2020井宿誕生日
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「今日、井宿の誕生日らしいんだよね」
ぽつりと口から出た言葉は
静かな空間に飲み込まれていった。
「そうよね……って、はぁ!?」
鏡の前で身なりを整えていた柳宿は
とてつもない勢いで私に近付いてきた。
「あんたこんなとこで何してんのよ!」
ガシッと両肩を掴まれたと思ったら
ものすごく体を揺すられて頭がぐらぐらした。
「ていうか、らしいって何よ!
らしいじゃなくて確実に今日なのっ!!
あんたなんで知らないワケ!?」
「こんなとこって柳宿の部屋だけど……
何してるって女子トーク?かな?
普通の会話の中で誕生日とか聞かなくない?
ちなみにさっき軫宿が教えてくれたの」
「そうなの……
って律儀に答えてる場合じゃないのよ!
あんた早く井宿のとこ行きなさい!」
柳宿の強い力で再び体を揺すられ、
もう頭がぐわんぐわんしている。
ほんと、力強いんだから手加減して……
「もはや焦っても仕方ないでしょ。
いま井宿のとこ行っても何もあげられないし」
体の揺れがおさまったところで
両肩に置かれた柳宿の手をひっぺがす。
私の発言なのか行動なのか
またしても柳宿のお怒りに触れたらしく
更に柳宿は迫ってくる。
「あんたなんでそんなに冷静なの。
井宿のこと好きなのよね!?
ていうか恋人なのよね!?
好きな男の誕生日に、そんな女いる!?」
体は揺すられなくなったものの
超至近距離でお説教つらい。迫力すごい。
ここは素直に従って部屋から出よう、うん。
「そうだよねー井宿のこと好きなら
こんなんじゃ駄目だよねー
今すぐ井宿のところ行ってくるー」
そう言葉を残して部屋を出ようとした。
が、柳宿に腕を掴まれてしまい
それは許されなかった。
「あんた……棒読みで何言ってんの?」
あ、魂胆バレてた。
「……でもよぉーく考えたら、
あたしにその話を持ちかけたってことは
少なからず何かしたいのよね?」
「うん……まぁそうだね」
そういえばそうだった。
柳宿の質問攻めと勢いで忘れかけてたけど
助けを借りたくてここへ来たんだった。
「柳宿サマの手が必要ってことね?」
先程までの迫力はどこへやら、
ドヤ顔で私を見つめる彼。
「お願いいたします」
私は柳宿に深々と頭を下げた。
しばらくして―――
「よしっ!これで完璧よ!!」
ふう、と額の汗を拭う柳宿。
実際には拭う仕草をした、だけれど。
先程まで柳宿が使っていた鏡の前に
私は座らされていた。
こちらの世界の服や靴を身に付け、
髪を綺麗にまとめ上げられた
別人のような自分の姿が映っている。
「なんか自分じゃないみたい」
「ふふ、可愛いわよぉー♪
柳宿サマにかかればこんなもんよ。
お化粧はしてないけど」
「柳宿ありがとう!!
でも、これで私はどうすれば……」
「井宿を誘って出かけてきなさいな。
ほら、でーとってやつよ!」
デートしたい……けど
井宿、一緒に出かけてくれるかなぁ?
「ほらほら早く!
ぼさっとしてたら陽が暮れるわよー」
柳宿に背中を押され
半ば追い出されるように回廊へ出た。
「柳宿、ほんとありがと。
じゃあ行ってくるね」
「どういたしまして。
ま、お礼は考えとくわねぇー」
ヒラヒラと手を振る柳宿に送り出され
私は井宿の部屋へと向かった。
なんか緊張する。
ふぅ、と一つ息を吐いて
井宿の部屋の扉をノックした。
…………。
あれ、返事がない。
もう一度ノックをしてみる。
…………。
いない、のかな。
もしかして釣りでもしてるのかな?
そう思った私は池へ向かおうと
身体の向きを変えた。
すると、目の前に
釣竿を持った部屋の主の姿があった。
「あっ、井宿。
いま探しに行こうとしてたんだ!
……このあと用事ある?」
声をかけているのに
井宿に反応はなく、微動だにしない。
「……井宿?」
「……はっ!
すまない、つい見惚れてしまったのだ」
そう言って顔を逸らした井宿の耳が
赤く染まっている気がした。
「そんな風に言ってもらえて、嬉しい」
「すごく、似合ってるのだ。
……これからどこかに行くのだ?」
「あ、あのね、
今日井宿の誕生日なんだよね?
誕生日おめでとう!
