貴方が生まれた日
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珍しくルビーが起こしに来てくれず、いつもより遅い起床となったサボは身支度を整えた後のろのろとダイニングへと向かった。
大きな欠伸をして頭を掻きながら扉を開いた瞬間、パンッ!パンッ!と破裂音が鳴り響き、思わずよろめいてしまったのだった。
「なっ、なんだァ!?!」
「「「「おめでとうーー!!」」」」
「……へ?」
クラッカーを持った大勢の同志達の中心で探していた愛しい恋人がにこやかに笑っている。
「サボ、お誕生日おめでとう」
「そういやァ……今日か…。すっかり忘れてた」
「やっぱりね。サボったら絶対に忘れてると思った」
その時、クスクス笑うルビーがいつもと違う雰囲気であることにようやく気付いたサボ。
お洒落をしている姿に心臓が早鐘を打った。
「ルビー…。どうしたんだ?その格好……」
「ふふ。これは私からのプレゼントだよ」
「っ!!コアラ…」
「私からはこれだ」
「ハック…」
「と言っても選んだのはルビーなんだが…」
「えへへ。サボ、開けてみて」
ハックから包みを受け取ったサボは、思いがけない祝いに唖然としながらも言われた通り開けてみた。
するとそこにはシンプルだがサボによく似合うジャケットとシャツにジーンズ。
「これ…」
「ドラゴンからの伝言だよ。【バルティゴへの帰還は一日くらい遅くても構わん】…だって」
「それって……つまり…」
「つまり、今日一日ならどこかに立ち寄っても平気ってことよ。良かったわね、サボ君!」
未だ唖然とし珍しく歯切れの悪いサボに代わってコアラがにんまりと答えた。
「参謀総長、あと少しで近くの島に着きます!」
「ルビーさんとゆっくりしてきて下さい!」
「…どうなってるんだ…一体」
「みんながサボの誕生日を祝ってくれてるってこと!…って訳で、今日はサボを目一杯楽しませてあげるから」
ルビーは腰に手を当てると片目を閉じてみせた。
ーーー
ーー
ー…
「…おー、なかなかいい島だな」
「そうだね!」
程よく栄えている活気のある町。
通りを行く人々は皆穏やかな表情を浮かべている。
海賊や海兵達のような者の姿はどこにも見あたらず平和が伺えた。
いつもとは違う服装によりサボもルビーも浮くことなく一般市民のように町に溶け込んでいた。
「…アイツらも降りれば良かったのにな」
「この町はあまり他所者が立ち寄るような所じゃないらしいから…。目立つことは控えたいっていうみんなの気遣いだよ」
「たかがおれの誕生日如きに…気を遣わしちまってなんだか悪いな」
「もーぉ!!いつもは放逸的なくせしてなんで今日に限ってそんな消極的なのよ。それにたかが誕生日じゃないでしょ!サボが生まれた大切な日だよ!」
「…大切な日、か」
「そうだよ!だからサボは余計な事を考えないで楽しめばいいんです」
「ルビー…」
「それとも、私とのデートは気が進まない…?」
ルビーは口を尖らせてチラッと窺うようにサボを見上げる。
「そんなわけあるか!……そうか、デートなんて久しぶりだな」
「そう。久しぶりのデートなんだから今は私のことだけ考えてよね」
自分で言って恥ずかしかったのか俯きながらそっと手を絡めてきたルビーが愛おしく、サボはその手を強く握り返した。
「…それなら、お言葉に甘えて今日は一日ルビーで楽しませてもらうとすっか」
「私で…じゃなくて私が、楽しませてあげるの!」
「分かってるよ。それじゃ、ルビーさん。エスコートをお願いします」
「ふふ。お任せ下さいな」
そう言って笑顔でサボの手を引いたルビー。
二人は観光スポットを巡ってみたり色々な店を見て回った。
「ほら、これ!サボに似合いそう!」
「そうか?」
シルバーのアクセサリーを見てもサボは気のない返事をする。
「うーん、こういうのはよく分かんねェな…。なんか邪魔そうだし」
「さっきからそればっかり…。物欲がないのも困り者よね…」
サボが欲しいと思うプレゼントをあげたいルビーはこの現状に軽く溜息を付いた。
「あ!これなら邪魔にならないんじゃない?」
「どれ?」
サボは小さなピアスを持つルビーの手元を覗き込むように背後から顔を近づけた。
しかし目が行ったのはピアスではなく、珍しくテカテカと光るルビーの唇だった。
ーーぷるんっとしていて美味しそうだ。
思わずちゅっと触れるだけの口付けを送る。
するとこれでもかという程目を見開いたルビーがバッと勢い良く振り返った。
