電解
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
怪我のハッピーセット(足首の捻挫・肋骨折・四針縫った切傷)の回復から早一週間。
機能回復訓練(正直言って地獄だった)も終えた私はまた任務に舞い戻っていた。
が、正直めっちゃ帰りたいです。
「雰囲気ありありじゃないっすか…」
鏡なんて見なくても分かるくらいゲッソリした表情の私の前にはアーチ型の門扉。その奥の中央にはこの国ではまだまだ珍しい噴水と左右対称の美しい薔薇の園。
しかし、その背後に佇む有名な赤と緑のおじさん兄弟の弟の名前のホラーゲームに出てくるようなおどろおどろしい洋館を見つけた時に庭園を楽しむ余裕など朝露の如く消えた。やはり神などいなかった。
これアレでしょ?キャー!!な感じのやつが出るんでしょ??私知ってる。
鬼は実体があるからどうにかなるが、霊的な奴は物理でもどうにもならないから昔から苦手だった。無理すぎる…もう嫌だ。今すぐ帰りたい。
「ホントにこんなとこに鬼いる訳?ねぇ、烏ちゃん」
「ソレヲ調ベルノモ任務ノウチ!!」
「はいよ…」
ぷりぷりと片言で怒る相方烏に藁にも縋る思いで聞くもバッサリと切り捨てられた。お前、そりゃないぜ…。
しかし、調べると言っても屋敷の周りは人気のひの字も無いので、まず調べるには人里を探さなけば話は前に進まない。いくら大正時代とはいえ、こんな人っ子一人いない雑木林で暮らしている野生児はいないだろう。………多分。
ーーー富豪の屋敷からたまに何か固いものを食っているような気味の悪い音がする
そんな噂の真相を探る為私はこんな僻地までやって来た。鬼であるならば斬れって訳です。
富豪の別荘ということだったので人通りは少ないだろうなと予想はしていたが、人がいなさすぎてビビった私である。
こんな雑木林の真ん中にぽつんと別荘があるなんて誰が思うの。なんでそんなとこに別荘なんかに買ったの。一町先にしか人里無いってどうなの。人里離れるにも程がある。
そこでハッと気付く。
もしかして、顔も名前も知らぬ富豪は余程日常がストレスフルな環境だったのだろうか。それで緑で癒やされようと…?
だとするなら、生意気を言った。平民は平民で大変だが富豪は富豪で大変らしい。
「グダグダ言ッテナイデ、早ク、行ケー!!」
「いたたっ!分かったから突かないでいただけます!?」
どうも最近うちの烏ちゃんは私の扱いが雑になってきた。私はおこですよ、烏ちゃん。
※ ※
結果的に言うと霊的なものはいなかったが、鬼はいた。
あの別荘の持ち主の次男が鬼となり、住み着き、別荘を通りかかった人間という人間を食いまくっていたのが事の真相だった。
「食わせろ!稀血ィィィ!!」
「あ、そういうの結構で〜す」
鬱蒼と茂る雑木林を舞台に、繰り広げられる鬼ごっこ。もう少し開けたとこねぇのかな〜なんて理性の飛んだ鬼に追い掛けられながら走る。
屋敷に鬼が住み着いていることに確信を抱いた時、すぐ様私は別荘へやって来た。門扉は鍵も掛かっていなかったのでお邪魔しまーすと声を一方的に掛けてお邪魔して屋敷の中を歩き回った。普通なら通報沙汰の所業である。
屋敷を歩いて気付いたが確かに屋敷にはうっっっっすらではあるが、鬼の気配を感じた。こんなん屋敷で鬼を見たって人がいなかったら見逃してたわ、なんて思いながら練り歩いた。
死ぬ程大きな屋敷を(別荘とは一体…迷路を目指した屋敷の間違いでは??)半日ほど歩いていたはがその日鬼が出てくることはなかった。随分と警戒心の強い鬼のようだ。
鬼殺隊といえども、本体が出てこないことにはどうしようもない。
さて、どうするかと。
どうにか引きずり出せないかと思って、色々と策を講じたけれども、どれも成功することなく時間だけが過ぎていった。
こうなるとしかたない。最後の手段に出た次第である。
痛いのも嫌いなので本当は心底やりたくないのだがこのままだと一生隠れて姿をみせなさそうな鬼のせいで、ワザと刀で自傷を作り、血を流しながら屋敷をウロウロ歩き回るハメになった。刀傷って地味に痛いんだよ、この鬼マジ絶許。
そして、飛んで火にいるなんとやら。思惑通りに血の匂いに釣られた鮫のように鬼がどこからとも無く現れた。
