第130話:『エルフェンの森の再生』
ドミナシオンが放った攻撃は、別方向から放たれた攻撃によってかき消された。
断崖絶壁の上に立つ1体の精霊。鹿の姿で、身体中から粒子を放出している。
ドミナシオン:『お前は…!』
その精霊を見てドミナシオンが動揺する。
怯えるかのように後ろに下がるドミナシオン。
ガリーナ:「あの姿…。まさか、あれは、かつて、ドミナシオンをアラクネーの宝玉に封印し、エルフェンの森を救ったという謎の精霊…!」
突然現れた精霊を見て、ガリーナはそう呟いた。
アドレー:「あ、あれが…」
キャッシー:「エルフェンの森を救った精霊…」
綺麗な粒子を放出し、その神々しい姿に目が釘付けになる。
剣代:「……」
鹿のような姿をした精霊を見て、唖然とする剣代。
剣代:「アクリス…」
剣代は、ボソッとそう呟いた。
第8OP『Mysterious《Naifu》』
第130話:『エルフェンの森の再生』
ドミナシオン:『お前は、あのときの!』
ドミナシオンが突然現れた精霊に怯えるかのように後ろに下がる。
剣代:「あれは、アクリス…!」
謎の精霊を見て、唖然とする剣代。
梨香:「アクリス…」
明日香:「え?そんなはずは…!」
明日香が、ミッションウォッチから、何かのデータを引き出した。
明日香:「た、確かに似ているわ…」
ミッションウォッチから出したホログラムに出ている写真と、今目の前にいる精霊を照らし合わせる。
レミ:「剣代さんも、明日香さんも、あれを知っているんですか?」
2人の反応を見て、質問するレミ。
剣代:「あれは、EV(エレメンタル・ヴァーソル)-アクリス。俺たちの父、遊城十代が使っていたモンスターの1体だ」
鹿のような姿をしたモンスターの知っていた剣代は、その正体をみんなに伝えた。
レミ:「あの英雄の神が使っていたモンスターって、あれが…!」
私たちを救ったモンスターが、あの伝説のデュエリストのモンスターだったことに驚くレミ。
勿論、レミだけではない。キャットちゃんやガリーナたちも驚いていた。
梨香:「パパのモンスターは、パパが死んでから世界に散らばったものもあれば、野生の精霊となって、今も世界のどこかに潜んでいるっていうけど…」
珠里:「こんなに早く出会えるなんて…」
パパが使っていたモンスターが、目の前に現れたことに驚く梨香たち。
だが、その中には喜びもあった。
アクリスが、かつてエルフェンの森を救った存在なのであれば、パパのモンスターたちは今でも世界を守るために戦っているんだと。世界を見つめているんだと、そう感じていたからだ。
ドミナシオン:『昔の屈辱、晴らさせてもらうぞ!』
ドミナシオンが今までにない攻撃を口元から放つ。
アクリスは、身体中から虹色の輝きを放出し、それを光線に変えて、ドミナシオンの攻撃にぶつけた。
お互いの攻撃はぶつかりあったが、速攻でアクリスの攻撃がドミナシオンの攻撃を消し飛ばし、その攻撃はドミナシオン本体をも襲った。
ドミナシオン:『グオオオオ』
ドミナシオンの身体が宙に浮くほど、吹き飛ばされる。
その時の衝撃が、近くにいた剣代たちを襲う。
キャッシー:「きゃ!」
アドレー:「うわっ!」
爆風に驚くキャットちゃんたちだった。
剣代:「家臣で、この力かよ…!」
マジかよ…。そんな気持ちを胸に抱いて笑う剣代。
レミ:「家臣?」
剣代:「ああ、EV(エレメンタル・ヴァーソル)っていうのは、文字通り”元素の家臣”。つまり、E・HEROの家臣なんだ。その数は100体を超えるとも言われ、あまりにも数が多いため、歴史に残る資料でも全てを把握しきれておらず、謎が多いモンスターたちでもあるんだ」
そんな家臣レベルのモンスターでも、ドミナシオンの攻撃を打ち消すなんて、父さんのモンスターは、どれだけすごいんだと呟く剣代。
