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Caligula-カリギュラ-

『あんた、とんだサイコ野郎だよ…!』

いつの話だったか、Mrパーフェクトこと琵琶坂永至がそんなことを言われていたような気がする。
ああ、それで思いがけず笑っちゃったんだよなぁ。だって、自分でも完全無欠とか言っちゃうセンパイがあのザマだ。そりゃもう笑うしかない。当の本人はいつもの顔して笑ってたけど。もちろん、目は笑ってない。
自分の邪魔をするやつは絶対に認めない、それが琵琶坂永至という人間だ。少しでも邪魔をしてみろ、炎のおまけ付き鞭を喰らうハメになる。
彼の1番危ないところは衝動的に動いてしまうことだろう。逆鱗に触れれば命はない。例の、田所の件が揺るぎない証拠だ。

彼が去ったあとの部室は妙な感じだった。変な話、俺の日常の1ピースが足りないような感じだ。帰宅部からの追放後、彼とは1度も会っていない。

「…仲良くなれると思ったのになぁ」

今日は誰もいない部室にため息混じりの声がすっと消えていく。いつもなら、ここにはセンパイがいて、無意味な会話をしていたはずなんだけれど。

窓際の黒いソファに身を任せる。なんだか妙に広い。いつもだったらセンパイがいるのに。
ふと、指先に何がぶつかった。それはソファの隙間に隠れるように存在していた。
何なのかわかるような気がする。まあ、あれだろう。懐かしいな。

「ほら…やっぱりね」

案の定、リングだ。飾り気のないシンプルなシルバーのリング。
これはセンパイのものだ。…そういえば、一つなくしたと言っていたような気がする。その時のものらしい。
ほんの好奇心で指にはめると、すんなりと入った。確かセンパイがなくしたのは小指だった。どうもサイズが同じらしい。一つくらい持っていたってなんの問題もないだろう。本人は帰って来るはずがないし、メビウスにいるうちはなんでも手に入る。代わりなんていくらでもある。似たようなもの、じゃなくて、そっくりそのままのものだって手に入る。この世界で「欠ける」ことは一切ないし、そんなことあるはずない。
完全無欠な世界でも俺の願いは叶わないと言う。なんて皮肉なんだろうか。

「先輩。」

よく透き通る声に振り向くと、鍵介が怪訝な表情で俺を見ていた。

「…何かな。」
「…それ、先輩のじゃありませんよね」

どうもこのリングを見つけてはめるまでの一部始終を見られていたらしい。

「…だったら何?」
「先輩は、あんな人の肩を持つんですか。あんなに身勝手で、他人を蹴落とすことに何とも思わないような人間なのに。」
「身勝手じゃない人間はいないだろ。そんな聖人君子がいてたまるか。」
「だからといってあんな人間を庇う必要なんてどこにあるんです。無いでしょう。もうあんな人間は忘れて、僕達は僕達で現実に帰る方法を探しましょうよ。そんなものも捨ててください。」
「…どうして鍵介はそんなに怒っているの?君には関係ない話だよ。」
「関係ありますよ。同じ帰宅部でしょう。今の状況で、輪を乱すような真似はしないでほしいんですよ」
「そう…。じゃあ捨てるよ。」
「それでいいんですよ、先輩」

なんて、捨てる訳ないじゃないか。あれだけ分かり合える存在なんていない。

みんな自分の欲望に忠実なんだ。排他的なエゴは終わりがない。俺だって例外じゃない。閉じ込められているこの世界で、センパイを見つけられないわけがない。
見つけて、嬲り合うんだ。現実なんて忘れてしまうくらいに。
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