恋に変わったあと。
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お母さんみたいだと思っていた人から
告白のようなものをされました。
その人はこう言いました。
「何時かはオイラのこと、
ちゃんと男として見て欲しい」
その瞬間から、
私の気持ちは確実に変わっていたのです。
「井宿、少しよいか」
「大丈夫ですのだ」
星宿に声を掛けられ、
食堂を後にする井宿の背中を
私は目で追いかけていた。
「井宿ってば羨ましいわぁー。
星宿様に迎えに来ていただけるなんて!」
同じく井宿……ではなく、
星宿の背中を追いかける柳宿が言う。
「くく、オカマは迎えに来ぇへんやろなぁ」
いつものように要らぬことを口にした翼宿が
勢いよく食堂の外へと飛んでいった。
「まったく、失礼しちゃうわ」
はぁ、とため息を漏らす柳宿に
苦笑いを返すことしかできなかった。
私が羨ましいのは星宿の方だよ、なんて
思っても言葉にはできなくて。
あれから数日が経ったけれど
特別な変化はなかった。
今まで通りの井宿がいて、
今まで通りの井宿との距離感で、
何事もなかったかのよう。
変わったのはきっと私の気持ちだけで
なんだかそわそわしている。
井宿の姿を見かけると
その動きを目で追ってしまうし、
声がすれば耳を傾けてしまう。
好意を向けられているとわかって
すぐにこんな風になってしまう私は
単純すぎるのだろうか。
それともすぐに心変わりするような
軽い人間なのだろうか。
井宿を男性として見ることが
なんだか悪いことにさえ思えるのだ。
「ななし、大丈夫?
なんか最近元気なくない?」
そう声を掛けてくれたのは美朱。
あの日話を聞いてくれた彼女にさえ
自分の気持ちを言えずにいた。
「そんなことないよ?」
そう笑顔を返し、
適当な理由をつけて食堂を出た。
とりあえず部屋で落ち着こう。
考えながら回廊を歩いていると
前から井宿が歩いてきた。
え、なんで……
慌てて引き返そうと思ったけど
井宿が私に気づいたからできなかった。
「あ、ななしちゃん。
ご飯は食べ終わったのだ?」
至って普通な、
今までのような言葉をかけられる。
「う、うん。
井宿は星宿との話は終わったの?」
私も普通に振る舞わなきゃ、
冷静を装って話す。
「だ。すぐに終わる話だったのだ」
そうなんだ、と返そうとしたとき
井宿の手が伸びてきて私の髪に触れた。
「っ……!」
思わずびくりとしてしまった。
井宿はあの日と同じ
悲しそうな顔をしていた。
「ごめ…「花びらがついていたのだ」
謝罪をしようとした言葉は遮られ、
ほら、と花びらが目の前に差し出される。
「嫌な思いをさせて申し訳ないのだ」
悲しそうな笑顔でそう言うと
井宿は私に背を向けた。
「君に嫌な思いをさせるなら、
あんなこと言わなければよかった。
自分本意でしかなかった。
……もう、忘れてほしいのだ」
そこまで言うと、
歩いてきた方向へと歩き出す。
また悲しい顔をさせてしまった。
また傷付けてしまった。
私をこんなに想ってくれてるのに。
私こそ自分本意なのに。
あなたが、大事なのに。
「ま、待って!」
歩き出した井宿を追いかけ
その袖を掴んだ。
恥ずかしいしドキドキするけど、
そんなこと言ってられない。
「ななしちゃん……?」
歩みを止めた井宿が
私の方へ向き直してくれる。
「嫌だったんじゃないの。
びっくりして、ドキドキしただけ」
井宿の顔を見れなくて
俯いたまま話す。
「井宿に触られるって思ったら
すごく恥ずかしくて……
でも嫌だったわけじゃないの」
「そう、なのだ……?」
井宿の言葉に
思いきり首を縦に振った。
「言われてそんなすぐって
思われちゃうかもしれないけど、
もうお母さんだなんて思ってない。
私、井宿のことがすきなの」
井宿の反応が怖くて
ぎゅ、と目を瞑ってしまった。
すると次の瞬間
私は井宿の腕に包まれていた。
「それは本当なのだ?
