雨と貴方とてるてる坊主。
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「はぁー」
朝食を終えたばかりだというのに、
既に今日何度目のため息だろう。
外はしとしとと雨が降り続け
どんよりとした雲が空を覆っている。
「止みそうにないなぁ……」
どれだけ見ていても止む気配のない雨を
私はひたすら見続けていた。
今日も釣りは無しかな、なんて
この天気を見ればそれが当然だと思う。
ここ数日こんな天気が続き
単純に気が滅入るのもあるけれど、
それだけじゃないから困る。
自分の想い人である井宿は
日中に釣りをすることが少なくない。
そこへ顔を出し、二人で話をする。
彼は一人でいたいかもしれないが
私としては彼に近付くチャンスであり、
逃したくない毎日のイベントだ。
しかし雨が降ればそれは中止。
ここ数日中止が続いているため
井宿と交わす会話は極端に減っていた。
「雨……止まないかな」
呟いたところで天気は変わらないのに
そんなことばかり口にしてしまう。
そしてふと思いついた。
「てるてる坊主でも作ってみようかな」
幼い頃は遠足や運動会前になると
よく作っていたっけ。
本当は気休めでしかない。
自然相手に人間がどうこうできる筈ないから
作って天気が回復するとは思えない。
それでも何もしないままでいるより
何か起きると信じたいんだ。
そうと決まれば!
部屋を飛び出し、柳宿の元へ向かった。
何かと相談に乗ってくれる彼に
材料を貰いに行くためだ。
柳宿の部屋にたどり着き
コンコン、と控え目にノックする。
「はぁーい、どうぞぉ?」
返ってきた言葉に
ゆっくりと扉を開けた。
「あら、ななしじゃない。
どうしたのよ?」
鏡の前で身なりを整える彼に
やっぱり女子だなぁなんて思う。
っと、柳宿に見とれてる場合じゃない。
「あのね、布と紐が欲しいの!」
「あんたはまた唐突ねぇ……
そんなもので何しようっての?」
ぶつぶつ言いながらも、
箪笥の引き出しを開けごそごそしている。
これが彼の優しいところだ。
「てるてる坊主を作りたいの。
雨が止むおまじないみたいなもので……」
そこまで聞くと柳宿は振り返り
ニヤニヤと私を見た。
「ななしは雨が嫌いなのね。
釣りできなくなっちゃうものねぇ」
「っ……私は釣りしないもん」
恥ずかしくなってそう言うと
「あら、間違えたわ。
大好きな井宿が釣りできないから
寂しくなっちゃうものね」
と一層ニヤニヤしていた。
柳宿が用意してくれた布と紐は
服を仕立てた時などに出たものらしい。
「念のため取っておいたものだけど……
こんな端切れで大丈夫なの?」
柳宿はそう言ってくれたけど
私にとっては充分すぎるものだった。
「うん、これで作れるよ!
柳宿ありがとう!」
「これで止むといいわね」
先程のニヤニヤ顔から、
にこやかな笑顔に変わった柳宿に送られ
私はいそいそと部屋へ急いだ。
部屋に戻ると早速作業を開始する。
白い大きな布を選んで広げ、
頭となる部分にはその他の布を沢山使い
ぎゅっと紐で縛る。
柳宿のおかげで
いいてるてる坊主になりそうだ。
「よし、あとは顔を書くだけ!」
自分の荷物からペンケースを探し
中から油性ペンを取り出す。
さて、どんな顔にしようかな。
なーんて。実はもう決まってるけど。
「…………できた」
自分で作っておいてなんだけど、
やばい……可愛すぎる。
これなら本当に晴れるかも!
などと考えていると、扉を叩く音がした。
柳宿が様子でも見に来たのかな?
「はいはーい」
浮かれ気分で扉を開けたものの
目の前に立つ人物に
ピタリと動きが止まってしまった。
「ち、井宿。どうしたの?」
必死に平静を装った。
我ながらよくできたと思う。
「いや……少し話がしたくて……」
まさか井宿が部屋に来てくれるなんて
嬉しいような驚きが勝つような。
「そっか。えと……どうぞ」
部屋の中へと誘導する。
でも話ってなんだろう。
落ち着け、私。
自分を落ち着かせながら扉を閉め
振り返って唖然とした。
やばい。てるてる坊主が……!
井宿が来るなんて思わなかったから
机の上に置きっぱなし。
井宿が見る前に片付けなきゃ、
と思っても遅かった。
「これは……なんなのだ?」
私の作ったてるてる坊主を手にして
井宿はこちらを向いた。
「えっと、それはてるてる坊主って言って
雨が止むおまじない……かな」
興味があるのか
へぇ、とそれをじっと見ている。
あれ?気付いてない?
そっか。気付かない可能性もあるよね!
よかった、ばれてなくて。
そう安心し、話を聞こうとしたとき
「このてるてる坊主というのは
みんなこういう顔をしているものなのだ?」
てるてる坊主をこちらに向け
私に問いかけた。
「ううん、好きに書いていいんだよ」
「好きな……顔?」
「まぁ笑顔を書く人が多いかもだけど」
晴れるようにお願いするからね、
と付け加えると
口元に手を当てて黙り混む井宿。
「どうしたの?」
「ななしの作ったこれ、
なんだかオイラに似てる気がしたのだが
とんだ思い違いだったのだ」
少し悲しそうに笑うと
てるてる坊主を机に置いた。
なんでだろう。
なんで井宿がそんな顔するの?
