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第143話:『ベクターの裏切り』









遊馬:「ナディエージダ-トゥエンティフォーノスフェラトゥ」
血が流れているような模様が刃にある大剣がZEXAL姿の遊馬の手に握られる。


ドン・サウザンド:「!」
気配がさっきまでと違う…。そのことに気付いたドン・サウザンドは動揺していた。



遊馬:「ドン・サウザンド、1つだけ教えてやる」
遊馬が、ナディエージダ-トゥエンティフォーノスフェラトゥを持って、ドン・サウザンドに近づく。


遊馬:「もし俺をいや、俺たちを倒したのなら、正々堂々と戦いに来い!」

ドン・サウザンド:「!」

遊馬:「ミレニアム・スカーレット」
大剣の刃にある血の模様が輝き、遊馬の背後に竜血鬼ドラギュラスの幻影が目を光らせて現れる。

そして、遊馬はドン・サウザンドに向かって走り出す。

竜血鬼ドラギュラスはずっとドン・サウザンドを睨みつける。


ドン・サウザンド:『バ、バカな。足が動かないだと…!』
竜血鬼ドラギュラスに睨みつけられている所為か、ドン・サウザンドの手足はピクリとも動かなかった。

遊馬はナディエージダ-トゥエンティフォーノスフェラトゥをドン・サウザンドに振り下げた。


肩からスパーンと斬られたドン・サウザンド。

だが、遊馬もアストラルも、そしてエリファスも最初から気付いていた。


今、自分たちの目の前にいるドン・サウザンドは…。



ドン・サウザンドが黒い霧となって消えた。





偽者だということに。








第9OP『HEART・BEAT《MARIA》』







第143話:『ベクターの裏切り』






黒い霧となって消えたドン・サウザンド。



遊馬:「やっぱり偽者か。最初からおかしいと思ったぜ」
遊馬の身体が輝き、ZEXALが解かれる。



アストラル:『これは、ドン・サウザンドの影…。ドン・サウザンド本体から作り出された影武者と言ったところだな』
消えたドン・サウザンドをそう言うアストラル。


すると、アストラルに言われて消えていたエリファスが出てくる。



エリファス:「2人とも無事か」

遊馬:「あぁ、心配ないぜ」
元気な姿を見せる遊馬。


すると、そのとき!


ドン・サウザンド:『やはり、一筋縄でいかないか』
3人の周りから、ドン・サウザンドの声が聞こえた。

しかし、周りを見渡してもドン・サウザンドの姿はない。


遊馬:「影武者を寄こしたとはいえ、戦いは見ていたようだな。不気味な奴だぜ」
文句を言うような感じで遊馬は言った。



ドン・サウザンド:『我を偽者を倒した褒美に、1つだけ教えたやろう。九十九遊馬』


遊馬:「?」


ドン・サウザンド:『我は、今ある計画を進行中だ。その計画に必要な血のデスリングを含む3つの鍵は既に揃っている。だが、その計画にはまだ、ある2人の人間が必要だ』
ドン・サウザンドが言った「2人の人間」に、3人が反応した。


アストラル:『人間だと…』

遊馬:「どういうことだ?なぜ、お前の計画に、こちら側の人が必要なんだ!」


ドン・サウザンド:『”闇の力を持つ平和の王子”、”ポセイドン海の連合国の王の妹”。この2つの魂を持つ人間は、バリアンの中でも最も特別な存在。故に、必然なのだ』


遊馬:「”闇の力を持つ平和の王子”、”ポセイドン海の連合国の王の妹”…」


ドン・サウザンド:『次に会えるのを楽しみにしているぞ。九十九遊馬』
その言葉を最後に、ドン・サウザンドの声は聞こえなくなった。


遊馬:「……」
ドン・サウザンドは言った2つの言葉。

この言葉について考える遊馬。



遊馬:『ま、まさか…』
そして、遊馬は思い出す。


この2つの言葉に繋がる2人の人物を…!


