しょうがないから
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「アンタ達見ない間に随分仲良くなったんだねェ…」
「まぁな!」
「はは…」
不思議そうに追加の肉を運んできたミゼルにエースが陰りない笑顔で、デュースとアイラは半笑いを浮かべた。
人知れずワークス海賊団の掃除を終えた一行は快勝祝いと題打ったLuckyで食事ーーにしては品の無い(主にエース)ーーをとっていた。
Luckyは、エース達(9割はエース)にとってはお気に入りの、アイラにとっては宿屋でもあるので特に反対することもない。
店に入って直ぐにはミゼル達に謎の組み合わせに2度見されたが、特に追求されることなかった。
しかし、内心はそうではなかったらしく客がいつぞやと同じくエース達のとなるとミゼルは客席のテーブルを拭きながら感慨深く呟いた。
「それにしてもあの人見知りのアイラがねェ…
直ぐ仲良くなれるなんてエースは大したモンだ」
「ちょっとミゼル…」
それにギョッとしたのはアイラである。
ミゼルと知り合って然程経ってはいないが、毎日客商売をするだけある。一言も言っていない筈なのに分かっているあたり流石の一言だ。
だが、彼ら相手には言ってほしくなかった。
「ヘェ〜」
「なに?言いたいことあるなら言えば?」
「おれ達とはそんなことねェのにな」
「…」
ぐっ、とエースの正論に言葉が詰まり、誤魔化すようにナポリタンを口に運んだ。
……だから知られたくなかったんだ。アイラは胸の内でごちた。
育った環境か、それとも育ての親の影響か人見知りの気があるアイラは初見の相手にはそれはそれは態度が固い。
例外としては賞金首くらいではないだろうか。彼等は1度きりのお話であるので特に気兼ねなくお話するのだというのは本人談である。
なんにせよ、見た目ものこともあり冷血と称されることがしばしばあった。
だというのに、不思議なことにエース相手にはそれこそ通年来の友人のように接してしまうのだ。決して悪いことではないのだけれど、何故エースだけ?とアイラは首を傾げるばかりだ。
そんなアイラにミゼルが心なしかニヤニヤしている気がして嫌な予感を感じながら一応聞くだけ聞いた。
「なに?」
「いや?アンタもそういう感情?お年頃?なんだと思ったらねェ…」
「違うから」
とんでもない勘違いが生まれているので直ぐ様否定した。
「そう言えば、アンタ達これからどうする気だい?エース達は船がどうとか前言ってたろ?」
「そうなんだよ。ストライカーじゃ三人は無理だ」
「ストライカー?」
「エースの能力を利用した小型船だ。風に左右されることがないから便利なんだが…いかんせん一人乗り用だからな」
深刻そのもの顔をするエース達であるが、それよりもアイラ的には。
「わたしはもう仲間入り認識なのね」
「そうだな、諦めろ。多分、アイラが仲間になるまでアイツはしつこいぞ」
「…」
疲れ顔のデュースに言われたそれにアイラは無言で返した。そうだろうなぁ、と思うも返事が出来ないのは…まだ母の最期の言葉が気に掛かっているからだ。
ーーきっとこの二人との旅は楽しいだろう。
それはほんの少しだけしか一緒にいなかったアイラにだって分かる。
楽しいことだけじゃないことも、勿論あるだろう。苦しくて辛い局面だって、最悪命すらも落とすことになるかもしれない。
……けれど彼らが、エースがいるのならいいかもしれないなんて思っている自分がいる。
『海賊だけはやめておけ』
それでも、母の死に際の声 が耳を離れない。
あれは、父のことをよく分かっている母だからこその言葉だと思っていたが果たしてそうだったのだろうか。それともただ、海賊は怖いものだからという認識の言葉なのだろうか。
その真意はなんだったのだろう。
いや、そもそもの話…母アイリは何者だったのだろうか。
思えばただの一般人にしては、父にしても師にしても友人にしてもおかしな繋がりである。本当にただの村娘だったのかという疑問を今更ながらに持った。
だからか、素朴な疑問をエースにぶつけた。
「エースは…どうして海賊になったの?」
「ん?」
まだ食うのかコイツとミゼルの恨めしい目を他所に30皿目になった肉を頬張るエースは首を傾げた。
「だから、何で海賊なのかと思って。海に出るなら海賊以外の選択肢もあったでしょ」
「なんで?」
「は?」
「海賊王を超えるには海賊になるしかねぇだろ?