それは井宿なんだよって言ったら
その笑顔を変えられるの?
「……思い違いじゃないよ。
だってそれ、井宿のつもりで書いたから」
本当は言うつもりなかったけど、
井宿が悲しい顔をしなくて済むのなら
私が恥をかく方がいい。
「……そうなのだ?」
こくりと頷くと、
井宿は再びてるてる坊主を取り
まじまじと見つめた。
「うむ。やはりオイラそっくりなのだ。
君、頑張って雨を止ませて欲しいのだ!」
そう言って井宿はにっこりと笑った。
ああ、よかった。
井宿が笑ってくれた……
「井宿も雨が嫌なの?
これだけ続くとやっぱり嫌だよねぇ」
そう言うと井宿は私を見た。
「雨が降っていると釣りができないのだ」
「ふふ、釣りが好きなんだね」
本当に釣りが好きなんだな
と思っていると
「釣りができないと
君が隣に来てくれないのだ」
面を外し、真剣な表情で続けた。
「え……?」
「釣りは嫌いじゃないのだ。
でも晴れて欲しい本当の理由は、
君と二人になりたいから」
「うそ……」
「嘘じゃないのだ。
あの時間だけは君を一人占めできる。
オイラはそう思ってるのだ」
井宿の真剣な眼差しに
目を逸らすことができない。
「今日ここに来たのは、
いつものように
二人で話をしたかったからなのだ」
井宿はそう言うと
私の目の前に立った。
「だから今言うつもりはなかったのだが……
ななし、君のことが好きなのだ」
嬉しい。
同じ気持ちで居てくれてたなんて。
「……私も、井宿が好き。
一緒に居たいから晴れて欲しくて
てるてる坊主を作ったの」
「だからそっくりだったのだね」
再び井宿はてるてる坊主を見て
ふっ、と笑った。
「きっと君からの愛がこもっているから」
そう言っててるてる坊主の顔を
私の頬にくっつけた。
「ふふ、くすぐったい」
「オイラも、していいかな?」
何を……と聞く前に
井宿の顔が近付いてきて、頬に唇が触れた。
てるてる坊主の効果が
表れるかどうかわからないけれど―――
もう天気なんて関係なく
いつもあなたと一緒に居られるのね。
→あとがき
朝食を終えたばかりだというのに、
既に今日何度目のため息だろう。
外はしとしとと雨が降り続け
どんよりとした雲が空を覆っている。
「止みそうにないなぁ……」
どれだけ見ていても止む気配のない雨を
私はひたすら見続けていた。
今日も釣りは無しかな、なんて
この天気を見ればそれが当然だと思う。
ここ数日こんな天気が続き
単純に気が滅入るのもあるけれど、
それだけじゃないから困る。
自分の想い人である井宿は
日中に釣りをすることが少なくない。
そこへ顔を出し、二人で話をする。
彼は一人でいたいかもしれないが
私としては彼に近付くチャンスであり、
逃したくない毎日のイベントだ。
しかし雨が降ればそれは中止。
ここ数日中止が続いているため
井宿と交わす会話は極端に減っていた。
「雨……止まないかな」
呟いたところで天気は変わらないのに
そんなことばかり口にしてしまう。
そしてふと思いついた。
「てるてる坊主でも作ってみようかな」
幼い頃は遠足や運動会前になると
よく作っていたっけ。
本当は気休めでしかない。
自然相手に人間がどうこうできる筈ないから
作って天気が回復するとは思えない。
それでも何もしないままでいるより
何か起きると信じたいんだ。
そうと決まれば!
部屋を飛び出し、柳宿の元へ向かった。
何かと相談に乗ってくれる彼に
材料を貰いに行くためだ。
柳宿の部屋にたどり着き
コンコン、と控え目にノックする。
「はぁーい、どうぞぉ?」
返ってきた言葉に
ゆっくりと扉を開けた。
「あら、ななしじゃない。
どうしたのよ?」
鏡の前で身なりを整える彼に
やっぱり女子だなぁなんて思う。
っと、柳宿に見とれてる場合じゃない。
「あのね、布と紐が欲しいの!」
「あんたはまた唐突ねぇ……
そんなもので何しようっての?」
ぶつぶつ言いながらも、
箪笥の引き出しを開けごそごそしている。
これが彼の優しいところだ。
「てるてる坊主を作りたいの。
雨が止むおまじないみたいなもので……」
そこまで聞くと柳宿は振り返り
ニヤニヤと私を見た。
「ななしは雨が嫌いなのね。
釣りできなくなっちゃうものねぇ」
「っ……私は釣りしないもん」
恥ずかしくなってそう言うと
「あら、間違えたわ。
大好きな井宿が釣りできないから
寂しくなっちゃうものね」
と一層ニヤニヤしていた。
柳宿が用意してくれた布と紐は
服を仕立てた時などに出たものらしい。
「念のため取っておいたものだけど……
こんな端切れで大丈夫なの?」
柳宿はそう言ってくれたけど
私にとっては充分すぎるものだった。
「うん、これで作れるよ!