アストラル:『遊馬、ドン・サウザンドが最後に言った言葉、あれはおそらく…』

遊馬:「わかってる。とにかく、フロンティア本部に行くぞ」
遊馬はそう言って、仲間や家族がいるフロンティア本部へと向かうのであった。









その頃、人気のない場所に、1人の人影があった。



シンディ:「さて、お仕事でもしましょうか」
バリアン8人衆の1人、紅一点のシンディが人間界に現れた。


そして、シンディが向かう先は…。







ネオコーポレーションシティの街中



空を見つめる璃緒は、何か戸惑っているような表情を見せていた。



璃緒:『ドン・サウザンド…、遊馬、あなたが言っていた通り、あいつが動いたようね』
急いで、フロンティア本部に戻らなければ…。おそらく元々バリアンの力を持っていた仲間たちは、私と同じでドン・サウザンドの気配を感じているはず…!

そう思った璃緒は、急いでフロンティア本部に向かおうとする。


ここから走れば、10分もしないうちに本部へ着く。璃緒は走ろうと思った、そのとき!


ピカーン


周りが謎の光に包まれ、璃緒は目を瞑ってしまった。


再度、目を開けたとき、自分の目に映ったのは信じられない光景だった。

周りの人が止まっているのだ。いや、人が止まっているわけではない。時間そのものが止まっているのだ。



???:「一定の時間だけ時を止めたわ。今、この中で動けるのは、私とあなただけよ」
後ろから女性の声。

璃緒は、すぐに後ろを振り向いた。そこには、2足歩行はしているが、明らかに人間ではない者が、そこにいた。


璃緒:「あなたは、確かバリアン8人衆の1人…!」

シンディ:「シンディよ。会うのは2回目かしら?神代璃緒」
ダイシャラス王国で一度、会っているが、こうやって対面で話すのは初めてだ。


璃緒は、”零鳥獣シルフィーネ”の大鎌デュエルギア”シルフィーネイーター”を手に取って、いつでも攻撃できるように構える。


璃緒:「どうして、あなたが、ここに…!ドン・サウザンドが動いたことと何か関係があるの?」

シンディ:「主が動いたこと感付いているようね。流石、元は私たちと同種だった人だけのことはあるわ」

璃緒:「やっぱり、ドン・サウザンドが動いたのね。それじゃあ、他のバリアンも…!」
璃緒がシルフィーネイーターを強く握る。

シンディ:「落ち着いて。私は、あなたと戦うために、ここへ来たわけじゃないわ」

璃緒:「え?それじゃあ、何のために…」
璃緒が疑うような表情で、シンディを見る。

すると、シンディは璃緒を揶揄っているつもりなのか、フッと笑った。


シンディ:「璃緒、私たちに着いて来ない?」


璃緒:「え?」
バリアン側に自分を誘い込もうとするシンディ。

予想外のことを言われて、戸惑う璃緒。


シンディ:「ドン・サウザンド様は、あなたを必要としているわ。バリアン世界再興のためにね」

璃緒:「私には、もうバリアンの力はないわ。今更、バリアンに協力するつもりはないわ」

シンディ:「今はなくても、ドン・サウザンド様がいれば、その力は再び開花するわ」
シンディが璃緒に近づこうとする。


璃緒:「悪いけど、一度消えた、この命を再び授けてくれたアストラルを裏切るつもりはないの」
璃緒は再びシルフィーネイーターを構える。


璃緒:「言いたいことはそれだけ?もしそうなら!」
璃緒はシンディに向かって走る。

璃緒:「とっとと帰りなさい!向こう側の世界に!」
璃緒はシルフィーネイーターを後ろに振りかざす。


シンディ:「…仕方ないわね」
シンディは、一度ため息をついてそう言った。

そして、その場から突然消えた。


璃緒:「!」
璃緒はその場に止まり、構えを解く。

更に、時が再び動き出した。


璃緒は、急いでシルフィーネイーターを収める。


シンディ:『今日は、とりあえず帰るわ』
璃緒の脳裏にシンディの声が聞こえた。

シンディ:『でも、これで終わりじゃないわ。主は動き出している。バリアン世界再興のためにね』
それ以降、シンディの声は聞こえなかった。



璃緒:『これは、ただ事じゃすまないわね』
璃緒は走って、フロンティア本部へ向かう。






フロンティア本部


いくつものタワー状の建物がある、その1つの屋上にベクターがいた。



ベクター:「はあ、他の連中も気づいているだろうな。これだけの気配を感じる以上は」
大きなため息。そして、自分が感じている奴の気配。認めたくはないが、元々バリアンだった自分だからこそわかることだ。


