From the sea
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青時雨。
青葉から滴る雨雫が傘からはみ出たユウの手の上に落ちる。
するりと落ちた雨雫は手から地面へ落ち再び還った。傘を傾け、投函物が濡れぬように注意を払いながら取り出すと、学園広告や就職情報誌との間に手紙が一封。片手に傘、もう片手には投函物で誰から届いたものか確認出来ない。普段手紙が届かないという寂しさがあったユウは、手紙が自分宛に届いたという事を素直に喜んだ。大事な手紙が濡れてはいけないと、興味のない広告の間に挟み戻る。
部屋に戻り手紙の差出人を確認するも名前や住所が書いていない。代わりに消印のような魔法陣が元の世界でいうと切手に当たる箇所に印されている。
その魔法陣に差出人などの情報が込められているのだとユウは気づく。
ユウはこの世界に飛ばされてもう4年の時を過ごした。NRC4年生に進級し、元の世界に帰れない日々が4年ということになる。4年も学園生活をしていればそれなりに魔法についても知識が増えていく。帰る方法を探す1年目。帰る方法がないと言われた2年目。帰らなくてもいいと思った3年目。ユウは瞳を閉じ、目を細めて笑いながら自分の名前を呼ぶ愛しい人を思い浮かべ綻ぶ。
手紙の封をハサミで丁寧に切ると便箋から青く広がる海の磯の香りが溢れ出す。彼が好んで付けていたコロンの香りも混ざっていて、ユウは久しぶりにその香りに出会える。
「フロイド先輩」
懐かしく、そして何度も呼んだ名前。フロイドの名前を呼べば、すぐに返事をしてくれる距離にいた。体の大きな彼がのしかかる重みや、少しひんやりとした体温を感じられた。
思い出せば1歳の年齢差が疎ましく感じたのはフロイドの卒業式。式典服を纏い、慎ましく厳かに式が終わればあとは自由。フロイドは同級生たちと最後の戯れをしていたが、ユウは邪魔はしていけないと壁の花となっていた。
ユウは密かにフロイドに恋心を抱いていた。
誰にも告げず、マブダチにも想いが伝わらないように気をつけていた。少し怖い先輩が気に入っている後輩の監督生。自分を特徴付ける学園内の位置付けで満足しようとしていた。最後くらい告白して派手に散ろうと思うが、肝心なところで度胸が隠れてしまい逃げるようにオンボロ寮に逃げ帰った。
卒業生は身支度が済んで、自室を片付けてから卒業式を迎える為、卒業式が終われば後は鏡を潜り故郷へと帰るだけ。だから、フロイドとは卒業式を最後に会っていない。そんな度胸もない自分がよくオーバーブロッド事件に携わっていたと、後から思ってもユウは不思議だった。
それから暫くして、この手紙が届いた。
自分宛に届いた手紙が恋心を抱いていた先輩から。逸る気持ちを抑えて、ユウはベッドに座り手紙を読むことにした。
【拝啓小エビ様
残暑お見舞い申し上げます。
初秋の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。】
「・・・ん?フロイド先輩からの手紙よね?」
とても丁寧な文字でユウはアズールかジェイドが代筆、寧ろフロイドからの手紙ではないのではないかと錯覚する。今まで見てきた個性的なフロイドの文字とは違い、きちんと便箋の線に沿っていてそして改まった始まりの季語。
我ながら失礼な後輩だとユウは笑う。
「小エビって呼ぶのはフロイド先輩だけ。フロイド先輩、残暑見舞い送ってくれたのかな?」
フロイドの意図は分からないが丁寧に書かれている。残暑見舞いを送ってくれたという嬉しい喜びと、丁寧に書かれた言葉や文字が前とは違う距離感を感じてしまう。
「続きを読もうかな」
封筒を膝の上に置き、便箋に再び目線を置く。
【アズールに手紙ぐらいちゃんと書けって言われたから最初改まって書いたけど飽きた!俺はねぇ、珊瑚の海のユニバーシティでジェイドとアズールとそれなりに楽しくやってる!アズールのやつ、こっちでもモストロラウンジやるって張り切ってて、おもしれっ!ってなった!それで手伝いしてて超~忙しかったから小エビちゃんに手紙送るの遅くなったの。ごめんね?】
最初とのギャップといい、飽きてしまうところは相変わらずでユウは声を出して笑った。
その相変わらずさと変わらない距離感でいることに胸を撫で下ろす。
