しょうがないよ
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ミゼルはここ一週間、ある団体に所属する客から執拗に嫌がらせを受けていた。
始まりは一週間前にやって来た、その団体の頭だという柄も頭も悪い海賊の男だ。
その無法者は、昼時にやって来て常連客で賑わっていたにも関わらず力ずくで彼らを追い出し、我がもの顔で居座り始めたのである。
これはマナーを知らない海賊にはよくある話だ。なので、下手に抵抗して周りに被害が出る方が大変なので腹立たしいことこの上ないが大人しくしていた。この手の輩は加減というものをしない。
そうして、従順していればそれに気を良くしたのか配膳に来たミゼルを見てあろうことか男はおれの色になれと脅してきたのだ。
周りもそれを囃し立てて下卑た目で舐め回してくる始末。
自分には愛してくれる、愛している夫がいる。彼だけは何があっても裏切らないと結婚する時に決めていたミゼルは突っぱねた。
きっと夫が居らずとも突っぱねただろうが。
そんな彼女に驚いたのが海賊達である。
まさか強気とは言え、海賊相手に否を唱え剰え、睨まれるとは思っていなかったのだ。頭を筆頭に呆気に取られていた。
が、それも束の間。
状況を理解すると怒声を上げて、海賊達はミゼルに攻め寄った。
中にはピストルやカトラス、見たことのない武器を取り出した海賊にミゼルは冷や汗を流した。
父から店を継いで10年。
海賊と揉めることが無かったわけではなかった。
それでもこんなにも死に直面することは無かった。
ここで死ぬのか。どこか他人事ように思っていた。
しかし、神様はミゼルを見捨てることはしなかった。いつの間に抜け出したのか、ミゼルの夫に助けを求められた自警団がやって来て、ちょうど海軍が巡回する時期と重なっていた為か海賊団は大人しく退散していった。
『オマエから泣いて請わせてやる』
そんな不穏な言葉を残して。
それから今日まで地味な、けれど効果的な嫌がらせでミゼル達は心身が疲弊していった。
窓ガラスが夜中に割られていたり、海賊とミゼルが繋がっているなんていう嘘八百な噂、そして今日のように虫が入っていると新規の客前で態と聞こえるように声を張り上げたり。
我慢するにも限度、限界というものがあるのだ。
熱(ほとぼ)りが冷めるまで夫がウェイターをするという案もあった。
が、その日は海賊達が暴れに暴れ営業にならず結局ミゼルがウェイターとしてホールに立つことになった。
いつ彼等がこの島を出て行くか分からないので休業する訳にもいかず、八方塞がり。苦肉の策だった。
そんなもんで、ミゼルのストレス値は許容限度ギリギリ。いつ爆発してもおかしくない状況での今日の【お姉さーん?虫入ってんだけどー?】だ。
ミゼルがとうとうキレた。
「この前から一体何なんだ、アンタ達!」
「えー、なんのことだ?なァ相棒?」
「だよなー言い掛かりはよしてくれよォ」
「言い掛かり?よく言えたもんだ!」
目を釣り上げて怒声を浴びせても男達はニヤニヤするばかり。
「おれ達もやりたくてこんなことやってる訳じゃ、ねェんだ。お姉さんが頷いてくれるだけで良いんだからさァ」
「だからあたしは…!」
悔しくて悔しくて仕方無い。
力がないばっかりに夫に苦労を掛けて、あのお兄さん達にも、せっかく来てもらった友人にも迷惑を掛けて。
奥歯を噛み締めて目から滲み出る雫を堪える。
すると。
「…貴方達、営業妨害って言葉知ってる?」
「あ?何だ、姉ちゃん」
「選ぶ言葉が三流…あぁ、やってることも含めると四流、いや…五流以下か」
「てめェ…」
背後からあからさまに挑発し、男達を鼻で笑った友人の名をミゼルは呼んだ。
「アイラ…」
「下がってて」
有無を言わせないと言外に含んでそう言った彼女をミゼルは呆然と見た。
ミゼルの知る彼女はどこかぼんやりとしていて、手先が器用で、口が人よりも上手いということくらいだ。こんな冷たい目を出来る人だなんて思いもよらなかった。
