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私には同期が三人いた。しかし、一人は諸事情により、隠へ転向してしまったので実質現在隊士として活動している同期は二人だ。そして、その彼らは共に優秀過ぎる程優秀な剣士だった。
一人はご存知、煉獄杏寿郎。
煉獄家の長男で、心技体に恵まれても尚努力家な向上心の塊のような顔良し器量良しの少年だ。
最近は成長期なのか竹のようにすくすくと背が伸びていて節々が痛いとボヤいている。
以前は然程変わらなかった視線も私が見上げなければならなくなった。心底羨ましい限りである。
そして、もう一人は私と同性の少女だ。まず私が彼女と会ったとき思ったのは「顔だけでご飯食べてけそう…」である。それくらい可愛い儚い系美少女だった。
しかし、驚くことなかれ。煉獄と同じく出世街道を爆速で駆け上がっている物理でも強いぜウーマンである。
つまり、私の同期は一期上の隊士に負けず劣らずの揃いも揃って天才肌だったのだ。
え?そんな二人の同期に挟まれて凡人はどんな気持ちか?それ聞いちゃう?聞いちゃうの??
やってらんねぇーーよ!!!クソが!!!
そして、私は今現在。藤屋敷と呼ばれる、後の蝶屋敷の前身である静養屋敷のベッドの上にいた。
何故か?
前の任務で肋二本と足首の捻挫と切傷のハッピーセットを頂いたからですけど??何か文句でも???
そんな私の内心嵐模様を知ってか知らずか(知られては大分困るが)同期な彼女は心配そうな顔をしながら爪楊枝に刺さったウサギさん林檎を差し出す。
「明衣、大丈夫?ごめんね、私のせいで…」
「だーかーらー私が勝手にドジしただけだから全然平気…「えいっ」痛い!!何すんの!!何で突(つつ)くの!!」
「嘘はいけないと思うの、私」
にっこり微笑むお顔はいつ見ても目の保養。とても美しいが、その所業は悪だ。数針縫った傷口を割と強めに突く。これは痛い。どちゃくそ痛い…!!涙目でそう訴えた。
「とても痛いです…!お姉ちゃん!!」
「素直でよろしい。明衣はいい子ねぇ、よしよし」
「うぅ…カナエが酷い…けどお姉ちゃん味がしゅごい…」
「だって私、しのぶのお姉ちゃんだもの」
「知ってる…姉妹揃って美少女…前世でどんだけ徳積んだの……」
「明衣ってばまたその話?いつも言うわよねぇ」
林檎を持ってお見舞いに来てくれていた美少女同期は、眉根を下げて頬に手を当てた。
蝶を模した髪飾りと羽織がトレードマークなこの美少女ーー胡蝶カナエ。
彼女が私のもう一人の同期で、私が怪我を負った先の任務で階級がまた上がり己になったバリバリキャリアウーマン()である。ちなみに私は漸く辛です。
因みにちなみにしのぶというのはカナエの二つ下、私の一つ下のカナエの妹でこちらも姉とはまた違った方向の美少女である。
顔も良くて器量もあって性格も良くて剣士としても生きていけるとか。世の中マジ不平等…私にその小指の甘皮程度でもお情け程度も良いからおこぼれがほしかった。
などと思いながら兎ちゃん林檎をシャリシャリ食べているとカナエが目を伏せた。
「あのね、」
「ん?」
「明衣が怪我をしたのは私が不用意に鬼に近付いたからよ。ドジなんかじゃないわ」
暗い顔をするカナエに林檎を飲み込んで昨日も言ったことを繰り返した。
「カナエは鬼に話し掛けられたから話そうとしただけ。
私のコレは出来もしないのに不意打ちをしてきたのを庇ったりなんかしたから。つまり。
自業自得ってやつだからカナエが気にする必要なんて無いんだよ」
「でもね、」
しかし、尚も言い募ろうとするカナエにフゥと息を吐いて淡色の瞳を見つめた。
「じゃあ、カナエは諦める?鬼と仲良くすること。
この程度のことこれから先何回だってあるよ。その度に落ち込むの?謝るの?」
「それは」
「足踏みなんてしてたらそれこそ夢のまた夢だよ」
シャリシャリとまた林檎を食べて意気消沈するカナエを横目にボフリとおひさまの匂いのする布団に全体重を預ける。
胡蝶カナエは変わった夢を持つ隊士だった。
代々柱を排出する煉獄家、隊士を排出する家系やたまに私のような自分のために、はたまた給金目的のために入隊するのを除き、鬼殺隊というのはその半分程が肉親や親しい人、恋人、大切な人を鬼によって亡くした人が、明け透けな言い方をすると鬼に復讐するために入隊している。
カナエ自身も両親を鬼によって亡くし、自分達のような人を出さないため姉妹揃って入隊したのだという。
そんなカナエの夢は鬼と仲良くなることだ。
正直言って無謀に近い。初めてそれを聞いた時は正気を疑った。
鬼にとって人間は食糧だ。例えるなら私達が牛や豚相手に了承を得ないで物言わぬ肉に変えているのと同じ感覚なのだと思う。聞いたことはないので確かなことは分からないが。
だから鬼が食糧相手に対話するなんてするはずがないと思った。
そうすると、カナエは優しく微笑んで言ったのだ。
『それは今まで誰も話そうとしなかったからだと思うの』
『彼らも元は私達と同じ人間なのよ?なら出来ない訳ないじゃない?
だって誰も出来ないって証明出来てないもの』
確かにそれはそうだろう。出来ないと証明出来ていないのと同じように出来るとも証明出来ていないのだから。
そして、煉獄にしてもカナエにしてもどうしてこんなにも綺麗で真っ直ぐ生きていけるのだろうと思った。
二人とも決して世の中を知らないわけじゃない。寧ろよく知っている。なのに、どうしてこんなに優しく在れるのだろう。
その時、私は煉獄とはまた違った方向で、カナエもきっと長生き出来ないと思った。
カナエは優しすぎる。
カナエはその優しさを人だけじゃなく、鬼にも向けてしまえる人だから。
鬼は自己保身のためならどんな嘘だってつく。現に私が今回負った傷の元凶がそうだった。
だから、カナエがその優しさでいつか…と思ってしまう。
それでも。
その夢を追うのがカナエであり、優しさを持つから胡蝶カナエは慕われる。
それが分かっているからしのぶちゃんも口ではぷりぷり怒っても最終的に許してしまうのだ。それは私も同様だ。
「というか、カナエは真面目過ぎ。そんなに固く考えなくていいんだよ」
「明衣…」
「最初から完璧にできる人が何人いると思ってるの。
カナエはそれができなくても、同じ轍は踏まない。何より、半端な夢だったらそもそも口にしない。そうでしょ?」
「…えぇ、そうね」
「出来る人間は言うことが違うな〜」
柔らかに微笑んだカナエにもうため息すら出ない。
否定したいとかやっぱ才能過多な人間は発言から違うわぁ…。
いやぁ、しかし。
「またしのぶちゃんに怒られるなぁ…」
「え?」
「なんでもなーい」
姉さんを甘やかさないで!!しのぶちゃんからそんな声を浴びせられる近い未来が簡単に想像できたが……見なかったことにした。
まだそうと決まったわけじゃ無いので!!ね!!!?
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