Smile Again
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
賢者の島の中に格式あるNRCは妖精たちや魔法により比較的に気候が安定している。
一歩学園から足を踏み出せば今の季節だと肌を刺すような寒さが全身を覆う。はぁーっと息を吐きながらそんな学園の重厚感のある門を出入りする瞬間は異世界人のユウにとって面白いものがあった。首にぐるぐるとお気に入りのマフラーを巻いて、ポケットに手を入れて転ばないようにしながら待ち合わせの場所へと足を急がせた。
「フロイド先輩!お待たせしました!」
「おはよー小エビちゃん!あはっ、すげぇ首苦しそうにしてんね」
「先輩は寒いのに慣れてる人魚さんだからいいですけど、私にはマフラーが必要なんです」
首は完全に見えなくて、なんなら口元まで覆ってしまいそうなほど。
素肌が見えない程布に覆われているユウにフロイドは窮屈そうな格好に考えられないと笑い飛ばした。フロイドは相変わらず首元が見えているし上着も一応羽織っている程度の薄いパーカー。春先に着るぐらいの薄さにユウは見てるだけでも寒気がした。
「じゃ、行こっかぁ」
「はい!今日はよろしくお願いします!」
「え!?学園の外に出たことないの!?」
遡ること一週間前の話。
ラウンジのバイトの休憩中フロイドの当たりまかないを食べている時にふと漏らしたユウの発言にフロイドは眉を寄せた。
「はい。必要なものは学園が支給されますし、それにこのバイト代だって昼食代だったり食費に回すことが多いので遊びに行く・・・というのはしたことがないです」
あえてグリムの食費がかさんでいるとは言わない。
一匹と一人で一人分の生徒だと言われているので正直足りない部分があるけども、それは仕方ないことで面倒を見てもらっている身分としては贅沢な事は言えないのだ。
「せっかくこの世界に来たなら満喫しなくちゃ損じゃね?」
フロイドの言う事は一理ある。
住めば都。郷に入れば郷に従え。なんでも楽しむことが生きていく上で大事。
「そ、うですよね!私、学園の外に出てみたいです!」
まるで箱入り娘が初めて家の外に出るかのような気持ちでユウが言えば、フロイドは思い立てば吉日とばかりにあれよあれよと二人で麓の街におりる段取りをしていった。
「(小エビちゃんとデート嬉し過ぎる・・・)」
にやけてしまいそうな口元を男の意地でぎゅっと線にして、当日はどこに行こうかなんて考えながら鼻歌交じりに休憩終わりに厨房に入ってきたフロイドに一同は、残りの業務も平穏に終わりそうだと胸を撫でおろしていた。
「おしゃれなカフェですねー!すごく雰囲気が大人っぽいです!」
「でしょー!流行りの場所もいいけど、こういう落ち着いたところもいいかなって」
二人がいるこのカフェはマットでゆるりと時間を過ごすのに最適だ。ブラウン色のカバーのソファーにローテーブル。レンガの壁紙に飾られているブラックボードには店のメニューが書いてありこれも字体がお洒落だ。
煙突のような筒の下にあるのは揺らぐ炎に癒される薪ストーブ。
パチパチと薪が燃える音が店内に流れるジャズと重なり、時間が忘れるというのはこういうことなのだろう。
大きめの窓から見えるのはちらちらと降る粉雪。
途中から降ってきた雪によって冷えた体を温めようとフロイドは珈琲、ユウはカフェラテをオーダーした。おすすめだというアップルパイも一緒に。
「小エビちゃん、麓の街楽しい?」
「とっても!こんなに色んなお店があったなんて知らなくて、さすがフロイド先輩ですね!」
「まぁ、二年も過ごしてるからねぇ」
スマホの履歴はカフェ関連で埋まっているが、フロイドは内緒にした。
熱々のアップルパイをナイフとフォークで切り分けて口に運び、あたたかいカフェラテを口に含み満足そうにするユウにフロイドは釘付け。
小さくて学園で存在感はあるのに力のないユウ。そして紅一点。
アズールの件もあり、フロイドが気にならないわけがない。
少しずつ距離を詰め、ラウンジでアルバイトをしないかと誘い、他の者よりも少しは接触する機会が増えた。
——もう少し。もう少しでこの子をオレのものに出来る。
