爪の痕
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今日は良いことがない。良いことというのは自分にとって都合のいいことであって、他人からするとそれだって都合のいいことなのかもしれない。
初めて買ってみた花の苗の元気がなくなってしまってどうしたらいいのか分からなくて、スマホで調べながら歩いていると道路の格子蓋にヒールが挟まり、よろけながら靴が脱げてしまう。ヒャッ!なんて声が出てしまって周りの視線に火が出そうになりながら脱げてしまった靴を拾いに片足でケンケンと格子蓋の前でしゃがむ。
見事にはまってしまった靴をえいっと心の中で掛け声をかけながら引っ張るとヒールはすぽっと抜けた。
抜けたのは抜けたが、
「あー・・・ヒールに傷が・・・」
合皮の皮がめくれて中の白い部分が顔を覗かせていた。黒のパンプスなので白い傷は目立つ。
「もうー、気に入ってずっと履いていたのに」
先ほどまで挟まっていた格子蓋をじろりと睨む。
歩きスマホをしていた自分が悪いのは棚に上げて。
「そういえば前もこんなことがあったなぁ」
それは10年前、NRCに通っていた時の思い出の一頁。
苦い思い出として頭の中に保管していたそれは今でもよく覚えていた。
それでも思い出したいような思い出したくないような。
青春を謳歌し、そして若気の至りで後悔もあったことだ。
「もしかしてユウさん?」
歌を謡うような透き通った声。
海底から聴こえた美しい歌声のような心地よさは耳から離れない。
「アズール先輩?」
格子蓋の前でしゃがんでいたユウが見上げたのは、10年ぶりに再会したアズールだった。
美しさに拍車がかかり、そしてあの頃よりも大人になったアズールは更に魅力的になっていて、ユウのあの頃の胸の高まりまで心が思い出した。
「お久しぶりですね」
たったアズールのその一言でユウは泣きそうになった。
*****
「貴女が好きです。僕の努力を認めてくれた女性は貴女だけでした」
オーバーブロット事件から数日後、アズールはそう言った。
何でこのタイミングなのだろうと不思議で仕方がなかった。
何故なら、現在ユウは隠された自分の靴を探していて漸く見つかったのが学園裏の溝。しゃがみこんで溝の中を覗き込んでいた時だ。
それに自分のどこに好かれる要素があったのか疑問で寧ろあんな事をしたのだから恨まれてもいいぐらいなのだ。それなのに後ろの方でリーチ兄弟が見守る中アズールは頬を染めながらユウに想いを告げる。後ろの彼らはちょこちょことガヤを入れているようだが、アズールの耳には一切入っていない様子。
「僕と付き合ってください」
こんなにもストレートな想いをぶつけられたのは初めてだった。心が揺さぶられるというのはこういう事なのだろうと自分の胸に手を当てた。
彼が努力家なのはあの事件で散々思い知らされたし、だからといって彼の彼女になって彼の努力を対価なしで貰おうと思うほど落ちぶれていない。ただ純粋にアズールの気持ちが嬉しかった。
「嬉しいです。よろしくお願いします」
そうにっこり微笑めば後ろの兄弟はクラッカーを鳴らすし、アズールは両手を天に向けて上げ、メガネの奥を潤ませ等身大の姿で喜びを表現していた。
私如きで大袈裟だなぁなんて苦笑いしながらも、人魚は愛する人には一途というのは噂で聞いていたのできっと幸せになるだろうとまだ見ぬ未来を楽観視していた。
それからはユウが想像していた通り、アズールは献身的にユウを愛し慈しんだ。彼は自分の努力の結晶である秘策本を赤点取ってしまったユウへ渡そうとするも当初の考えを変える事はなく、そんなつもりでアズール先輩と付き合っているわけではないからと断っていた。それなら対価を下さい。とそっとキスをされた時はイスから転げ落ちるほど驚いた。そんな風になるまで嫌だったのかと肩を落としたアズールの誤解を解くことさえユウは可愛い私の彼氏だなぁなんて思うぐらい、その頃のユウは恋人であるアズールをとてもとても愛していた。
