キミにエールを
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執務室のデスクで仕事をするルビーを向かい側に座るサボが表情を緩めながらずっと眺めている。
少し離れた所に座るコアラはとうとう小さな溜息をついたのだった。
「(全く…サボ君は仕事もせずに)」
先程から全く羽ペンが動いていない様子に呆れ果てる。
「(…ホント分かりやすい表情なのにどうしてルビーは気付かないんだろ)」
初めて二人と出会ってからだいぶ経つが二人の関係はよくも悪くもずっと変わっていない。
「(あ、サボ君の表情が変わった)」
最近革命軍に加入しルビーの部下となったワピチという男が任務関連のことでルビーに話しかけるとサボの顔はブスッとむくれたのだった。
「(…なんだか懐かしいな)」
じとっとした視線に気付いたワピチは居心地悪そうにそわそわと時々彼の事をチラッと見ている。
コアラはサボのあの視線と戸惑うワピチを見て自分が革命軍に加入したての頃の事を思い出したー…。
ーーー
ーー
ー…
「ルビーさん、おはよう」
「おはよう!コアラ」
まだ慣れないバルティゴでの生活に心許無いコアラは太陽のように輝かしい笑顔で気さくに接してくれるルビーの側にいると安心出来た。
「ルビーさんは毎日元気だね」
「“さん”なんていらないって。ルビーって気軽に呼んで欲しいな」
「でも…新人の私が古株のルビーさんを呼び捨てにするなんていいのかな…」
「そんなのみんな気にしないよ!私はコアラと仲良しになりたいから“ルビー”って呼んでもらえたら凄く嬉しい!」
「っ!…わ、私も仲良しになれたら嬉しい!……ルビー」
「っ〜…、コアラ可愛い!!」
抱き着いてきたルビーにこそばゆい気持ちとなったコアラ。
抱き締め返してもいいのか戸惑っていると遠くからこちらを見つめる男の子の視線に気が付いた。
「(……なんか睨んでる?)」
その時は勘違いかも知れないとあまり気に留めないでいたが…ーーその次の日。
「コアラ!ハックとの修行に一緒に行こう!」
「うん!(…まただ)」
そしてまた次の日。
「ルビー、この後私の部屋でちょっと話さない?」
「いいよ!」
「やった!それじゃあ行きましょう!(またか…)」
そのまた次の次の日。
「コアラ!ダイニングで美味しい紅茶を淹れてもらお!」
「え、ええ…(……またこっちを見てる)」
視線を感じるようになってから一週間程経ったある日、コアラはとうとうルビーに尋ねてみることにしたのだった。
「ねえ…ルビー。ちょっと聞きたいんだけど…あの、サボ君だっけ?あの男の子とルビーってもしかして喧嘩とかしてる?」
「え?サボと私が?してないけど…サボが何か言ってた?」
「違う!違うの!私の勘違いだったみたい!」
「…なんだぁ〜!良かった」
ホッとしたような表情を浮かべるルビーを見る限りあれは彼女に向けた視線ではなさそうだ。
「それなら…女の子が苦手とか?」
「うーん、そんなことはないと思うよ」
「そっか…(それならあの嫌な視線は私だけに向けられたものか)」
そう思うと革命軍に受け入れてもらえてないような気がして心が痛んだ。
同じ年頃の子は数少ないのでサボとも仲良く出来たらと思っていただけに、コアラは余計にショックだった。
ーーー
ーー
ー…
ある日我慢の限界に達したコアラは直接サボに話しかける事にした。
「ねぇ、いつも睨みつけるようにこっちを見てくるけど…何か言いたいことがあるなら言ってよ」
「っ!…べ、別に睨んでなんかねェよ!」
「あっ、ちょっとー…!!待ちなさいよ!!」
逃げ出したサボを追いかけるようにコアラも走り出す。
角を曲がりようやくサボの背中が見えたところで口を開こうとしたが、その少し先にルビーの姿が見えたので彼女に彼を捕まえてもらおうと、名前を呼ぼうとしたその時ー…サボに先を越されてしまった。
「ルビー!!」
コアラは初めて聞くサボの弾むような声色に驚く。
「あ、サボ!」
「ルビーが一人でいるなんて珍しいな。今日は何も予定がないのか?」
「うん。やることもないから書庫に行こうかなって」
「それならおれも一緒に行ってもいいか?」