稀血って本当にすごいんだな…と自分で自分が怖くなった。今の所雑魚鬼しか対処したことないけど、これ強い奴出てきた時大丈夫?今は新人だからなんとかなってるけどね、後で嬲り殺しとかされない?心底未来の自分が心配な所存である。
そんなこんなで逃げ回っていると開けた場所が前方に見えた。
「(おっ)」
いい場所だ。適度に開けて、鬼の血鬼術そのものである屋敷からもある程度離れている。
もうここらで良いでしょう。逃げるだけの鬼ごっこも疲れたし。
はい決定、と決めると大きく跳躍し、鬼と間合いを開けて正面に向き合った。
ひたすら逃げの一手だった私が突然立ち止まり、戦う姿勢を見せたことが意外だったらしい。鬼は豆鉄砲を食らった鳩のような顔を見せる。
「もウ、ニゲ無いのォ?」
「逃げる必要が無いんで」
「ンンん?」
「雷の呼吸 弐ノ型」
「稲魂」
瞬く間に五連撃を叩き込む。
構えていない相手に攻撃するとは!!とか煉獄に知られたらそんなこと言われそうだ。でも卑怯とかそういうのは生きるのに必死な私にはちょっと聞こえない子ですね。
ほら、私自己中人間なんで。
ゴトリと鬼の胴と頭がずり落ち、頸が地面へ転がる。斬った口からサラサラと鬼は砂浜の砂のように崩れていく。
「モッとモッと食ベナきゃ…強ク ナラなきゃ…そウすれバ兄様はボクを認めて…」
頸が地面に落ちると鬼はうわ言のように呟く。
鬼は頸を斬られると人間だった頃を思い出す個体もいる、というのは任務を数度こなしている内に気づいた。
忘れがちになるけれど、鬼も元は人なのだ。人であれば当然辿ってきた軌跡があり、過去がある。
その過去を思い出し、涙ながらに懺悔し、改心する者も中にはいた。
後悔し、改心したからといって過去に起こったことを巻き戻せはしない。
彼が鬼だった間に人を食ったことも消えるわけではない。
彼が兄と何かあってそれ故に強さに固執し、その為に人を食ったのだとすれば同情に値するものではある、けれど。
私が思うに。
「本当の兄弟なら人を食って手に入れた紛い物の力で喜ばないよ。
強くなってほしいと願ったのは本当だろうけど、それは物理的な話だけじゃない」
そうでなければ、あの日記の形をした手紙は説明がつかない。
どうか。
私の最愛、私の全て。
この身体も何もかもが弱く無力な兄を許さずともいい。
だから、どうか。どうか。
その願いの根底にあったのはきっと。
「健やかで壮健であってほしい。そう願ったんだよ、アンタのお兄さんは」
屋敷を探索している時に見つけた、何か手掛かりになるのかもと思って持ち出していた日記を懐から取り出して、彼の目の前に放った。
黒い革手帳のそれは町で聞いた富豪の兄の名が記されており、随分と几帳面な人だったのだろう。殺される直前まで出来事などが事細かに記されていた。
中でも記述が多かったのは弟だった。成人するまで命の保証が出来ないと医者に宣告されていた兄にとっての最愛。とても仲の良い兄弟だったのだと直接見ていない私ですらその文面から読み取れるほど。
几帳面らしい兄の字は達筆で上手すぎて逆に読むのに苦労した。そんな字が唐突に崩れるページがあった。大慌てで書いたであろう、ミミズの走り書きのような文字。
日記の最後の頁である。
「とっくの昔にアンタは認められてたんだよ。随分と不器用だったみたいだけど」
ポロリ、ポロリとどんどん崩れていく鬼の目から涙が溢れる。
日記の最後はこう短文に纏められていた。
どんな姿形になろうとも。
私はずっとずっと愛しているよ。
ありがとう、私の世界。
私を肯定し、世界を形つくってくれた君。
私はいつまでもお前のそばにいる。
「兄様…兄ちゃん…」
「早く仲直りしてきな」
私の言葉に頷いた鬼はサラサラ…と吹いた夜風と共に塵となって最後には虚空へと消えていく。
鬼の最期を見届けた私は抜刀していた刀を鞘に戻し大きな背伸びをひとつ。
今世では悲劇の道を辿った兄弟。だが、人には来世というものがある。反省し、改心すればきっと次の世が与えられるだろう。
その来世でお互いが素直になって正直になれたら百点満点だ。まぁ、そう簡単に素直になれないのが人間ではあるが。
「さぁて、帰りますか」
「南西ニオハギノ美味シイ甘味屋ガアルゾ!」
「…私小豆嫌いなんだけど」
「オ前…本当ニ人間カ?」
「……お前こそもうそろそろいい加減にしないとマジで焼き鳥にするからな」
