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おいしいあなた

「美味いか、帝統?」

大きな口を開けて一口、噛み締めて味わって満面の笑みを浮かべる。その表情だけで、満たされる。ほんとうに作り甲斐のある男だ。
帝統は返答しようと、急いで口の中のものをのみくだそうとする。喉に詰まらせそうだから、茶を手渡すと嬉しそうに受け取って飲み干す。

「!!…美味いっす!」

食べながら喋らない所、カトラリーの扱い、食事時の所作一つひとつに育ちの良さが滲み出る。本来ならばギャンブルで素寒貧になって、路上生活なんて有り得ないことだったのだろう。帝統の過去が気にならないことはないが、今の小官との関係には無縁のことだ。詮索する気はない。どんな過去があろうと、小官が好きになった帝統に変わりはない、愛しい男だ。

「そうか」

帝統の返事に満足して頷く。小官の作ったものをたべる帝統をみて、ふと浮かんだ欲を言の葉にのせる。

「…お前が丸々と太ったら、その身体食べてしまおうか」

一瞬驚いたように目を見開いて、 すぐに笑みに変わる。輝く笑顔を惜しみなく小官に向け、楽しげに話し出す。

「熱烈っすね!でも食うなら骨の髄まで血の一滴だって残さず、その身体の中にいれてくれよ?」

余すことなく味わい尽くしたいと、小官も思っていた。こんなに可愛い愛しい相手を食べるのに、残すなんてありえない。

「もとよりそのつもりだ」

話している間に帝統が最後の一口を食べ終えた。口の端についたソースを親指の腹で拭ってやると、小官の手を取り指についたソースを舐めとる。誘うように指を舐めあげ上目でこちらを見る、悪い子だ。誘いに乗って指で口を犯してやる。上顎を撫でていると、帝統の舌が絡んでくる。小官の指を性器のように愛撫する。しばらく帝統の好きにさせてやる。水音をたててしゃぶる姿が、ミルクを舐める猫のようだと思った。
指で舌を押さえると、溢れた唾液が垂れて行く。一度口から手を引き、垂れ落ちる唾液を人差し指で掬う。舌を掴んで引っ張ると、息苦しいのか紫と緑のコントラストが美しい瞳に涙の膜が張る。顔を赤く染めてこちらを見上げる姿に嗜虐心が煽られる。

「んっ、うぅ…ふっ…」

帝統の甘ったるい声に反応して、下半身が熱くなる。このまま帝統を味わってしまいたいところだが、後片付けが残っている。帝統の舌を指先で一撫でして口から指を抜く。名残惜しげに唾液が糸を引いて、ぷつりと切れた。それがまた愛しくて、見せつけるように、帝統の唾液で濡れた指を舐めてみせた。

「あっ…りお、さん…」

物欲しげな顔をして、小官の袖を掴み控えめに縋る。とろりと溶けた顔で、先を期待しているのがわかる。勝気な顔を見慣れているから、困ったような顔で縋られるのは普段とは違った魅力を感じる。

「帝統、後片付けがある。いい子で待てるな?」

汚れていない方の手で帝統の顔に触れ、唇を親指の腹で触れる。しっとりとしていて、柔らかい感触を充分に楽しんだ。名残惜しんで最後に唇を撫で、川へと足を向ける。

「んっ、うぅ…手伝いマス」

せっかく二人でいるのだから離れたくないと、帝統が赤い顔のまま小官に続いて食器と、スポンジと布巾を手にして川へと向かう。
食器の片付けを2人で並んで行う。以前にも帝統が片付けを手伝おうとした時に、座って待っていていいと言った。だが2人で並んで食器洗うことが新婚夫婦っぽくて楽しいと返されたから、後片付けは2人ですることになっていた。皿を拭きながら、まだほんのりと赤い顔の帝統がぼんやりと喋り出す。

「人の身体の細胞って入れ替わるんだよな、どんぐらいの周期なんすかね?」

食事中の会話の続きらしい。帝統の問いに答えるべく、過去に得た知識を思い出そうとする。いつだったか、本で見た。あれにはなんと書いてあっただろうか。

「三カ月だな」

記憶の糸を手繰り寄せ、求めていたであろう答えを伝える。細胞が正常であれば人の身体は三ヶ月で新しいものへと変わる。これを新陳代謝と言うのだと知識として得ていた。

「なら三カ月かけて食ってくれよ、俺の体でりおーさんができてるってサイコーじゃんか!」

本当に帝統の笑顔は可愛らしい。帝統の身体を糧に生きることに魅力を感じていた。だが帝統の血肉によって小官の身体が出来るのは素晴らしいことに思えた。
双方の願いを叶えるためには一つ問題があった。

