頬に秋桜
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「綺麗な秋桜が咲いているんですよ!秋になったら僕と行きませんか?」
そうジェイドがユウに言ったのが夏の終わりごろ。ホリデー前最後の登校日に目の前でいつものメンツで賑わっていたユウを捕まえての事。昨年のジェイドは自分の誕生日にとある初見の山を登った。その時にたまたま整備された道から外れて暫く進んだ先に咲き誇っていた自然の秋桜が咲き乱れていた。自然ゆえに秋桜の高さや広がり方はまばらではあったが、それも自然の美しさで山の斜面を背景に咲くさまは言葉で言い表せない程の絶景。スマホのカメラでもスケッチでも収めることが出来ないソレは直接見て欲しいというジェイドからの願いだった。
「この世界にも秋桜があるんですか!ぜひ、お願いします!」
「えぇ、きっとユウさんもきっと気に入りますよ」
それがジェイドとユウの約束だった。
そしてそれから数日後のホリデーが明けて、現在11月の初め。
まだ外の木々たちは赤く染まっていない。ときにひんやりとする風が体を吹き抜けるがそれでも目の前にいる彼よりは寒くなかった。
「・・・ジェイド先輩、元気だしてください」
「僕はもう駄目です。何もかも失いました・・・」
そんな大袈裟な。と、無神経なことをさすがのユウも言葉としては発することが出来なかった。大きな背が小さく縮こまり、まるで泣きじゃくる子どもの様にしくしくと泣き真似ではなく本気の泣きでハンカチで顔を覆う。ユウの隣にいたフロイドも両手を上げて降参の手ぶり。
「小エビちゃんが来ても駄目かぁ」
「お役に立てなくてすみません・・・」
「いえ、ユウさんが悪いわけではありません。全ては・・・全ては・・・工事のせいです!!!」
ドカーンと背景でダイナマイトが爆発したような勢いで立ち上がるジェイドにユウは後ずさり。
「本当・・・タイミング悪かったですね」
後ずさった足を元の位置に戻して拳を握るジェイドにそっと自分の手を添える。
今朝、ジェイドとユウが行く予定だった山の一部に工事が入るという情報が入った。その場所がジェイド曰くその秋桜が咲いていた場所だという。山道と離れていた場所を開拓して広い公園にして元からある道と繋げようとする工事だった。広い公園になればユウとお弁当と拵えてピクニックが出来てしまうという夢はさておき、唯一無二のあの秋桜と景色は一生見ることが出来なる。素晴らしい以外の表現をすることが出来ないあの景色をユウに見せてやりたかった。
「もう工事は・・・始まってますもんね」
「とても残念ですが仕方ありません。ユウさんとあの秋桜を見るのが楽しみで今日まで生きてきたのに・・・」
「それは大袈裟ですって」
今度は大袈裟と言えた。ジェイドは確かに楽しみにしていたが、彼の楽しみは他にもあることを知っている。彼の趣味の度合いはときに異常を感じることもあるが、夢中になるものがあることは素敵でユウは応援している。
誕生日プレゼントだって高額なものを用意してすることが出来ないのでホリデー前にあの提案された時は、一緒に山に登ることをプレゼントしてもいいと思っていた。
「ふふ、でも・・・残念です」
山に登ることは他の山でも出来る。
だけどもジェイドのいうあの景色を一緒に見ることは二度とないのかと思うとユウも心にぽっかりと穴が開いたような複雑な気持ちになる。
美しいと感じたものがこの世から消えてしまうのは悲しい。
それ以上にジェイドがいつも仕方ないで済まし、自分を我慢しようとするその心がユウには辛かった。
「と、言う事でお二人ともお願いします!」
「・・・小エビちゃん、本気?」
「僕も貴女の知識では無謀だと思いますが・・・」
実験着に袖を通してゴーグルをしっかり装着。手袋も忘れずに嵌めて、大釜から離れたところにフロイドとアズールはいる。
「あんなに悲しんでいるジェイド先輩をこのまま放ってはおけません!魔法を使う時だけお手伝いして頂ければいいので、そこで見ててください!」
片手に分厚い資料集に片手では扱えなさそうな大きな木べら。そのまま脚立に乗り、ぐらぐらと茹る大釜の不思議な液体を混ぜつつ、魔力が欲しいときにユウは彼らに指示を送る。
