一輪
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午後の授業は億劫だ。
そこそこ満たされた胃袋をこさえての授業というのは優等生でも睡魔に襲われる。
追い打ちをかけるように開けられた窓からは暖かな陽気。学園裏の森では鳥が林檎を狙っているのか、可愛らしいさえずりが聞こえ規則的な鳴き声で余計に眠気を誘う。
「居眠りをしている生徒は分かっている」
先生の一言でビクっと目を見開く。
グリムは既にユウの膝の上で悠長に眠っているから憎たらしい。鼻をちょちょんと触ればくしゃん!とクシャミをするものだからユウの眠気も少しは覚める。
それでも膝の上にグリムという魔獣がいるとポカポカとしてしまい、また瞼が重くなる。
教壇にいる先生の顔半分が瞼で見えなくなる。
そろそろ本気で夢の中へ入ってしまう。もう入ってしまってもいいかな。なんて、甘い誘惑がユウを誘う。
あと一歩で夢の中へ入ってしまうところで、今度はポケットに入れていたスマホのバイブレーションに起こされる。
ちらりと先生を確認しながらスマホを確認すると、恋仲であるフロイドからだった。
『小エビちゃん、明日のデート気分じゃなくなったから違うやつと出掛けるね』
ゴンッと痛い思いをしたのは机だ。ユウは思いっきり机と自分の額をごっつんこさせた。
「また·····ですか」
机と接吻しそうな距離でユウは呟く。
ユウからしてみれば今回はフロイドから断りの連絡が入っただけマシだった。
前回は待てど待てども待ち合わせ場所に来なかった為、ジェイド越しに連絡してもらうと違うやつといるー!とのことだった。
フロイドが気分屋なのは今に始まったことではないし、それを分かっていた上で付き合っている。まさかこんなにもドタキャン紛いなことを繰り返されるとは思ってもいなかったけれども、それでも違うやつがオスならユウは何も思わない。気兼ねなく遊べるオス同士が楽な時だってあるだろう。
しかし、フロイドの言う違うやつというのは──メスなのだ。
ユウがその事実を知ったのは付き合いだして1ヶ月が経った頃。
「フロイド先輩!私、先輩が来るっていうからオンボロ寮を綺麗にして待ってたのにどうして来てくれなかったのですか?もしかしていつもの気分じゃなかったってやつですか?」
「そうそう~。ヤり過ぎてだるかったんだよねぇ」
「ラウンジのお掃除ですか?たしかに広いから大変そうですもんね」
「ちげぇよ。メスとの交尾に決まってんじゃん。小エビちゃんの鈍ちん!」
時が止まるというのはこういう時なのだろう。
息をするのも忘れたユウは限界になると大きく息を吸う。そしてゆーっくりと息を吐く。
そうしないと口から何が出るか分からなかったから。
「そ、そう·····ですか」
やっと声に出せたのはこれだけ。
それに対してフロイドはにっこりと笑って、そうなの!とご機嫌だ。
フロイドの見た目は同じ人間であるけど、それは魔法薬を使っているからで元々は人魚だ。人魚色の強いフロイドなら人間である恋人に対しての概念も相違があるのだろう。
生きてきた世界の違い。
それだけの事。
付き合って1ヶ月経つがユウはフロイドとは深い関係をまだ持っていない。
可愛らしいお付き合いをしていたから、フロイドにもしかしたら我慢をさせていると思い次のお家デートでは頑張ろうと意気込んでいたらこの様。
人間と、人魚の恋なんてこんなものなのか。
人魚姫のような美しい恋なんてなかった。
美しい泡になんてなれない。
ここで別れられないのもユウが人間としての好きの感情があるから。フロイドは悪いことなんてしてるなんて微塵も思っていない。
それでも譲れない一線がユウにも出来た。
フロイド先輩には抱かれない。
そして、私の限界が来たら──。
時は戻り、ユウはフロイドに返信した。
「了解しました。楽しんできてくださいね」
『ありがとー!小エビちゃんも、いつかオレとしようね!』
今もユウは自分の中のルールを守っている。意外だったのはフロイドの方で、無理矢理にでも押し倒されるのかと思えば全くそんな事はなくユウの意思を尊重してくれた。
我慢出来ているのもその違うやつのおかげなのかもしれないと思うと、なんとも居た堪れない。
ユウは既読スルーをすると眠気はもうどこかへ消えていて、眠気で授業を聞いていなかった分を取り戻そうと静かに心を閉じてノートを開いた。
