一輪
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「ふぁぁ。あれ?小エビちゃん?」
真冬でもないのにフロイドは寒気がした。
寧ろ真冬でも寒いなんて思わないのに鳥肌が立つような、冷たく鋭い氷で皮膚を突き刺されたような。
温かく優しく撫でられていたはずの小さな手とふわふわとした丁度いい高さの膝枕が見当たらない。
くんっと鼻から空気を吸うと随分前にユウはこの場からいなくなっていた。
─小エビちゃんはオレを起こしたのに起きなかったから先に帰ってしまったんだ。
フロイドはよいしょと立ち上がる。利き手で右肩を触りその流れで首筋を撫でると小さな凹みが出来ていることに気づく。小さな小さな弧型。
きっと寝ている間に引っ掻いてしまったのだろうと大して気にもとめずガリガリと掻く。
「小エビちゃん、何かメッセ送ってくれてるかなー?·····えぇ、何も来てねぇし。あ、こいつから連絡来てる·····んー、こいつガツガツしてるから微妙なんだよなぁ、まぁいっか!」
ふふん♪と鼻歌を歌いながら部屋にある引き出しのいつものを取りに行く。
片手でささっと返信をしながら歩いているとぐしゃりとフロイドは気づかずに可憐に咲く花を踏んでしまっていた。
「フロイド、また朝帰りですか。いくら僕でもアズールに嘘をつくのは限界がありますよ」
「ごめんってー。ふぁぁぁ、寝不足·····」
「ほら、その香水臭いシャツを着替えてください。僕の鼻が曲がります。フロイド、最近ますます遊ぶ頻度増えてますよ」
「だってぇ、遊ぼーって連絡来るし」
「同じ人魚だってのにどうしてこうも僕とフロイドは違うのでしょうね」
「当たり前じゃん。オレ、きのことか絶対無理ぃ」
「そういう事を言ってません。フロイド、ユウさんを大事にしてください」
「ジェイドに言われなくても分かってるし!今日も小エビちゃんに撫でてもらいながら昼寝しよーっと!」
自室から出て鏡舎に向かう。
鏡舎をくぐって最初にフロイドが出会ったのはレオナだった。
いつもなら付き添いのラギーがいるのに1人だ。手には教科書の魔導書を持っているし、ノートまで用意されている。
珍しいことがあるものだとフロイドはからかうように口を開こうとすると、最初に開いたのはレオナ。
「よぅ。·····また嫌な臭い付けて来やがって。お前んとこの草食動物はそろそろ逃がしてやれよ。あいつは人魚じゃねぇんだから自由に草原を走らせてやれ」
「はぁ?朝から何?トド先輩。それ小エビちゃんのこと言ってんの?あんたには関係ないじゃん」
フロイドが胸ぐらを掴もうとするとレオナはその手を掴む。伊達に運動部で鍛えていない。
それに·····。
「関係あるから言ってやってる。あいつはもうお前を番だなんて思っちゃいねーよ」
「··········まじ無理、絞める!!·····っっつ!」
いつぞやのラギーと同じ腕になっている。フロイドの腕は水分が失われかけたように皮膚が割れていたのだ。
レオナのユニーク魔法の王者の咆哮。
「は?ちょ、何マジになってんだっての!」
パッとレオナの手が離れるとフロイドは急いで治癒魔法をかける。乾燥とは無縁な肌なだけにひび割れた皮膚を修復するのは少し時間がかかる。
面倒くさがりでいつも寝てばかりのレオナの様子がいつもと違うのにフロイドは舌を鳴らした。
「レオナ先輩、どうしました?珍しく先に行くだなんて。··········あ、フロイド先輩」
「小エビちゃん?!ちょ、今·····サバナクローのところから出てきた?意味分かんないんだけど!」
少し息を切らしサバナクローの鏡からひょいっと出てきたのはユウだ。ふわりと香るのはいつものユウの匂いではなく、サバナクロー特有の匂いでそしてレオナの匂い。
「ユウは昨晩サバナクローで過ごした。もちろん、俺の部屋でな」
「はぁぁ?!小エビちゃん、それ本当?!」
「ほ、本当です。レオナ先輩の部屋に泊まりました」
少し赤らめ手をモジモジとしているユウにフロイドは鋭い歯を見せる。ギリッと擦れると手の指の関節はバキバキと音を鳴らし無言で近づく。
ユウがひゅっと息を止めるとすぐにユウの前にレオナが立ち塞がり、フロイドではなくレオナがフロイドの胸倉を掴みそのまま投げ飛ばした。
反響する鏡舎にフロイドは大きな音を立てる。
フロイド先輩?!と駆け寄ろうとするユウにレオナはユウの腕を掴むと引きずるようにフロイドをそのままにして出て行った。
何が起きたのか分からないフロイドは大の字に仰向けになって天井を見つめる。
「小エビちゃんが··········オレを、捨てた?」
現実を突きつけるユウの残り香がフロイドの鼻から消えることはなかった。