彼らはマジカルペンや翳した手から魔力を飛ばすが些か危なっかしい。
そのままドボンとユウ自身が材料となってしまわないか冷や冷やしていた。
「まぁ、材料化した小エビちゃんならそれはそれでジェイド喜びそう」
「否定出来ない自分が悲しいです」
爆発音がしそうな雰囲気にアズールは防衛魔法をユウに掛けながら、ユウの作戦の決行日までブロットを温存出来るか少し不安になった。
「出来た!先輩方出来ました!」
ユウがその台詞を言えた頃、フロイドとアズールは疲労困憊で床に寝そべっていた。
「ユウさん、こんな早朝にどこに行くと言うのです?確かに僕は登山に行くことプレゼントに提案しましたが流石に今日は無理がありませんか?」
誕生日の特別衣装に着替える前にユウはジェイドにお祝いを述べた後そのまま腕を引いて例の山まで連れてきた。諸々の手続きはアズールに任せておいたので、あとの対価はあとの自分に任せたので何とかなるだろう。
「ジェイド先輩には喜んで欲しいんです!」
「愛らしい貴女におめでというと言って貰えただけでも僕はとても嬉しいですよ?」
「うっ・・・甘い台詞。でも今日の為にここまでやってきたんだから、絶対成功してみせる・・・」
「ユウさん?何をお一人で仰ってるんです?・・・おや、ここは」
ユウに離された腕でハットを少し上向ける。黄色と黒の縞々で危険を知らせる鉄の塊。白い看板で危険!入るな!と書かれた文字を素通りしてユウが入っていくものだからジェイドは慌ててユウの後を追う。彼女は比較的どの寮生と比べても真面目で目立った荒さがない。ときに面倒ごとに首を突っ込むことはあれど、ユウのその手で解決するわけではない。
「ユウさん、どちらに行かれるというのです?ここはもう秋桜がないのですよ・・・」
茶色い更地となってしまった地面に、背景の山だけはそのままというアンバランス。あの時の秋桜がもう見れないという現実が重く圧し掛かった。どうせ二人で来るならあの時の景色が良かったとジェイドは唇を噤む。
「ジェイド先輩」
立ち入り禁止の看板から少し進んだ先でユウは立ち止まるとジェイドの方へ体を向ける。ずっと心配そうにしているジェイドには申し訳ないがこれもユウはジェイドに喜んで欲しいが為にやってきた。
「ユウさん?」
「ジェイド先輩!お誕生日おめでとうございます!」
それ!とユウはポケットから色とりどりの粉末を地面に撒いた。
するとポンッポンッとあちこちで緑色の若葉が生えると次々と茎が伸び葉を広げやがて淡いピンクの花を咲かせる。それは一面に広がり、ふわりと風に揺れながら優しい秋桜の香りが二人を包んだ。
「こ、これは!」
「やった!成功してる!ジェイド先輩がここの秋桜を私と見たいと言ってくれたので、フロイド先輩とアズール先輩に協力してもらって魔法薬を作りました!自然の秋桜じゃないですけどね。失敗したらどうしようと思っていたけど・・・きゃぁ!!!」
どしんと大きな巨体がユウを秋桜畑に沈める。
ユウの体は秋桜と海が混じった香りになった。
「ユウさん、僕の為に・・・ありがとうございます。凄く、嬉しいです。このような最高のプレゼントは初めてです。こんな高難度の魔法薬作るの大変だったでしょう」
「へへっ、ちょっと大変でしたけどジェイド先輩に喜んでもらえたなら幸せです」
「全く貴女って人は・・・どこまで僕を溺れさせるつもりですか・・・」
そっとジェイドはユウの頬に手を添えると親指でユウの唇に優しく触れる。布越しから伝わるその想いに秋桜色に頬を染めた。
「ここにも秋桜が咲きましたね。ふふっ、この中で一番美しい秋桜ですよ」
「も、もうっ・・・」
さらに濃い秋桜色になったユウにジェイドはそっと唇を重ねた。
「あーぁ、オレらの苦労なんてなぁんも知らねぇでイチャついてやんの」
「ユウさんだけじゃ不安だったので僕たちが来て正解でした。まぁ、たまにはあいつを浮かれさせてあげますよ。あ、フロイドもおめでとうございます」
「テキトーじゃん。ま、いいけどぉ・・・あんがとね」
立ち入り禁止の看板の後ろでウツボとタコ一匹。
アズールの手の中には昨晩こっそりフロイドによってすり替えられたユウが作った失敗作の魔法薬が握られていた。
後日、一本だけ咲いた歪な形の秋桜がジェイドの部屋にあるテラリウムの仲間入りとなった。
FIN