そして、もう一つさっきから感じる者とは違う気配が、自分に近づいていた。


ベクター:「出て来いよ。バリアンさんよ」
ベクターがそう言うと、近くに異次元に通じるようなワープホールが出てきた。


そして、そこから人影が一つ現れる。


ピアーズ:「まとめて”さん”付けするなよ。俺にはピアーズって名前があるんだからよ」
バリアン8人衆の1人ピアーズ。ベクターは、この男の顔をよく覚えていた。


なんせダイシャラス王国に現れたとき、一番最初に、遊馬に手を出したのは、こいつだったからだ。


ベクター:「8人衆の中でもよく吠えていた奴じゃねえか。お前のことはよく覚えているぜ」

ピアーズ:「それは光栄だ。だが、覚え方が納得いかねえがな」
憎たらしい表情で、ベクターを見つめるピアーズ。


だが、その表情はすぐに消えた。

ピアーズ:「まあいい。ここに来たのは、お前と戦うために来たわけじゃねえからな」

ベクター:「?」

ピアーズ:「認めたくはねえが、主はお前を必要としているんでな。俺と一緒に来い、ベクター」
ピアーズが、ベクターをバリアン側に誘い込む。


ベクター:「どういうつもりだ?油断させて殺すつもりか?」

ピアーズ:「そんな卑怯な真似するかよ。昔の、お前じゃあるまいし」

ベクター:「過去の俺のことなんて知らねえくせに」

ピアーズ:「ドン・サウザンド様から、お前たち元バリアン組のことは聞いているんでな。お前も含めて。主は、お前のことこう言ってたぜ」

ベクター:「あ?」

ピアーズ:「我の良き僕だった。人形のように、簡単に操れたってな」
過去のベクターをあざ笑うピアーズ。


ベクターは悔しかったのか、少しだけ歯を立てる。


ピアーズ:「何だ?悔しいのか?過去の失態に?」

ベクター:「…」

ピアーズ:「でも感謝しねえとな。そんなお前をドン・サウザンド様は必要としている。バリアンの力なんて、既に消えたお前をな」
バリアンの力を持つ自分の方が強い…。そう言っているようにも捉えられるピアーズの言葉は、ベクターに取って怒りを増すだけだった。


