好きな色には訳がある
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
船内での自室にいたサボは扉をノックする音に気付き返事をすると、入ってきた人物に思わず笑みを浮かべた。
「サボ、今大丈夫?」
「どうした?」
「あのね、甲板の風が強いからまた髪を結って欲しくて…」
「おう。いいぞ」
サボはルビーを椅子に座らせるとその後ろに立つ。
「自分でもやってみようとしたんだけど…やっぱり上手くできなかった」
「ルビーは意外と不器用だもんな」
「むっー。そんなことないもん。サボが器用過ぎるの!コアラも意外だって驚いてたよ」
「驚いたのはこっちだ。おれだってまさかこんな才能があるとは思わなかったよ」
先日珍しくリボンを購入したルビーが自分で髪を結ってみたところ、コアラもサボも流石に驚いてしまう程の破滅的な下手さであった。
そして成り行きでサボが試しに髪を結ってみたところ、コアラより綺麗な編み込みを完成させてしまったのだ。
「おかげで専属の美容師さんが出来て私は助かるけどね」
「お客様今日はどういった髪型をご希望でしょうか?」
「ふふ、何それ。じゃあ…お任せで!」
「随分と人任せなヤツだな。…よし、腕の見せ所だな」
「よろしくお願いしまーす」
可笑しそうにクスクス笑うルビーにサボの口角も自然と上がる。
「帽子を被っても邪魔にならないようにしてやるよ」
サボはそう言ってルビーの艶やかで指通りの良い髪に触れ、器用に編み込みながら三つ編みにしていく。
「サボってばこんなにするする出来ちゃうなんて凄い」
「テキトーだよ。基礎さえ知っちゃえばこんなの簡単さ」
「それは器用な人だからこそ言える台詞だよ。…私にはよく分からない」
「ハハ。ルビーは下手くそなままでいいよ」
「下手くそって…失礼ね」
ルビーが上達してしまったらこの髪に触れる機会が奪われてしまう。
この温かな雰囲気の中で何気ない会話を楽しむのが最近のサボの小さな幸せなのだ。
「ところで…どうして急に髪なんて結おうと思ったんだ?今まで興味なんて示してなかったろ」
「この黄色のリボンに一目惚れしたの。思わず買っちゃったからには使わないと可哀想でしょ?」
「なるほどな。ルビーはホントに黄色が好きだな」
「うん!大好き!だって黄色はサボの色だもん」
「へー……………、は?おれの、色?」
思いがけないルビーの言葉に目を丸くさせたサボは聞き間違いかと思った。
「そうだよ。黄色はサボの色だから好き。このリボンを付けてるといつでもサボが側にいてくれるような気がするんだ」
へへとはにかむルビーに思考が止まってしまいそうになる。
「(…それってまるで…)」
告白のようだーー…と思った瞬間、顔が熱くなった。
「どうしたの?……って、サボってば顔が真っ赤だよ。大丈夫?」
「…………大丈夫、じゃねェ……」
思わず顔を手で覆い視線を晒してしまったサボ。
首を傾げるルビーの様子からして告白でないことは分かっているが、動悸を抑えることが出来なかった。
しかしなんとか平静を装うとおもむろに口を開いた。
「…ほら。結び終わったからリボンを寄越せ…」
「あ、はい。ありがとう」
「…ん」
自分の色と言われた黄色のリボンをルビーの髪にぎゅっと結び付ける。
「今は…【好きな色】で我慢してやる」
「え?何…よく聞こえなかった」
「出来たぞ。さて、甲板に行くとすっか」
さっさとドアに向かって歩き出したサボを追いかけるように慌てて椅子から立ち上がったルビー。
「ちょっと待って…、サボ!私も行く!」
隣に並んだルビーを見やると、淡い黄色のシャツを身に纏い、髪には黄色いリボンをつけている。
ーー黄色はサボの色。
ドアを開くと強い風が頬を撫で、このどうしようもない熱を冷ましてくれたのだった。
end