Xmas SS 2020
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「痛っっ!!」
「そりゃ痛いですよ……、あと少し我慢してください」
いつも薬品のにおいがする保健室。
ユウはフロイドの手を引っ張って保健室に来たものの、連絡ボードに出張中の文字。
顔を傾けて考えても仕方ないので自分で消毒することにし、今に至る。
ピンセットで球綿を摘み、いかにも沁みそうな消毒液を浸しフロイドの頬骨あたりに処置していた。
「オレの皮膚は人間と造りが違うからそんな事しなくていいのに……」
「それは人魚の姿の話ですよね?人間はそんなに強くないです。それで、喧嘩の理由は何ですか?仕事以外に手を出すとアズール先輩に怒られますよ」
はい、おしまいです。と使用済みの球綿を医療用廃棄物のゴミ箱に捨てる。
手を水道でじゃぶじゃぶ洗っていると、フロイドは口を尖らせ言いにくそうに丸椅子に座ったままクルクル回っていた。
「アイツら……サンタなんていねぇって」
「はい?すみません、今手を洗っていて聞き取れませんでした」
「だーかーらー……、サンタなんていねぇってアイツらが言ったの!!」
ダンっと回っていた椅子を足で止める。
ユウは掛けられていたタオルで手を拭きながら、あー・・・と声を伸ばす。
17歳の男子なら・・・と思う部分と、フロイドっぽいなぁと思う部分。珊瑚の海のクリスマス事情は知らないけれども、ユウはフロイドにはそのままでいて欲しいと思った。
その時が来れば自然と分かるものだから。
「そうですねぇ。きっと、その人たちは何年もサンタさん来てないんですよ。だからそんな事を言うんですね」
「だよなぁ!!だってオレ、去年プレゼント届いたもん。アイツらそれを言ったら笑いやがって……ムカついたから締めた」
「あ、はは……」
「小エビちゃんはサンタに何を頼んだの?」
ニッコニコとした満面の笑顔でユウに問う。まさかのフリにユウは、んー・・・とジェイドのように顎に手を置く。こんな形でこの世界に来て暫く経ち、忘れたことは無い家族の存在。
母が焼いてくれた大きな苺が乗ったホールのショートケーキ、父が仕事帰りに有名なチキン屋さんでたくさんのチキンを買ってくる。ツリーの飾り付けはユウの仕事。
そんな事を思い出してしまって、ユウは懐かしみで口元が和らいだ。
「そうですね……私は家族とクリスマスを過ごしたいです」
「ふぅん……、そんなのが欲しいんだ」
小エビちゃんは欲がないねぇと座っていてもユウの頭に手が届く。泣いているわけじゃないけど、フロイドはヨシヨシと言いながら撫でる。家族と過ごしたいという願いは流石のフロイドも難しいと思い慰めてくれている。そんな優しさが頭の上から伝わった。
それでもサンタはいると思っているフロイドには、ユウはサンタが来ない悲しい人と思われたくなかった。
「あ、でも!私良い子じゃないので、そもそもサンタさんなんて来ませんので!」
「小エビちゃん……」
*
25日、クリスマス当日。
学園内ではメリークリスマス!ハッピーホリデー!という挨拶が交わされ、ハロウィンぶりに学園内は賑やかだった。
学園内の木々にもクリスマスらしい装飾が施され、サンタ云々はあるにせよワクワクする。
精霊のおかげですっかり辺りはホワイトクリスマス。各寮もパーティやら催しがあるようで、マブ達も忙しそうにしていた。
それでもユウ1人は寂しいだろうからと、短時間ではあるがオンボロ寮で1年生ズでお菓子パーティを開いた。
カードゲーム、ボードゲームをしたりお菓子の食べクズをボロボロ落としながら笑い合い、学生らしいクリスマスを過ごさせて貰う。
「こんなに笑って楽しいクリスマス最高よね」