フロイドはウツボの人魚とだけあって慎重なところがある。回りくどくても遠回りでも結果にたどり着けるならそこまでの苦労なんてなかったも同然。
「・・・・わぁ!」
カフェの入り口が開き、冷気と雪と一緒に来店してきた客を見たユウが感嘆する声を上げたものだからフロイドは自身も体を捻らせて後ろを振り向いた。
「(ふぅん・・・、花束ねぇ)」
白くなりつつある地面に映える花束を持った女性。
異性から貰ったのか、はたまた自分で買ったのかは不明だがフロイドにはユウがそれを羨んでいるように見えた。
「小エビちゃん、花・・・好き?」
「とても!あの人みたいに花が似合う女性になりたいなぁ」
今でも十分花が似合うよ。とは言えず、フロイドは誤魔化すようにカップに口付ける。
「(今度小エビちゃんに花をプレゼントしよっと!)」
その日の晩、フロイドのスマホの検索履歴はカフェから花で埋まっていった。
「対価のお支払い期限は今日までです」
「あはぁ!払えねぇの?払わねぇやつは・・・容赦しねぇけど」
「ず、ずみまぜん・・・。あど、少じだけ・・・」
契約不履行の寮生の髪を掴み上げすっかり頬は窪み、鼻からはぼたぼたと赤を垂らす姿にフロイドは汚ねぇ!とまるで汚物を見るような目で見下す。
これは虐めではなく正当なお話。約束をしてそれ相応のものをして得たのなら、求められたものを返す、差し出すというのは強ち間違っていない。
ただ、その理由が正当であれその方法は誰が見ても綺麗かと言えばそうでもない。
NRCの魂の色は七色あり、特色は違えど行きつく面白みは同じ。ただ、どの魂の色にも染められていない者がそれを目撃すればどうなるだろうか。
「な、にしてるんですか?フロイド先輩、ジェイド先輩」
か細く絞り出された声、両手を握りしめ今にも叫びだしそうな表情はまるで殺人現場を目撃したよう。
「おや、ユウさんですよ。フロイド」
「こ、小エビちゃん?今・・・授業中じゃ・・・」
「あ、あの・・・グリムがまた逃げちゃって、先生に探してこいって言われて・・・」
スンを鼻を掠める生臭い臭い。きっと鼻のいいグリムは本能的にこの場には訪れずにどこか違う所へ行ってしまったのだろう。
ユウはちらりとフロイドの手元に付いている返り血を見て、そして痛々しい顔になっている寮生へと順番にその丸く澄んだ瞳にそれらを映していく。
「理由はだいたい想像出来ます。だから私からは何も言いません」
「ご、ごめんね、こんな場面見せたかったわけじゃ・・・」
手をパッと離したフロイドの手からどしゃっと人間ではないような音がした。うずくまっているそれに目も当てられないと顔を逸らし、一歩後ろに下がる。
「ま、待って行かないで!ねぇ、オレの顔を見て?ね?」
手に付いた血痕を制服のスラックスに雑に擦りつけ、ユウに手を伸ばす。完全に拭いきれていないフロイドの手はまだほんのりと赤い。
「私、忘れてました。フロイド先輩、私の前でそういった事を暫くしていなかったのでそのお仕事のこと。ずっと優しかったから・・・。でも、今は少し怖い・・・」
「小エビちゃん・・・・」
だから見せなかった。見せたくなかった。
どの色にも属さない魂をもつ小さな少女に。
頼れる先輩、優しい先輩でいようとアズールの指示の仕事はユウがいない授業中だったり、夜が更けたときだったり、眠くても気合で起きて登校前だったり。
とにかくユウに怖がられるのがフロイドが一番避けたかったところ。
そういうことをやっているだろうと知っているのを実際目撃するのとではインパクトに雲泥の差がある。
「グリム探さないといけないので・・・、失礼しますっ」
いつもならここでオレが魔法で探知してあげるーなんて軽いノリで言える。
だけどその台詞を拒むオーラが去り際の台詞から読み取れてしまい、フロイドは小さくうん。としか頷けなかった。
「ユウさんに見られてしまったのは想定外でしたね」
「最悪過ぎ・・・。一度もオレと目が合わなかった」
あの真っ黒な綺麗な目に映らなかったことにフロイドは段々と苛立ちを増す。
「う・・・あ・・・・うぐっ」
砂埃に混じってもがいている寮生にフロイドは大きく舌打ちし、身長に見合ったその大きな足を倒れている寮生の頭上に掲げる。