私にも来世があるのならばそれはどんな世界に生きることになるのだろうか。少しだけ興味が湧いた。
これはそんなある日の話である。
機能回復訓練(正直言って地獄だった)も終えた私はまた任務に舞い戻っていた。
が、正直めっちゃ帰りたいです。
「雰囲気ありありじゃないっすか…」
鏡なんて見なくても分かるくらいゲッソリした表情の私の前にはアーチ型の門扉。その奥の中央にはこの国ではまだまだ珍しい噴水と左右対称の美しい薔薇の園。
しかし、その背後に佇む有名な赤と緑のおじさん兄弟の弟の名前のホラーゲームに出てくるようなおどろおどろしい洋館を見つけた時に庭園を楽しむ余裕など朝露の如く消えた。やはり神などいなかった。
これアレでしょ?キャー!!な感じのやつが出るんでしょ??私知ってる。
鬼は実体があるからどうにかなるが、霊的な奴は物理でもどうにもならないから昔から苦手だった。無理すぎる…もう嫌だ。今すぐ帰りたい。
「ホントにこんなとこに鬼いる訳?ねぇ、烏ちゃん」
「ソレヲ調ベルノモ任務ノウチ!!」
「はいよ…」
ぷりぷりと片言で怒る相方烏に藁にも縋る思いで聞くもバッサリと切り捨てられた。お前、そりゃないぜ…。
しかし、調べると言っても屋敷の周りは人気のひの字も無いので、まず調べるには人里を探さなけば話は前に進まない。いくら大正時代とはいえ、こんな人っ子一人いない雑木林で暮らしている野生児はいないだろう。………多分。
ーーー富豪の屋敷からたまに何か固いものを食っているような気味の悪い音がする
そんな噂の真相を探る為私はこんな僻地までやって来た。鬼であるならば斬れって訳です。
富豪の別荘ということだったので人通りは少ないだろうなと予想はしていたが、人がいなさすぎてビビった私である。
こんな雑木林の真ん中にぽつんと別荘があるなんて誰が思うの。なんでそんなとこに別荘なんかに買ったの。一町先にしか人里無いってどうなの。人里離れるにも程がある。
そこでハッと気付く。
もしかして、顔も名前も知らぬ富豪は余程日常がストレスフルな環境だったのだろうか。それで緑で癒やされようと…?
だとするなら、生意気を言った。平民は平民で大変だが富豪は富豪で大変らしい。
「グダグダ言ッテナイデ、早ク、行ケー!!」
「いたたっ!分かったから突かないでいただけます!?」
どうも最近うちの烏ちゃんは私の扱いが雑になってきた。私はおこですよ、烏ちゃん。
※ ※
結果的に言うと霊的なものはいなかったが、鬼はいた。
あの別荘の持ち主の次男が鬼となり、住み着き、別荘を通りかかった人間という人間を食いまくっていたのが事の真相だった。
「食わせろ!稀血ィィィ!!」
「あ、そういうの結構で〜す」
鬱蒼と茂る雑木林を舞台に、繰り広げられる鬼ごっこ。もう少し開けたとこねぇのかな〜なんて理性の飛んだ鬼に追い掛けられながら走る。
屋敷に鬼が住み着いていることに確信を抱いた時、すぐ様私は別荘へやって来た。門扉は鍵も掛かっていなかったのでお邪魔しまーすと声を一方的に掛けてお邪魔して屋敷の中を歩き回った。普通なら通報沙汰の所業である。
屋敷を歩いて気付いたが確かに屋敷にはうっっっっすらではあるが、鬼の気配を感じた。こんなん屋敷で鬼を見たって人がいなかったら見逃してたわ、なんて思いながら練り歩いた。
死ぬ程大きな屋敷を(別荘とは一体…迷路を目指した屋敷の間違いでは??)半日ほど歩いていたはがその日鬼が出てくることはなかった。随分と警戒心の強い鬼のようだ。
鬼殺隊といえども、本体が出てこないことにはどうしようもない。
さて、どうするかと。
どうにか引きずり出せないかと思って、色々と策を講じたけれども、どれも成功することなく時間だけが過ぎていった。
こうなるとしかたない。最後の手段に出た次第である。
痛いのも嫌いなので本当は心底やりたくないのだがこのままだと一生隠れて姿をみせなさそうな鬼のせいで、ワザと刀で自傷を作り、血を流しながら屋敷をウロウロ歩き回るハメになった。刀傷って地味に痛いんだよ、この鬼マジ絶許。
そして、飛んで火にいるなんとやら。思惑通りに血の匂いに釣られた鮫のように鬼がどこからとも無く現れた。
稀血って本当にすごいんだな…と自分で自分が怖くなった。今の所雑魚鬼しか対処したことないけど、これ強い奴出てきた時大丈夫?今は新人だからなんとかなってるけどね、後で嬲り殺しとかされない?心底未来の自分が心配な所存である。
