箱庭の姫
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静かな夜のオクタヴィネル寮。
ラウンジのシフトインしている寮生以外は部屋で過ごす時間。深海に浮かぶ発光生物のようなライトが壁に並ぶ。そのライトの先に、より明るくなった部屋がある。
「ユウさん、まだ給湯室にいるのですね」
一生懸命に用意している姿を想像してしまい、ジェイドは声を潜めて口元に手を当てた。
尖った靴先の音を鳴らさぬように近づいていくと、部屋から聞き慣れた声がふたつ。
「フロイド先輩、ラウンジに戻らなくて良いんですか?」
「えー、面倒臭ぇ客がいて対応して疲れたから、オレは休憩すんの!」
「アズール先輩に怒られますよ?」
「やっぱり?でも、小エビちゃんに会いたくて部屋行こうと思ったら、こんなとこで会えるなんてオレ運がいい!」
「早く仕事終わらせてくださいね。私もジェイド先輩との勉強会終わり次第オンボロ寮で待ってますから」
「おっけぇ!終わったらそのまま行く!小エビちゃん~オレ頑張るからやる気スイッチ入れて~」
「もぅ・・・仕方ないですね」
フロイドとユウのやり取りをジェイドはいけないと思いつつ、巨体を壁に寄せて聴いてしまう。2人の会話のあと給湯室からリップ音が聞こえ、咄嗟に顔を覗かせるとフロイドとユウは抱き合うようにして口付けていた。
何度か啄むようなリップ音。
二人の関係性を決定付ける。
ジェイドは眉間に指を置き、暫く考えた。
フロイドとユウはキスをするほどの深い仲になっている。それは、昨日今日始まったような雰囲気ではない。
何かが崩れて、ドボンとかたまりが落ちる。
「ふふっ・・・2人して僕に内緒・・・なんて酷いですね」
くるりと反転して来た道を戻る。
夜のオクタヴィネルの廊下の明かりはジェイドの影を何度も消しては作り、ジェイドの行く道を照らす。
給湯室から遠ざかる姿は姿勢を正したまま、ターコイズブルーの柔らかな髪を時折揺らしていた。
*
「失礼します。ジェイド先輩、遅くなってすみません」
「いいえ。構いませんよ。紅茶ありがとうございます。危ないのでそちらに置いてください」
ユウが横切るとフロイドの匂いが強く出ていた。見えにくいが、うなじにほんのりと赤い印がついている。これはフロイドからジェイドへの牽制だ。フロイドは口に出さずとも、知っている。人間には分からないマーキングの匂いもしていて、信頼している片割れからでさえ人魚は番を守ろうとする。これを他者が破ればどうなるかというのは、人魚であるジェイドが1番よく知っていた。
「そんな事、”人間”の僕には関係ありません」
奪われたなら、また奪え返せばいい。
小さな箱庭から逃げ出すなど愚か。いつか飢えて、枯渇して、乞うように縋るはず。
囚われた小さな命ひとつでさえ手中に。
「ユウさん」
トンっと押せば、ユウは小さく悲鳴を上げてフロイドのベッドに倒れ込む。良質のベッドのスプリングで跳ねたのち、きょとんと目を開いていた。
「ジェ・・・イド先輩?」
「いけない方ですね。勝手に僕からいなくなるなんてあんまりです」
「え?あ・・・なんの事ですか?」
冗談はよしてください。と、起き上がろうとするとジェイドはマジカルペンを振るう。きらきらとしたエフェクトはユウの手を固定した。何が起きたのか理解していないユウは、動揺して震えている。
これもまた女の本能から良くないことだと体は察する。
「ジェイド先輩・・・魔法解いてください」
「ユウさん彼らと同じように愛でてあげるので御安心ください」
マジカルペンで指すアクアリウム達にユウは息を飲む。
自然で着飾ったように生き生きとして維持される生命。囲わせた世界は幸か否か。
何も持っていないユウ─花は大切に可愛がるべきだとジェイドは呟く。
マジカルペンで顎を掬えば、ユウは解放を求める言葉ばかり。
「ジェイド先輩・・・やだっ、怖い・・・。フロイド先輩・・・助けて・・・」
ジェイドはため息をつく。
愛する片割れの名前を愛する者から聞きたくない。
底にある錨(いかり)がの鎖が切られた音がした。
繋ぎ止める物がなくなった感情は自由になる。
「こんなに震えて可哀想に・・・。もう大丈夫ですよ。貴方はもう僕の腕の中ですから」
ゆらゆらと湯気が上がる温かい紅茶。
ジェイドがティーカップに口つける頃は、もう冷たくなっている。
