ダンジョンのご案内が届きました
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目が回りそうな虹色空間を暫く漂うと、辺りが眩しく光る。目が開けられなくなりはユウはギュッと目を瞑り、足裏に地面の感触を感じるとそっと目を開けた。
「わぁ!綺麗な場所!!」
空想空間だというのに肌に感じる風はリアルで、目の前の花畑は花の良い香りもする。
ただの転送魔法ではないのかと、近くにいたデュースに聞くが分からないの一言。
ならばとフロイドに尋ねる。
「んー、オレもよく分かんねぇけど・・・たぶん空想空間で間違いないと思う。体が軽く感じるし、なによりもブロットを溜め込む魔法石がねぇの」
「おっ!本当だ!気が付かなかった!俺マジカルペン無くしたのか・・・ジャミルにどやされるなぁ」
「カリムくんでも流石に無くすはずないっス。魔法石がないってことは・・・この空間はブロットが溜まらないってことっスか?」
「ブッチ先輩、たしかに・・・少しの魔力でいつもと同じ分の魔法が出せそうです」
「あはぁ!面白いじゃん!」
ブロットが溜まらない空想空間に魔法士の卵達ははしゃいでいた。元々何も分からないユウは、グリムの首元を見るとただのリボンになっていて、ほんとにブロットが溜まらないなら思う存分魔法が使えると考える。
ブロットが溜まらない空想ダンジョン。
それだけ魔法を使うダンジョンということをユウ達はこの時は考えもしていなかった。
*****
「皆さん、あの蔓まみれの壁は何でしょうか?」
暫く花畑を進んでいくと何メートルもありそうな壁が立ちはだかる。煉瓦のような壁ではなく、よく見ると本当に蔓だけが複雑に絡み合って、巨大な壁が出来ている。植物なだけに生きているのか、所々の蔦が葉の擦れる音を立てながら動いていた。
「でっけー壁っスねぇ・・・。もしかして最初のダンジョンってここ?」
「ユウ!見てみろ!うねうねと動いていて面白いぞ!!」
「アルアジーム先輩・・・寧ろ気味が悪いですよ」
辺りの花畑に対して異様な雰囲気にユウは手をギュッと握る。魔法士学校用のダンジョンに一緒に来てしまったことを少し後悔していると、フロイドは大丈夫だよ~とユウの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「・・・っはい!」
ニィッと歯を見せて笑うフロイドにユウも笑う。
彼らは名門ナイトレイブンカレッジに通う生徒なのだ。
何も心配することはない。
ユウは頼もしい彼らに付いていこうと意気込んだ。
*****
「おーい!こっちに行ってみようぜ~!」
「いや、先輩方・・・次はこっちでしょう!」
「シシシッ、皆勝手っスねぇ」
「小エビちゃんは~勿論オレが選んだ方だよね?」
前言撤回。
まとまりがなくてナンボのナイトレイブンカレッジの生徒。
やれやれなんだぞ・・・と首を振るグリムにユウは無言で頷きながら腕の中のグリムを撫でた。
「それにしてもずっと同じ場所を彷徨っている気がするんですけど」
蔓の壁の入口を見つけて進んだものの、中は迷路のように入り組んでいて、進めば進むほど同じところをぐるぐると回っているような気がする。
迷路のクリア方法として壁に手を付きながら歩けばいいと言うが、蔓が動いているせいで下手をすれば手を持っていかれそうだった。ユウは元の世界の常識が通用しないことを、ダンジョンに入って早々に思い知らされる。
「あぁもう!!蔓は見飽きたんだけど!!」
「リーチ先輩飽きるの早すぎです!」
「まぁ確かに蔓ばかりだし、葉の臭いしかしないっスねぇ・・・」
「・・・・・・なら、蔓を燃やして直進しますか?」
「出た。ユウの大胆発言なんだゾ」
魔法石もなく、ブロットも溜まらない空想空間。それなら魔法をいくら使っても大丈夫なはずだとユウは提案する。
「あっはっは!ユウのチート発言だな!ユウもナイトレイブンカレッジの生徒だ!」
「カリム先輩、どういう意味ですか・・・。それ、私褒められてるのでしょうか・・・」
「た、確かに・・・。このままあてもなく迷路を彷徨うよりは効率的か・・・。幸い、ただの蔓なら炎の魔法で焼くことができる」
「オレもそれに賛成~!地味に歩くだけって面白くねぇもん。じゃぁ、早速行ってみよーう!」
小エビちゃんは下がっててね~と言われ、ユウは彼らの後ろに下がる。
マジカルペンがない彼らは手をかざし、一斉に炎の魔法を唱えた。
「す、すごい!あっという間に蔓が焼けた!!」
大きな炎の塊は真っ直ぐ飛び、蔓のトンネルが出来上がる。周りはチリチリと草が焼ける臭いがするが火事になる様子もなく、遠くで太陽の光が差していた。
ガサガサガサガサ・・・
「あぁ!!折角開けた穴がっっ!!」
生きている蔓がどんどん延びてくると、魔法で開けた穴が塞がっていった。
そして、目の前は数分前と変わらない風景に戻る。
