落ちた恋に触れて
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「じゃ、またね~小エビちゃん」
「ありがとうございました!フロイドさんもお気をつけて!」
来店する度にフロイドはいつも帰り際にまたねと言う。その言葉が次に会う約束をしているようでつい声が弾んでしまう。
だいたい同じ時間で同じ物を買う。
でも、フロイドという名前ぐらいしか知らない。店員とお客さんという関係である以上、先に進む関係など有り得ない。お客さんから連絡先を貰ったことはあるが、連絡を返したことはない。それなのに、店員から連絡先を渡すのはどうなのかとフロイドを見送るユウは思う。
「もしかして、彼女いるのかな・・・。いるよね、あんなにかっこいいんだもん」
裏の事務室に戻り、身だしなみ用の鏡をじっと見る。化粧っ気はあまりないが特別美人だと思ったことはない。ストンとした悲しい体型でスラッとしている訳では無く、自信をもてる要素がない。おとぎ話のように魔法で綺麗にしてもらえるならどんなに嬉しいか。そんな子供じみた願いは虚しく、すみませーん!と呼ばれユウはパチンと両頬に気合いを入れ戻って行った。
*
「今日は暇ね」
片手にハンディモップを持ち、今日何度目かの掃除。平日の深夜は週末と違い静かで、店内のBGMがよく響く。アップテンポな流行りの曲が流れユウは小さく口ずさむ。モップを軽く揺らしながらリズムを取り、少し高いところをサッと拭くと灰色のホコリが頭に乗っかるがユウは気づいていない。
「~ちょっと悪いくらいがいいんじゃな~い♪」
「小エビちゃん、歌うまいじゃん」
「ひぇ!!フロイドさん?!いつから!?」
「んー・・・さっきかな?あはっ!小エビちゃん頭に綿乗ってる」
つい口ずさむ程度の歌がどうやら少しばかり大きくなっていたようで、いつの間にか来店していたフロイドにバッチリ聞かれていた。そればかりか、カウンターから身を乗り出してユウの頭に乗っていた埃を取ってあげる。いつもより近い距離で、フロイドの片耳のピアスの擦れる音まで聞こえる。
「あ、ありがとうございます・・・!」
「ん、いーよ。これ買うからピッしてくれる?」
ピッだなんて可愛いなぁ・・・と口元か弛む。そう思っても口に出せるわけがない。カウンターにあるのはいつもの飴と・・・四角い箱。持ってくるのはたまに珈琲のときもある。それは甘いお菓子だったりする時もある。しかしどれとも違うこの箱は見覚えがあった。ユウは初めて見るわけではないし、子供では無いのだ。
ピッ。
「袋に入れますね」
「うん。ありがとー」
茶色の紙袋に四角い箱を入れて、テープで止める。お金を貰う手は震えていないし、ユウは至って冷静だ。そして、笑えている。
またね、小エビちゃん。とフロイドも笑う。
ありがとうございました!の声は少し小さかったかもしれない。
預かったお金をレジに仕舞いながら、視界に入った入り口に背の高い女の人。女の人はフロイドの腕に抱きつく。
心臓が壊れそうな程動いて熱く、ユウは思わず駆け出した。
「フロイドさん!!」
「あれぇ?小エビちゃんどーしたの?」
「あ、あのっ、おつり渡す分足りてなかったので・・・すみません!」
「珍しいね、小エビちゃんがそんなミスするの。ってか、50円ぐらい良かったのに。オレならパクるよ~あはっ!じゃ、お仕事頑張ってねー」
ポンポンと頭を撫でられた瞬間、横にいた女の人はジロリとユウを睨む。ユウはペコッとお辞儀をすると店内へそろそろと戻った。こんなに足が重たい感覚は初めてのことだ。
「フロイドさん・・・、避妊具買って行った。あの美人は彼女なんだ。そりゃ、そうよね・・・へへっ・・・美男美女だったなぁ」
カウンター内に戻りしゃがみこむ。勝手に想って勝手に失恋。誰にも迷惑をかけず、一人で傷つく。頭で理解しても心は理解してくれず、涙がポロポロ溢れる。
しかしこんな時に限って、バラードの歌姫の曲がBGMで流れ、追い打ちをかけてくる恋の歌。
「・・・フロイドさんが好き」
─好きと言えば良かった。
