カミングアウト5秒前
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「呪いを学び、呪いを祓う術を身に付け、君はその先に何を求める?
何をしに呪術高専へ来た?」
その問いに千花は一つの答えしか浮かばなかった。
「わたし、こんな感じなので人に迷惑かけてばかりで。今更それがどうとかは思ってないんですけど。
ただ…存外わたしは寂しがり屋の欲張りだったみたいなので、人からは認められたいなんて思うんです」
他人にさして興味が無いくせ、認めてほしいだなんて自己中心的にも程があることは理解していた。
でも、わたしはこれ以外のやり方が分からないから。
人として認められるために、感謝されるために。
第三者から肯定されるために何ができるかを考えて、辿り着いたのが。
「自分の意思で助けたい」
誰かに強制される訳でもなく、偶然などではなく。
その結果何が起こっても強く在れるようになりたいと思う。
そして、最期の最後に笑って満足して死ねたら万々歳だ。
命懸けにしてはそんな呆れるくらい些細で普通な、平凡過ぎる答えしか浮かばない。
その平凡になるために千花は命懸ける。
「合格だ」
失礼しましたー、と学長室にしては殺風景なようなファンシーな部屋を出た千花は、東京都呪術高等専門学校 学長 夜蛾正道から無事入学を許可、現在五条に案内されながら女子寮に向かう最中である。
呪術高専は東京といっても郊外にあるのでどこの田舎と言わんばかりの緑溢れている。しかも今時珍しい京都の町中のような和風な建築だ。五重塔が見える時点で本格的である。
高専は日本だけで言うとここ、東京と呪術の聖地京都の二校だけ存在する。
表向きは宗教系の私立校ということらしいのでその位が適度なのかもしれない。
なんて説明しながらキョロキョロしながら自分の後を着いてくるお上りさん生徒に五条は尋ねた。
「千花、さっきの入学動機だけどさ呪いを解くためでも十分良かったんじゃないの?」
「んー、そういう取り繕った答えで合格できるなら言いましたけど…あの学長先生そういうの通じる人なんですか?」
「通じないな。なんたって僕の元担任だし」
ケロッと否定する担任になるという"五条先生"の背を千花は、ジト目で見た。
分かりきった結果をわざわざ言うなよ、という意図がありありと込められているのは向けられた本人はよく分かっている。
「五条先生、性格悪…」
「よく言われるし僕もそう思う」
「ちょっとは否定する努力しません…?」
「事実を否定してもね〜」
ヘラヘラする五条に、あこれは何を言っても無駄だなと感じた千花は言い募ることをやめ、そうですかと投げ捨てた。
「君が編入するクラスには千花以外に三人同級生がいる。そのうちの一人は女の子だから分からなかったらその子達に聞いてね。もちろん、僕でも大歓迎」
「クラスメイト三人しかいないんですか?少なくないですか…?」
「そんなもんだよ。呪術師は少数派な職だからね」
「はぁ…」
思った以上にマニアックな職なんだなぁ、と千花は迷子にならないよう気をつけながら、五条の背を追う。
公ではない呪術師であるが、実は国からお給料が支払われる国家公務員でもある。
とはいっても表立った機関があるわけでは無く、裏にそういった呪術関連の事柄を統括する機関がある。
決定権は古くから呪術師の仕事のサポート・斡旋をする高専側の方が持っているので、形だけはあるというのが正しいが。
「詳しいことはまた今度ね」
今まで見えていた和風な建築物と違い、洋風な建物が姿を表す。
和物しか周りにないのでめっちゃ浮いてる〜と千花が思っていれば五条は四階建ての向かい合った二棟建築物の前に止まる。
「はい、到着ー!ここが女子寮でーす!」
「思ったよりもきれいだし普通……しかも洋風…」
「どんな想像してたのかだいたい分かる感想ありがとう」
こんな敷地だし言いたいことはよく分かる、と五条はうんうん頷く。
「寮は男女別れてて、右が男子寮で左が女子寮。
教師っていっても流石に僕が女子寮の中を案内するわけにはいかないからここから先は君のクラスメイトに任せてるんだ」
「楽しそうですね…?」
「ふふふふふ……」
これなんか良くないこと考えてるな、と付き合いの浅い千花でも分かるそんな笑顔だった。
「おい、そこの馬鹿目隠し」
「(馬鹿目隠し…)」
尊敬のその字もされていないような敬称と苛立ちのこもった声が寮の入り口から聞こえ、見てみると……。
「五条先生、あの子に何したの?怒ってますよ?」
仁王立ちで怒っている気がするとかではなく、怒りマークを乱舞させている眼鏡をかけた少女が立っていた。めっちゃ怒って。
なので、ヒソヒソと彼女の怒りに触れないように聞けば五条もヒソヒソと囁き返す。
「実は教えてた時間30分早いんだよね」
それはつまり、彼女は無意味に30分待たされていたということでは?
「何で?」
「何となく……?」
「先生、今すぐ土下座しよう?」
「え、なんで?」
「なんでがなんで??」
本気で僕何言われてるか分からないよ、みたいな困惑顔をされたので千花の方が意味がわからない。
成人したいい大人が未成年を待たせるとか何考えてるんだ、この駄目な大人。
いや、でももしかして…?
「???」
ちょっと頭が混乱してきた千花は頭を抱えた。
もしかしてわたしがまちがってる…?あれ…??
その横で五条は禪院真希に頭がこんがらがっている千花の頭に手を載せて代わりに紹介する。
「真希、この子編入生の八城千花。女の子同士仲良くしてあげてね」
「編入生?…何の話だ?」
「言ってないっけ?」
「……聞いてねぇ」
そう言われて五条は高専に来てからのことを思い返す。
あっ、そういえば言ってないかもしれない。
「まぁ今言ったから。この子編入生。OK?」
「……そういうことはもっと早く言え!!」
真希の怒声が寮に響き、寮内にいた生徒が何だなんだと窓から顔を出すが真希の相手が五条だと分かると一様に「また五条先生か」と言って引っ込む。
お分かりいただけただろうか?
五条悟にとってこれは日常茶飯事なのだ。