理由ってそんなに大事か?」
次はアイラがキョトンとする番だった。
そんなこと考えた事もなかった。
この十数年の間、ゴールド・ロジャーの遺した宝"ひとつなぎの大秘宝"とそれを獲得した海賊が手にする海賊王という称号を求めて数多の海賊が海に出ている。
全ては海賊王になるため。
だというのにエースはハナからそんなものに興味はないという。かと言ってひとつなぎの大秘宝など夢物語だと言っている訳でもない。
エースは随分と珍しいタイプの海賊だった。
そして、考え方も良い意味で変わっていた。
「おれは理由なんてどうでもいい。でももし、アイラが理由がなきゃ動けねぇってんならおれが理由を作ってやる」
口を出さず、心配そうに見守るミゼルとデュースを横目にエースは断わられることなど絶対ないと断言するかとのようにニッと笑った。
「おれと一緒に世界をひっくり返しに行こうぜ、アイラ」
その瞬間、アイラは目元を覆った。
エースを馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、自分は甘かったようだと認識を改める。
彼は本物の馬鹿だった。
だってまさか仲間になれ、未来の海賊王のクルーになれなどにかすりもしないなんて思いもしなかった。
こんな破天荒で罰当たりな、これまでにないとんでもない口説き文句に何も思わないほうがどうかしている。
何より、捉え方によっては即刻牢屋行きにもなるそれを臆することなく言い放つ度胸。
あぁ、もうさっきまで海賊がどうとか悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しいことこの上なかった。
「…ふ」
「アイラ…?」
「どうした…?」
突然顔を隠したアイラを心配してデュースとミゼルが声を掛けるが……
ーーー当人は、肩を震わせていた。
笑っていたのである。
それも近年稀に見る大爆笑だった。
「ふくくくく…!」
「アイラが、笑ってる…!?」
「笑いすぎてお腹痛い…」
「しかも大爆笑…!?」
「はー……決めた」
ムンクの叫びのような、この世のものではないものを見たかのような表情をする二人を無視して腹を決めたアイラは口を開く。
「…そこまで言うなら世界の果てまで責任持って連れてってもらおうかな、船長?」
「おう、任せとけ」
"東の海"のとある島で交わされた握手。
ーーーこれが後に【火拳の懐刀】と呼ばれるアイラと【火拳】の二つ名を持つエースの長い長い付き合いの序幕であった。
「まぁな!」
「はは…」
不思議そうに追加の肉を運んできたミゼルにエースが陰りない笑顔で、デュースとアイラは半笑いを浮かべた。
人知れずワークス海賊団の掃除を終えた一行は快勝祝いと題打ったLuckyで食事ーーにしては品の無い(主にエース)ーーをとっていた。
Luckyは、エース達(9割はエース)にとってはお気に入りの、アイラにとっては宿屋でもあるので特に反対することもない。
店に入って直ぐにはミゼル達に謎の組み合わせに2度見されたが、特に追求されることなかった。
しかし、内心はそうではなかったらしく客がいつぞやと同じくエース達のとなるとミゼルは客席のテーブルを拭きながら感慨深く呟いた。
「それにしてもあの人見知りのアイラがねェ…
直ぐ仲良くなれるなんてエースは大したモンだ」
「ちょっとミゼル…」
それにギョッとしたのはアイラである。
ミゼルと知り合って然程経ってはいないが、毎日客商売をするだけある。一言も言っていない筈なのに分かっているあたり流石の一言だ。
だが、彼ら相手には言ってほしくなかった。
「ヘェ〜」
「なに?言いたいことあるなら言えば?」
「おれ達とはそんなことねェのにな」
「…」
ぐっ、とエースの正論に言葉が詰まり、誤魔化すようにナポリタンを口に運んだ。
……だから知られたくなかったんだ。アイラは胸の内でごちた。
育った環境か、それとも育ての親の影響か人見知りの気があるアイラは初見の相手にはそれはそれは態度が固い。
例外としては賞金首くらいではないだろうか。彼等は1度きりのお話であるので特に気兼ねなくお話するのだというのは本人談である。
なんにせよ、見た目ものこともあり冷血と称されることがしばしばあった。
だというのに、不思議なことにエース相手にはそれこそ通年来の友人のように接してしまうのだ。決して悪いことではないのだけれど、何故エースだけ?とアイラは首を傾げるばかりだ。
そんなアイラにミゼルが心なしかニヤニヤしている気がして嫌な予感を感じながら一応聞くだけ聞いた。
「なに?」
「いや?アンタもそういう感情?お年頃?なんだと思ったらねェ…」
