の横に立ち、そう言った。




マリク:「キミとドン・サウザンドとの間に何があったかは知らないが、もしそれに決着を付けたいのなら、僕たちは全力で、君をそこまで誘導しよう」


舞:「アンタを邪魔するバリアンは、私たちが相手になってあげるわ」
マリクや舞も、怒った表情を見せずにそう言った。



遊馬:「けど、この件については、上から何も…」

慎也:「ここにいるメンバーは、自分の意志で、お前について行こうとしている」
慎也がそう言うと、若干2人が心の中で反論した。

羽蛾:『俺は違うけどね…』

竜崎:『城之内に捕まって、無理矢理連れて連れて来られただけやけどな』
心の中でそう呟いた2人。その声が聞こえたのか、背後にいる城之内が2人を睨みつける。

城之内:「ニヤッ」
城之内の笑みに、2人が「ヒィィ」と怯える。


ペガサス:「どうしたのですか?ミスター・城之内」
城之内の表情を見たペガサスが気になって声をかけてきた。

城之内:「いうことを聞かない馬鹿どもに、地獄を味合わせようと思ってな」
何かを企むかのように、城之内は言った。

羽蛾と竜崎は、「やってやるぞー」と叫んでいた。



小鳥:「みんなで行こう、遊馬」
遊馬の目の前でしゃがみ込み、手を握る遊馬。

遊馬:「小鳥…」
遊馬のエースのマークが輝く。

すると、小鳥、凌牙、カイト、ゴーシュ、ドルべ、アンナ、Ⅴのエースのマークも輝く。


ゴーシュ:「紋章が、共鳴している」

ドロワ:「今まで見たことない輝き方だ」
ゴーシュの手の甲に浮かび上がる紋章を見て、ドロワはそう言った。


凌牙:「こいつらも、お前に力を貸してやれと言っているんだ」

遊馬:「…」

凌牙:「行くぞ、遊馬。ドン・サウザンドをぶっ飛ばしに」
今から悪巧みでもするかのような笑った表情で、凌牙は言った。



遊馬:「フッ、足引っ張んじゃねえぞ」

凌牙:「言ってくれるぜ」

遊馬は立ち上がり、ゲートの前に立つ。


遊馬:『待っていろ、ドン・サウザンド。お前を倒しに俺たちは行く!』

凌牙:『待っていてくれ、璃緒。必ず、お前を助けに行く。例え、ベクターが立ち塞がろうと!』
遊馬と凌牙が、ゲートに向かって走る。








第9ED『Prototype《石川智晶》』






次回予告

ナレーション:カイゼル・サウザンドの中へ潜入した遊馬や凌牙たち。

そして、彼等を待ち受けていたバリアン8人衆とドン・サウザンド。

遂に、戦いの火蓋が切られようとしていた!

だがそんな中、遊馬とドン・サウザンドとの因縁が明らかになりつつあった。

遊馬が、あの姿になるまでは…。


遊馬:次回、遊戯王5DXAL「バリアン体・遊馬」


遊馬:「みんなの前で、この姿にはなりたくなかった…」





遊戯王5DXAL豆知識コーナー!!



ベクター:「アストラル世界の対となる世界”バリアン界”は、かつてドン・サウザンドが収めていた世界で、人間界よりも高度な技術が発達した世界でもある。過去の戦いに敗れ既に消滅していたと思われていたが、ドン・サウザンドの復活により、世界は元に戻りつつある」
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