ベクター:「面白い話だ。いいぜ、その話し乗った」

ピアーズ:「何?」
ピアーズはベクターは、この話を聞いてキレると思っていたが、そうはならなかった。

ベクターは自分の話しを聞いて乗ってきたのだ。


ベクターは一歩ずつピアーズに近づく。


ベクター:「俺もよ、実は人間として生まれ変わって、退屈してたんだ。お前たちの主に会って、バリアンとして再び生きるのも悪くねえ話だ」
ピアーズに近づくベクター。


だが、その表情は一瞬、ニヤッと笑った。


ピアーズ:「!」
ベクターの右手を見ると、そこには1枚のカードが握られていた。


ベクター:「アンブラル・ファルチェ!」
”アンブラル・グール”の大鎌デュエルギア、”アンブラル・ファルチェ”を振るベクター。


ピアーズはギリギリ、その攻撃を躱す。

ピアーズ:「やっぱり、今でも、せこい手使うじゃねえか」
もう少しでベクターの、言葉を信じてしまうところだった。

ベクター:「傷一つ与えられなかったか」
不意を突かせて、攻撃を当てるつもりだったが、ベクターの攻撃はピアーズには当たらなかった。


ピアーズ:「昔と同じで嘘つき坊ちゃんってわけか」

ベクター:「バリアンにいたときも、楽しかったが、今の生き方も満足してんだ。昔にはなかった物が、今はあるからな」
仲間たちの顔を思い出しながら、ベクターは言った。


ピアーズ:「まあいい、別に今すぐ誘うつもりはない」
ピアーズは懐から何かを出し、ベクターに投げる。

ベクターはそれをキャッチし、ピアーズが投げてきたものを確認する。


ベクター:「こいつは…」
六面三角形のキューブ状の物が数個。見覚えのあるものだった。

ピアーズ:「”バリアンズスフィアキューブ”。本来は”バリアンズスフィアフィールド”を展開するために使うものだが、バリアン世界と人間界を繋げるゲートを開くために使える。こうやってな」
ピアーズがバリアンズスフィアキューブを右手に握り、キューブを輝かせる。


すると、目の前に先ほど出てきた異次元のワープホールが出てきた。


ピアーズ:「気が変わったら、いつでも来い。主は、お前ともう1人の女を歓迎する」

ベクター:「女?」

ピアーズ:「ポセイドン海の連合国の王の妹、それだけ言えば伝わるだろ?じゃあな」
そう言い残し、ピアーズは消えた。


ポセイドン海の連合国の王の妹…

ベクターは、この言葉が誰を示すのか分かっていた。


ベクター:『メラグ…璃緒のことか』
ベクターが心の中でそう呟く。




その頃、丁度、璃緒がフロンティア本部に到着した。


向かう場所は…。






その頃、ベクターは屋上を後にして、エレベーターに乗っていた。


ベクター:『俺様が必要だと…。ドン・サウザンド…、何を考えている…』
下に降りていくエレベーターの中で、ベクターは色々考えていた。


そして、エレベーターは一階に着いた。


ベクター:「ん?」
部屋に戻るつもりだったが、何故か1階に着いてしまった。

ベクター:『チッ、階を押すのを忘れちまった』
考え事をしていた所為で、ベクターは自室がある階のボタンを押していなかったのだ。

だから、1階まで来てしまったのだ。


ベクター:『まあいい、気晴らしに外の空気でも吸ってくるか』
ベクターはエレベーターを降りて、エントランスに来た。

エントランスを通って、外に出るのが、一番近いからだ。


ベクターは、出入り口に向かって歩く。


すると、出入り口の自動ドアが開いて、誰かが中へ入ってきた。


ベクター:「ん?」
ベクターは、入ってきた人の顔を見る。


ベクター:「!」
サングラスをかけて素顔を隠しているが間違いない。


遊馬:「久しぶりだな、ベクター」
自分に近づきながら挨拶をする。そう、少し前から任務で外に出ていた遊馬だった。


ベクター:「遊馬…」
小さい声でそう呟くベクター。


遊馬がベクターの横に立つ。


ベクター:「なぜ、お前がここにいる?任務はどうした?」

遊馬:「そんなのとっくに終わったぜ。今日は元帥に話しがあって来たんだ」
お互いに目を合わせることなく話しを進める。


遊馬:「お前も気づいているだろ。奴の気配に…」

ベクター:「……」

遊馬:「さっき、ドン・サウザンドとやりあって来た」

ベクター:「!」
目をパチクリさせて、遊馬を見るベクター。


遊馬:「最も、戦ったのはドン・サウザンドの影だったがな」

ベクター:「影?」

遊馬:「影武者ってやつだ。そして、奴は計画を遂行するために、2人の人間を必要としている」

ベクター:「俺様と、璃緒だろ」
ベクターが遊馬から目を逸らして言った。

遊馬:「お前、どうして、そのことを…」

ベクター:「さっき会ったんだよ。バリアンの1人ピアーズってやつと。そいつは、俺をバリアンに誘ってきやがった。主が必要としていると言ってな。ドン・サウザンドは、本格的に動き出したようだな」