それでね、もしよかったら
一緒に街にでも行けないかなぁって」
思って……としりすぼみに言うと
井宿は私の手を掴み部屋へと引き込んだ。
扉が閉まるのと同時に
井宿に抱き締められていた。
井宿の持っていた釣り道具が
がしゃんと音を立てて落ちたけれど
壊れていないだろうか、なんて
考える暇はなかった。
「井宿、どうしたの……」
「こんな姿、他の人に見せたくない。
きっと誰もが振り返って見る。
君はオイラだけのななしなのだ」
ぎゅう、と抱き締められて
その言葉に胸も締めつけられた。
「ごめんね、井宿の誕生日知ったの今日で
プレゼントも用意できてないし
何かできないかなあって思ったの」
「……」
「でも、井宿が嫌ならやめる。
井宿に喜んでもらえないなら駄目だもん」
「ななし……」
「これ脱いでくるね」
井宿から離れようとすると、
再び抱き締められた。
「君がオイラの為にしてくれたのに、
喜んでいないわけないのだ。
それを脱いで欲しいわけでもないのだ」
「井宿」
「……すまない、これじゃ子供の我儘だな」
「……ねぇ井宿。
じゃあお部屋デートにしよ?」
「お部屋、でーと?」
「私ね、出かけなくてもいいんだ。
井宿と一緒にいたいだけなの。
だから、このままここに居てもいい?」
「君はそれでいいのだ?
せっかく着飾ってくれたのに……」
「それがいいの!
それに今日は貴方の誕生日だよ?
少しくらい我儘言って?」
「ありがとう、ななし」
強く強く抱き締められて、
なんだか私がプレゼント貰ってるみたい。
手を繋いでデートしたかったけど
それはまたの機会に。
「井宿、誕生日おめでとう。
これからもずっと、大好きだよ」
「そういえば服はどこで手に入れたのだ?」
「服も靴も柳宿が用意してくれて、
髪もやってくれたんだぁ。
あとでお礼しなきゃいけないんだった!」
「……」
「あ。(やば)
でも柳宿は女友達みたいなものだから!
全然そういう目で見られてないから!」
「ふ、別に怒ってるわけじゃないのだ。
オイラも柳宿に礼はしないとだな」
こんなに可愛くしてくれたおかげで
お部屋でーとできたのだから、
そう言って井宿は口付けを落とした。
甘いお部屋デートは
またまだ始まったばかり―――
あとがき→
ぽつりと口から出た言葉は
静かな空間に飲み込まれていった。
「そうよね……って、はぁ!?」
鏡の前で身なりを整えていた柳宿は
とてつもない勢いで私に近付いてきた。
「あんたこんなとこで何してんのよ!」
ガシッと両肩を掴まれたと思ったら
ものすごく体を揺すられて頭がぐらぐらした。
「ていうか、らしいって何よ!
らしいじゃなくて確実に今日なのっ!!
あんたなんで知らないワケ!?」
「こんなとこって柳宿の部屋だけど……
何してるって女子トーク?かな?
普通の会話の中で誕生日とか聞かなくない?
ちなみにさっき軫宿が教えてくれたの」
「そうなの……
って律儀に答えてる場合じゃないのよ!
あんた早く井宿のとこ行きなさい!」
柳宿の強い力で再び体を揺すられ、
もう頭がぐわんぐわんしている。
ほんと、力強いんだから手加減して……
「もはや焦っても仕方ないでしょ。
いま井宿のとこ行っても何もあげられないし」
体の揺れがおさまったところで
両肩に置かれた柳宿の手をひっぺがす。
私の発言なのか行動なのか
またしても柳宿のお怒りに触れたらしく
更に柳宿は迫ってくる。
「あんたなんでそんなに冷静なの。
井宿のこと好きなのよね!?
ていうか恋人なのよね!?
好きな男の誕生日に、そんな女いる!?」
体は揺すられなくなったものの
超至近距離でお説教つらい。迫力すごい。
ここは素直に従って部屋から出よう、うん。
「そうだよねー井宿のこと好きなら
こんなんじゃ駄目だよねー
今すぐ井宿のところ行ってくるー」
そう言葉を残して部屋を出ようとした。
が、柳宿に腕を掴まれてしまい
それは許されなかった。
「あんた……棒読みで何言ってんの?」
あ、魂胆バレてた。
「……でもよぉーく考えたら、
あたしにその話を持ちかけたってことは
少なからず何かしたいのよね?」
「うん……まぁそうだね」
そういえばそうだった。
柳宿の質問攻めと勢いで忘れかけてたけど
助けを借りたくてここへ来たんだった。
「柳宿サマの手が必要ってことね?」
先程までの迫力はどこへやら、
ドヤ顔で私を見つめる彼。
「お願いいたします」
私は柳宿に深々と頭を下げた。
しばらくして―――
「よしっ!これで完璧よ!!」
ふう、と額の汗を拭う柳宿。
実際には拭う仕草をした、だけれど。
先程まで柳宿が使っていた鏡の前に
私は座らされていた。
こちらの世界の服や靴を身に付け、
髪を綺麗にまとめ上げられた
別人のような自分の姿が映っている。
「なんか自分じゃないみたい」
「ふふ、可愛いわよぉー♪
柳宿サマにかかればこんなもんよ。
お化粧はしてないけど」
「柳宿ありがとう!!