「さて……躾の時間よ」
綺麗だと思っていた深い海色の瞳を、初めて怖いと思ってしまった。
始まりは一週間前にやって来た、その団体の頭だという柄も頭も悪い海賊の男だ。
その無法者は、昼時にやって来て常連客で賑わっていたにも関わらず力ずくで彼らを追い出し、我がもの顔で居座り始めたのである。
これはマナーを知らない海賊にはよくある話だ。なので、下手に抵抗して周りに被害が出る方が大変なので腹立たしいことこの上ないが大人しくしていた。この手の輩は加減というものをしない。
そうして、従順していればそれに気を良くしたのか配膳に来たミゼルを見てあろうことか男はおれの色になれと脅してきたのだ。
周りもそれを囃し立てて下卑た目で舐め回してくる始末。
自分には愛してくれる、愛している夫がいる。彼だけは何があっても裏切らないと結婚する時に決めていたミゼルは突っぱねた。
きっと夫が居らずとも突っぱねただろうが。
そんな彼女に驚いたのが海賊達である。
まさか強気とは言え、海賊相手に否を唱え剰え、睨まれるとは思っていなかったのだ。頭を筆頭に呆気に取られていた。
が、それも束の間。
状況を理解すると怒声を上げて、海賊達はミゼルに攻め寄った。
中にはピストルやカトラス、見たことのない武器を取り出した海賊にミゼルは冷や汗を流した。
父から店を継いで10年。
海賊と揉めることが無かったわけではなかった。
それでもこんなにも死に直面することは無かった。
ここで死ぬのか。どこか他人事ように思っていた。
しかし、神様はミゼルを見捨てることはしなかった。いつの間に抜け出したのか、ミゼルの夫に助けを求められた自警団がやって来て、ちょうど海軍が巡回する時期と重なっていた為か海賊団は大人しく退散していった。
『オマエから泣いて請わせてやる』
そんな不穏な言葉を残して。
それから今日まで地味な、けれど効果的な嫌がらせでミゼル達は心身が疲弊していった。
窓ガラスが夜中に割られていたり、海賊とミゼルが繋がっているなんていう嘘八百な噂、そして今日のように虫が入っていると新規の客前で態と聞こえるように声を張り上げたり。
我慢するにも限度、限界というものがあるのだ。
熱(ほとぼ)りが冷めるまで夫がウェイターをするという案もあった。
が、その日は海賊達が暴れに暴れ営業にならず結局ミゼルがウェイターとしてホールに立つことになった。
いつ彼等がこの島を出て行くか分からないので休業する訳にもいかず、八方塞がり。苦肉の策だった。
そんなもんで、ミゼルのストレス値は許容限度ギリギリ。いつ爆発してもおかしくない状況での今日の【お姉さーん?虫入ってんだけどー?】だ。
ミゼルがとうとうキレた。
「この前から一体何なんだ、アンタ達!」
「えー、なんのことだ?なァ相棒?」
「だよなー言い掛かりはよしてくれよォ」
「言い掛かり?よく言えたもんだ!」
目を釣り上げて怒声を浴びせても男達はニヤニヤするばかり。
「おれ達もやりたくてこんなことやってる訳じゃ、ねェんだ。お姉さんが頷いてくれるだけで良いんだからさァ」
「だからあたしは…!」
悔しくて悔しくて仕方無い。
力がないばっかりに夫に苦労を掛けて、あのお兄さん達にも、せっかく来てもらった友人にも迷惑を掛けて。
奥歯を噛み締めて目から滲み出る雫を堪える。
すると。
「…貴方達、営業妨害って言葉知ってる?」
「あ?何だ、姉ちゃん」
「選ぶ言葉が三流…あぁ、やってることも含めると四流、いや…五流以下か」
「てめェ…」
背後からあからさまに挑発し、男達を鼻で笑った友人の名をミゼルは呼んだ。
「アイラ…」
「下がってて」
有無を言わせないと言外に含んでそう言った彼女をミゼルは呆然と見た。
ミゼルの知る彼女はどこかぼんやりとしていて、手先が器用で、口が人よりも上手いということくらいだ。こんな冷たい目を出来る人だなんて思いもよらなかった。
「さて……躾の時間よ」
綺麗だと思っていた深い海色の瞳を、初めて怖いと思ってしまった。