遊馬:「決着を付けるときが来た…ってわけか…」

ベクター:「ドン・サウザンドは、容赦なく仕掛けてくるぞ。何か策があるのか」
ベクターがそう聞くと、遊馬は数秒間、何も答えなかった。

だが、ベクターの方を振り向き、口を開いた。


遊馬:「奴は、ある計画を進めていると言っていた。その計画には、4カ月ぐらい前にウェスカーに奪取された血のデスリングを含む3つの鍵が必須らしい」

ベクター:「3つの鍵…。計画って何だよ」

遊馬:「詳しいことは知らねえ。だが、裏を返せば、それがなければ、計画は進行できなくなるということだ」

ベクター:「…」

遊馬:「ベクター」
遊馬は真剣な表情で、名前を読んだ。







十数分後



遊馬は、ベクターと分かれ、元帥室に訪れていた。



百々原:「遂に動いたのか、奴らが…」

遊馬:「バリアンが動き出したと感付いているのは、俺と元々バリアンの力を持っていた連中だ」

百々原:「キミの言っていることが、本当なら、奴は2人を狙って再び現れる…。策はあるのかい?」
百々原がそう聞くと、遊馬は一度、百々原から目を逸らす。


遊馬:「賭けですが、1つだけ打ってあります」
遊馬の表情を見て、百々原は何か彼から違和感を感じた。


百々原:「君自身も、あまり乗り気ではない策か」

遊馬:「…」

百々原:「まあいい、あえてその策は聞かないでおこう。エースのマークを持つ者に、このことは?」

遊馬:「いえ、まだ話してないです」
百々原の質問に即答する遊馬。


百々原:「そうか。少なからず、バリアンが動けば、国家政府は反撃命令をこちらに出して来る。いつでも行けるように準備をしておくように」
百々原は遊馬にそう言った。戦いの場は、もうすぐそこなのだから…。







その頃、バリアンが動いたことを知った璃緒は、双子の兄である凌牙の部屋を訪れていた。


璃緒:「凌牙!」
部屋のドアが開け、中へ入る璃緒。しかし、凌牙の姿はなかった。


璃緒:「こんな時にいないなんて…」
部屋の奥へ入り、辺りを見渡す。



すると、再び扉が開き、中に誰かが入ってきた。


璃緒は、凌牙だと思い、名前を呼ぶ。


璃緒:「凌…牙…」
しかし、入ってきたのは凌牙ではなく、ベクターだった。


璃緒:「ベクター…」

ベクター:「フッ」
ベクターの久しぶりに見た気味の悪い表情が、璃緒を蒼ざめた表情にする。









フロンティア本部に緊急警報の音が鳴り響いた。




本部内にいる、みんなはその音を聞いて動揺する。






元帥室



百々原:「何事だ!」
監視室に連絡を入れる百々原。



監視室警備員:『SOA特務隊のベクターが、1人の女性を抱えて暴れています!!』


遊馬:「!」

百々原:「な、なんだと!!?」
監視室にいる警備員の言葉を聞いて、百々原は椅子から立ち上がる。





その頃、ベクターは気絶した璃緒を抱えて、基地内を走り回る。



哲平:「待て!ベクター!」
ベクターを追いかける哲平と色葉。


色葉:「どういうつもり!こんなことしてただで済むと思っているの!」
色葉がそう言うと、ベクターは不気味な笑みを見せて、手に大鎌のデュエルギア”アンブラル・ファルチェ”を握る。