無理をしているわけではないのだ?」
井宿が私を抱き締める腕は
優しくてあたたかくて
ドキドキするのにすごく安心した。
「無理なんてしてないよ。
私も、井宿に女性として見られたい」
恐る恐る背中に手を回すと
抱き締められる力が強くなった気がした。
「オイラはずっと、
女性としてしか見てなかった。
ななしちゃん
君のことが、すきなのだ」
そう言って微笑むあなたが
とてもかっこよくて。
既に恋に落ちている筈なのに
私はまた、あなたに落ちてしまった。
「もっとこの気持ちを伝えたいのだが
ここだと少しやりづらいのだ。
場所を移しても構わないのだ?」
ぽーっとしていた私にそう耳打ちし
回廊の曲がり角に目線を送る。
柱に隠れて、嬉しそうな美朱と柳宿
そして何故か翼宿の姿が見えた。
全部見られていたのかと思うと
今すぐ隠れたくなる気持ちもあって、
足早に井宿とその場を後にした。
隣にいる井宿を見て
繋がれたこの手を離したくない、
そう思った。
私の思考が伝わったのか、
「これからはずっと一緒なのだ」と
強く握られた手に
笑みを溢さずにはいられなかった。
→あとがき
告白のようなものをされました。
その人はこう言いました。
「何時かはオイラのこと、
ちゃんと男として見て欲しい」
その瞬間から、
私の気持ちは確実に変わっていたのです。
「井宿、少しよいか」
「大丈夫ですのだ」
星宿に声を掛けられ、
食堂を後にする井宿の背中を
私は目で追いかけていた。
「井宿ってば羨ましいわぁー。
星宿様に迎えに来ていただけるなんて!」
同じく井宿……ではなく、
星宿の背中を追いかける柳宿が言う。
「くく、オカマは迎えに来ぇへんやろなぁ」
いつものように要らぬことを口にした翼宿が
勢いよく食堂の外へと飛んでいった。
「まったく、失礼しちゃうわ」
はぁ、とため息を漏らす柳宿に
苦笑いを返すことしかできなかった。
私が羨ましいのは星宿の方だよ、なんて
思っても言葉にはできなくて。
あれから数日が経ったけれど
特別な変化はなかった。
今まで通りの井宿がいて、
今まで通りの井宿との距離感で、
何事もなかったかのよう。
変わったのはきっと私の気持ちだけで
なんだかそわそわしている。
井宿の姿を見かけると
その動きを目で追ってしまうし、
声がすれば耳を傾けてしまう。
好意を向けられているとわかって
すぐにこんな風になってしまう私は
単純すぎるのだろうか。
それともすぐに心変わりするような
軽い人間なのだろうか。
井宿を男性として見ることが
なんだか悪いことにさえ思えるのだ。
「ななし、大丈夫?
なんか最近元気なくない?」
そう声を掛けてくれたのは美朱。
あの日話を聞いてくれた彼女にさえ
自分の気持ちを言えずにいた。
「そんなことないよ?」
そう笑顔を返し、
適当な理由をつけて食堂を出た。
とりあえず部屋で落ち着こう。
考えながら回廊を歩いていると
前から井宿が歩いてきた。
え、なんで……
慌てて引き返そうと思ったけど
井宿が私に気づいたからできなかった。
「あ、ななしちゃん。
ご飯は食べ終わったのだ?」
至って普通な、
今までのような言葉をかけられる。
「う、うん。
井宿は星宿との話は終わったの?」
私も普通に振る舞わなきゃ、
冷静を装って話す。
「だ。すぐに終わる話だったのだ」
そうなんだ、と返そうとしたとき
井宿の手が伸びてきて私の髪に触れた。
「っ……!」
思わずびくりとしてしまった。
井宿はあの日と同じ
悲しそうな顔をしていた。
「ごめ…「花びらがついていたのだ」
謝罪をしようとした言葉は遮られ、
ほら、と花びらが目の前に差し出される。
「嫌な思いをさせて申し訳ないのだ」
悲しそうな笑顔でそう言うと
井宿は私に背を向けた。
「君に嫌な思いをさせるなら、
あんなこと言わなければよかった。
自分本意でしかなかった。
……もう、忘れてほしいのだ」
そこまで言うと、
歩いてきた方向へと歩き出す。
また悲しい顔をさせてしまった。
また傷付けてしまった。
私をこんなに想ってくれてるのに。
私こそ自分本意なのに。
あなたが、大事なのに。
「ま、待って!」
歩き出した井宿を追いかけ
その袖を掴んだ。
恥ずかしいしドキドキするけど、
そんなこと言ってられない。
「ななしちゃん……?」
歩みを止めた井宿が
私の方へ向き直してくれる。
「嫌だったんじゃないの。
びっくりして、ドキドキしただけ」
井宿の顔を見れなくて
俯いたまま話す。
「井宿に触られるって思ったら
すごく恥ずかしくて……
でも嫌だったわけじゃないの」
「そう、なのだ……?」
井宿の言葉に
思いきり首を縦に振った。
「言われてそんなすぐって
思われちゃうかもしれないけど、
もうお母さんだなんて思ってない。
私、井宿のことがすきなの」
井宿の反応が怖くて
ぎゅ、と目を瞑ってしまった。
すると次の瞬間
私は井宿の腕に包まれていた。
「それは本当なのだ?
無理をしているわけではないのだ?」
井宿が私を抱き締める腕は
優しくてあたたかくて
ドキドキするのにすごく安心した。
「無理なんてしてないよ。
私も、井宿に女性として見られたい」
恐る恐る背中に手を回すと
抱き締められる力が強くなった気がした。
「オイラはずっと、
女性としてしか見てなかった。
ななしちゃん
君のことが、すきなのだ」
そう言って微笑むあなたが
とてもかっこよくて。
既に恋に落ちている筈なのに
私はまた、あなたに落ちてしまった。
「もっとこの気持ちを伝えたいのだが
ここだと少しやりづらいのだ。
場所を移しても構わないのだ?」
ぽーっとしていた私にそう耳打ちし
回廊の曲がり角に目線を送る。
柱に隠れて、嬉しそうな美朱と柳宿
そして何故か翼宿の姿が見えた。
全部見られていたのかと思うと
今すぐ隠れたくなる気持ちもあって、
足早に井宿とその場を後にした。
隣にいる井宿を見て
繋がれたこの手を離したくない、
そう思った。
私の思考が伝わったのか、
「これからはずっと一緒なのだ」と
強く握られた手に
笑みを溢さずにはいられなかった。
→あとがき
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