フロイドがいないが代わりに、サムの店で買ったウツボのぬいぐるみに向かって私も元気です!と手を挙げた。フロイドが在学中にぬいぐるみを買うのは少し恥ずかしく、フロイドが卒業してから我慢出来ずにすぐに買いに走って手に入れたもので、今では一緒に床入りしている。口をパカッと開けていて、少し間抜け感があるのは否めないがユウの宝物。
【小エビちゃん、誰かにイジメられてない?アザラシちゃん、カニちゃんやサバちゃん達、ちゃんと近くにいる?ご飯食べてる?夜は寝てる?泣いてない?】
【俺がいなくて寂しくない?】
ドクンと心臓が脈打つ。思わず左胸を抑え、大きく深呼吸をした。以前因縁を付けられていたところを助けてもらったことや、帰れる方法がないと知らされた時に涙を流したこともある。ユウはその事を心配してくれていると思っていた。しかし、この文面ではフロイドの意図が今のところは分からないがユウは寂しいと思っている。ベッドにいるウツボのぬいぐるみを買うほどに。寂しいに決まってるじゃないですか・・・と、ウツボのぬいぐるみをつついた。
【それと小エビちゃん、聞いてよー!このユニバーシティって共学なんだけどさ、ウザイ雌ばっか!なんか香水くせぇし、やたらくっついてくるし、オレ・・・べたべたされるの嫌いなんだよね。それに比べて小エビちゃんはそんな事しないから、いい子いい子~】
心臓の次は胃痛。手紙を読み終わる頃にはユウは体中の痛みによってもがいているかもしれない。共学であることを初めて知ったユウは無造作にウツボのぬいぐるみを鷲掴みにしぎゅっと強く抱きしめる、ではなく締めた。恋仲でもなければ両片思いの自信もないユウは嫉妬心を剥き出しにする。ユウだって、本当はくっつきたいのだ。ぬいぐるみは苦しみのような表情で更に口をガパッと開けていた。
【それで、思ったんだよね!もしこれが小エビちゃんならどうだろ?って。想像してみたら、これが全然嫌じゃなかったんだよねー!】
感情が変わりすぎて喉が渇いたユウは、ウツボのぬいぐるみを戻し手紙を持ったままキッチンへ移動する。蛇口を捻り、コップに水を注ぎ勢いよくごくごくと飲む。あまり冷たくない常温水が喉を通り、乾きを潤してくれた。
ユウが手紙の続きを読むために部屋へ戻ると、静かな窓により朝から降り続いていた雨がぴたりと止んでいるが分かる。建て付けが良くない窓を勢いよく開けると、湿った空気と濡れた地面の香りがしていた。
青葉から滴る雨雫が傘からはみ出たユウの手の上に落ちる。
するりと落ちた雨雫は手から地面へ落ち再び還った。傘を傾け、投函物が濡れぬように注意を払いながら取り出すと、学園広告や就職情報誌との間に手紙が一封。片手に傘、もう片手には投函物で誰から届いたものか確認出来ない。普段手紙が届かないという寂しさがあったユウは、手紙が自分宛に届いたという事を素直に喜んだ。大事な手紙が濡れてはいけないと、興味のない広告の間に挟み戻る。
部屋に戻り手紙の差出人を確認するも名前や住所が書いていない。代わりに消印のような魔法陣が元の世界でいうと切手に当たる箇所に印されている。
その魔法陣に差出人などの情報が込められているのだとユウは気づく。
ユウはこの世界に飛ばされてもう4年の時を過ごした。NRC4年生に進級し、元の世界に帰れない日々が4年ということになる。4年も学園生活をしていればそれなりに魔法についても知識が増えていく。帰る方法を探す1年目。帰る方法がないと言われた2年目。帰らなくてもいいと思った3年目。ユウは瞳を閉じ、目を細めて笑いながら自分の名前を呼ぶ愛しい人を思い浮かべ綻ぶ。
手紙の封をハサミで丁寧に切ると便箋から青く広がる海の磯の香りが溢れ出す。彼が好んで付けていたコロンの香りも混ざっていて、ユウは久しぶりにその香りに出会える。
「フロイド先輩」
懐かしく、そして何度も呼んだ名前。フロイドの名前を呼べば、すぐに返事をしてくれる距離にいた。体の大きな彼がのしかかる重みや、少しひんやりとした体温を感じられた。
思い出せば1歳の年齢差が疎ましく感じたのはフロイドの卒業式。式典服を纏い、慎ましく厳かに式が終わればあとは自由。フロイドは同級生たちと最後の戯れをしていたが、ユウは邪魔はしていけないと壁の花となっていた。
ユウは密かにフロイドに恋心を抱いていた。
誰にも告げず、マブダチにも想いが伝わらないように気をつけていた。少し怖い先輩が気に入っている後輩の監督生。自分を特徴付ける学園内の位置付けで満足しようとしていた。最後くらい告白して派手に散ろうと思うが、肝心なところで度胸が隠れてしまい逃げるようにオンボロ寮に逃げ帰った。