「ー…!!な、な、なッ〜…!」
「あ、悪りぃ。つい…」
悪びれもなく笑うサボの腕を掴んでルビーは慌てて店の外へと出た。
「もういいのか?」
「誰のせいで出てきたと思ってるのよ!お店の中で…あんか恥ずかしいことをするなんて…っ」
「ハハ、誰も見てねェから平気だって」
「そう言う問題じゃないんだけど!……まったくもう。それよりサボの欲しい物が見つかる前にお店を出てきちゃったから、違う所も見に…」
「行こう」と言葉を続けようとしたその時、ルビーの腹がきゅるるると鳴り、サボは愉快そうに喉を鳴らして笑ったのだった。
「まずは腹ごしらえだな」
ーー…
「どうだルビー。美味いか?」
「うん!」
「そりゃ、良かった」
幸せそうにパスタを頰張るルビーを見てサボは目を細める。
そして自身もピザを口にすると、美味しさに頬を緩めたのだった。
「…結局私が食べたいお店になっちゃってごめんね」
「いや。ここのピザ、うめェぞ。ルビーも食ってみろ」
「え!いいの?」
「おう」
サボがピザを差し出すとルビーは一口齧り付いた。
「んー、美味しい!!」
「…やっぱり飯はルビーの笑顔付きじゃないとな」
「え?」
「おれが食べたい物を食べるより、幸せそうに食べてるルビーを見れる方がいい」
頬杖を突きながら表情を緩めたサボにドキッとしたルビーは頬を薄っすら染める。
「…せっかくの誕生日なんだから、もっと我儘言ってもいいのに」
「それなら、ルビーのパスタを一口食べさせてくれよ」
「はい、あーん」
「ん。うめぇ…やっぱりもう一口」
「ふふ。どうぞ」
子どものような可愛い我儘に思わず破顔しながらパスタが巻きついたフォークを再びサボの口へと運んだのだ。
ーー…
こうして食事を終え、次に行く場所を考えるルビーにようやく希望を出したサボ。
「あそこに行こう」
サボが指差す方を見ると、立ち並ぶ建物の向こうに小高い丘が見えた。
二人は手を繋いで歩き海も見渡せる草原の丘へと辿り着くと、一本だけ聳え立つ立派な樹木に近づいていく。
そしてルビーは木の幹を背にして腰を下ろし、サボは彼女の膝の上に頭を預けて寝転んだのだ。
「……ああ。なんて幸せな日なんだろ」
「…大して誕生日らしいことをしてあげられなかったのに?結局プレゼントも見つけられなかったしさ…」
「今日のデート自体が特別なプレゼントになってる。それに凄く楽しめたよ」
「それならいいけど…」
「そもそもおれは特別な事なんて求めてないしな。ルビーが隣にいてくれるだけで充分なんだよ」
「いつも側にいるのに?サボってばホント欲がないんだから…」
「欲がないわけじゃない。それは夜にとっておいてるだけだ」
「………もう。サボのおバカ」
ルビーは目を瞑り穏やかな顔で微笑むサボの頬を愛しげに撫でていたが、急にパチっと片目を開けてニヤリと意地悪く笑った彼の額を軽く叩いたのだった。
ー…そうして暫く二人の間には心地良い沈黙が流れた。
「……ねぇ、サボ」
「……んー?」
「思い出したのは良いことばかりじゃないと思うけど、この日を知れて良かった」
そうぽつりと呟いたルビーはサボの頭を優しく撫でる。
「生まれてきてくれてありがとう」
そしてゆっくり顔を近づけていき鼻先に口付けるとサボの目が開いた。
「…今までこの日を心の底から祝ってくれる人はエースとルフィ以外いなかった」
【どうしてお前のような出来の悪い奴が生まれたのか】
【今日はとんだ災難の日だわ】
ーーおれは生まれてこない方が良かったのか…。
幼い頃何度もそんなことを思い、この日には良い思い出が全くなかった。
しかしルビーの計らいのおかげで誕生日とは本来素晴らしい日なのだと知ることが出来た。
「…今はこんなにも沢山の人に愛されてる。サボが生まれてきた日をみんなが心の底から祝ってるよ」
今朝見た仲間達の笑顔がサボの脳裏に浮かぶ。
「……ああ」
そっと目元が隠れるように帽子を深く被ったサボを見てルビーは優しく微笑んだのだった。
「来年も再来年も…これからもずっと、この日を特別にお祝いしてもいい?」
「……おう」
「サボ、大好きよ。誰よりも貴方のことを愛してる」
「ルビー…ありがとう」
サボは伸ばした両手でルビーの頬を包み込んで引き寄せると、愛を込めた口付けを送ったのだった。
ーーこうして日が暮れるまでのんびりとルビーの膝の上で過ごしたサボ。
それだけでも充分満たされた誕生日となったが、船に戻ると宴まで用意されており、今までの人生の中で最高の誕生日となった。
end