「あちゃー、また閉じてしまったスねぇ・・・」
「くそっ!折角開けた穴が・・・」
デュースが塞がった穴に拳をぶつけるが、蔓は何事もないように動いているだけ。
「あの・・・私の思いつき言ってもいいですか?」
「おー!何でも言ってくれ!」
「穴が塞がっていくなら・・・魔法打ち続けながら進んでいくってのはどうですか?」
ユウ以外の魔法士がヒュッと息が止まる。
それもそのはず。いくらブロットが溜まらないとはいえ、魔法を打ち続けるのは体力も精神も想像力も使う。楽観的なカリムも流石に固まっていた。
「あ・・・厳しいですよね。いくら皆さんでも無理な事ぐらいありますもんね」
「へぇ・・・小エビちゃん言うようになったじゃん。いいよぉ、コイツらが出来なくてもオレ1人でやってやるから!」
「リーチ先輩だけに負担かけさせるわけにはいかない!」
「へへっ、俺に任せろ!」
「あーぁ・・・この感じじゃ、俺も参加っスね・・・」
「さすが!皆さん、優秀な魔法士です!」
卵だなんだゾ・・・と呟くグリムにユウは笑顔でグリムの口を押さえた。
*****
話し合いに揉めた結果、全員が一斉に魔法を使うのではなく順番に炎の魔法を仕掛けながら1列に走っていくという作戦。粘れるところまで粘り、限界がくれば次の人と交代するというもの。
「フロイド先輩、走る体力もちゃんと残しててくださいね?」
「小エビちゃん、オレのこと舐めてるでしょ?やれば出来る子なんだからね!」
トップバッターはフロイド。一発目に大きめの炎を出してもらい可能な限り道を作って貰うため。魔力の扱いが気分次第ではあるが、今日は機嫌が良さそうだから任せることにした。
「じゃぁ、スタート!!どかーん!!!」
フロイドの楽しそうな声を合図に花火のような炎が蔓を焼き道を作る。
凄い・・・とあんぐりしているデュースにユウは行くよ!と背中を押して全員が走り出した。
先頭のフロイドの炎で蔓を焼きながら進み、頃合いを見てラギー、カリム、デュースと選手交代していく。
「シシシッ!いい感じッスね!」
「チームワークばっちりだ!ブロットが溜まらないのは便利だなぁ!」
「先輩方!あんな魔法使いながら走ってるのに体力あり過ぎるでしょ!!私、もう限界に近いです・・・」
ユウと他の4人との差が開いていく。
グリムはユウを見上げながら急ぐんだぞ!と尻尾でペシペシと叩きながらはっぱをかける。
「ってか、グリムだって走れるんだから自分で走ってよ!」
「グ、グリム様は体力を温存して最後に派手に役に立つんだゾ!」
そう言いながらギュッと服を掴まれると、なんとも可愛く思えてしまい甘やかしてしまう。
「おーい、ユウくん!無駄話してると置いていくっスよー!」
「ラギー先輩!すぐ行きます!」
炎の魔法で焼きながら暫く進んでいくと、最初に見た太陽の光が薄らと見えてくる。
打ち続けた魔法に疲労が見える面々も口角が上がった。
──もうすぐこの蔓の迷路から抜けられる。
「きゃぁ!!」
再生しだした蔓同士が重なり太くなる。
ユウは足を引っ掛けられた感じがしたと思うと、盛大に前のめりに転ぶ。
グリムを放り投げるわけにもいかず、抱きしめるように転び全体重が片腕に乗ったまま地面を滑った。
「子分!!!ふなぁぁ!!蔓が再生してきてるんだゾ!!」
モゾモゾとユウの腕から抜け出したグリムは蔓に囲まれているのに気づき、白目を剥いて両手を広げた。
ユウは受身を取れなかった体が痛み、呻きをあげる。離れた場所から他のメンバーがユウやグリムを心配する声を上げていた。
「・・・グリム、みんな所に先に行って?グリムの大きさなら蔓の隙間から行けるはず。私魔法使えないから皆の邪魔だし・・・、きっとリタイアってことで戻されるだけだよ」
「俺様が子分を置いていくわけないんだゾ!大魔法士になるグリム様だゾ!!」
大きく息を吸うと、グリムは息を吐き出すように青い炎を辺りに吹き荒らす。青い炎が一定に広がると、反対側から飛んできた赤い炎とぶつかり空間を広げた。
「おぉ!!ユウとグリムか!!良かった、無事だったか!!」
「アザラシちゃん、やるじゃん!!」
「お、お前ら~!!遅いんだゾ!!」
グリムはカリムに抱き抱えられ、ユウはフロイドに背負われ、先に出口で待っているラギーとデュースの元へと急ぐ。
「ふふっ、グリム・・・本当に派手に活躍したね?ありがとう」
「あ、当たり前なんだゾ!・・・・・・俺様子分がいないと楽しくないんだゾ・・・」
「え?ごめん、最後聞き取れなかったんだけど・・・」
「せ、世話のかかる子分って言ったんだゾ!!」
「え~ひどっ!!」
抱えられ、背負われた身でやりとりするユウとグリムにカリムとフロイドは笑っていた。
もうすぐ、出口だかんね!と最後にフロイドはユウを背負ったまま蔓を蹴り破る。久しぶりに拝めた太陽の光の先でラギーとデュースが手を振っていた。
課題[蔓の迷路]合格