卒業生は身支度が済んで、自室を片付けてから卒業式を迎える為、卒業式が終われば後は鏡を潜り故郷へと帰るだけ。だから、フロイドとは卒業式を最後に会っていない。そんな度胸もない自分がよくオーバーブロッド事件に携わっていたと、後から思ってもユウは不思議だった。
それから暫くして、この手紙が届いた。
自分宛に届いた手紙が恋心を抱いていた先輩から。逸る気持ちを抑えて、ユウはベッドに座り手紙を読むことにした。
【拝啓小エビ様
残暑お見舞い申し上げます。
初秋の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。】
「・・・ん?フロイド先輩からの手紙よね?」
とても丁寧な文字でユウはアズールかジェイドが代筆、寧ろフロイドからの手紙ではないのではないかと錯覚する。今まで見てきた個性的なフロイドの文字とは違い、きちんと便箋の線に沿っていてそして改まった始まりの季語。
我ながら失礼な後輩だとユウは笑う。
「小エビって呼ぶのはフロイド先輩だけ。フロイド先輩、残暑見舞い送ってくれたのかな?」
フロイドの意図は分からないが丁寧に書かれている。残暑見舞いを送ってくれたという嬉しい喜びと、丁寧に書かれた言葉や文字が前とは違う距離感を感じてしまう。
「続きを読もうかな」
封筒を膝の上に置き、便箋に再び目線を置く。
【アズールに手紙ぐらいちゃんと書けって言われたから最初改まって書いたけど飽きた!俺はねぇ、珊瑚の海のユニバーシティでジェイドとアズールとそれなりに楽しくやってる!アズールのやつ、こっちでもモストロラウンジやるって張り切ってて、おもしれっ!ってなった!それで手伝いしてて超~忙しかったから小エビちゃんに手紙送るの遅くなったの。ごめんね?】
最初とのギャップといい、飽きてしまうところは相変わらずでユウは声を出して笑った。
その相変わらずさと変わらない距離感でいることに胸を撫で下ろす。
フロイドがいないが代わりに、サムの店で買ったウツボのぬいぐるみに向かって私も元気です!と手を挙げた。フロイドが在学中にぬいぐるみを買うのは少し恥ずかしく、フロイドが卒業してから我慢出来ずにすぐに買いに走って手に入れたもので、今では一緒に床入りしている。口をパカッと開けていて、少し間抜け感があるのは否めないがユウの宝物。
【小エビちゃん、誰かにイジメられてない?アザラシちゃん、カニちゃんやサバちゃん達、ちゃんと近くにいる?ご飯食べてる?夜は寝てる?泣いてない?】
【俺がいなくて寂しくない?】
ドクンと心臓が脈打つ。思わず左胸を抑え、大きく深呼吸をした。以前因縁を付けられていたところを助けてもらったことや、帰れる方法がないと知らされた時に涙を流したこともある。ユウはその事を心配してくれていると思っていた。しかし、この文面ではフロイドの意図が今のところは分からないがユウは寂しいと思っている。ベッドにいるウツボのぬいぐるみを買うほどに。寂しいに決まってるじゃないですか・・・と、ウツボのぬいぐるみをつついた。
【それと小エビちゃん、聞いてよー!このユニバーシティって共学なんだけどさ、ウザイ雌ばっか!なんか香水くせぇし、やたらくっついてくるし、オレ・・・べたべたされるの嫌いなんだよね。それに比べて小エビちゃんはそんな事しないから、いい子いい子~】
心臓の次は胃痛。手紙を読み終わる頃にはユウは体中の痛みによってもがいているかもしれない。共学であることを初めて知ったユウは無造作にウツボのぬいぐるみを鷲掴みにしぎゅっと強く抱きしめる、ではなく締めた。恋仲でもなければ両片思いの自信もないユウは嫉妬心を剥き出しにする。ユウだって、本当はくっつきたいのだ。ぬいぐるみは苦しみのような表情で更に口をガパッと開けていた。
【それで、思ったんだよね!もしこれが小エビちゃんならどうだろ?って。想像してみたら、これが全然嫌じゃなかったんだよねー!】
感情が変わりすぎて喉が渇いたユウは、ウツボのぬいぐるみを戻し手紙を持ったままキッチンへ移動する。蛇口を捻り、コップに水を注ぎ勢いよくごくごくと飲む。あまり冷たくない常温水が喉を通り、乾きを潤してくれた。
ユウが手紙の続きを読むために部屋へ戻ると、静かな窓により朝から降り続いていた雨がぴたりと止んでいるが分かる。建て付けが良くない窓を勢いよく開けると、湿った空気と濡れた地面の香りがしていた。
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