十一月五日 Happy Birthday Jade
そうジェイドがユウに言ったのが夏の終わりごろ。ホリデー前最後の登校日に目の前でいつものメンツで賑わっていたユウを捕まえての事。昨年のジェイドは自分の誕生日にとある初見の山を登った。その時にたまたま整備された道から外れて暫く進んだ先に咲き誇っていた自然の秋桜が咲き乱れていた。自然ゆえに秋桜の高さや広がり方はまばらではあったが、それも自然の美しさで山の斜面を背景に咲くさまは言葉で言い表せない程の絶景。スマホのカメラでもスケッチでも収めることが出来ないソレは直接見て欲しいというジェイドからの願いだった。
「この世界にも秋桜があるんですか!ぜひ、お願いします!」
「えぇ、きっとユウさんもきっと気に入りますよ」
それがジェイドとユウの約束だった。
そしてそれから数日後のホリデーが明けて、現在11月の初め。
まだ外の木々たちは赤く染まっていない。ときにひんやりとする風が体を吹き抜けるがそれでも目の前にいる彼よりは寒くなかった。
「・・・ジェイド先輩、元気だしてください」
「僕はもう駄目です。何もかも失いました・・・」
そんな大袈裟な。と、無神経なことをさすがのユウも言葉としては発することが出来なかった。大きな背が小さく縮こまり、まるで泣きじゃくる子どもの様にしくしくと泣き真似ではなく本気の泣きでハンカチで顔を覆う。ユウの隣にいたフロイドも両手を上げて降参の手ぶり。
「小エビちゃんが来ても駄目かぁ」
「お役に立てなくてすみません・・・」
「いえ、ユウさんが悪いわけではありません。全ては・・・全ては・・・工事のせいです!!!」
ドカーンと背景でダイナマイトが爆発したような勢いで立ち上がるジェイドにユウは後ずさり。
「本当・・・タイミング悪かったですね」
後ずさった足を元の位置に戻して拳を握るジェイドにそっと自分の手を添える。
今朝、ジェイドとユウが行く予定だった山の一部に工事が入るという情報が入った。その場所がジェイド曰くその秋桜が咲いていた場所だという。山道と離れていた場所を開拓して広い公園にして元からある道と繋げようとする工事だった。広い公園になればユウとお弁当と拵えてピクニックが出来てしまうという夢はさておき、唯一無二のあの秋桜と景色は一生見ることが出来なる。素晴らしい以外の表現をすることが出来ないあの景色をユウに見せてやりたかった。
「もう工事は・・・始まってますもんね」
「とても残念ですが仕方ありません。ユウさんとあの秋桜を見るのが楽しみで今日まで生きてきたのに・・・」
「それは大袈裟ですって」
今度は大袈裟と言えた。ジェイドは確かに楽しみにしていたが、彼の楽しみは他にもあることを知っている。彼の趣味の度合いはときに異常を感じることもあるが、夢中になるものがあることは素敵でユウは応援している。
誕生日プレゼントだって高額なものを用意してすることが出来ないのでホリデー前にあの提案された時は、一緒に山に登ることをプレゼントしてもいいと思っていた。
「ふふ、でも・・・残念です」
山に登ることは他の山でも出来る。
だけどもジェイドのいうあの景色を一緒に見ることは二度とないのかと思うとユウも心にぽっかりと穴が開いたような複雑な気持ちになる。
美しいと感じたものがこの世から消えてしまうのは悲しい。
それ以上にジェイドがいつも仕方ないで済まし、自分を我慢しようとするその心がユウには辛かった。
「と、言う事でお二人ともお願いします!」
「・・・小エビちゃん、本気?」
「僕も貴女の知識では無謀だと思いますが・・・」
実験着に袖を通してゴーグルをしっかり装着。手袋も忘れずに嵌めて、大釜から離れたところにフロイドとアズールはいる。
「あんなに悲しんでいるジェイド先輩をこのまま放ってはおけません!魔法を使う時だけお手伝いして頂ければいいので、そこで見ててください!」
片手に分厚い資料集に片手では扱えなさそうな大きな木べら。そのまま脚立に乗り、ぐらぐらと茹る大釜の不思議な液体を混ぜつつ、魔力が欲しいときにユウは彼らに指示を送る。
彼らはマジカルペンや翳した手から魔力を飛ばすが些か危なっかしい。
そのままドボンとユウ自身が材料となってしまわないか冷や冷やしていた。
「まぁ、材料化した小エビちゃんならそれはそれでジェイド喜びそう」