「・・・それもこれもテメェのせい」
「ふふっ・・・フロイド、殺してはいけませんよ」
一歩学園から足を踏み出せば今の季節だと肌を刺すような寒さが全身を覆う。はぁーっと息を吐きながらそんな学園の重厚感のある門を出入りする瞬間は異世界人のユウにとって面白いものがあった。首にぐるぐるとお気に入りのマフラーを巻いて、ポケットに手を入れて転ばないようにしながら待ち合わせの場所へと足を急がせた。
「フロイド先輩!お待たせしました!」
「おはよー小エビちゃん!あはっ、すげぇ首苦しそうにしてんね」
「先輩は寒いのに慣れてる人魚さんだからいいですけど、私にはマフラーが必要なんです」
首は完全に見えなくて、なんなら口元まで覆ってしまいそうなほど。
素肌が見えない程布に覆われているユウにフロイドは窮屈そうな格好に考えられないと笑い飛ばした。フロイドは相変わらず首元が見えているし上着も一応羽織っている程度の薄いパーカー。春先に着るぐらいの薄さにユウは見てるだけでも寒気がした。
「じゃ、行こっかぁ」
「はい!今日はよろしくお願いします!」
「え!?学園の外に出たことないの!?」
遡ること一週間前の話。
ラウンジのバイトの休憩中フロイドの当たりまかないを食べている時にふと漏らしたユウの発言にフロイドは眉を寄せた。
「はい。必要なものは学園が支給されますし、それにこのバイト代だって昼食代だったり食費に回すことが多いので遊びに行く・・・というのはしたことがないです」
あえてグリムの食費がかさんでいるとは言わない。
一匹と一人で一人分の生徒だと言われているので正直足りない部分があるけども、それは仕方ないことで面倒を見てもらっている身分としては贅沢な事は言えないのだ。
「せっかくこの世界に来たなら満喫しなくちゃ損じゃね?」
フロイドの言う事は一理ある。
住めば都。郷に入れば郷に従え。なんでも楽しむことが生きていく上で大事。
「そ、うですよね!私、学園の外に出てみたいです!」
まるで箱入り娘が初めて家の外に出るかのような気持ちでユウが言えば、フロイドは思い立てば吉日とばかりにあれよあれよと二人で麓の街におりる段取りをしていった。
「(小エビちゃんとデート嬉し過ぎる・・・)」
にやけてしまいそうな口元を男の意地でぎゅっと線にして、当日はどこに行こうかなんて考えながら鼻歌交じりに休憩終わりに厨房に入ってきたフロイドに一同は、残りの業務も平穏に終わりそうだと胸を撫でおろしていた。
「おしゃれなカフェですねー!すごく雰囲気が大人っぽいです!」
「でしょー!流行りの場所もいいけど、こういう落ち着いたところもいいかなって」
二人がいるこのカフェはマットでゆるりと時間を過ごすのに最適だ。ブラウン色のカバーのソファーにローテーブル。レンガの壁紙に飾られているブラックボードには店のメニューが書いてありこれも字体がお洒落だ。
煙突のような筒の下にあるのは揺らぐ炎に癒される薪ストーブ。
パチパチと薪が燃える音が店内に流れるジャズと重なり、時間が忘れるというのはこういうことなのだろう。
大きめの窓から見えるのはちらちらと降る粉雪。
途中から降ってきた雪によって冷えた体を温めようとフロイドは珈琲、ユウはカフェラテをオーダーした。おすすめだというアップルパイも一緒に。
「小エビちゃん、麓の街楽しい?」
「とっても!こんなに色んなお店があったなんて知らなくて、さすがフロイド先輩ですね!」
「まぁ、二年も過ごしてるからねぇ」
スマホの履歴はカフェ関連で埋まっているが、フロイドは内緒にした。
熱々のアップルパイをナイフとフォークで切り分けて口に運び、あたたかいカフェラテを口に含み満足そうにするユウにフロイドは釘付け。
小さくて学園で存在感はあるのに力のないユウ。そして紅一点。
アズールの件もあり、フロイドが気にならないわけがない。
少しずつ距離を詰め、ラウンジでアルバイトをしないかと誘い、他の者よりも少しは接触する機会が増えた。
——もう少し。もう少しでこの子をオレのものに出来る。
フロイドはウツボの人魚とだけあって慎重なところがある。回りくどくても遠回りでも結果にたどり着けるならそこまでの苦労なんてなかったも同然。