そんな歌詞で終わる歌が、抉れた傷に塩を塗り込む様にユウは心が痛かった。
……To be continued
「ありがとうございました!フロイドさんもお気をつけて!」
来店する度にフロイドはいつも帰り際にまたねと言う。その言葉が次に会う約束をしているようでつい声が弾んでしまう。
だいたい同じ時間で同じ物を買う。
でも、フロイドという名前ぐらいしか知らない。店員とお客さんという関係である以上、先に進む関係など有り得ない。お客さんから連絡先を貰ったことはあるが、連絡を返したことはない。それなのに、店員から連絡先を渡すのはどうなのかとフロイドを見送るユウは思う。
「もしかして、彼女いるのかな・・・。いるよね、あんなにかっこいいんだもん」
裏の事務室に戻り、身だしなみ用の鏡をじっと見る。化粧っ気はあまりないが特別美人だと思ったことはない。ストンとした悲しい体型でスラッとしている訳では無く、自信をもてる要素がない。おとぎ話のように魔法で綺麗にしてもらえるならどんなに嬉しいか。そんな子供じみた願いは虚しく、すみませーん!と呼ばれユウはパチンと両頬に気合いを入れ戻って行った。
*
「今日は暇ね」
片手にハンディモップを持ち、今日何度目かの掃除。平日の深夜は週末と違い静かで、店内のBGMがよく響く。アップテンポな流行りの曲が流れユウは小さく口ずさむ。モップを軽く揺らしながらリズムを取り、少し高いところをサッと拭くと灰色のホコリが頭に乗っかるがユウは気づいていない。
「~ちょっと悪いくらいがいいんじゃな~い♪」
「小エビちゃん、歌うまいじゃん」
「ひぇ!!フロイドさん?!いつから!?」
「んー・・・さっきかな?あはっ!小エビちゃん頭に綿乗ってる」
つい口ずさむ程度の歌がどうやら少しばかり大きくなっていたようで、いつの間にか来店していたフロイドにバッチリ聞かれていた。そればかりか、カウンターから身を乗り出してユウの頭に乗っていた埃を取ってあげる。いつもより近い距離で、フロイドの片耳のピアスの擦れる音まで聞こえる。
「あ、ありがとうございます・・・!」
「ん、いーよ。これ買うからピッしてくれる?」
ピッだなんて可愛いなぁ・・・と口元か弛む。そう思っても口に出せるわけがない。カウンターにあるのはいつもの飴と・・・四角い箱。持ってくるのはたまに珈琲のときもある。それは甘いお菓子だったりする時もある。しかしどれとも違うこの箱は見覚えがあった。ユウは初めて見るわけではないし、子供では無いのだ。
ピッ。
「袋に入れますね」
「うん。ありがとー」
茶色の紙袋に四角い箱を入れて、テープで止める。お金を貰う手は震えていないし、ユウは至って冷静だ。そして、笑えている。
またね、小エビちゃん。とフロイドも笑う。
ありがとうございました!の声は少し小さかったかもしれない。
預かったお金をレジに仕舞いながら、視界に入った入り口に背の高い女の人。女の人はフロイドの腕に抱きつく。
心臓が壊れそうな程動いて熱く、ユウは思わず駆け出した。
「フロイドさん!!」
「あれぇ?小エビちゃんどーしたの?」
「あ、あのっ、おつり渡す分足りてなかったので・・・すみません!」
「珍しいね、小エビちゃんがそんなミスするの。ってか、50円ぐらい良かったのに。オレならパクるよ~あはっ!じゃ、お仕事頑張ってねー」
ポンポンと頭を撫でられた瞬間、横にいた女の人はジロリとユウを睨む。ユウはペコッとお辞儀をすると店内へそろそろと戻った。こんなに足が重たい感覚は初めてのことだ。
「フロイドさん・・・、避妊具買って行った。あの美人は彼女なんだ。そりゃ、そうよね・・・へへっ・・・美男美女だったなぁ」
カウンター内に戻りしゃがみこむ。勝手に想って勝手に失恋。誰にも迷惑をかけず、一人で傷つく。頭で理解しても心は理解してくれず、涙がポロポロ溢れる。
しかしこんな時に限って、バラードの歌姫の曲がBGMで流れ、追い打ちをかけてくる恋の歌。
「・・・フロイドさんが好き」
─好きと言えば良かった。
そんな歌詞で終わる歌が、抉れた傷に塩を塗り込む様にユウは心が痛かった。
……To be continued