ドミナシオン:『まだ終わりではない…!』
ドミナシオンが再び攻撃を仕掛けようとする。
だが、その直後に、アクリスが空にオーロラのようなものを展開した。
ドミナシオン:『や、やめろ…!』
攻撃体勢に入っていたドミナシオンの様子がおかしくなる。
アクリスは、ドミナシオンを見つめる。
すると、キャットちゃんが岩の上に置いていたアラクネーの宝玉が宙に浮かび出す。
ゆっくりと上昇し、輝きを放っていた宝玉は、その眩い光でドミナシオンを照らす。
ドミナシオン:『我に、手を出すなーー!』
ドミナシオンが蜘蛛の糸を宝玉に向かって口から吐き出した。
しかし、吐いた糸は宙に浮く宝玉まで届かず、空中で何もなかったかのように消えた。
ドミナシオン:『力が、無くなっている…だと…!この光の所為か!』
空に展開されたオーロラのような光が、ドミナシオンの力を完全に抑えていたのだ。
そして、空に展開されていたオーロラのような光が、ドミナシオン本体に憑依した。
ドミナシオン:『や、やめろ…!我は、この世界を支配する神…!再び、お前に封印されるわけには…!』
光に包まれたドミナシオンが、泣き言のようなことを口にする。
そんなことを言っても、ドミナシオンを包む光は消えることはない。
アクリスは、輝かしい眼で、ドミナシオンをずっと見つめた。
アラクネーの宝玉の輝きが強まり、光に包まれているドミナシオンの身体が少しずつ消え、光の塵となってアラクネーの宝玉に吸収されていく。
アドレー:「ドミナシオンが…」
キャッシー:「消えて行く…」
少しずつ消えるドミナシオンを見て、唖然とするキャットちゃんたち。
ドミナシオン:『我は、消えるわけには行かない…我は…』
実体が消えて行く中で、そんなことを呟くドミナシオン。
最終段階に入ったのか、アクリスの身体が緑色に輝き始めた。
そして、その光に反応したかのように光の塵となったドミナシオンが、一気に宝玉に吸収されていく。
ドミナシオン:『我は、神に値するものなのだーー!』
ドミナシオンの叫び声。その叫び声は、ドミナシオンにとって助けを求める声だったのかもしれない。
助けなど来るはずがない。いや、来たとしてもう手遅れだ。
ドミナシオンの身体は完全に消え、宝玉へと吸収された。
アラクネーの宝玉から照らされていた輝きが収まり、宙に浮かんでいた宝玉は、下に落ち、カラカラと音を鳴らしながら、岩の上に乗っかった。
ガリーナ:「ドミナシオンが…」
ラーヴル:「消えた…」
ドミナシオンの力を手に入れようとしていたプラントのメンバーたちが、力の入っていない声でそう言った。
静香:「終わった、のよね…」
龍可:「はい、おそらく…」
現実に起きていることが信じられないのか、瞬きを何度もしながらそう呟く静香達。
アドレー:「キャッシーお姉ちゃん、ようやく終わったね!」
キャッシー:「そうね…でも…」
キャットちゃんが周りを見渡す。
アドレー:「お姉ちゃん?」
悲しそうな顔をするキャットちゃん。アドレーも周りを見る。
キャッシー:「あんな綺麗な森だったのに、こんな有様になっちゃったわね」
ドミナシオンが暴れた所為で、綺麗なエルフェンの森は荒れ果てていた。
明日香:「あいつが、暴れた所為とはいえ、これじゃあ、この森に住んでいた生き物たちがかわいそうだわ」
明日香の言う通りだ。元々のこの森には沢山の生き物と野生と精霊たちが住んでいた場所だ。
それなのに、ドミナシオンが暴れた所為で、こんなになってしまっては、この森で暮らすのは、困難だろう。
どうにかできないものだろうか。みんなは、そう考えていた。
すると、断崖絶壁の上に立っていたアクリスが、みんなの近くに降りてきた。
剣代:「アクリス…」
近くに降りてきたアクリスを見つめる剣代たち。