「…上手く保存しないと傷んでしまうな、生きたまま端からバラして、お前の目の前で食べようか」

食べる分だけバラしていけば、出来るだけ帝統と居られる。その上痛まない、合理的だと思う。

「それって、りおーさんが俺を食ってるとこ見れんの?はっ!めっちゃエロいっすね!いいなそれ!」

帝統の言うエロいの意味は分からなかったが、賛同してもらえたならいい。食べるなら心臓から遠いところだろうな。洗った皿を帝統に渡しながら、食べ方について考える。腕や脚は煮ても焼いても美味いだろうな。腿はプロシュートのようにするのもいいんじゃないだろうか。帝統の外見の中でも特に好きな眼球は、塩をかけて丸呑みにしたいな。血液の腸詰にするのもいい。それから心臓は最後の最後に生で食べたい。食事は済んだと言うのに、口に唾液が溜まってきた。

「小官の為に美味しく育ってくれ」

いつか食べるその日を楽しみにしている。小官が食べるために、誰より美味しく育ててやろう。小官だけの帝統だ。

「もちろん…っていいてぇとこだが、次に三カ月たったら俺以外のやつがその体をつくんだなって…妬ける」

嫉妬なんてされるのは初めてだ。顔が見たいが、鬱陶しい前髪に邪魔されて表情が見えない。

「…そうか」

「だからさぁ、あんたのために死ぬから、りおーさんも俺のために死んでくれ」

熱烈な愛の言葉。どんな表情で言っているのだろうか。髪から覗いた耳が赤い、照れた顔が見たいがあいにく今は手が空いていない。こちらを見てくれないだろうか。

「ふふっ可愛いお願いだな」

あまりにも可愛らしいものだから、笑みがこぼれる。どんなお願いも叶えてやりたいと思ってしまう。

「それに俺もあんたを食いたい」

恥ずかしくなったのか、先ほどよりもうつむいて、拭いていた皿で顔を隠そうとする。下を向いたせいで髪が前に流れて、晒された首が赤いのは気がついていないのだろうな。

「いつもあれだけ貪っておいてか?」

くすくすと笑いながら言ってやった。情熱的に、若さゆえの勢いのままに小官を食らう帝統を思い出す。

「りおーさんだって散々好き放題やったろ!」

帝統が勢いよく顔を上げ、先程までの照れと、夜を思い出した羞恥で赤く染まった顔をこちらに見せる。帝統の持っていた皿を奪って、横に置く。濡れた手のまま帝統の顎を掴んで目線を合わせ、腰に手を回す。

「だが、まだ足りない。全て食らって、しゃぶり尽くして、なにもかも全てが欲しい」

「りおーさんって、澄ました顔して情熱的だよなぁ」

帝統が悔しそうな顔をして、腕を小官の背に回す。8歳もしたの帝統に余裕を奪われるわけにはいかない。出来るだけかっこいいところを見せていたいものだ。

「そう変えたのはお前だ」

「あぁそうっすね、俺好みだ」

「…帝統、帝統、好きだ。お互い喰らいあって一つになれたなら」

愛おしくてたまらなくなって、きつく抱きしめて帝統の肩に頭をうずめる。それに応えるように、帝統が頭をすり寄せる。

「一つになっちまったら触れ合えねぇぜ?」

触れ合えない。そうだその耳に馴染んだ声も小官より高い体温も感じることはできなくなってしまうのか。その瞳に光を宿さなくなることも、小官の料理を食べて嬉しそうに笑う姿が見れないことも悲しいことだ。

「…意地が悪い」

ずるい言い方だ。一つになりたかったのに、諦めるよりほかなくなった。

「意地悪な俺は嫌いっすか?」

先程の意趣返しとでもいうように、得意げに笑っているのだろう。

「愚問だな、嫌うはずがない。好きだ、小官の可愛い帝統」

「大好きっすよ、りおーさん。あんただけだ」

一つになれないとわかっている、だから代わりにきつく抱きしめた。
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