お開きになりユウは遊び疲れたグリムを部屋に寝かせ、片付けに談話室へ向かう。
談話室の時計はもうすぐクリスマスの終わりを告げる。
寂しいクリスマスではなかった。
でも、異分子のユウに居場所があるわけでもない。
「ここを卒業したら、ほんとにクリぼっちになるんだろなぁ……」
寂しいなぁ……と談話室から窓の外を見るとひらひらと柔らかそうな雪が降っている。
ふとオンボロ寮の門を見やると、門の上に誰かが立っているがユウからはよく見えない。誰か忘れ物したのだろうかと目を細めて注視する。
すると黒い影がひょいっと飛び上がり木の上を伝ってこちらにやってくる。
「え?はい?なんか、来る!!?ぎゃぁぁ!!」
「小エビちゃぁーーん!!メリークリスマス!!」
ガシャーンと窓ガラスを割って入ってきたのはサンタの格好をしたフロイド。窓ガラスの破片は床に散らばることなく、ふよふよと浮いていてフロイドがフゥゥと吹くとガラスたちは元に戻った。
ユウはというと、尻もちを付いていて口をパクパクとしている。
「あはぁ!小エビちゃん面白れぇ顔してる!フロイドサンタが来たよー!ほらぁっ、喜んで喜んで!」
「ワ、ワーイ」
カタコトで大根役者のよう。
フロイドに手を引っ張られて起き上がり、何が起きたのだろうかと考える。
スタイルのいいサンタが目の前にいて、白い髭がなんとも可笑しくてクスクス笑ってしまう。
「フロイドサンタはねぇ、良い子の小エビちゃんにプレゼントを持ってきたんだよ~。はい、これあげる!」
「こ、これってイッツアディール?!」
「そっ!サンタにオレが使えるイッツアディールが欲しいですってお願いしたら、今朝靴下に入ってたの!凄くない?!キノコ柄の筒に入ってたからそれは捨てたけど!」
ユウは尊さってコレだな……と天使の迎えが見えた。
「でも、フロイド先輩が欲しかったものを今度は私にあげるって変じゃないですか?何か契約したい事があったのでは?」
「うん。だから小エビちゃんにサインしてもらおうと思って!」
差し出されたイッツアディールにはフロイドの筆跡でこう書かれていた。
【小エビちゃんは卒業してもずっとオレと毎年クリスマスを祝う。一人ぼっちにはしない。だから小エビちゃんもずっとオレの横にいること】
「オレといたら一生楽しいよ!悪い子でも良い子でもサンタじゃなくてオレがプレゼントするから!」
契約書というには文面が可愛らしすぎる。こんなにラフな契約書は見たことがない。
それにこんな契約書がなくてもユウには願ったり叶ったりだ。
「こ、こんな一生分のクリスマスプレゼント貰っていいんですか?!それに、こんな契約しなくても・・・フロイド先輩とずっと一緒にいたい、です」
「ちょ、マジ不意打ち止めて……。も、もぅ早くサインして!今、こっち見たらマジ締めるから……」
「ブ、ブラックサンタ……」
あ?と低い声が聞こえて、ユウは慌てて骨型のペンでさらさらと名前を書く。
名前を書き終わるとイッツアディールは水のように消える。
ボーっと突っ立ってしまい、何かが変わった気がしない。それでも契約は契約。婚姻届にサインしたような気持ちになり照れくさい。
「フロイドサンタは飽きたからおしまい!!おっ、まだ今日はクリスマスじゃん。今からは家族になった小エビちゃんに、今度はサンタじゃなくてオレから甘ぁぁいプレゼントしまぁぁす!!」
ポイポイっと白い髭や赤い帽子を脱ぎ捨てユウを横抱きにしたまま、ニッと歯を見せて笑うフロイド。
『番』ではなく『家族』という言葉を使ってくれたフロイドにユウは力いっぱい抱きしめた。
フロイドXmas ver. Fin
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