ディスティニー・イン・ブルー
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翌朝。
雲一つない晴天の下、アイラはーー元船大工のミゼルの夫に話をつけ、彼から譲り受けていたーー船を港につけ食料やその他諸々、必要最低限の物資を積み込み終わり、エース達の到着を柵に座って愛刀の叢雲と待っていた。
譲り受けていたこのキャラヴェルタイプの船は日頃から良くしてくれているお礼で、と世界一の船大工が集まると言われているW7の元船大工でもあるミゼルの夫から2ヶ月ほど前に譲られた船だ。
感謝は述べつつも当時は、個人でこんな大きな船使うことがあるのか…?と思い贈られた手前、送り返すわけにもいかず、しかし、新船をいきなり廃船にすることもできず取り敢えず定期的な手入れを頼んで船着き場に碇泊させていた。
エース達の船が無いと嘆いている様を聞いてアイラはこの宝の持ち腐れ状態を脱出出来るチャンスでは…?と思いたち、行動を開始した。
船は使ってこそ船なのだからこれを逃せばもうチャンスは来まい。
なので、アイラはエース達が宿屋へ帰った後すぐに製作者である彼に話を持ち掛けたのである。
元は個人に贈られた船を海賊船として使うのだ。彼に話をつけるのが筋だろう。
しかし、ミゼルが海賊によってあんな目にあった後だ。アイラは最悪、断られることも覚悟していたのだが……。
『あの子を?良いよ。是非使ってほしい』
『……海賊船で使うのに随分と軽いのね』
『いやぁ…漸くあの子が陽の目を見れるってなると嬉しくてねぇ…』
ニコニコ笑顔がセットであっさりと許可は出た。
そう言えばこの人の船に対する愛着を舐めていた。好きだからと言って人に船を贈る癖は治したほうがいいとは言ってはある。普通は一個人で船なんて貰っても困る。……効果は無いだろうがとアイラは思っているが百点満点の大正解だ。
新品ということもあるのか、潮の香りに混じって床からは真新しい新木の香、色も綺麗な木そのものの色味。
いつ彼らが来てもいいようにアイラの隣に置いてあるロープ梯子もまだまだ綺麗なままで、結成して間もないスペード海賊団に相応しい新人船(ルーキーシップ)だ。
足をプラプラさせ、まだかまだかと待ち人を待つ自分が思った以上に彼らとの海賊ライフを楽しみにしていることに気付き、アイラは自分自身に苦笑した。
出会ってすぐに運命だと感じ、でも突発的な感情や賞金稼ぎだったり母の言葉に縛られ渋っていた昨日までの自分が嘘のようだ。
心なしか気分もスッキリしている。どうもアイラは色々と自分では気づかない内に考え過ぎていたようだった。
エースはそれすらも気付いていたのかと疑問に思うが……。
「……ないな」
食べながら眠りこける謎の特技を持つ船長を思い出して首を振った。もしかすると本能的に察知するとかそういうタイプかもしれないが、少なくとも論理的思考力によるものではないと見た。
そうしてアイラはようやく見えてきた二人に柵越しに手を振り、二人が甲板に登るための縄梯子を下ろす。
「おはよ」
「おう、おはよう」
「これ、キャラヴェルだろ?良いのか?こんなイイやつ」
「本人から是非使ってくれって言われてるからね」
太っ腹だな、その旦那…とデュースが甲板を見渡す。
話していて思ったがやはりデュースは生真面目な男だった。この船がキャラヴェルだと一目見て言うあたりそこそこ学の通った坊っちゃんだったのかもしれない。
「船は使ってこそ、らしいわ。本人曰く」
「ヘェ…」
「因みにお二人がのんびり優雅にお越しいただいてる間に入用な物は積み込んでおいたから」
アイラの棘のある言い回しに、テメェ人が大変な思いしてる時に何しやがったんだコラァという副声音が聞こえたような気がして素直に謝った。
人間に限らず、生物というのは怒るととんでもなく怖いタイプの奴らがいるのだ。
「それは……すまん。
で、アイツは何やってるんだ?」
呆れたデュースの視線の先にはマストの監視台ではしゃぐエースの姿。あれが船長とかこの先、大丈夫なのかと一抹の不安が過る。
「…馬鹿と煙は何とかって言うじゃない」
「ったく…おい、エース!」
「なんだ!?」
「アイラがもう出港出来るってよ!」
デュースが声を張り上げると目に見えて目をキラキラさせたエース。
本当に良く悪くも子供だよなァと染み染み眺めているとエースは息を吸い込んだ。
「野郎共出港だ!!」
エースの大きな声を合図に帆を張った船は奇跡の島を飛び出した。
スペード海賊団の本当の航海の始まりである。
「船長、いつまでも上で呆けてないで船動かすの手伝って」
「おい、今格好つけてたろ」
「は?どこが」
「おれは船長だぞ!?」
「…で?」
「お前ら仲良くしろよ…」
思ったよりも前途多難かもしれない、とデュースが気付くのはそう時間も掛からなかった。
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