「・・・・わぁ!」
カフェの入り口が開き、冷気と雪と一緒に来店してきた客を見たユウが感嘆する声を上げたものだからフロイドは自身も体を捻らせて後ろを振り向いた。
「(ふぅん・・・、花束ねぇ)」
白くなりつつある地面に映える花束を持った女性。
異性から貰ったのか、はたまた自分で買ったのかは不明だがフロイドにはユウがそれを羨んでいるように見えた。
「小エビちゃん、花・・・好き?」
「とても!あの人みたいに花が似合う女性になりたいなぁ」
今でも十分花が似合うよ。とは言えず、フロイドは誤魔化すようにカップに口付ける。
「(今度小エビちゃんに花をプレゼントしよっと!)」
その日の晩、フロイドのスマホの検索履歴はカフェから花で埋まっていった。
「対価のお支払い期限は今日までです」
「あはぁ!払えねぇの?払わねぇやつは・・・容赦しねぇけど」
「ず、ずみまぜん・・・。あど、少じだけ・・・」
契約不履行の寮生の髪を掴み上げすっかり頬は窪み、鼻からはぼたぼたと赤を垂らす姿にフロイドは汚ねぇ!とまるで汚物を見るような目で見下す。
これは虐めではなく正当なお話。約束をしてそれ相応のものをして得たのなら、求められたものを返す、差し出すというのは強ち間違っていない。
ただ、その理由が正当であれその方法は誰が見ても綺麗かと言えばそうでもない。
NRCの魂の色は七色あり、特色は違えど行きつく面白みは同じ。ただ、どの魂の色にも染められていない者がそれを目撃すればどうなるだろうか。
「な、にしてるんですか?フロイド先輩、ジェイド先輩」
か細く絞り出された声、両手を握りしめ今にも叫びだしそうな表情はまるで殺人現場を目撃したよう。
「おや、ユウさんですよ。フロイド」
「こ、小エビちゃん?今・・・授業中じゃ・・・」
「あ、あの・・・グリムがまた逃げちゃって、先生に探してこいって言われて・・・」
スンを鼻を掠める生臭い臭い。きっと鼻のいいグリムは本能的にこの場には訪れずにどこか違う所へ行ってしまったのだろう。
ユウはちらりとフロイドの手元に付いている返り血を見て、そして痛々しい顔になっている寮生へと順番にその丸く澄んだ瞳にそれらを映していく。
「理由はだいたい想像出来ます。だから私からは何も言いません」
「ご、ごめんね、こんな場面見せたかったわけじゃ・・・」
手をパッと離したフロイドの手からどしゃっと人間ではないような音がした。うずくまっているそれに目も当てられないと顔を逸らし、一歩後ろに下がる。
「ま、待って行かないで!ねぇ、オレの顔を見て?ね?」
手に付いた血痕を制服のスラックスに雑に擦りつけ、ユウに手を伸ばす。完全に拭いきれていないフロイドの手はまだほんのりと赤い。
「私、忘れてました。フロイド先輩、私の前でそういった事を暫くしていなかったのでそのお仕事のこと。ずっと優しかったから・・・。でも、今は少し怖い・・・」
「小エビちゃん・・・・」
だから見せなかった。見せたくなかった。
どの色にも属さない魂をもつ小さな少女に。
頼れる先輩、優しい先輩でいようとアズールの指示の仕事はユウがいない授業中だったり、夜が更けたときだったり、眠くても気合で起きて登校前だったり。
とにかくユウに怖がられるのがフロイドが一番避けたかったところ。
そういうことをやっているだろうと知っているのを実際目撃するのとではインパクトに雲泥の差がある。
「グリム探さないといけないので・・・、失礼しますっ」
いつもならここでオレが魔法で探知してあげるーなんて軽いノリで言える。
だけどその台詞を拒むオーラが去り際の台詞から読み取れてしまい、フロイドは小さくうん。としか頷けなかった。
「ユウさんに見られてしまったのは想定外でしたね」
「最悪過ぎ・・・。一度もオレと目が合わなかった」
あの真っ黒な綺麗な目に映らなかったことにフロイドは段々と苛立ちを増す。
「う・・・あ・・・・うぐっ」
砂埃に混じってもがいている寮生にフロイドは大きく舌打ちし、身長に見合ったその大きな足を倒れている寮生の頭上に掲げる。
「・・・それもこれもテメェのせい」
「ふふっ・・・フロイド、殺してはいけませんよ」
1/5ページ