そんなこんなで逃げ回っていると開けた場所が前方に見えた。
「(おっ)」
いい場所だ。適度に開けて、鬼の血鬼術そのものである屋敷からもある程度離れている。
もうここらで良いでしょう。逃げるだけの鬼ごっこも疲れたし。
はい決定、と決めると大きく跳躍し、鬼と間合いを開けて正面に向き合った。
ひたすら逃げの一手だった私が突然立ち止まり、戦う姿勢を見せたことが意外だったらしい。鬼は豆鉄砲を食らった鳩のような顔を見せる。
「もウ、ニゲ無いのォ?」
「逃げる必要が無いんで」
「ンンん?」
「雷の呼吸 弐ノ型」
「稲魂」
瞬く間に五連撃を叩き込む。
構えていない相手に攻撃するとは!!とか煉獄に知られたらそんなこと言われそうだ。でも卑怯とかそういうのは生きるのに必死な私にはちょっと聞こえない子ですね。
ほら、私自己中人間なんで。
ゴトリと鬼の胴と頭がずり落ち、頸が地面へ転がる。斬った口からサラサラと鬼は砂浜の砂のように崩れていく。
「モッとモッと食ベナきゃ…強ク ナラなきゃ…そウすれバ兄様はボクを認めて…」
頸が地面に落ちると鬼はうわ言のように呟く。
鬼は頸を斬られると人間だった頃を思い出す個体もいる、というのは任務を数度こなしている内に気づいた。
忘れがちになるけれど、鬼も元は人なのだ。人であれば当然辿ってきた軌跡があり、過去がある。
その過去を思い出し、涙ながらに懺悔し、改心する者も中にはいた。
後悔し、改心したからといって過去に起こったことを巻き戻せはしない。
彼が鬼だった間に人を食ったことも消えるわけではない。
彼が兄と何かあってそれ故に強さに固執し、その為に人を食ったのだとすれば同情に値するものではある、けれど。
私が思うに。
「本当の兄弟なら人を食って手に入れた紛い物の力で喜ばないよ。
強くなってほしいと願ったのは本当だろうけど、それは物理的な話だけじゃない」
そうでなければ、あの日記の形をした手紙は説明がつかない。
どうか。
私の最愛、私の全て。
この身体も何もかもが弱く無力な兄を許さずともいい。
だから、どうか。どうか。
その願いの根底にあったのはきっと。
「健やかで壮健であってほしい。そう願ったんだよ、アンタのお兄さんは」
屋敷を探索している時に見つけた、何か手掛かりになるのかもと思って持ち出していた日記を懐から取り出して、彼の目の前に放った。
黒い革手帳のそれは町で聞いた富豪の兄の名が記されており、随分と几帳面な人だったのだろう。殺される直前まで出来事などが事細かに記されていた。
中でも記述が多かったのは弟だった。成人するまで命の保証が出来ないと医者に宣告されていた兄にとっての最愛。とても仲の良い兄弟だったのだと直接見ていない私ですらその文面から読み取れるほど。
几帳面らしい兄の字は達筆で上手すぎて逆に読むのに苦労した。そんな字が唐突に崩れるページがあった。大慌てで書いたであろう、ミミズの走り書きのような文字。
日記の最後の頁である。
「とっくの昔にアンタは認められてたんだよ。随分と不器用だったみたいだけど」
ポロリ、ポロリとどんどん崩れていく鬼の目から涙が溢れる。
日記の最後はこう短文に纏められていた。
どんな姿形になろうとも。
私はずっとずっと愛しているよ。
ありがとう、私の世界。
私を肯定し、世界を形つくってくれた君。
私はいつまでもお前のそばにいる。
「兄様…兄ちゃん…」
「早く仲直りしてきな」
私の言葉に頷いた鬼はサラサラ…と吹いた夜風と共に塵となって最後には虚空へと消えていく。
鬼の最期を見届けた私は抜刀していた刀を鞘に戻し大きな背伸びをひとつ。
今世では悲劇の道を辿った兄弟。だが、人には来世というものがある。反省し、改心すればきっと次の世が与えられるだろう。
その来世でお互いが素直になって正直になれたら百点満点だ。まぁ、そう簡単に素直になれないのが人間ではあるが。
「さぁて、帰りますか」
「南西ニオハギノ美味シイ甘味屋ガアルゾ!」
「…私小豆嫌いなんだけど」
「オ前…本当ニ人間カ?」
「……お前こそもうそろそろいい加減にしないとマジで焼き鳥にするからな」
私にも来世があるのならばそれはどんな世界に生きることになるのだろうか。少しだけ興味が湧いた。
これはそんなある日の話である。
8/8ページ