でも、これで私はどうすれば……」
「井宿を誘って出かけてきなさいな。
ほら、でーとってやつよ!」
デートしたい……けど
井宿、一緒に出かけてくれるかなぁ?
「ほらほら早く!
ぼさっとしてたら陽が暮れるわよー」
柳宿に背中を押され
半ば追い出されるように回廊へ出た。
「柳宿、ほんとありがと。
じゃあ行ってくるね」
「どういたしまして。
ま、お礼は考えとくわねぇー」
ヒラヒラと手を振る柳宿に送り出され
私は井宿の部屋へと向かった。
なんか緊張する。
ふぅ、と一つ息を吐いて
井宿の部屋の扉をノックした。
…………。
あれ、返事がない。
もう一度ノックをしてみる。
…………。
いない、のかな。
もしかして釣りでもしてるのかな?
そう思った私は池へ向かおうと
身体の向きを変えた。
すると、目の前に
釣竿を持った部屋の主の姿があった。
「あっ、井宿。
いま探しに行こうとしてたんだ!
……このあと用事ある?」
声をかけているのに
井宿に反応はなく、微動だにしない。
「……井宿?」
「……はっ!
すまない、つい見惚れてしまったのだ」
そう言って顔を逸らした井宿の耳が
赤く染まっている気がした。
「そんな風に言ってもらえて、嬉しい」
「すごく、似合ってるのだ。
……これからどこかに行くのだ?」
「あ、あのね、
今日井宿の誕生日なんだよね?
誕生日おめでとう!
それでね、もしよかったら
一緒に街にでも行けないかなぁって」
思って……としりすぼみに言うと
井宿は私の手を掴み部屋へと引き込んだ。
扉が閉まるのと同時に
井宿に抱き締められていた。
井宿の持っていた釣り道具が
がしゃんと音を立てて落ちたけれど
壊れていないだろうか、なんて
考える暇はなかった。
「井宿、どうしたの……」
「こんな姿、他の人に見せたくない。
きっと誰もが振り返って見る。
君はオイラだけのななしなのだ」
ぎゅう、と抱き締められて
その言葉に胸も締めつけられた。
「ごめんね、井宿の誕生日知ったの今日で
プレゼントも用意できてないし
何かできないかなあって思ったの」
「……」
「でも、井宿が嫌ならやめる。
井宿に喜んでもらえないなら駄目だもん」
「ななし……」
「これ脱いでくるね」
井宿から離れようとすると、
再び抱き締められた。
「君がオイラの為にしてくれたのに、
喜んでいないわけないのだ。
それを脱いで欲しいわけでもないのだ」
「井宿」
「……すまない、これじゃ子供の我儘だな」
「……ねぇ井宿。
じゃあお部屋デートにしよ?」
「お部屋、でーと?」
「私ね、出かけなくてもいいんだ。
井宿と一緒にいたいだけなの。
だから、このままここに居てもいい?」
「君はそれでいいのだ?
せっかく着飾ってくれたのに……」
「それがいいの!
それに今日は貴方の誕生日だよ?
少しくらい我儘言って?」
「ありがとう、ななし」
強く強く抱き締められて、
なんだか私がプレゼント貰ってるみたい。
手を繋いでデートしたかったけど
それはまたの機会に。
「井宿、誕生日おめでとう。
これからもずっと、大好きだよ」
「そういえば服はどこで手に入れたのだ?」
「服も靴も柳宿が用意してくれて、
髪もやってくれたんだぁ。
あとでお礼しなきゃいけないんだった!」
「……」
「あ。(やば)
でも柳宿は女友達みたいなものだから!
全然そういう目で見られてないから!」
「ふ、別に怒ってるわけじゃないのだ。
オイラも柳宿に礼はしないとだな」
こんなに可愛くしてくれたおかげで
お部屋でーとできたのだから、
そう言って井宿は口付けを落とした。
甘いお部屋デートは
またまだ始まったばかり―――
あとがき→
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