すると、アクリスの身体が突然オーロラのように輝き、その輝きはやがて森全体を照らし出す。
すると、信じられない出来事が起きた。
倒れた樹木や、埋まってしまったアテーナーの池などが、次々と元に戻っていく。
キャッシー:「森が回復していく…」
周りの樹木などが元に戻っていくのを見て、キャットちゃんは、そう呟く。
静香:「綺麗な光…」
レミ:「この光は…」
龍可:「暖かくて優しい光…」
梨香:「そうか。最初に、ドミナシオンと戦ったときも、こうやってエルフェンの森を回復させていたんだ」
アクリスが、ドミナシオンと戦って封印したときも、これぐらいの被害が出ていたはず。
けれど、そのときもアクリスは、その身に宿る力で、森を回復させていたのだ。
ドミナシオンが復活したときに、森から逃げた生き物たちが、次々と戻ってくる。
鳥たちも空を飛んで、森へと帰ってきた。
珠里:「見て見て、ママ!森に住んでいた生き物たちが帰ってきたよ!」
空を飛ぶ鳥を指さして嬉しそうに珠里は言った。
剣代:「アクリス」
森を救ってくれたアクリスを見つめる剣代。
剣代:『やっぱり、父さんの精霊は凄いや…』
こんな広い森でさえ、精霊1匹の力で戻せるなんて…。そんなことを思いながら笑う剣代。
そして、アクリスは役目を終えたのか、その場から立ち去って行った。
梨香:「アクリスー、ありがとーう!」
珠里:「またどこかで追うね!」
去って行くアクリスに手を振る梨香と珠里。
明日香も、2人の後ろに立って、去って行くアクリスを見つめていた。
明日香:「?」
去って行くアクリスを見ていたとき、その方角の一部がピカッと光った。
明日香は、それが気になって、ピカッと光った方へ歩き出す。
梨香:「ママ?どうしたの?」
明日香:「え?いや、私たちが乗ってきたヘリが大丈夫か気になって。ママ、先に様子を見に行くから、梨香たちは少し休んでゆっくり来なさい」
明日香はそう言って、その場を離れた。
アドレー:「森も元に戻って、本当によかった」
アドレーが嬉しそうにそう言う。
フロンティアのみんなが喜んでいる中、約3名が不審な行動を取っていた。
ラーヴル:「隊長、どうするんですか?これでは、任務が失敗に…」
小さい声でガリーナに話すラーヴル。
ガリーナ:「慌てないで。ドミナシオンは消えちゃったけど、アラクネーの宝玉は、まだあるわ。せめて、あれだけでも回収するわよ」
アントン:「なら、とっとと取っちまおうぜ。邪魔するなら、殺せばいい」
ガリーナ:「ドミナシオンとのバトルで、こっちはかなり体力を消耗しているわ。そんな中、あそこにいるみんなと戦うのは、少しまずいわ。ここは、バレないように宝玉を奪取して、この森から離脱するわ」
アラクネーの宝玉を奪う作戦に出たガリーナたち。
周りにばれないように、行動を開始した。
その頃、明日香は…。
明日香:「はぁ、はぁ」
森の中を走って、アクリスを見送ったときに一瞬見えた光の元へ向かっていた。
明日香:「確か、この辺だった気が…」
明日香は辺りを確認しながら、前へ進む。
そして、目指していたと思われる場所にたどり着いた。
明日香:「はぁ、はぁ…、この森にあったのね」
明日香の前にあるもの。それは、世界のどこに点在する謎の石版、神秘の石版だった。
この神秘の石版は、謎の文字で彫られており、何より、どうやっても破壊することができないものである。
明日香は、この石版に書かれている文字が読める数少ない人物である。
なぜ、この文字を読めるのかは、明日香自身もわからない。
恐る恐る石版に近づく明日香。
石版の周りを見る明日香。
よく見ると、周りの土が不自然に盛り上がっていた。
明日香:「元々、地中にあったものが、ドミナシオンが暴れた所為で、地上に出たのね…」
明日香は、神秘の石版にピタッと掌を触れた。