ベクター:「ダーク・ザード!」
アンブラル・ファルチェを振り、大鎌の刃から黒い針を無数に投げ飛ばす。

無数の針は、哲平と色葉が走る先にある配管にヒットし、その亀裂から水蒸気が吹き出し、2人の足止めをする。


哲平:「チッ」
哲平が舌打ちをする。

ベクターは満足したような表情で再び走り出す。







数分後、ベクターはフロンティア本部の数本あるビル状の建物の屋上に着いた。


雲行きの怪しい空は、気のせいだろうか先ほどよりも暗く感じた。


ベクター:「さあ、俺を楽しませてくれよ」
ベクターは小さい声でそう言った。


すると、背後から攻撃が仕掛けられ、それに気付いたベクターは璃緒を担いだまま、その攻撃を躱す。


凌牙:「ベクター!」
ブラックランサーを持つ凌牙、ギャラクシー・サーベルを持つカイトがベクターの後ろに立つ。


カイト:「ベクター、貴様何のつもりだ!」

凌牙:「璃緒を返せ!」
妹をさらわれ激怒する凌牙に、ベクターは笑った。

ベクター:「そう、マジになるなよ、凌牙。いや、ナッシュ」

凌牙:「!」

ベクター:「ちょっとした余興さ。お前も、そして後ろの連中も気づいているだろ?奴が再び動き出したことに」
ベクターが凌牙から、たった今到着したドルべやミザエル、アリト、ギラグに目線を向ける。


更に、その後ろから小鳥や鉄男たちもやってきた。

鉄男:「璃緒さん…!」

小鳥:「ベクター、どうして!」
仲間であるはずのベクターがこんなことをすることに、みんなが戸惑う。


ベクター:「奴が動いたということは、この世界の終わりが再び近づこうとしているということだ。あのときの悲劇が始まるぞ!」
楽しそうに笑って話すベクターに、ドルべが前に出て質問する。


ドルべ:「ドン・サウザンドの気配は私たちも気づいている。しかし、我々は既にドン・サウザンドとの縁を完全に断ち切った!それは君も例外ではないはずだ!」

ベクター:「確かに、俺様はアストラルに命を救われ、消滅したドン・サウザンドとの縁を切り、バリアンの力を捨てた。だが、この生き方もそろそろ飽きた」
うんざりするかのように、ベクターは言った。


ミザエル:「ベクター、貴様、私たちを裏切ると言うのか…?」

ベクター:「フッ…」

アリト:「それは、俺たちを救ってくれたアストラルを裏切るのと同じ意味だぞ!」

ギラグ:「目を覚ませ!ベクター。お前は、こっち側の人間だ」
仲間たちがベクターを引き留めようと努力する。


ベクター:「いや、違う。俺はバリアンだ。人間じゃねえ」
本音を口にしているのか小さい声でそう呟くベクター。


城之内や万丈目、ジャックたちみんなもぞろぞろとやって来る。


ベクター:「アストラルにもらった、この命を俺様は捨てる!」
胸を触りながらそう叫ぶベクターに、驚愕を受けた仲間たち。


凌牙:「ベクター、お前本気で言っているのか…」


ベクター:「俺様は冗談が嫌いなんだ。お前もよく知っているだろ?だから、俺はお前たちを殺す気で攻撃することができんだよ!」
アンブラル・ファルチェを振りかざすベクター。


攻撃を仕掛けようとしているのだ。


慎也:「ベクター!お前をフロンティアの反逆者として確保させてもらうぞ!」
慎也が氷の剣”ブリザードエクスカリバー”を持つ慎也。

いつでも、反撃できるように共に行動していた葵と共に態勢を整える。



ベクター:「確保できるならやってみやがれ!」
ベクターがそう言ってアンブラル・ファルチェを振った。

と、そのとき、何者かがベクターに接近し、アンブラル・ファルチェを短剣タイプのデュエルギアで受け止める。


ベクター:「やってきやがったな。俺を止めに来たか?それとも殺しに来たのか?ええ、遊馬!!」
ベクターのアンブラル・ファルチェを短剣タイプのデュエルギアで止めたのは、九十九遊馬だった。


2人は、凄まじい目つきで、お互いを見つめる。










第9ED『Prototype《石川智晶》』





次回予告

ナレーション:突如、ネオコーポレーションシティ上空に現れた謎の物体…!

そして、ドン・サウザンドが遂に世間に顔を出し、人間界を滅ぼし、バリアン世界の完全復活を宣言する!

バリアンが動いたことで、フロンティア上層部はどう出るのか…!

遊馬、更に凌牙が出す答えとは!


凌牙:次回、遊戯王5DXAL「巨大要塞カイゼル・サウザンド出現!」


凌牙:「一発持って行け!遊馬!」
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