箱庭の番人
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千花は家とは名ばかりの小さなオンボロアパートに独り暮らしをしている。
二階に上がる鉄階段や柵は年季が入り錆び錆で年代物感が溢れているし、目的の祠がある裏手の山もおどろおどろしいもので住居者は千花と大家さんのおばあさん一人である。
千花は戦利品を冷蔵庫に詰め込むと代わりにいなり寿司が二つ乗った小皿を手に持って、制服のまま家を出た。
目的の祠はとても分かり辛い。
特に目印も何もない獣道にぽつんとひとつあるだけで周りには何もない。木々は鬱蒼としているし、落ち葉が道を覆い隠している。
絶景は絶景でも"なんかいそう""何か出そう"な絶景である。
いそう、でも出そうでも呪いの見える少数派の千花が何も見えないし、いろはが何も反応しないのでここには何もいない。
千花はちゃっちゃと前回のいなり寿司を持ってきたいなり寿司を取り替える。
自分以外来ているような雰囲気もない祠が当然ながら綺麗なわけもなく落葉まみれ。家から持って来ていた箒でサッサと簡単に掃除をする。
一通り片付けると、千花はいつものように柏手を打って、手を合わせた。
「祠にお供え物か、若いのに感心感心」
「…?」
「や。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はぁ…」
千花は背後から聞こえた男の声に目を開け、振り返る。
そこには20代くらいの目に包帯を巻いた男が片手をあげて立っていた。
ついさっきまでいなかったはずなのに、と驚き生返事で千花が返すと彼は名前を名乗る。
「僕は五条悟。よろしく」
「八城千花です。よろしくお願いします…?」
ふと、そういえばいつもならいーちゃんが後ろに人がいれば教えてくれるのに珍しいな、と思いながら影に引っ込んだままの妖狐を気にしつつ千花も挨拶を返した。
「千花か。うん、よろしく」
「五条さん?は何の用です?」
この裏山は地元民ですら立ち入ることのない山である。そんな所にひょっこり偶然いるとは千花には思えなかった
それに、なんとなく五条はいろはに雰囲気がよく似ていた。
彼女ものらりくらりと本質はにおわせず、受け流し相手を手のひらの上で転がし自分が知りたいことだけ相手の口を滑らせるのが得意な口上手なひとだ。
つまり、何をしに来たかは知らないが同じニオイを感じる五条に会話の流れを握らせると少々まずいのでは?と思うのである。
目は見えないがきょとんとした雰囲気を見せた五条は、それを知る由もないので、それならそれでと口を開く。
「千花はさ、呪いって知ってる?まぁ、見えてるとは思うけど」
「何でですか?」
「君が呪霊に驚いてコケたところ見たんだよね」
「……」
確かそれは一週間くらい前の話だったような、と千花は思い出す。その後はいろはが報復としてその呪霊を滅多刺しにしてとんでもない現場になってしまい、若干気分が悪くなった。
というかそれ見えてるの?とかまさかそれからストーキングしてんの?とか疑問を持つが話が進まないので黙っておく。
「二ヶ月前から隣町で怪死者・行方不明者が続出しててね、僕はそれを祓いに来てたんだ」
五条悟は呪術界においそれといない特級の位階を持つ自他ともに認める最強呪術師である。
そうポンポンその辺に派遣されることもないのだが、今回の案件は特級呪術師が相当と五条に指名が入った。
場所は心霊スポットして急に注目を浴びるようになった墓地の片隅にある、今は使われていない井戸だ。
そこでは噂を聞きつけ面白半分にやってきた若者や近くを通り掛かった人間を中心に年齢性別問わず食われているらしい。
事件自体はすぐに解決した。被害にあった人は息どころかその身体すら無かったが痕跡は見つけ、根源も排除。
任務そのものは恙無く終わった。
「ところが、払い終わってから気付きたんだけどこの町からあの町以上の呪力を感じる。この規模はそうあるものじゃない。で、探してる先に」
「わたしがいた?」
「正解!まぁ、特級呪霊に憑かれて五体満足でピンピンしてることには驚いたけど…」
それは純粋に驚いている。
一週間前の彼女が二級呪霊に驚きコケた現場に五条は偶然居合わせた。その時は今時珍しい、なんて思っていたのだが。
直後、彼女の影から五条が追っていた呪力の特級呪霊にド肝を抜かれた。彼女(?)は出て来るやいなや呪霊を仕込み刀で滅多刺し。
可哀想に千花は真っ青な顔をして、今にも失神しそうだった。気を飛ばしたほうが幸せだったろうに。
まぁそこで、五条は自分が追っている犯人に千花が憑かれていることを知った。
特級呪霊は、特別な呪霊だから付けられるランクである。自分然りそうポコポコ湧いて出てくるものではない。
彼らは強さと危険が反比例することはまず無い。比例するものだ。
だから、身体の中に飼っている状態に近い千花が無傷でいる時奇跡だとも思ったのだ。
「あの、五条さん」
「何かな?」
破天荒男、非常識を地を行く男、信用・信頼は出来るが尊敬は出来ないなどなど面と向かって言われ続ける五条悟。
だが、世の中上の上には上がいるということをその時はまだ分かっていなかった。
いや、理解はしていてもまさか自分を上回る破天荒ガールが地球にいるとは思わなかったのである。
「憑かれてるんですか?わたし?」
「え?」
「だから、わたしって憑かれてるんですか?」
「………」
まさか見えて、呪いも呪術師も知っている素振りも見せる少女が自分が憑かれてることに気付いていないとか。え?マジで??
お互いキョトンとしてから首を捻りあった。
じゃあ、逆に今の状態はどうなの?と尋ねたところ千花は首を傾げながら。
「人には見えない家族がいる的な…?」
「なるほど」
何がなるほどか自分でもよく分からないがそういう認識らしかった。