From the sea
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ベッドに座り再び手紙を読む。
そこからはフロイドの気まぐれに書いたであろう、アズールやジェイドのこと。最近あった面白い事や、欲しい靴があること等。書き出しに丁寧に書いていた文字もここまで読むといつも字体に戻っていて、その落差に苦笑いする。きっとアズールが諦めたのだろうと容易に想像出来た。
そして、手紙はいつの間にか3枚目になっていた。
【小エビちゃん、どうして卒業式の時オレと話しなかったの?最後に小エビちゃんと話がしたかったのにいなくなってて、オレすげぇ寂しかった。だってさ~】
また喉に潤いが欲しくなる。玉砕してでもフロイドに想いを告げたかったが、その勇気が湧かなくて逃げた時だ。逃げるように帰ったあとにフロイドは自分を探してくれていたのかと思うと、期待してはいけないと思っても期待してしまうもの。
窓の縁に腰掛け、もたれるようにして再び3枚目の手紙を読む。
「先輩・・・飽き性なのによく3枚もびっちりに書けたなぁ・・・・・・えっと・・・どこからだっけ?あ、ここだっ」
【だってさ~オレ、小エビちゃんのことずーっと好きだったんだからね!】
「・・・・・・へ?」
するりと手紙が手元から離れ床に落ちる。
誤読をしてしまったのだろうかと、ユウは瞬きを繰り返した。今度は目まで乾いてきてしまったのかもしれない。
床に落ちた手紙を拾い上げ、もう一度内容を確認するとフロイドからの告白が書いてある。何度読み返しても、指で文字を撫でても変わらない言葉。
そして手紙はまだ続いている。
【オレは小エビちゃんを諦められないし、他の雑魚に譲るつもりもないの!だからこれまで以上にオレの大切な女の子になって!】
ユウは俯き、苦しくて嬉しくて口元を押さえる。こんなに心を乱される手紙は未だかつて無い。フロイドに返事を書こうとユウは机に向かう。返事は決まっている。この世界の手紙の送り方なんて知らない。後のことを考えずに行動をするのはいつぶりだろうか。インクを用意する時間だって惜しい。
「フロイド先輩へ」
好きな人の名前を書くだけで幸せな気持ちになれる。こんな感情を教えてくれるのはフロイドの存在しかいない。
湿った天気はいつの間にかカラリとした、残暑が残る暑さに変わる。
柔らかい風が吹き、カーテンがスカートのように空気を含むと、ユウの鼻はぴくりと動く。
それは青く広い海の磯の香りと彼が好んでいたコロンの香り。
椅子から立ち上がると慌てた衝撃に椅子は倒れるがそれどころではない。
窓から身を乗り出し上下左右見渡す。声に出せず息を吸うと、勢いよく部屋から飛び出る。
「フロイド先輩!!!」
「あっ、小エビちゃんだぁ~やっほー!」
目を細め、手を頭において笑うフロイド。
「な、何でここにいるんですか?!」
「んー?小エビちゃん、オレが送った手紙最後まで読んでないでしょー?」
めっ!と頬を挟まれ何も喋られなくなる。少し痛いし可愛いとはいえない顔になっているが、フロイドになら何されてもいいかななんて思う。
頬を解放されると、フロイドはちゃんと読んで?とユウが持っている手紙を指さす。送った本人の目の前で読むのは変な感じがするが、ユウはフロイドの言うように手紙の最後を読む。
【小エビちゃん、オレがユニバーシティ卒業したら正式に番になって欲しい!元の世界に帰れなくても、一緒に帰れるお家を作ろう!】
「【大好きだよ、小エビちゃん。会いに行くからね】」
手紙の文面とフロイド言葉が重なる。
「・・・っ、私も、ずっとずっと・・・好きでした!」
縋るようにフロイドに手を伸ばすと、優しく掴まれ強く抱きしめられる。嘘のような現実だが、この香りが確信へと変わる。
「すっげぇ、嬉しい!あ、そうそうもぅ1個言うことがあるんだった!」
「何ですか?あ、手紙は返しませんよ?」
「違う違う!けーぐ!」
「はい?けーぐ?・・・けいぐ?・・・敬具?!」
「そっ!拝啓で始まったら終わりはそうしないといけないってアズールが言うから~。書き忘れたからヤベェってなって慌てて来たの!」
少し照れながら話すフロイドに愛しさが込み上げる。愛しい以外の感情を教えて欲しい。
「私もフロイド先輩にお手紙書きます!」
「うん、待ってる。小エビちゃんからのラブレター楽しみだなぁ!」
フロイドが卒業するまでの4年間、時々会いながら海と陸の間で手紙のやりとりをする。
手書きの文字は特別。
フロイドがユニバーシティを卒業する日、最後の手紙だからと手渡しされる。
珊瑚の海からの最後の手紙。変わらない海の磯の香り。
【小エビちゃん、オレと結婚してください】
fin
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