変わらないものと変わってしまったもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いた…っ」
「ルビー、大丈夫か!?」
最近日課となった手合わせをする中で、着地が上手く出来ずに足を挫いてしまった。
「大丈夫だよ!よいしょっとー……いッ、」
「無理すんなって。どこが痛いんだ?」
「…足首」
立ち上がろうとしたけれど足首に痛みが走り、尻餅をついたままでいる私の前にサボもしゃがみ込む。
「…腫れてはないな。だけど念の為医務室には行こう」
「…はぁ、やっちゃったな。でも暫く任務が入ってなくて良かった。ドラゴンに小言を言われるところだったよ」
「ドラゴンさんを心配させない為にも早く冷やそう」
「はーい…」
足に負担をかけないように立ち上がろうと地面に両手を付いたその時、正面を向いていたサボがくるりと背中を私の方へ向けたのだ。
「ほら」
「え?」
サボの意図が汲み取れず首を傾げる。
すると振り返ったサボは何故か眉を顰めており、ポカンとする私に対してぶっきらぼうに言い放った。
「…運んでやるから背中に乗れよ」
「えー!!いいよ!!自分で歩けるよ」
「そう言って転ばれてもおれが困る」
「でも…サボも疲れてるでしょ?」
「おれは平気だ」
「でも…私重いよ?」
「〜…っそんなの大丈夫だから!いいから黙っておぶされって!」
「は、はい…」
勢いに負けておずおずと背中にしがみつくと、サボは私の足を抱えてぐっと立ち上がった。
「…重くない?」
「……重くなんてねェよ」
それは嘘だと思ったけど、言われた通りそれ以上何も言わずに黙っておく。
同じくらいの身長体重である私をおぶることは細身のサボにとってなかなか厳しいはず…。
その証拠にサボの額には汗が浮かび、呼吸が乱れてきた。
「……サボ、もう…」
「ルビー…っ、おれがちゃんとお前を運んでやっから、安心しろ…」
すると私の言葉を遮るように足を止めて振り向いたサボがニカッと清々しい笑みを浮かべたのだ。
「……うん。ありがとう」
「おう」
頼もしい言葉を信じ首に回していた腕の力を少し抜いて身を預けると、サボは再び歩き出す。
「(……サボの背中…あったかいな)」
相変わらず強張った表情をしており、まだまだ頼りなく危なげな背中だけれど、今は不思議と安心感の方が優ったのだ。
「……サボ、ありがとう」
そっと頬を寄せポツリと呟いた言葉に返事はなかったが、先程よりも足取りは確かな歩みとなった気がする。
ーー私の為に頑張るサボは誰よりも頼もしくて、格好良い。
そう思った途端浮き立つ気持ちを抑えられなくなり、思わず再びサボの首元にぎゅっと抱き着いたのだった。
ーーー
ーー
ー…
「ー…ふふ」
「どうした、ルビー?」
「んー、ちょっと思い出し笑い」
「なんだそりゃ」
手合わせが終わり座り込んでいた私とサボ。
急に一人で笑い出した私を見て訝しげな表情を浮かべていたサボは、フッと表情を緩めた。
「ねぇ…サボ」
「なんだ?」
「あのね、おんぶ」
「はぁ…っ!?」
両手を広げておんぶを求める私を見てサボは素っ頓狂な声を上げたのだ。
「だからおんぶして」
「お前…いくつになったと思ってるんだよ」
「えー、だって久しぶりにサボにおんぶしてもらいたくなったんだもん」
「“だもん”…じゃねェだろ。もう子どもじゃないんだから自分で歩けよ!」
「……サボが冷たい。昔はあんなに優しくしてくれたのに……」
「うっ……」
「………おんぶしてもらいたかったなぁ」
「ー…ああー!!もう!!すればいいんだろォ!!」
「へへ。サボ、ありがとう」
下げていた目線を上げてにっこり笑うと、サボは苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「…時々、確信犯なのかと思うよ…」
「え?」
「いや、なんでもねェ。ほら…これでいいか?」
しゃがみ込んで背を向けてくれたサボの背中に私は飛び乗った。
「よっと」
勢い良く飛び乗ったにも関わらず、体勢を崩すことなく軽々と私を背負い上げたサボ。
その背中は以前と比べ物にならないくらい逞しく広かった。
「……サボ、大きくなったわね」
「お前はおれの母親か。…いや、ルビーは子どものままなようだ」
「子どもでもいいもん。それでサボがおんぶしてくれるなら」
「言っておくけど、もうしないからな」
「なんでー!?」
「…はぁ。ルビーはもう子どもじゃないからだよ」
何故か頬を赤らめるサボを不思議に思いながらも私は不満の声を上げる。
「…ちぇー。楽できると思ったのにな」
「おい。疲れてるのはおれも同じなんだけどな」
「なーんてね!疲れてる中、おぶってくれてありがとう」
「……おう」
サボは素っ気なくそう言うと黙って歩き出す。
私は安定した揺れが心地良くて思わずサボの背中に頬を寄せた。
「(…このあたたかさと優しさは…何一つ変わってないな)」
サボの本質が変わっていないことに安心すると同時に、本当に頼もしくなってしまった背中に感慨深い気持ちとなる。
「…無理して頑張る小さなサボも格好良かったけど、男前になった大きなサボも格好良いよ」
「…煽てたって次は絶対おぶらないからな」
サボの耳が赤く染まっていることに気付いた私は、あの頃と同じだ…と何故か嬉しくなったのだった。
end