石版に書かれている文字を目で追う明日香。
明日香:『何かの言葉かしら…』
明日香は一語ずつ黙読する。
明日香:『”神の血筋”。それは、世界が怖れる最悪の存在。”天界”。あの方に選ばれた者のみが行きつくことのできる世界。そして、”次元振動”、全ては1つに繋がっている。そして、その答えはやがて、アルカーナへと導くであろう。だが、そこに行けば、世界を……』
最後の言葉を見て、目を大きくする。
明日香:「支配するほどの存在になるであろう。これは、後に災いを起こすであろう者から送る言葉である」
石版に触れていた掌を離す明日香。
明日香:「何なの…、この石版に書かれていることって…。神の血筋って言えば、国家政府の本拠地がある場所に潜む人達のことじゃ。それに天界って何なのよ……」
一歩ずつ後ろへ下がる明日香。
ただ石版を読み上げただけなのに怖くなってしまったのだ。
明日香:「後に災いを起こすであろう者から送る言葉。この人が、この石版に文字を書いたってことなの…。この人は、世界に何かを伝えたいと願い、石版に文字を記したの…」
わけがわからなくなってきた明日香。
神秘の石版をずっと見つめていた。
明日香:「うっ」
急に頭痛が襲ってきた。
明日香:「じゅう…だ…い」
明日香は、すぐにこの場を立ち去った。
風が吹き、樹木の木の葉が、神秘の石版の上に落ちる。
しばらく走り、石版から遠ざかる明日香。
いつの間に、頭痛は収まっていた。
明日香:『さっきの頭痛は一体…』
先ほどの頭痛が何だったのか気になる明日香。
とりあえず、今は痛くないから、さっきのことは忘れようと、この森へ来た時に乗ってきたヘリの場所に向かおうとする明日香。
すると、ミッションウォッチのアラートが鳴り始めた。
通信を受信したのだ。相手は珠里だった。
明日香:「どうしたの?じゅ―」
珠里:『ママ!急いで、さっきのところまで戻ってきて!』
明らかに慌てている珠里。
明日香:「何かあったの!珠里?」
珠里の慌てぶりを感じ、明日香も少しだけ動揺してしまう。
珠里:『それが、アラクネーの宝玉が!』
珠里の通信を受け取った明日香は、急いでさっきの場所に戻った。
一体、何があったのか…。
それは、明日香が、その場を離れてから約15分後の話しだ
キャッシー:「アドレーは、これからどうするの?あなたの中にあったドミナシオンのエネルギーがない以上、プラントも用済みだと思うけど…」
アドレー:「ノルウェーに戻ろうと思う。プラントに入る前に遊んでいた友達もいっぱいいるしね」
キャッシー:「そう、ならしばらくは会えなくなるわね」
アドレー:「そんなことないよ。僕、またこっちに来るよ。今度は遊びにね」
今まで以上に嬉しそうな顔で話すアドレー。
アドレー:「だって、キャッシーお姉ちゃんは、僕にとって本当のお姉ちゃん、そのものなんだから」
キャッシー:「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
アドレー:「お姉ちゃんたちもありがとう。僕、これから向こうで沢山頑張るよ。そして、僕の生きる道を探し出して見せる」
アドレーがレミたちにも礼を言った。
レミ:「頑張りなさい、アドレー。私たち、遠い場所にいても、あなたを応援しているわ」
龍可:「次会うときは、立派な姿になっているかもね」
梨香:「そうだね、期待しているわよ」
アドレーが立派な姿になることを応援する女性たち。
珠里や静香も、優しく笑った。
みんなが、そんな会話をしている中、プラントのメンバーであるガリーナとアントンとラーヴルは、岩の上にあるアラクネーの宝玉に近づいていた。
ゆっくりと、そこで楽しんでいる奴らにバレないように…。
ガリーナ:「ラーヴル」
ガリーナが合図をし、ラーヴルは宝玉に手を伸ばす。
ピカッ!!
