箱庭の姫
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その日は新しいテラリウム用の水槽が手に入り、気分よく部屋で作業をしていた。
そろそろ育成場所を広くしてあげようと思い、街へ繰り出して買いに行ったあとだった。
小さな箱庭に自分だけの世界を作る。
自分の趣向や手腕で決まるテラリウムというものは、陸に上がったばかりの人魚には好奇心がそそられた。
森で採取した植物、土。
愛でるとそれ相応の反応や、予想外の反応をする。失敗することもあるがそれもまた勉強。
思うがままに出来ようとも出来なくても、その箱庭は全て手の中にある。
*
コンコン・・・
ピンセットを片手に夢中になっていると控えめに部屋をノックされる。想定外のことは嫌いではないとはいえ、趣味に集中している時は邪魔されたくない。
大方寮生が来たのだろうが申し訳なさと、タイミングの問題ですと居留守を使うことにする。
細々とした移動作業で集中力を途切れさせたくない。
コンコン・・・
最初よりも更に控えめなノック。
静かな部屋しか聞こえないほど。早く諦めてその場から去ってくれたらいいものの、人の気配は消えない。
小さな苔をピンセットで摘み、新しい水槽へ移動させる。微妙な位置加減で見栄えも変わるから面白い。
「ジェイド先輩・・・お留守ですか?」
「ユウさん?すみません、すぐ開けます!」
ぼとんと苔を落としてしまうが、それどころではない。ピンセットを金属音が鳴るように起き、軍手を外し実験着を椅子にかける。
あんなに丁寧に作業して集中していたが、とある声を聞くとそれはどうでも良くなる。
「こんばんは、ジェイド先輩。何回かノックしたんですけど・・・お忙しかったですか?」
「いいえ、そんな事はありません。僕こそ気が付かずすみません。こんな時間にどうされました?」
居留守使うつもりでいたとは言えず、ジェイドはユウを取り敢えず部屋に招く。
寮長や寮の規則がないオンボロ寮の監督生とはいえ、こんな時間に他寮に押しかけるなんて警戒心が無さすぎる。ユウはA4サイズのトートバッグを持っていて、ちらりと見えたのが魔法薬学の教科書だった。教科書の端はよれていて、何度も繰り返しページを開いたのだろうと容易に理解する。
「もしかして、勉強を教わりにいらしたのですか?連絡頂ければこちらが出向くのに・・・」
ユウは申し訳なさそうに部屋に入る。
以前は図書室でユウに勉強を教えていた。
図書室なので声を潜め、身を寄せあって顔の近い距離で勉強をしていた。
西日が当たる席で体がぽかぽかとする。それは西日のせいなのか、ユウという監督生がいたからなのか。
ユウは勉強の合間の雑談で色々なことを教えた。好きな物や教科、音楽など。
オーバーブロットの件で距離が離れたり近づいたりしたが、最終的な距離感は心地がよかった。
──私もフロイド先輩が好きです
ある日。いつものようにフロイドがユウをかっ攫う時ユウはこう言ったのだ。
『私も』という事は、勿論フロイドもユウを好いている。フロイドの好きは多様多種過ぎて、その時のユウへの好きがどれに当てはまるのかジェイドは考えもしなかった。
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