「否定出来ない自分が悲しいです」
爆発音がしそうな雰囲気にアズールは防衛魔法をユウに掛けながら、ユウの作戦の決行日までブロットを温存出来るか少し不安になった。
「出来た!先輩方出来ました!」
ユウがその台詞を言えた頃、フロイドとアズールは疲労困憊で床に寝そべっていた。
「ユウさん、こんな早朝にどこに行くと言うのです?確かに僕は登山に行くことプレゼントに提案しましたが流石に今日は無理がありませんか?」
誕生日の特別衣装に着替える前にユウはジェイドにお祝いを述べた後そのまま腕を引いて例の山まで連れてきた。諸々の手続きはアズールに任せておいたので、あとの対価はあとの自分に任せたので何とかなるだろう。
「ジェイド先輩には喜んで欲しいんです!」
「愛らしい貴女におめでというと言って貰えただけでも僕はとても嬉しいですよ?」
「うっ・・・甘い台詞。でも今日の為にここまでやってきたんだから、絶対成功してみせる・・・」
「ユウさん?何をお一人で仰ってるんです?・・・おや、ここは」
ユウに離された腕でハットを少し上向ける。黄色と黒の縞々で危険を知らせる鉄の塊。白い看板で危険!入るな!と書かれた文字を素通りしてユウが入っていくものだからジェイドは慌ててユウの後を追う。彼女は比較的どの寮生と比べても真面目で目立った荒さがない。ときに面倒ごとに首を突っ込むことはあれど、ユウのその手で解決するわけではない。
「ユウさん、どちらに行かれるというのです?ここはもう秋桜がないのですよ・・・」
茶色い更地となってしまった地面に、背景の山だけはそのままというアンバランス。あの時の秋桜がもう見れないという現実が重く圧し掛かった。どうせ二人で来るならあの時の景色が良かったとジェイドは唇を噤む。
「ジェイド先輩」
立ち入り禁止の看板から少し進んだ先でユウは立ち止まるとジェイドの方へ体を向ける。ずっと心配そうにしているジェイドには申し訳ないがこれもユウはジェイドに喜んで欲しいが為にやってきた。
「ユウさん?」
「ジェイド先輩!お誕生日おめでとうございます!」
それ!とユウはポケットから色とりどりの粉末を地面に撒いた。
するとポンッポンッとあちこちで緑色の若葉が生えると次々と茎が伸び葉を広げやがて淡いピンクの花を咲かせる。それは一面に広がり、ふわりと風に揺れながら優しい秋桜の香りが二人を包んだ。
「こ、これは!」
「やった!成功してる!ジェイド先輩がここの秋桜を私と見たいと言ってくれたので、フロイド先輩とアズール先輩に協力してもらって魔法薬を作りました!自然の秋桜じゃないですけどね。失敗したらどうしようと思っていたけど・・・きゃぁ!!!」
どしんと大きな巨体がユウを秋桜畑に沈める。
ユウの体は秋桜と海が混じった香りになった。
「ユウさん、僕の為に・・・ありがとうございます。凄く、嬉しいです。このような最高のプレゼントは初めてです。こんな高難度の魔法薬作るの大変だったでしょう」
「へへっ、ちょっと大変でしたけどジェイド先輩に喜んでもらえたなら幸せです」
「全く貴女って人は・・・どこまで僕を溺れさせるつもりですか・・・」
そっとジェイドはユウの頬に手を添えると親指でユウの唇に優しく触れる。布越しから伝わるその想いに秋桜色に頬を染めた。
「ここにも秋桜が咲きましたね。ふふっ、この中で一番美しい秋桜ですよ」
「も、もうっ・・・」
さらに濃い秋桜色になったユウにジェイドはそっと唇を重ねた。
「あーぁ、オレらの苦労なんてなぁんも知らねぇでイチャついてやんの」
「ユウさんだけじゃ不安だったので僕たちが来て正解でした。まぁ、たまにはあいつを浮かれさせてあげますよ。あ、フロイドもおめでとうございます」
「テキトーじゃん。ま、いいけどぉ・・・あんがとね」
立ち入り禁止の看板の後ろでウツボとタコ一匹。
アズールの手の中には昨晩こっそりフロイドによってすり替えられたユウが作った失敗作の魔法薬が握られていた。
後日、一本だけ咲いた歪な形の秋桜がジェイドの部屋にあるテラリウムの仲間入りとなった。
FIN
十一月五日 Happy Birthday Jade
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