宝玉が落ちているすぐ側で、眩しい輝きが照らされ、ラーヴルは伸ばしていた手を引っ込めた。
ラーヴル:「うっ!」
ガリーナ:「何…!?この光!」
目を閉じてしまうガリーナたち。
キャットちゃんたちも、何が起きたのか分からず、眩しい光の所為で目を閉じてしまう。
しばらくして、輝きは収まり、みんなは目を開いた。
アラクネーの宝玉が置いてあった岩の上に立つ、1人の人間。
ペイトン:「これが、アラクネーの宝玉ですか」
いや、人間のような姿をしているが人間じゃない。
ガリーナ:「な、何なの!あなたは!」
岩の上に立つ人物体が、足元にあった宝玉を掴み、その輝きを見る。
ペイトン:「なるほど、ウェスカーの言う通り、ただの宝玉ではないようですね」
宝玉の輝きを見て、そいつは言った。
キャッシー:「あ、あなたは!!」
キャットちゃんは、1年半以上も前の記憶を思い出した。
それは、キャットちゃんだけじゃない。静香も、龍可も、剣代も、梨香も、珠里も、レミも思い出した。
レミ:「確か、バリアンの1人!」
ダイシャラス王国で、遊馬がバギーを倒した直後に現れた人物たち。そうバリアン8人衆。皆の前に現れたのは、その中の1人ペイトンという男だった。
ペイトン:「私の顔を覚えててくれたのですね。これは感謝感激です。ですが、今、あなた方の相手をしている暇はないですので、ここは失礼させて頂きます」
ペイトンが、その場から消えようとした。
ガリーナ:「待ちなさい!その宝玉をどうする気?」
ペイトン:「どうするも、こうするもあなたたちには関係のないことです。この宝玉は、我々のボスが欲しがっているものですからね」
アントン:「それは、こっちのボスだって同じことだ!」
アントンがプロミネンス・トレンチガンから炎の弾丸を放ったが、アントンはたった少しの動きで、その弾丸を躱した。
ペイトン:「人間を超えるバリアンに、そんな攻撃が通用するわけがない」
珠里:「ママ!聞こえる!ママ!」
珠里がミッションウォッチの通信機能をONにして明日香に連絡を取る。
そう、この直後に明日香は、珠里の連絡を受け、今、こちらに向かってきているのであった。
キャッシー:「その宝玉を渡すわけには行かないわ!これ以上、あんなことを繰り返させはしない!」
キャットちゃんがセカンドステージしたキャットネイルを両腕に填めて、ペイトンに仕掛ける。
ペイトン:「フッ、何のことだがさっぱりですが、この宝玉は、これから起きる大いなる災いに必要なものなのですよ。そう、多元世紀始まって以来の、大きな災いにね」
そう言って、ペイトンは展開した異次元空間の中に消えた。
キャッシー:「くっ」
梨香:「アラクネーの宝玉が…」
アドレー:「取られちゃった…」
せっかく封印したドミナシオン。しかし、その封印されているアラクネーの宝玉が持って行かれては意味がない。
アントン:「くそっ!胸糞悪いぜ!」
ラーヴル:「隊長…」
ガリーナ:「くっ…任務失敗。引き上げるわよ!」
ガリーナが指示を出し、アントンとラーヴルは、ガリーナの後を追う。
それから、15分後、明日香が戻ってきた。
剣代たちは、事の事情を話す。
明日香:「バリアンが、宝玉を…!」
剣代:「あぁ、止めようとしたが、逃げられちまった」
梨香:「まさか、いきなりバリアンの1人が現れるなんて」
静香:「このことは、本部に連絡した方がいいわ。それに、遊馬君にも」
明日香:「そうですね」
もう持って行かれてしまったものは仕方がない。
だが、バリアンが現れたことは、本部に報告しなければいけないことは、明日香達も承知していた。
レミ:「ん?」
レミが、何か悩んでいるようなキャットちゃんの姿を見て声をかける。
レミ:「どうかした?キャットちゃん」
キャッシー:「あの人が最後に言ってた言葉」
『この宝玉は、これから起きる大いなる災いに必要なものなのですよ。そう、多元世紀始まって以来の、大きな災いにね』
キャッシー:「あの言葉が気になって…」
レミ:「バリアンは宝玉を使って、何かをしようとしている。それは一体何なのか。このことを言えば、フロンティアもすぐに動くはずよ。それに彼も…」
キャッシー:『遊馬…』
心の中でキャットちゃんはかつての片思いの男性の名を呟いた。
謎の空間…。
ウェスカー:「戻ってきたか、ペイトン」
ペイトン:「皆さん、お迎えご苦労様です」
ペイトンが、礼儀よく挨拶をする。よく見ると、周りにはペイトンと同じような姿をした者たちが7人もいた。