「勿論!」
「書庫に行き終わった後はダイニングでおやつでも食おうぜェ!二人で!」
「うん、いいよ!」
自分が居る方へと進路を変えた二人にコアラは思わず柱の影に隠れた。
ルビーと話すサボは見たことのないくらい優しい眼差しをしており、ある一つの答えが思い浮かぶ。
「(サボ君って……もしかして)」
ーー…
「ねぇ」
サボが一人の時を狙って再び声を掛けてみたコアラ。
「っな、なんだよ…」
「サボ君ってルビーのことが好きなの?」
「っ!!?」
その言葉を聞いた瞬間、口をパクパクさせて顔を真っ赤にしたサボを見てコアラは内心で笑った。
ようやく疑問が解決されると今まで感じていた疎外感は一気に消え去り、怖いと思っていた彼の行動は急に可笑しく感じた。
「やっぱりそうなんだ。通りでルビーと一緒にいる時だけあの嫌な視線を感じたのね」
「なっ、」
「ルビーとずっと一緒にいる私にヤキモチを妬いてたんでしょ?」
「う…うるせェー」
「(否定しないのね)ふふ…なんだ。ずっとサボ君に嫌われてるのかと思ってた」
「別にお前のことを嫌ってたわけじゃない…。そんなにおれは見てた、か?」
「無意識だったの?すっご〜く怖い顔でこっち見てたけど」
「……悪い」
気まずそうに謝るサボに案外良い子なのかもと思え優しく微笑む。
「いいの、気にしないで。私こそサボ君の思いも知らずルビーを独占してごめんなさい」
「いや、いいんだ。お前…、コアラはルビーにとって初めての同性の友達なんだ。これからもルビーと仲良くしてやってくれ…」
ルビーのことを思っているのだろう、あの時と同じ優しい表情を浮かべるサボ。
ルビーを大切に思う気持ちが伝わってくる。
「…ルビーはサボ君の思いは知らないんだよね?」
「ああ。まだ言うつもりもない」
「そっか…分かった!私、サボ君の恋を応援するよ!ルビーがサボ君を意識するように協力するから頑張ってね!」
「ほ、ホントか?」
「勿論!」
「お前…良いヤツだな!」
「だからもう睨まないでね」
「わ、分かってるよ…」
こうしてサボの恋心に気付いたコアラは、何かとルビーとサボをいい雰囲気に持っていこうと働きかけたのだが…、あまりにもルビーが鈍感過ぎて努力も虚しく全く意味をなさなかった。
そのたびに落ち込むサボを見て、余計なことはせずに二人の前途多難な恋路をあたたかく見守ることにしたのだったーー…。
ーーー
ーー
ー…
「(ワピチもなんであんなに怖い顔で参謀総長に見られているのか分からなくて困ってるんだろうな〜)」
ーーそれはまさに以前の自分のように。
そろそろ彼が哀れに思えてきたコアラは腰を上げてサボの元へと向かう。
「こら。サボ君、また怖い顔になってるよ」
「っ!?コ、コアラ…っ」
「キミも気にしないんだよ。この人他の男の人にもいつもこうだから」
「なっ、何言ってんだよ!」
「あれ?コアラにサボ…ワピチがどうかしたの?」
「なんでもねェ!」
「ふふ、サボ君はねルビーがさっきから自分の方を見てくれないから妬いてるの」
「…焼く?何を?」
「…その“焼く”じゃねェよ」
「あははは」
相変わらずのルビーの反応にコアラは思わず笑った。
「?よく分からないけど…とりあえずドラゴンのところに行こうか、ワピチ」
そう言って席をたったルビーはデスクの上座に座るドラゴンの元へ行ってしまった。
「…おい、コアラ。おれになんか恨みでもあんのか?」
「まさか。私はいつだってサボ君の恋の味方ですけど?」
じろっと睨みつけられわざとらしく肩をすくめてみる。
「でもまだまだルビーはあんな感じだし…サボ君もホント苦労するよね」
「…ほっとけ」
「その一途さにだけはいつも感心させられるよ」
「肝心のヤツがそれに全く気づいてくれないけどな」
「心配しなくても色んな意味でルビーにはサボ君しかいないと思うから大丈夫だと思うんだけどな〜。まあ、これからも気長に陰ながらサボ君のことを応援してるわ」
「…おう。ありがとうな」
珍しく素直に感謝の言葉を述べるサボにコアラは笑みを浮かべた。
ーーずっと見守ってきた二人に願わくば幸せな結末が訪れますように。
コアラはそう思わずにはいられなかった。
end