初めて買ってみた花の苗の元気がなくなってしまってどうしたらいいのか分からなくて、スマホで調べながら歩いていると道路の格子蓋にヒールが挟まり、よろけながら靴が脱げてしまう。ヒャッ!なんて声が出てしまって周りの視線に火が出そうになりながら脱げてしまった靴を拾いに片足でケンケンと格子蓋の前でしゃがむ。
見事にはまってしまった靴をえいっと心の中で掛け声をかけながら引っ張るとヒールはすぽっと抜けた。
抜けたのは抜けたが、
「あー・・・ヒールに傷が・・・」
合皮の皮がめくれて中の白い部分が顔を覗かせていた。黒のパンプスなので白い傷は目立つ。
「もうー、気に入ってずっと履いていたのに」
先ほどまで挟まっていた格子蓋をじろりと睨む。
歩きスマホをしていた自分が悪いのは棚に上げて。
「そういえば前もこんなことがあったなぁ」
それは10年前、NRCに通っていた時の思い出の一頁。
苦い思い出として頭の中に保管していたそれは今でもよく覚えていた。
それでも思い出したいような思い出したくないような。
青春を謳歌し、そして若気の至りで後悔もあったことだ。
「もしかしてユウさん?」
歌を謡うような透き通った声。
海底から聴こえた美しい歌声のような心地よさは耳から離れない。
「アズール先輩?」
格子蓋の前でしゃがんでいたユウが見上げたのは、10年ぶりに再会したアズールだった。
美しさに拍車がかかり、そしてあの頃よりも大人になったアズールは更に魅力的になっていて、ユウのあの頃の胸の高まりまで心が思い出した。
「お久しぶりですね」
たったアズールのその一言でユウは泣きそうになった。
*****
「貴女が好きです。僕の努力を認めてくれた女性は貴女だけでした」
オーバーブロット事件から数日後、アズールはそう言った。
何でこのタイミングなのだろうと不思議で仕方がなかった。
何故なら、現在ユウは隠された自分の靴を探していて漸く見つかったのが学園裏の溝。しゃがみこんで溝の中を覗き込んでいた時だ。
それに自分のどこに好かれる要素があったのか疑問で寧ろあんな事をしたのだから恨まれてもいいぐらいなのだ。それなのに後ろの方でリーチ兄弟が見守る中アズールは頬を染めながらユウに想いを告げる。後ろの彼らはちょこちょことガヤを入れているようだが、アズールの耳には一切入っていない様子。
「僕と付き合ってください」
こんなにもストレートな想いをぶつけられたのは初めてだった。心が揺さぶられるというのはこういう事なのだろうと自分の胸に手を当てた。
彼が努力家なのはあの事件で散々思い知らされたし、だからといって彼の彼女になって彼の努力を対価なしで貰おうと思うほど落ちぶれていない。ただ純粋にアズールの気持ちが嬉しかった。
「嬉しいです。よろしくお願いします」
そうにっこり微笑めば後ろの兄弟はクラッカーを鳴らすし、アズールは両手を天に向けて上げ、メガネの奥を潤ませ等身大の姿で喜びを表現していた。
私如きで大袈裟だなぁなんて苦笑いしながらも、人魚は愛する人には一途というのは噂で聞いていたのできっと幸せになるだろうとまだ見ぬ未来を楽観視していた。
それからはユウが想像していた通り、アズールは献身的にユウを愛し慈しんだ。彼は自分の努力の結晶である秘策本を赤点取ってしまったユウへ渡そうとするも当初の考えを変える事はなく、そんなつもりでアズール先輩と付き合っているわけではないからと断っていた。それなら対価を下さい。とそっとキスをされた時はイスから転げ落ちるほど驚いた。そんな風になるまで嫌だったのかと肩を落としたアズールの誤解を解くことさえユウは可愛い私の彼氏だなぁなんて思うぐらい、その頃のユウは恋人であるアズールをとてもとても愛していた。
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