そう、ここはバリアン世界の中。8人衆が集まる本拠地のような場所だ。
ウェスカー:「それで、例の物は?」
ペイトン:「勿論、ここに」
ペイトンはアラクネーの宝玉を手に持って見せる。
???:「さてさて、それが本物かどうか確かめてみましょう」
広場の奥からいきなり出てきた人影。バリアンとは違い、普通の人間のような姿をしている。
ペイトン:「抜かりのないようにお願いしますよ、ミスター」
ペイトンが、奥から現れた男性に宝玉を渡す。
ハートランド:「お任せよ。このハートランドが、きっちり確認いたします」
宝玉を受け取ったのは、かつて、遊馬に倒され消滅したバリアン側に付いた人間、Mr.ハートランドだった。
ピアーズ:「早く確認してくれよな、爺さん。次の獲物も取りに行かなきゃいけないしな」
ハートランドをおじさん呼ばわりするピアーズ。
ハートランド:「あなたに言われなくても、最初からそのつもりです。黙っててもらいましょうか」
舌打ちをして、毛嫌いしているピアーズにそう言うハートランド。
ピアーズ:「何だよ、その態度は!人間の癖によ!」
頭に来たのか、ハートランドに近づくピアーズ。
すると、それをウェスカーが止める。
ウェスカー:「やめろ、ピアーズ」
ピアーズ:「俺に指図するな!ウェスカー!それに、お前もお前だ!なんで、こんな奴をここに置いておく!こいつは人間だぞ!」
ウェスカー:「わかっている。だが、この男は、これからの災いに必要な存在だ」
シンディ:「そうよ、ピアーズ。私たちの目的を忘れたの?」
バリアン8人衆の紅一点シンディが聞いた。
ピアーズ:「人間世界を滅ぼし、バリアン世界を復活させることだろ!忘れるもんかよ!だが、それと、こいつに一体、何の関係があるって―」
???:「鎮まれ、ピアーズ」
ピアーズの言葉に上書きするかのような言葉が放たれた。
ピアーズ、いやハートランドを除く、ここにいる皆が驚き、近くの階段を上った先にある椅子に座る人影を見た。
ウェスカー:「申し訳ございません、起こしてしまって」
バリアン8人衆は、その人影に向かって頭を下げた。
???:「構わん、ハートランドよ、急いでアラクネーの宝玉を調査してくれ」
ハートランド:「わかりました」
ハートランドは、その広場の奥へと姿を消した。
???:「ピアーズよ、お前の言いたいことはわかる。だが、人間だからこそできることも、中にはある。そして、我々バリアンにしかできないことだってある。そうは思わないか?」
ピアーズ:「その通りです」
少し動揺したような感じでピアーズは口を開いた。
???:「わかっていればいい。スペンサー」
スペンサー:「はっ」
名前を呼ばれたスペンサーが返事をした。
???:「あの男の様子はどうだ?最近、警戒を怠っていないか?」
スペンサー:「申し訳ございません。様子を見る限り、しばらく奴は泳がせてもいいと思って」
スペンサーは、頭を下げながらそう言った。
???:「まあ、よかろう。だが、用心しろ。奴が持つ力は、我々にとって一番驚異的だからな」
椅子に座る人影は立ち上がり、階段を降りる。
その人影の手には、真っ赤なアームにルビーが埋め込まれたリングが填められていた。
そう、ウェスカーが、随分前に奪取してきたデスリングの一つ、血のデスリングだった。
???:「血のデスリング、アラクネーの宝玉は我が支柱にある。残るキーは1つだ。ウェスカー、ピアーズ、シンディ、ペイトン、スペンサー、コルダ、サリバン、ブラナー。何としても最後のキーを奪取せよ。そして…」
バリアン世界の神が、その姿を見せた。
ドン・サウザンド:「大いなる災いを起こし、バリアン世界の再構築を必ず成功させるのだ」
かつて、遊馬、アストラル、そして凌牙に倒され消滅したバリアン世界の神ドン・サウザンドが宣言したのだった。
人間界に起きる新たな災い…。これを予兆する人間は、まだ人間界にはいなかった…。
第8ED『あしあと《Clair(クレア)》』
次回予告
ナレーション:エルフェンの森で惨劇…。
そんな惨劇があった、その頃、ある島では謎の現象により、世界は困惑していた。
フロンティア上層部はすぐに人員を集め、現地へと向かわせた。
家族の思いが、新たな悲劇を巻き起こすのであった!
ミスティ:次回、遊戯王5DXAL「結晶に包まれた島ベイチニア半島」
ミスティ:「一体、この島で何が…」