***
「じゃぁ、ジェイドいってきまーす」
「今日はユウさんとデートだと言ってましたね。はい、行ってらっしゃい」
「あ、言ってなかったっけ?今日は小エビちゃんと遊ぶの止めたの。んで、違うやつと遊ぶんだよねー」
「·····フロイド、前にも言いましたがその遊びは陸では通用しませんよ」
「えー?だって小エビちゃんも知ってるし、楽しんできてねーって言ってたぁ。今日遊ぶやつはー、パルクール出来るやつなんだ!見た目は小エビちゃんに似てるんだけど一緒にパルクールやってぇ、汗かいたら二人で休憩でホテル行こーって話してんの。こいつ、サバサバしてんだけど抱くと結構可愛くてぇ、「フロイド!!」」
普段大声を出さないジェイドの大声にフロイドはその巨体をびくりと揺らした。そして穏やかに笑っていたジェイドはつかつかとフロイドの前に立ちパルクール用のシューズを奪う。
「な、何ジェイド!それ返せよっ」
「えぇ返しますよ。パルクールのシューズなんて僕には必要ありませんし。フロイドはユウさんの何ですか?」
「は?彼氏だし、番に決まってんじゃん。だから小エビちゃんがヤダって言うから手を出さないんじゃん。オレは小エビちゃんが1番好きなのジェイドも知ってんだろ」
「はぁ·····。フロイド、1番じゃ駄目でしょう。ユウさん〈だけ〉じゃないといけませんからね。それにユウさんは何故フロイドに手を出されたくないか分かりますか?こんなの奥手のアズールでも分かりますよ」
「え~?んー、オレが好き過ぎて恥ずかしい!!とかじゃね?ははっ、小エビちゃん可愛いよねぇ!じゃぁオレ行ってくるー!」
ジェイドからシューズを返してもらうとフロイドは意気揚々と部屋から飛び出して行った。
はぁ。とため息を付くとジェイドはフロイドの私物が置いてあるテーブルの引き出しを開ける。ペンや紙くずなど散らかった物と一緒に避妊具が大量に保管されていた。もちろん開封済み。
「僕の片割れは何をしているのでしょう。海のルールなんてユウさんには関係ないのに。フロイド、いつか貴方·····痛い目に合いますよ」
何度目かのため息をつくと静かに引き出しを戻した。
そこそこ満たされた胃袋をこさえての授業というのは優等生でも睡魔に襲われる。
追い打ちをかけるように開けられた窓からは暖かな陽気。学園裏の森では鳥が林檎を狙っているのか、可愛らしいさえずりが聞こえ規則的な鳴き声で余計に眠気を誘う。
「居眠りをしている生徒は分かっている」
先生の一言でビクっと目を見開く。
グリムは既にユウの膝の上で悠長に眠っているから憎たらしい。鼻をちょちょんと触ればくしゃん!とクシャミをするものだからユウの眠気も少しは覚める。
それでも膝の上にグリムという魔獣がいるとポカポカとしてしまい、また瞼が重くなる。
教壇にいる先生の顔半分が瞼で見えなくなる。
そろそろ本気で夢の中へ入ってしまう。もう入ってしまってもいいかな。なんて、甘い誘惑がユウを誘う。
あと一歩で夢の中へ入ってしまうところで、今度はポケットに入れていたスマホのバイブレーションに起こされる。
ちらりと先生を確認しながらスマホを確認すると、恋仲であるフロイドからだった。
『小エビちゃん、明日のデート気分じゃなくなったから違うやつと出掛けるね』
ゴンッと痛い思いをしたのは机だ。ユウは思いっきり机と自分の額をごっつんこさせた。
「また·····ですか」
机と接吻しそうな距離でユウは呟く。
ユウからしてみれば今回はフロイドから断りの連絡が入っただけマシだった。
前回は待てど待てども待ち合わせ場所に来なかった為、ジェイド越しに連絡してもらうと違うやつといるー!とのことだった。
フロイドが気分屋なのは今に始まったことではないし、それを分かっていた上で付き合っている。まさかこんなにもドタキャン紛いなことを繰り返されるとは思ってもいなかったけれども、それでも違うやつがオスならユウは何も思わない。気兼ねなく遊べるオス同士が楽な時だってあるだろう。
しかし、フロイドの言う違うやつというのは──メスなのだ。
ユウがその事実を知ったのは付き合いだして1ヶ月が経った頃。
「フロイド先輩!私、先輩が来るっていうからオンボロ寮を綺麗にして待ってたのにどうして来てくれなかったのですか?もしかしていつもの気分じゃなかったってやつですか?」