Fin
ラウンジのシフトインしている寮生以外は部屋で過ごす時間。深海に浮かぶ発光生物のようなライトが壁に並ぶ。そのライトの先に、より明るくなった部屋がある。
「ユウさん、まだ給湯室にいるのですね」
一生懸命に用意している姿を想像してしまい、ジェイドは声を潜めて口元に手を当てた。
尖った靴先の音を鳴らさぬように近づいていくと、部屋から聞き慣れた声がふたつ。
「フロイド先輩、ラウンジに戻らなくて良いんですか?」
「えー、面倒臭ぇ客がいて対応して疲れたから、オレは休憩すんの!」
「アズール先輩に怒られますよ?」
「やっぱり?でも、小エビちゃんに会いたくて部屋行こうと思ったら、こんなとこで会えるなんてオレ運がいい!」
「早く仕事終わらせてくださいね。私もジェイド先輩との勉強会終わり次第オンボロ寮で待ってますから」
「おっけぇ!終わったらそのまま行く!小エビちゃん~オレ頑張るからやる気スイッチ入れて~」
「もぅ・・・仕方ないですね」
フロイドとユウのやり取りをジェイドはいけないと思いつつ、巨体を壁に寄せて聴いてしまう。2人の会話のあと給湯室からリップ音が聞こえ、咄嗟に顔を覗かせるとフロイドとユウは抱き合うようにして口付けていた。
何度か啄むようなリップ音。
二人の関係性を決定付ける。
ジェイドは眉間に指を置き、暫く考えた。
フロイドとユウはキスをするほどの深い仲になっている。それは、昨日今日始まったような雰囲気ではない。
何かが崩れて、ドボンとかたまりが落ちる。
「ふふっ・・・2人して僕に内緒・・・なんて酷いですね」
くるりと反転して来た道を戻る。
夜のオクタヴィネルの廊下の明かりはジェイドの影を何度も消しては作り、ジェイドの行く道を照らす。
給湯室から遠ざかる姿は姿勢を正したまま、ターコイズブルーの柔らかな髪を時折揺らしていた。
*
「失礼します。ジェイド先輩、遅くなってすみません」
「いいえ。構いませんよ。紅茶ありがとうございます。危ないのでそちらに置いてください」
ユウが横切るとフロイドの匂いが強く出ていた。見えにくいが、うなじにほんのりと赤い印がついている。これはフロイドからジェイドへの牽制だ。フロイドは口に出さずとも、知っている。人間には分からないマーキングの匂いもしていて、信頼している片割れからでさえ人魚は番を守ろうとする。これを他者が破ればどうなるかというのは、人魚であるジェイドが1番よく知っていた。
「そんな事、”人間”の僕には関係ありません」
奪われたなら、また奪え返せばいい。
小さな箱庭から逃げ出すなど愚か。いつか飢えて、枯渇して、乞うように縋るはず。
囚われた小さな命ひとつでさえ手中に。
「ユウさん」
トンっと押せば、ユウは小さく悲鳴を上げてフロイドのベッドに倒れ込む。良質のベッドのスプリングで跳ねたのち、きょとんと目を開いていた。
「ジェ・・・イド先輩?」
「いけない方ですね。勝手に僕からいなくなるなんてあんまりです」
「え?あ・・・なんの事ですか?」
冗談はよしてください。と、起き上がろうとするとジェイドはマジカルペンを振るう。きらきらとしたエフェクトはユウの手を固定した。何が起きたのか理解していないユウは、動揺して震えている。
これもまた女の本能から良くないことだと体は察する。
「ジェイド先輩・・・魔法解いてください」
「ユウさん彼らと同じように愛でてあげるので御安心ください」
マジカルペンで指すアクアリウム達にユウは息を飲む。
自然で着飾ったように生き生きとして維持される生命。囲わせた世界は幸か否か。
何も持っていないユウ─花は大切に可愛がるべきだとジェイドは呟く。
マジカルペンで顎を掬えば、ユウは解放を求める言葉ばかり。
「ジェイド先輩・・・やだっ、怖い・・・。フロイド先輩・・・助けて・・・」
ジェイドはため息をつく。
愛する片割れの名前を愛する者から聞きたくない。
底にある錨(いかり)がの鎖が切られた音がした。
繋ぎ止める物がなくなった感情は自由になる。
「こんなに震えて可哀想に・・・。もう大丈夫ですよ。貴方はもう僕の腕の中ですから」
ゆらゆらと湯気が上がる温かい紅茶。
ジェイドがティーカップに口つける頃は、もう冷たくなっている。
Fin
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