Kaleidoscope(pkmn トウヤ夢)
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マサラタウン。
この町で育った私が言うのもアレであるが、【田舎】その一言で事足りる長閑な地方都市である。
見渡す限りの緑。澄んだ空気。穏やかな風。
お隣のお家は数百m先なんてここでは普通の光景だ。
昔はそれなりに栄えていたらしいが今はその面影もなく、過疎化が進み、あると言えばポケモン研究の権威オーキド博士が長を務める【オーキド研究所】があるくらいだ。
そんな片田舎にあるオーキド研究所の扉を私ーーツヅリは幼い頃からしてきたように軽くノックを三回叩き、中から承諾の声が聞こえると入る。
中には本がぎっしりと詰まった、私の背の何倍もある本棚がずらりと並び、素人には何の機械か分からない機械が置かれている。
そして、大きな執務机とにらめっこ…正確には机ではなく研究資料らしき紙に険しい顔をしていた白衣を着たおじいさんが、この研究所の主であり、ポケモン研究の第一人者 オーキド博士だ。
「オーキド博士」
「おぉ、ツヅリ。忙しいのにすまんな」
「博士に比べたら全然だから大丈夫ですけど…」
私の声に顔を上げたオーキド博士はそう言って立ち上がるとまず、私に謝罪の言葉を述べた。
トレーナーの傍ら、小説家としても活動している私は、そこそこ忙しい生活を送っている。
ありがたいことに数年前に発売された【千年の流星】というホウエン地方を訪れた際に書き上げた作品がヒットしたのである。
千年の流星は、ジラーチの力で千年前にタイムスリップした少女が余命宣告を受けた少年と七日間を過ごす話だ。
その人気に乗って私は、その次に小説家になる理由となった話も書き上げ、発売。タイトルは【おやこ】
ポケモンに育てられた少年とその母親の話だ。
シオンタウンでの事実を織り交ぜながら書き下ろした話だが、これもまた随分とウケた。
面白かったと言われるのは正直複雑な心境ではあるが、それでもあの話で少しでもポケモンと人の関係について見直すきっかけになればいいと思っている。そうすれば少しはあのシオンタウンのあの親子も浮かばれるのではないだろうか。
「博士、用事というのは?」
「ふむ。ツヅリ、イッシュ地方に旅に出るというのは本当かね?」
「え?まぁ…明後日飛行船で向かいますけど…?」
挨拶もそこそこに、忙しいだろうにわざわざ私を呼びつけた訳を尋ねるとそう返ってきた。
明後日。
以前から話題になっていたイッシュ地方行きの飛行船チケットが漸くゲット出来たのでネタ集めの旅に出る。
滅多に行ける場所でもないのでジム戦も兼ねて行こうとしているのでそれなりの時間がかかると思われる。
何故知っているんだろう?という野暮なことは聞かない。この前ナナミさんに口が滑って話してしまっていたのでその祖父のオーキド博士が知っていたとしても可笑しくはない。
ついでに言うならもう幼馴染のグリーンが知っていても何も可笑しくはない。ナナミさんやオーキド博士達ならともかく……グリーンに何かお土産を催促される前にササッとイッシュ地方に行ってしまいたいところである。
「そうか。実はツヅリに頼まれてほしいことがあっての。
この研究資料をイッシュ地方のアララギ博士に渡してほしいんじゃ」
そう言ってオーキド博士は口の閉められたA4サイズの茶封筒を机の引き出しから取り出して私を見遣った。
カントーから外国のイッシュまで配達を頼むと相当な時間とコストが掛かる。私はその道の人間ではないが、研究には莫大な資金と時間がかかる。
少しでも経費を抑えて研究に回したいんだろうなと分かる。
だが、研究者でもなんでもない幼馴染繋がりの知り合いでしかない私に頼むのは如何なものか。
言っても無駄というのは小さな頃から知ってはいるし、この人には大恩のある私が断ることなんて有り得ないがこの人の良すぎるところはどうにかしてほしいところである。
「お遣いですか?
オーキド博士の頼みなら大丈夫ですよ、何でも」
「すまんな。本来なら研究員に行かせるところなんじゃが今は誰も手が離せん」
「ついでですから。
そのアララギ博士っていう人はどこにいる方なんです?」
「カノコタウンに彼女の研究所があるからそこを訪ねてくれんか?」
「…?そのアララギ博士って女性ですか?珍しい…」
ポケモン博士はオーキド博士を始め、様々な博士がいるが私が知る限り研究者に女性はいても、"ポケモン博士"の女性は初めてだ。
「うむ。ポケモンがいつ誕生したのかその起源を研究している。
新人トレーナーに初めのポケモンを渡す役目も担っておる期待の星じゃよ」
「へぇ…」
オーキド博士もその1人だが、ポケモン博士の中には10歳になり初めて旅立つ新人トレーナーに初心者用ポケモンを与える役目を持つ博士がいる。
私にとっては何気ない光景なのだが、跡から聞いた話では実は娘の役目はポケモン博士の中でも更に選ばれた博士にしか与えられていないのだという。しかもアララギ博士は年若い人なのだとか。
それを考えると相当スゴい人なのだろう。
「ではすまんが、頼んだぞツヅリ」
「はい、任されました」
そして手渡された封筒を腕に抱えて、私はお邪魔しましたと研究所を後にする。後ろからオーキド博士の声が聞こえた気がしたがちょっと今難聴に掛かったので聞こえなかった。
「グリーンとレッドにも顔を見せてから行くんじゃぞー!」
「レッドはともかくグリーンはいらないでしょ…」
そしてその2日後、私はカントー地方を旅立って行ったのである。