「そうそう~。ヤり過ぎてだるかったんだよねぇ」
「ラウンジのお掃除ですか?たしかに広いから大変そうですもんね」
「ちげぇよ。メスとの交尾に決まってんじゃん。小エビちゃんの鈍ちん!」
時が止まるというのはこういう時なのだろう。
息をするのも忘れたユウは限界になると大きく息を吸う。そしてゆーっくりと息を吐く。
そうしないと口から何が出るか分からなかったから。
「そ、そう·····ですか」
やっと声に出せたのはこれだけ。
それに対してフロイドはにっこりと笑って、そうなの!とご機嫌だ。
フロイドの見た目は同じ人間であるけど、それは魔法薬を使っているからで元々は人魚だ。人魚色の強いフロイドなら人間である恋人に対しての概念も相違があるのだろう。
生きてきた世界の違い。
それだけの事。
付き合って1ヶ月経つがユウはフロイドとは深い関係をまだ持っていない。
可愛らしいお付き合いをしていたから、フロイドにもしかしたら我慢をさせていると思い次のお家デートでは頑張ろうと意気込んでいたらこの様。
人間と、人魚の恋なんてこんなものなのか。
人魚姫のような美しい恋なんてなかった。
美しい泡になんてなれない。
ここで別れられないのもユウが人間としての好きの感情があるから。フロイドは悪いことなんてしてるなんて微塵も思っていない。
それでも譲れない一線がユウにも出来た。
フロイド先輩には抱かれない。
そして、私の限界が来たら──。
時は戻り、ユウはフロイドに返信した。
「了解しました。楽しんできてくださいね」
『ありがとー!小エビちゃんも、いつかオレとしようね!』
今もユウは自分の中のルールを守っている。意外だったのはフロイドの方で、無理矢理にでも押し倒されるのかと思えば全くそんな事はなくユウの意思を尊重してくれた。
我慢出来ているのもその違うやつのおかげなのかもしれないと思うと、なんとも居た堪れない。
ユウは既読スルーをすると眠気はもうどこかへ消えていて、眠気で授業を聞いていなかった分を取り戻そうと静かに心を閉じてノートを開いた。
***
「じゃぁ、ジェイドいってきまーす」
「今日はユウさんとデートだと言ってましたね。はい、行ってらっしゃい」
「あ、言ってなかったっけ?今日は小エビちゃんと遊ぶの止めたの。んで、違うやつと遊ぶんだよねー」
「·····フロイド、前にも言いましたがその遊びは陸では通用しませんよ」
「えー?だって小エビちゃんも知ってるし、楽しんできてねーって言ってたぁ。今日遊ぶやつはー、パルクール出来るやつなんだ!見た目は小エビちゃんに似てるんだけど一緒にパルクールやってぇ、汗かいたら二人で休憩でホテル行こーって話してんの。こいつ、サバサバしてんだけど抱くと結構可愛くてぇ、「フロイド!!」」
普段大声を出さないジェイドの大声にフロイドはその巨体をびくりと揺らした。そして穏やかに笑っていたジェイドはつかつかとフロイドの前に立ちパルクール用のシューズを奪う。
「な、何ジェイド!それ返せよっ」
「えぇ返しますよ。パルクールのシューズなんて僕には必要ありませんし。フロイドはユウさんの何ですか?」
「は?彼氏だし、番に決まってんじゃん。だから小エビちゃんがヤダって言うから手を出さないんじゃん。オレは小エビちゃんが1番好きなのジェイドも知ってんだろ」
「はぁ·····。フロイド、1番じゃ駄目でしょう。ユウさん〈だけ〉じゃないといけませんからね。それにユウさんは何故フロイドに手を出されたくないか分かりますか?こんなの奥手のアズールでも分かりますよ」
「え~?んー、オレが好き過ぎて恥ずかしい!!とかじゃね?ははっ、小エビちゃん可愛いよねぇ!じゃぁオレ行ってくるー!」
ジェイドからシューズを返してもらうとフロイドは意気揚々と部屋から飛び出して行った。
はぁ。とため息を付くとジェイドはフロイドの私物が置いてあるテーブルの引き出しを開ける。ペンや紙くずなど散らかった物と一緒に避妊具が大量に保管されていた。もちろん開封済み。
「僕の片割れは何をしているのでしょう。海のルールなんてユウさんには関係ないのに。フロイド、いつか貴方·····痛い目に合いますよ」
何度目かのため息をつくと静かに引き出しを戻した。
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