柳宿ありがとう!」
「これで止むといいわね」
先程のニヤニヤ顔から、
にこやかな笑顔に変わった柳宿に送られ
私はいそいそと部屋へ急いだ。
部屋に戻ると早速作業を開始する。
白い大きな布を選んで広げ、
頭となる部分にはその他の布を沢山使い
ぎゅっと紐で縛る。
柳宿のおかげで
いいてるてる坊主になりそうだ。
「よし、あとは顔を書くだけ!」
自分の荷物からペンケースを探し
中から油性ペンを取り出す。
さて、どんな顔にしようかな。
なーんて。実はもう決まってるけど。
「…………できた」
自分で作っておいてなんだけど、
やばい……可愛すぎる。
これなら本当に晴れるかも!
などと考えていると、扉を叩く音がした。
柳宿が様子でも見に来たのかな?
「はいはーい」
浮かれ気分で扉を開けたものの
目の前に立つ人物に
ピタリと動きが止まってしまった。
「ち、井宿。どうしたの?」
必死に平静を装った。
我ながらよくできたと思う。
「いや……少し話がしたくて……」
まさか井宿が部屋に来てくれるなんて
嬉しいような驚きが勝つような。
「そっか。えと……どうぞ」
部屋の中へと誘導する。
でも話ってなんだろう。
落ち着け、私。
自分を落ち着かせながら扉を閉め
振り返って唖然とした。
やばい。てるてる坊主が……!
井宿が来るなんて思わなかったから
机の上に置きっぱなし。
井宿が見る前に片付けなきゃ、
と思っても遅かった。
「これは……なんなのだ?」
私の作ったてるてる坊主を手にして
井宿はこちらを向いた。
「えっと、それはてるてる坊主って言って
雨が止むおまじない……かな」
興味があるのか
へぇ、とそれをじっと見ている。
あれ?気付いてない?
そっか。気付かない可能性もあるよね!
よかった、ばれてなくて。
そう安心し、話を聞こうとしたとき
「このてるてる坊主というのは
みんなこういう顔をしているものなのだ?」
てるてる坊主をこちらに向け
私に問いかけた。
「ううん、好きに書いていいんだよ」
「好きな……顔?」
「まぁ笑顔を書く人が多いかもだけど」
晴れるようにお願いするからね、
と付け加えると
口元に手を当てて黙り混む井宿。
「どうしたの?」
「ななしの作ったこれ、
なんだかオイラに似てる気がしたのだが
とんだ思い違いだったのだ」
少し悲しそうに笑うと
てるてる坊主を机に置いた。
なんでだろう。
なんで井宿がそんな顔するの?
それは井宿なんだよって言ったら
その笑顔を変えられるの?
「……思い違いじゃないよ。
だってそれ、井宿のつもりで書いたから」
本当は言うつもりなかったけど、
井宿が悲しい顔をしなくて済むのなら
私が恥をかく方がいい。
「……そうなのだ?」
こくりと頷くと、
井宿は再びてるてる坊主を取り
まじまじと見つめた。
「うむ。やはりオイラそっくりなのだ。
君、頑張って雨を止ませて欲しいのだ!」
そう言って井宿はにっこりと笑った。
ああ、よかった。
井宿が笑ってくれた……
「井宿も雨が嫌なの?
これだけ続くとやっぱり嫌だよねぇ」
そう言うと井宿は私を見た。
「雨が降っていると釣りができないのだ」
「ふふ、釣りが好きなんだね」
本当に釣りが好きなんだな
と思っていると
「釣りができないと
君が隣に来てくれないのだ」
面を外し、真剣な表情で続けた。
「え……?」
「釣りは嫌いじゃないのだ。
でも晴れて欲しい本当の理由は、
君と二人になりたいから」
「うそ……」
「嘘じゃないのだ。
あの時間だけは君を一人占めできる。
オイラはそう思ってるのだ」
井宿の真剣な眼差しに
目を逸らすことができない。
「今日ここに来たのは、
いつものように
二人で話をしたかったからなのだ」
井宿はそう言うと
私の目の前に立った。
「だから今言うつもりはなかったのだが……
ななし、君のことが好きなのだ」
嬉しい。
同じ気持ちで居てくれてたなんて。
「……私も、井宿が好き。
一緒に居たいから晴れて欲しくて
てるてる坊主を作ったの」
「だからそっくりだったのだね」
再び井宿はてるてる坊主を見て
ふっ、と笑った。
「きっと君からの愛がこもっているから」
そう言っててるてる坊主の顔を
私の頬にくっつけた。
「ふふ、くすぐったい」
「オイラも、していいかな?」
何を……と聞く前に
井宿の顔が近付いてきて、頬に唇が触れた。
てるてる坊主の効果が
表れるかどうかわからないけれど―――
もう天気なんて関係なく
いつもあなたと一緒に居られるのね。
→あとがき
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