「違うから」
とんでもない勘違いが生まれているので直ぐ様否定した。
「そう言えば、アンタ達これからどうする気だい?エース達は船がどうとか前言ってたろ?」
「そうなんだよ。ストライカーじゃ三人は無理だ」
「ストライカー?」
「エースの能力を利用した小型船だ。風に左右されることがないから便利なんだが…いかんせん一人乗り用だからな」
深刻そのもの顔をするエース達であるが、それよりもアイラ的には。
「わたしはもう仲間入り認識なのね」
「そうだな、諦めろ。多分、アイラが仲間になるまでアイツはしつこいぞ」
「…」
疲れ顔のデュースに言われたそれにアイラは無言で返した。そうだろうなぁ、と思うも返事が出来ないのは…まだ母の最期の言葉が気に掛かっているからだ。
ーーきっとこの二人との旅は楽しいだろう。
それはほんの少しだけしか一緒にいなかったアイラにだって分かる。
楽しいことだけじゃないことも、勿論あるだろう。苦しくて辛い局面だって、最悪命すらも落とすことになるかもしれない。
……けれど彼らが、エースがいるのならいいかもしれないなんて思っている自分がいる。
『海賊だけはやめておけ』
それでも、母の
あれは、父のことをよく分かっている母だからこその言葉だと思っていたが果たしてそうだったのだろうか。それともただ、海賊は怖いものだからという認識の言葉なのだろうか。
その真意はなんだったのだろう。
いや、そもそもの話…母アイリは何者だったのだろうか。
思えばただの一般人にしては、父にしても師にしても友人にしてもおかしな繋がりである。本当にただの村娘だったのかという疑問を今更ながらに持った。
だからか、素朴な疑問をエースにぶつけた。
「エースは…どうして海賊になったの?」
「ん?」
まだ食うのかコイツとミゼルの恨めしい目を他所に30皿目になった肉を頬張るエースは首を傾げた。
「だから、何で海賊なのかと思って。海に出るなら海賊以外の選択肢もあったでしょ」
「なんで?」
「は?」
「海賊王を超えるには海賊になるしかねぇだろ?
理由ってそんなに大事か?」
次はアイラがキョトンとする番だった。
そんなこと考えた事もなかった。
この十数年の間、ゴールド・ロジャーの遺した宝"ひとつなぎの大秘宝"とそれを獲得した海賊が手にする海賊王という称号を求めて数多の海賊が海に出ている。
全ては海賊王になるため。
だというのにエースはハナからそんなものに興味はないという。かと言ってひとつなぎの大秘宝など夢物語だと言っている訳でもない。
エースは随分と珍しいタイプの海賊だった。
そして、考え方も良い意味で変わっていた。
「おれは理由なんてどうでもいい。でももし、アイラが理由がなきゃ動けねぇってんならおれが理由を作ってやる」
口を出さず、心配そうに見守るミゼルとデュースを横目にエースは断わられることなど絶対ないと断言するかとのようにニッと笑った。
「おれと一緒に世界をひっくり返しに行こうぜ、アイラ」
その瞬間、アイラは目元を覆った。
エースを馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、自分は甘かったようだと認識を改める。
彼は本物の馬鹿だった。
だってまさか仲間になれ、未来の海賊王のクルーになれなどにかすりもしないなんて思いもしなかった。
こんな破天荒で罰当たりな、これまでにないとんでもない口説き文句に何も思わないほうがどうかしている。
何より、捉え方によっては即刻牢屋行きにもなるそれを臆することなく言い放つ度胸。
あぁ、もうさっきまで海賊がどうとか悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しいことこの上なかった。
「…ふ」
「アイラ…?」
「どうした…?」
突然顔を隠したアイラを心配してデュースとミゼルが声を掛けるが……
ーーー当人は、肩を震わせていた。
笑っていたのである。
それも近年稀に見る大爆笑だった。
「ふくくくく…!」
「アイラが、笑ってる…!?」
「笑いすぎてお腹痛い…」
「しかも大爆笑…!?」
「はー……決めた」
ムンクの叫びのような、この世のものではないものを見たかのような表情をする二人を無視して腹を決めたアイラは口を開く。
「…そこまで言うなら世界の果てまで責任持って連れてってもらおうかな、船長?」
「おう、任せとけ」
"東の海"のとある島で交わされた握手。
ーーーこれが後に【火拳の懐刀】と呼ばれるアイラと【火拳】の二つ名を持つエースの長い長い付き合いの序幕であった。